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8章

 
第8章
~向日葵が散る時~


*自警団の仕事を終え、エルガの家へと帰ったシャクは驚愕した。
先程と言っても約2時間前に会った二人が家に加わるだけでこんなにも賑やかになるとは思いも寄らなかった。
居間では大勢が騒いでいた。
普段、笑わないサリエルもこの時は流石に笑っていた。
シャクは苦笑しながら、食卓の椅子に座って、チルノが出す晩御飯を食べていた。
シャクが帰るや否や、エルガの弟子達は自己紹介をしてくれた。
当然、レイアも自己紹介を受けている。
紅梅色の長い髪の毛を、高い位置で結っていて(所謂、ポニーテール)、片目に包帯を巻いている男がラヅ・ヘアピス、18歳である。
そして、その彼の連れ——————蘇芳色(紫がかった赤色)の短い髪の毛、軽い鎧の上に陣羽織を纏い、鉄の膝当てをしている目つきの鋭い女がヴェロニカ・アマゾネス、14歳である。彼等は同じインパラーレ出身だそうだ。剣術と回復魔法に長けた人物が居ると聞き、弟子になりにやって来たらしいのだ。
「やっぱり、ラヅとヴェロニカが帰って来たら賑やかになるね。」
とエルガはコーンスープを飲みながら笑った。
「そうですか?それは嬉しいですね。天晴れ、天晴れ!」
ラヅも笑って返す。
そんな彼にギルティが目を半眼にして言う。
「おいおいおいおい、どうしたんだよ?その片目はよ。魔物にでもやられたのか?」
「確かに。どうしたの?ラヅ。」
ギルティの疑問に、今気付いたらしいエルガも驚いた顔をする。
「これはですね、3年間の長旅に出る前に、一度インパラーレに戻った時に・・・目を改造してもらったんですよ。魔物の弱点が即座に見破れる様にと思って、“透視”の目にしてもらったんですよ!どうですか、この素晴らしさ!アハハハハハ!でも、ワケあってこの包帯は透視能力を防ぐものなのだがな!アハハハハハ!」
ラヅの快活な笑い声にヴェロニカは盛大な溜息を吐き出した。
それを見てシャクとレイアは<変態意識を紛らわす為だな。>と確信した。
「どーせ、女のおっぱいとか尻とか、下着の色とか知りたくて透視の眼を入れてもらったんだろ?無闇に使うなよ、“無闇”に。無闇に使ったらやべぇーよ。無闇に使ってたりしたら・・・そうだな・・・無闇に使うなってな。絶対ぇ、無闇に使うんじゃねぇーぞ、ロンゲ。」
ギルティは鼻血を手の甲で少し拭いてラヅに忠告をした。
——————それ、完全に使えよって言ってんじゃねぇーか!
とシャクは思った。
しかし、勇者と武闘家はそこに絶望したのではなかった。
サリエルがそっぽを向いて頬を赤らめているのに絶望したのだ。
———————サ、サリエルさァァァァァァァん!アンタ、クールだと思ってたのに意外とエロいんだな!!そ、そりゃぁ分かるよ!人間だもの!
二人は心の中で絶叫した。
「魔物だけの弱点を見破れると思ったら大間違いだぞ。人間の弱点だってきちんと見れるんだぞ。やってみせようか?」
言って包帯を外そうとするラヅをヴェロニカが制止する。
「おい!何やってんですか!アンタ、頭狂ってるでしょ!?」
ヴェロニカの制止を振り切り、ラヅは包帯を外し、透視可能の目を晒す。
「見えるぞ。・・・・なるほど、レイアさんは水玉のブラジャーを・・・ぐはァ!!」
女子の透視をしている紅梅エロに向かってヴェロニカが拳を叩き込む。
「何しとんじゃァ!!止めぇ言うとるだろうがァ!!」
「さ、叫ぶヴェロニカは赤いブラか・・・・ぐはっ!」
「死ね!くたばれ!このエロ野牢がっ!」
ヴェロニカはラヅをぼこぼこにする。
そんな彼女を見てギルティが割って入る。
「まな板女には透視しても興奮しねぇーな。つーか、意味無ぇーな。」
「(ムカっ!)」
青い着物の男を睨み、ヴェロニカは拳を固く作る。
「おめぇー今何っつった?あァん?」
「まな板・・・ぐへぇっ!」
ギルティも殴られ血を吐く。
「貴様等、土に帰れ!そして、二度と生まれ変わるな!」
再び、二人まとめて殴りつける。
「トウシって・・・何?」
とノラマがサリエルに呟いた。
サリエルはノラマを見て、薄く笑った。

そして———————。

「・・・エロ技だ・・・」
とだけ答えた。




気を取り直して、エルガの家。
落ち着いた皆は食卓の椅子に座り、何やら会話をしている。
「・・・・ってなワケで、3年間の長旅は女の子の下着を見て回ったと言うワケです。ぐはっ!」
横から拳を叩き込まれながらラヅはエルガに語った。
「じゃけぇ、エルガ師匠。3年間、こいつは何もやってないんですよ。エータイ(毎日)、女の体を透視して喜んでたんです。本当に死ねば良いのに。」
とヴェロニカ。
「なるほど・・・でも、意外と力がついたんじゃないかな?」
エルガが笑って言う。
そんな村長の言葉にシャクとレイア、ヴェロニカは驚愕に駆られ、声を揃えて叫んだ。
「それの、エロいそれのどこが力をつけるんですかァ!?」
エルガはコーンスープをお代わりし、一口飲むと微笑んだ。
「ほら、エロくて露出の多い女形の魔物の誘惑攻撃とかを食らわないとか。だって、そんなに女の人の胸やお尻を見てたら効果ないでしょ?と言うか、見慣れてて戦闘に集中出来るよね。」
「えぇっ!?そこォォォォっ!?」
「でしょ!でしょ!俺はそれを狙ってずっと女の体を見る苦痛に耐えてきたんですよ!」
「嘘を付くな!!テメェーの場合は見てぇーだけだろうが!このエロ野牢!」
空かさずヴェロニカは拳を叩き込む。
「僕は誘惑とかすぐに効いちゃうから効かないって羨ましいな。」
とエルガ。
———————エルガさん!アンタ、何時の間にキャラ変わったの!?
シャクは思った。
ラヅをめちゃくちゃにし終わった後、ヴェロニカが真剣な表情をしてエルガに問い掛けた。
「エルガ師匠、ノラマの秘密は無事ですか?」
その問いに全員が沈黙した。
数分してサリエルが口を開く。
「ノラマ、2階に上がってろ。俺もすぐに上がるから。」
首を傾げ、少しサリエルの顔を見てからノラマは頷いた。
「分かったヨ。それじゃぁ、後で笛を吹いてネ。」
「あぁ。」
兄の様に慕っている大好きな男の返事を聞くと、ノラマは2階へと上がって行った。

ノラマが2階に上がって数分後。
エルガはヴェロニカ達にシャク達にノラマの秘密を語ったと言った。そして、シャク達が勇者である事も語った。勇者と聞いて一瞬表情を変えたヴェロニカであったが、エルガが信用している人間だと知ると表情を和らげた。
しかし、その後のサリエルの言葉で場が一変した。
「・・・もう・・・自警団の奴等にはバレてやがる。」
「!」
「何でだよ?お前が居ながら何故そうなる?」
とラヅ。
「知らねぇーよ。」
「奴等はどこら辺から現れるのですか?」
ヴェロニカが問う。
「俺等が村を出る辺りから付いて来やがる。・・・調査隊の連中がな。」
息子の言葉を聞いてエルガは顔を暗くした。
エルガを一瞥し、ギルティはシャクとレイアを見る。
少し間を置いて、村長は深呼吸をして呟く。
「サリエル・・・よく話してくれたね。もう、2階へ上がってあげて。ノラマが待ってるから。」
「あぁ。」
サリエルは低く返事をすると立ち上がり、階段へと歩んで行く。
それを見送ってエルガは暗い表情をしてシャク達に語る。
「アーノルドは・・・奥さんを魔物との戦闘で喪ってから魔物に憎悪を抱いているんだ。それから、彼は魔物と触れ合う者は裏切り者だと言っている。」
「そんな・・・」
「でも、そうだよね。普通に考えてそうなるよね。大切な人を魔物に殺されたら誰だってそうなるよ・・・」
エルガの言葉にヴェロニカは首を激しく振って抗議した。
「いいや!ノラマはそこら辺に居る魔物じゃないですよ!彼は・・・彼は・・エルガ師匠にとっては大切な息子みたいな子じゃないですか!それに、村人に何の危害も加えない・・・そこら辺に居る人間の子みたいじゃないですか!」
「ヴェロニカ・・・」
「自分はノラマを守りますよ。命懸けで!じゃけぇ、シャクさん達もノラマを守ってあげて下さい!お願いします!」
ヴェロニカは言うとシャク達に頭を下げた。
「ヴェロニカさん!」
「頭を上げて下さい!」
二人は必死に彼女に呼び掛ける。
少しして頭を上げると、彼女は暗い表情をした。
そんな彼女に向かってシャクは言う。
「分かりました、ヴェロニカさん。勇者ですから、依頼を引き受けますよ。」
「シャク・・・」
レイアは勇者の言葉に戸惑った。
保護する相手が人間なら未だしも、保護する相手が魔物であるからだろう。
「本当ですか!?」
「はい。勇者が魔物を守るのも可笑しいですけど・・・ヴェロニカさんの言う事が分かるんですよ。」
「シャクさん・・・」
「それに、人間に危害を加えない魔物は殺す必要は無いと俺は思うんです。だから、俺達人間は生きているんでしょう?」
シャクの台詞にエルガが微笑む。
「そうだね。」
ラヅもギルティも鼻で笑う。

——————そう、罪も無い者を無闇に殺す必要は無いんだ。

シャクの言葉を聞いて、微笑んでいたエルガであったが、彼の顔にはもう向日葵は咲いていなかった。



サリエルとノラマの部屋。
明かりを点けず、月光だけが部屋の中を照らす。
サリエルは笛を吹いてと言っていたノラマの寝顔を見て笑う。
———————我慢して起きてたのかよ・・・・。
部屋に入り、ベットに滑り込んだのだろう。倒れこんだ姿勢のままで、寝息を立てて眠っている。
可愛い寝顔だ。
サリエルは彼に掛け布を掛けると、窓の方へ歩み寄った。
月が綺麗だ。
その月の周りを無数の星達が取り巻き、輝いている。
それを眺めながら彼は誓う。
————————誰も傷付けさせやしねぇ・・・・絶対ぇな。

彼は目を閉じると笛を取り出した。


*朝。
小鳥達が囀り、太陽が気まぐれな青空に向かって笑っている。
シャクはベットから身を起こし、欠伸をする。昨日のヒルダとの稽古が想いの外きつかったのだ。所々が筋肉痛とやらで痛い。しかし、その痛さのおかげで彼は少しレベルアップをしたらしかった。それは自分だからこそ分かる事だ。
シャクは伸びをすると、ベットの布団を綺麗に整え、チルノが用意してくれている白いシャツと布のズボンに着替えた。
部屋を出て、2階の洗面所へと向かい、顔を洗う。
そして、彼は皆が集まる居間へと階段を下りて行く。

「おはようございます。」
「おはよう、シャク君。」
笑顔でエルガが迎える。
当の彼はチルノと一緒に朝御飯を作っている。
「おはようございます、シャクさん。」
とチルノも言う。
「おはようございます。」
「良く眠れたかい?」
「あ、はい。」
「椅子に座ってて良いよ。すぐにお茶を出すから。」
「あ、すみません・・・」
「ううん、君はお客様だからね。」
「あは・・・」
微笑む艶やかな着物を纏った村長にシャクは苦笑を返した。
居間にはエルガとチルノ以外は誰も居なかった。
「・・・皆さんは、未だ寝られているんですか?」
「ううん。ラヅとヴェロニカとレイアさんは村の外で稽古。サリエルとノラマは散歩に行ったよ。ギルティは夢の中だけど。」
シャクは苦笑した。
エルガは微笑むとシャクが居る食卓にお茶とサラダを持って来た。
「ありがとうございます・・・」
と返す青年にエルガは優しい表情をし、言葉を紡ぐ。
「昨日はありがとう、シャク君。」
「エルガさん・・・」
エルガは椅子に座ると、コーヒーを一口飲んだ。
「ノラマを守るって言ってくれて・・」
「い、いえ・・そんな・・・」
シャクの言葉にエルガはコーヒーに砂糖を入れ、混ぜた。
「彼は・・・ノラマは凄く人見知りでね、心を開かせるのに苦労したものだよ。石化から解放してあげた時には生まれたての子みたいで・・・初々しかったね。ほら、雛みたいに。」
「そうだったんですか・・・」
「うん。・・・僕もヴェロニカと同じで、ノラマを守ってあげて欲しいんだ。そして、もし、ノラマが間違った方向に行った時は彼を止めて欲しい。僕はノラマがあのまま良い子で居て欲しいからさ。・・・恐らく、彼は魔族達の兵器として創られたんだと思うんだ。だからさ・・・・」
「エルガさん・・・・」
村長は似合わない悲しそうな顔をして続ける。
「ごめんね、シャク君・・・」
「?」
「ノラマの事を嗅ぎ回っている自警団の隊に入っている君に・・・ノラマを守ってなんか依頼しちゃって・・・」
「そんな事は・・・」
「苦しい立場に君を追いやってしまったのが本当に申し訳なくて・・・」
「気にしないで下さいよ、エルガさん。」
「でも・・・」
「それより、今日、俺、自警団の仕事休みですから、稽古つけて下さい。丸一日稽古出来るんですから!」
シャクは笑顔をエルガに向ける。
「強くならないといけないからさ!」
「シャク君・・・」
元気良く言って、サラダを食べる青年にエルガは和まされ、顔に向日葵を咲かせた。
「そうだね。それじゃぁ、稽古しよっか。」
村長は言うと、立ち上がった。



ヒルダはいつもの様に自警団制服を纏い、何やら紙袋を手に持ち歩いている。
彼が向かう先は一軒の家。
玄関前で彼は溜息をついた。
——————アイツには・・あの馬鹿兄には会いたくねぇーが・・・仕方無ぇ・・・。
ヒルダは玄関の扉を叩いた。
中からくぐもった女性の声がした。
少しして玄関の扉が開かれる。
出て来たのはミーシアの母親であるマロアだった。
彼女は茶色の短い髪を背中へ流し、エプロンをしていた。
「あ、どうも・・・・」
とヒルダ。
マロアはヒルダを見るや否や驚いた。
「まぁ!これはヒルダさんじゃないですか!一体どうしたんですか?ノアが何かしましたか?」
「い、いや・・・(会う度にいつもされてるがなっ!)」
「それなら良かったですわ!」
彼女は胸を撫で下ろすと再び口を開いた。
「それで・・・何の御用でしょうか?」
ヒルダはミーシアの母親から目を少し逸らし、手にしている紙袋を差し出した。
「こ、これは・・・?」
「風邪薬だ。御宅の娘さん、風邪引いてるんでしょう?これを飲んで・・・」
「まぁっ!」
マロアはヒルダの手ごと握ると、目を輝かせた。
「ミーシアも喜ぶわっ!こんな立派な方がお見舞いに来て下さったのですから!」
「い、いや・・あの・・」
「どうぞ、中に上がって下さい!今、あの子なら居間に居ますから!」
「い・・・」
ヒルダは強引にもマロアに連れ込まれた。

短い廊下を歩いて居間へと辿り着く。
質素な風景だった。
食卓には食べかけの食事が置いてあった。
ミーシアの居る居間へとヒルダを案内したマロアは首を傾げる。
「あら?どこに行ったのかしら・・・?さっきまで居たのに・・・・」
「居ないんでしたら良いっすよ。俺、仕事があるんで・・・」
「そうですよね・・・・」
とその時。
別室からガタガタと言う音が聞こえてきた。
誰かが機織でもしている様だ。
「ミーシアだわ!」
マロアはヒルダの手を引いて、音のする方へ向かった。

案の定、そこで機を織っていたのはミーシアだった。
「ミーシアっ!一体、何をしているの?ちゃんと食事しないと・・・」
部屋に入って来た母親に見向きもせず、機織をする彼女は熱が未だ下がっていない様に思われた。
顔は赤く、だるそうに手を動かしている。
「お母さん・・・私はどうしてもこのマントを作らなきゃ・・・」
「でも、ミーシア。貴女は未だ熱が・・・」
「おい。風邪引いてるテメェーが何織ってんだよ?」
ヒルダの声にミーシアは驚いた様に固まった。
そして、彼を見る。
「ヒルダさん・・・」
「貴女の為に態々、風邪薬を持って来て下さったのよ。」
「風邪薬・・・」
「ほら、お礼を言わなきゃ駄目でしょ?」
母親の言葉にミーシアは微笑む。
「ヒルダさん・・・どうもありがとう。」
そう微笑む彼女の笑みは偽物だった。
そんな偽物の笑いを浮かべた彼女にヒルダは言葉を投げ掛ける。
「見舞いで態々、此処へ来たわけじゃねぇ。」
「?」
「・・・何だか知らねぇーが・・・薬草を摘みに村を出たり、傷薬を買いに出掛けたり、回復魔法を習ったりしてるらしいな。」
「そ、それは・・・」
「何でお前はそこまで自分を追い詰める?それも・・・俺等の為に・・・」
「・・・・」
黙る娘を見て、マロアは部屋からそっと出て行った。
部屋の中に二人だけになった。
ヒルダの問い掛けにミーシアは黙るばかりだった。
彼女自身、彼に伝えたいことは山程ある。
しかし、伝えられない。
黙る彼女を見て、ヒルダはそっぽを向いて口を開いた。
「俺は・・・見たくねぇーんだよ・・・」
「!」
「・・・俺は・・・見たくねぇーんだよ・・・お前が危険を犯すのを・・・」
「それは私もです!」
「!」
「私だって・・・ヒルダさんが危険を犯すのを見たくありません!・・・村を救う為とは言え、魔物達と戦って・・・血塗れになって・・・眠れぬ夜を明かして・・・そんなの・・・そんなの・・・」
「お前には関係無い事だろ。」
「関係あります!」
「何所にだよ?」
透かさず彼は彼女に問う。
ヒルダの問いに彼女は再び沈黙した。
俯き、そのまま突っ立っている。
ヒルダはそんな彼女を一瞥して言う。
「お前は・・・この村の中で笑って居さえすりゃ良い。俺がその笑顔を守ってやっからよ。」
男の言葉にミーシアは顔を上げた。
ヒルダの横顔を彼女はいつまでも見つめた。
三呼吸程後。
そして、やっとのことで言葉を投げ掛ける。
「私だって・・・ヒルダさんの笑顔を守りたいです・・・」
「それじゃァ、お前がずっと笑って居さえすりゃァ簡単だ。それで十分だ。」
「・・・・」
「男を笑顔にさせるたァ、それが手っ取り早い。・・・・・分かったら、飯食って寝てろ。今度、お前がそんな事してたら殴り込みに行くからな。」
ヒルダは溜息をつき、部屋を出て行こうとする。
そんな彼に向かってミーシアが口を開く。
「分かりました。」
彼女の返事を聞くと、ヒルダは部屋を出て行った。



今日も又監視されている。
サリエルは周囲を警戒し、ノラマの食事を見守る。
——————今日は二人か・・・殊勝なこったァ・・・。
食事を終えたノラマはフードを被り、倒れた木の上に座っているサリエルを振り返って微笑んだ。
「サリエル兄さン、ありがとウ。」
「あぁ・・・お前の為なら何でもしてやるよ。」
「ふふふ。」
「フン。」
お互い笑い合う。
唯、傍からすれば仲の良い兄弟の様に見える。良い絵になる。
ノラマは可愛らしい笑み浮かべ、空を見上げる。
「空・・・いつもと変わらないネ。」
「あぁ・・・」
———————ノラマの知らねぇとこで色々と変わり始めてるんだがな・・・。
サリエルはふとそんな事を思いながら立ち上がった。
「帰るか。」
「うン!」
ノラマはサリエルにくっ付く様な程の近さで歩き始めた。



中庭。
黒い薔薇が踊っている様な刀捌き。
シャクはエルガの刀を回避しながら思った。
まるで演舞だ。
優雅な剣捌きに加え、打撃が大きい。
シャクはエルガの刀を鋼の剣で受け止め、弾き返した。
——————凄い・・・としか言い様が無い・・・。
「中々、良い腕をしてるね。やっぱり、自警団に入って正解だったね。」
エルガは笑う。
「そ、そうっすか?」
「うん。逞しくなったって感じがするね。今度、ギルティ達と一戦交えてみたら良いよ。」
村長は言うと刀の柄を強く握った。そして、続ける。
「もっと強くなったら、シャク君に僕の刀の秘密を教えてあげるよ。それまでは、僕も刀の能力を使わないからさ。」
「は、はぁ・・・・」
「それじゃぁ、もう何回かやろっか!!」
シャクは頷くと、村長に向かって駆けて行った。

——————強くなる為に。
——————守る為に。



「カルトス君~!!青い薔薇のお庭のお手入れ手伝ってぇ~!!」
滅神王ローレライは大悪魔神官カルコスの部屋の扉を叩きながら叫んだ。鍵が掛かっている為、部屋に入れないからだ。
「お願いよぉ~!」
扉の向こう側から聞こえる馬鹿魔王の声を聞きながら、当のカルコスは青筋を立て、叫び返す。
「黙れ!独りでやれ、馬ァー鹿。つーか、今それどころじゃねぇーだろ!!」
——————アホかあいつは。いや、アホを通り越してるな。
カルコスは滅神王三男エウリアの情報を探る為、あらゆる書類を探っている。
そんな部下の返しを聞いて、ローレライは不満顔をする。
「独りでやるのが寂しいから言ってるんでしょう?人の気持ち・・・じゃなかった、魔王の気持ち分かってよ。」
「分かりたくねぇーよ!ンな気持ち!」
「カルトス君ったら相変わらず酷いわねぇ~。でも、そこが良いのよね。」
カルコスは書類に目を通し、内心思う。
——————エウリア様か・・・あのお方を上手い具合にコントロールするのは至難の業だな。流石にあのヘンリ様でも無理がある。・・・此処はやはり、ヘンリ様よりかは部屋の外で喚き散らしている馬鹿の方がエウリア様の扱いは上手いか・・・・。
真剣な表情をして思案する。
とそこへ・・・。
「手伝ってよ、カルトス君。」
と背後から魔王の声がした。
驚きカルコスは飛び上がる。
「な、何で貴様が俺の部屋に居る!?鍵閉めてただろ!!」
怒鳴る部下にローレライは鍵を指で回しながら微笑んだ。
「私、常時マスターキーを持ってるのよ。」
「マ、マスターキーだとっ!?」
「えぇ。だから、何時だってカルトス君の部屋に入る事が出来るのよ。どう?参った?」
「参ったって言うよりか、怖いわ!ストーカーだろ、それ!!」
「ストーカーですって?いやぁ~ね、響き悪いじゃないの。」
「響きとかどーでも良いわ!」
「ねぇ~、お庭のお手入れ手伝ってよぉ~・・・暇でしょ?」
「暇なわけねぇーだろ!暇なのはお前だけだ!」
「そんな書類、後で良いじゃん!」
「よくねぇーよ!つーか、俺等魔族達の危機が迫るかもしんねぇーんだぞ!何、悠長に庭の手入れしてんだよ!打っ殺すぞ!」
「危機って、エウリアちゃんが帰ってくるかもしれないだけでしょ?」
「それが危機だって言うんだよ!いい加減ボケるの止めろ!」
怒号を上げるカルコスを見て、ローレライは盛大な溜息をつく。
「分かったわ。仕方無いわね。エウリアちゃんの事は私がちゃぁ~んと調べておいてあげるから、お庭のお手入れ手伝って。」
「誰が貴様に託すか。」
「上司命令よ。上☆司☆命☆令☆・・・魔王がしなくて良いって命令するんだから、良いでしょ?」
笑顔で言う魔王を半眼で眺め、カルコスは溜息を吐き出した。そして、舌打ち。
「・・・命令なら仕方無ぇ・・・逆らうワケにはいかねぇ・・・」
「そうそう。よし、お庭にレッっゴー!!☆」
ローレライは部下の腕を引っ張って、庭の方へ駆けて行った。


★ ★ ★ ★ ★

あれから約一週間が過ぎた。
その時の中でシャク達は成長した。
ラヅの透視振りも成長した。(いや、これはしなくて良い。)
そして、漸く、シャクとレイアはエルガ達と差はあるが対等に交えれる様にまで戦力を上げたのであった。
それと同時に、自警団達のノラマ監視調査は日に日に悪化していった。

そして———————。

もう一人、忘れてはならない人物が居た。

「フォーラルっ!」
呪文と共にフィールド内で業火が巻き上がった。
フォーラルとは初歩火属性魔法フォーユの発展系統の魔法である。
その炎は襲い来た魔物の群れを焼き尽くした。一瞬にして魔物どもは灰になる。
やや攻撃力が高そうな杖を片手に呪文書を持ち、落ち着いた青い色のローブを纏い、茶色の靴を履き、魔物の残骸を見る金髪の青年。
「此処まで魔力を高めると魔物も大した事ねぇーな。」
青年は吐き捨てる様に言うと、歩を進めた。
仲間の居る、ニルバーナの村に。


*朝。
自警団1番隊長アーノルドは屯所の一室に全員を招き真剣な表情をして口を開いた。
「自警団の調査部隊の報告によれば・・・このニルバーナに魔物が一匹紛れ込んで居るらしいのだ。」
「っ!」
調査部隊の連中以外の彼等の顔が急に強張った。無理も無い。村に魔物が紛れ込んでいると言う情報はアーノルドと実際に調査している部隊しか知らされていなかったからだ。しかし、シャクは知っていた為、態と驚いた振りをしてみせた。
——————やはり・・・サリエルさんが言っていたのと同じだ。毎日、ノラマの事を監視してたんだ・・・。
予想外の父親の言葉にヒルダは言い放つ。
「ンな馬鹿な事を言うなっ!村の警備体制は完璧なはずだっ!」
「それがどうやら完璧じゃないらしい。このところ、彼等の調査によるとそうだ。」
「親父、俺等は四六時中、村の警備に当たってるんだぜ?おかしいだろっ!」
食って掛かる勢いのヒルダをコネンドが制止する。
「落ち着け、ヒル。」
「落ち着いてられっかよっ!コネンドさん、アンタも何か親父に言ってやって下さいよ!」
「い、いや・・・」
「何ですかい?魔物が人間にでも化けてたって言う感じですか?」
コネンドの代わりに口を開いたのはオルバだった。彼の言葉にシャクはドキっとさせられた。
「それに近い。」
アーノルドの返事に全体が騒ぐ。
「人間にでも化けてたってな・・・そんなの変化技だったらすぐに分かるだろ!」
とヒルダ。
「元から人間の姿に似ている魔物であったら分かるはずもないだろう。」
父親の言葉にヒルダは舌打ちをし、睨んだ。
「それで、どこの家に隠れてたんですか?」
オルバはアーノルドに尋ね、腰の鞭を掴んだ。
そんな青年を制し、自警団1番隊長は言う。
「エルガの家だ。」
「なっ!」
再び全員が騒ぐ。
「エルガさんの家に居るってな・・・そんな根も葉もない戯け事を!」
ヒルダは拳を握り締めて怒鳴った。
「あの村長がそんな、魔物を匿う様な真似など・・・」
「ああ言う奴に限ってするのが当たり前だ。人には愛想の良い、素晴らしい輩に限って大それた事を仕出かす。この村の人間では無い輩を何所からともなく拾って来、育て・・・」
とアーノルドはそこまで言うと言葉を切った。
シャクは1番隊長の表情を見ながら俯いた。
——————このままじゃ・・・ノラマの身が・・・。
「その拾って来た連中の中に、偶然魔物が紛れ込んでたっつー事ですか?」
とオルバ。
その彼の問い掛けを聞き、隊長は首を横に振った。
「いいや、偶然などでは無い。魔物だと知っていて村に入れたのだ。エルガは・・・・」
「あのエルガさんが・・・・」
コネンドはショックのあまり声が出ないのだろう。掠れた声を晒し、唖然としている。
「エルガは村長の資格が無いと俺は思う。奴は魔物を村に入れ、この村を絶望の淵へと落とすに違いない。いや、拾った魔物を良い様に、自分の思い通りに行くように育て、この村を、この世界を征服しようと企んでいるに違いない。」
アーノルドは自警団全体に声を轟かせた。
忽ち周囲が驚愕の事実を突きつけられ唖然とさせられる。
「お前等には言っていなかったが・・・・エルガは昔、人間を殺したり、物を奪ったりと俺も知らない汚い事をやっていた人間だ。奴はこの世界を憎んでいる。だから、この世界を破壊しようと企むのは当然のこと・・・」
再びの驚愕事実に周囲がざわつく。
しかし、シャクは独り俯き、拳を握り締めていた。
——————エルガさんはそんな人間なんかじゃねぇ・・・・確かに昔は汚い事をしてたかもしんねぇけど・・・今は心の綺麗な人だ・・・!それを・・・しかも、親友のアーノルドさんが貶すとは!
「違いますよっ!」
言ってしまった。
シャクの叫び声が屯所に響いた。
瞬時に周囲が黙り、赤髪の青年に視線が集まる。
「何が違うと言うんだ?」
とアーノルド。
「エルガさんはそんな悪人ではありません。エルガさんはとても善い人です。」
静かに言い出した青年にアーノルドは不適に笑ってみせた。
何かを企んでいるかの様に。
「シャク、君はエルガの家に長い事泊まっていたらしいな。」
「は、はい・・・」
「それでだ・・・エルガの奴には相当何かを洗脳されているんだな。俺等と考え方が違う。」
「っ!」
「エルガは根っからの悪人だ。今さっき言っただろう?昔は汚い事を・・・」
「昔はしたかもしれませんよ!でも・・・今はとても善い人じゃないですか!それに、アーノルドさんはエルガさんの親友なんでしょう?エルガさんは貴方に救われたと言ってましたよ。とても感謝してた・・・・・なのに・・・エルガさんを悪く言うなんておかしいっすよ!!」
「可笑しいのは奴等の方なんだがな。関係の無い捨て子を拾い、育て・・・魔物までも手名付け・・・」
「ノラマは良い子です!この村の人間に何の危害も加えた事の無い良い魔物ですっ!無実の魔物を無闇に殺すなんて事は間違ってますよ!そんな事も知らない皆さんに彼を・・・・・あっ!」
シャクは慌てて口を閉じた。
そんな青年の素振りにアーノルドは残酷な笑みを浮かべる。
「良い魔物か・・・・フン、魔物など所詮は同じ。良いも糞もねぇ。」
そこまで言うとアーノルドは屯所を後にしようとする。
「・・・まぁ、ありがとうな。情報を俺等にくれて。やはり、エルガの家の人間を隊の中に入れておいて正解だったぜ。これで、エルガの家に魔物が居るということが分かった。夕方、屯所で会議をする。シャクを除く全員は参加するようにな。」
シャクは隊長の言葉に絶望し、その場に力無げに座る。
———————俺は・・・ずっと・・・踊らされてたのか・・・・。
去っていく父親とその場に座るシャクを眺め、ヒルダは拳を握り締めた。
シャクは大きい衝撃のあまりそのまま座っていた。



林檎のドアノブ、林檎の絨毯、林檎のスリッパ、林檎の机、林檎の椅子、林檎のコップ、林檎の皿、林檎のカーテン、林檎の窓枠、林檎のベット、林檎の毛布、林檎のクローゼットとタンス、林檎の本棚、林檎の鏡、林檎の香水瓶・・・・・。
こんな部屋で暮らしているのは大悪魔神官アプフェル以外に居ない。
アプフェルは林檎の椅子に座って林檎ジュースを飲みながら、エウリアの事が書かれた書類を読んでいた。
「結構強かったよね・・・あの大昔の魔界大戦の時。死ぬかと思った。ああ言うのを戦い甲斐があるって言うんだよね。でも、ヘンリーやローちゃん様とも殺ってみたいけどさ。」
書かれた書類と、魔界大戦の際のエウリアのデータを見合わせる。

◎滅神王エウリア
体力………★★★★★★★★★★∞
力…………★★★★★★★★★★∞
素早さ……★★★★★★★★★★∞
精神………★★★★★★★★★★∞
知性………★★★★★★★★★★∞
攻撃力……★★★★★★★★★★∞
防御力……★★★★★★★★★★∞
魔法防御…?
魔法回避…?


アプフェルはデータを眺め、不適な笑みを浮かべる。
———————魔界大戦の時のこのデータからすると・・・・・エウリアちゃんと殺り合ったら、ローちゃん様もヘンリーも確実に死ぬな。ボクと殺り合わないうちに殺されるのは嫌だしな・・・・まぁ、一旦エウリアちゃん側について、彼を上手く誘導して、魔王二人を生かしておくってのもアリだな。・・・・ふふ、楽しくなりそうだ。・・・ボクが何でエウリアちゃんを捜そうとするかは理由があるんだからね。
大悪魔神官は満面の笑みを浮かべ立ち上がった。



昼頃。
ニルバーナに辿り着いた独りの青年。
落ち着いた青色のローブをはためかせ、村内に入る。
門番に“シャクとレイア”と言う名の男女を捜していると訊ね、彼等が居る家へと歩を進める。
そして、玄関を叩き、メイドがすぐに顔を出す。
「久しぶりですね。」
と青年。
そんな彼を見て、メイドのチルノは驚いた表情をして家の中に入れる。

居間に入って来た青年を見るなり、稽古から戻っていたレイアは驚愕した。
「ヒ、ヒカル・・・君!?」
「久しぶりだな、レイア。」
ヒカルは少し微笑み、呪文書を見せた。



とぼとぼとエルガの家に帰るシャク。
目が虚ろだ。
何も頭の中に無い。
空白の脳内。
脚が重い。
一歩一歩がすぐに踏み出せない。
エルガの家に帰りたくないのは事実である。
まんまとアーノルドの言葉に促され、ノラマの事を口走ってしまった。
ノラマを守るどころか危険に晒してしまった。
何を思っても脚はエルガの家へと連れて行ってくれた。
勇者の表情は暗い。
玄関の扉を開け、居間へと入ろうとする。
しかし、そこで聞き覚えのある声がしたのを感じた。
———————この声って・・・・雅か・・・!
シャクは居間へと駆け込み、声の主を確かめた。
居間に居たのはエルガ、チルノ、レイア・・・・。
その声と対面する。
シャクは我が目を疑った。
そこに居たのは何日も前に分かれた魔法使いのヒカルだったのだ。
「ヒカル!!どうしてお前が此処に!!?」
「どうもこうもねぇーよ。転移魔法も覚えたし、つーか、結構魔法習得したから来たんだよ。悪いか?」
「ンなワケねぇーよ!!何か再会出来て嬉しい!!」
「俺もだけど・・・・・」
喜ぶシャクにヒカルは真剣な表情をして呟いた。
「聞いたぜ、皆から。結構大変なことになってるらしいな。」
「あぁ・・・」
魔法使いの言葉にシャクは俯いた。そして、村長を見る。
「エルガさん・・・・」
椅子に座っているエルガはシャクに微笑んだ。
「何だい?」
「・・・実は・・・・」
勇者は自警団内であった会議をエルガに話した。そこで、彼が口走ってしまった内容を話した。
彼の話を聞いてレイアが怒鳴った。
「何勝手にノラマの事を言ってんのよ!!馬鹿じゃないの!!」
「すまない・・・」
「アンタのせいでノラマが益々危険な目に遭うじゃない!!最低だわ!」
「レイアさん、そんなにシャク君を責めないであげてよ。」
「でも、エルガさん!」
暗い表情をしているものの笑顔を絶やしていない村長はシャクを見つめる。
「ありがとう、シャク君。ノラマや僕の事を庇ってくれてたんだね。」
「でも、俺は・・・俺は・・・」
「僕は気にしていないよ。謝りたいのは僕の方さ。君達を大変な目に遭わせてしまったから・・・関係の無い旅人さん達を・・・僕は・・・」
「エルガさん・・・・でも!」
「“でも”は無し」
微笑むエルガを見て、シャクは俯き加減で口を開く。
「エルガさん・・・アーノルドさんはノラマの情報を得る為に俺を自警団に入れたんです。」
青年の言葉に全員が驚く。
「アーノルドが・・・?」
流石にその内容を聞くと、エルガの顔から向日葵が消えた。
「はい・・・」
「そんなっ!」
とレイアとチルノ。
エルガは表情を暗くして呟いた。
「アーノルドはもう既に僕達の事を監視してたんだね・・・」
「そうです・・・」
家の中の皆が重く暗い空気に支配された。がしかし、三呼吸程後、エルガが急に明るい声で言った。
「まァ、いっか。アーノルドが何と言おうとノラマは僕の息子だ。それだけは何があっても変わりはしない。・・・・それより、昼御飯、昼御飯!お腹空いたでしょ?」
「い、いえ・・・」
とシャク。
「僕はお腹空いたよ。もうペっコペコのペコリンチョだよ。」
エルガは言うと笑顔で台所へと歩を進めて行った。
そんな村長の背を見ながらシャクは思う。
——————どこまで自分の本心を隠せば気が済むんだろう・・・エルガさんって人は。



屯所の屋根の上に寝転がって、蒸かしたジャガイモを頬張っているオルバ。彼の赤い目は流れる雲を捉えている。
———————無実の魔物を無闇に殺すなんて事は間違ってる・・・っか。確かに・・・一理ある。無罪の人間を殺すのと何の変わりはねぇ。死んだ親父もお袋もそんな事言ってたっけな。
とそこへ、御飯の上に緑茶の葉をのっけ、緑茶の茶漬けをもってヒルダが現れた。
彼は心持暗い顔をして、茶漬けを食べている。
「俺の隣に座るたァ、珍じゃないですか。明日は大雨でも振るかな。」
とオルバ。
「テメェーとはあんまし会話はしたくねぇーんだが・・・」
「おや?それは奇遇ですね。実は俺もなんっすよ。」
「オルバ・・・お前は親父の考え方をどう思ってやがる・・・・」
オルバはジャガイモを一口齧る。
「俺は親父の考え方が気に食わねぇ。何でもかんでも抹殺しようとするあの馬鹿親父の考え方がな。」
ヒルダが喋る間もオルバは黙っていた。
「母親を魔物に殺されて何も思わねぇのかっつって言われりゃァ、何も思わねぇはずはねぇ。だがな、シャクの言う通りかもしんねぇ。無実の魔物を無闇に殺すなんざァ、俺等人間がする事じゃねぇ。ンな事ばっか繰り返えしゃァ、それこそ俺等が魔物と同等になっちまう。」
茶漬けを食べ、ヒルダも空を見上げる。
「テメェーに同意を求めてるワケじゃねぇーが・・・俺の考え、おかしいか?」
青年は最後のジャガイモを食すと漸く答えた。
「・・・ヒルダさんがそう思うんだったらそうじゃないっすか?」
「適当だな。」
「魔物に大切なモノを奪われた。だから、やり返すなんざァ幼児のする事だ。ンな事ばっか繰り返してたりすりゃァ、俺等は魔物以下の物体になっちまう。俺ァ、そう思いますがね。」
「そうか・・・・・・つーか、それ俺の考えと同じじゃね?」
「違いますよ。ヒルダさんは<魔物と同等になっちまう>っつって言いやしたけど、俺ァ、<魔物以下の物体>っつって言いましたからね。そんで、ヒルダさんは<繰り返えしゃァ>っつって言いやしたけど、俺ァ、<繰り返してたりすりゃァ>っつって言いましからね。全然違いあすよ。」
「殆ど同じじゃねぇーかっ!」
「いいや、全然違いあすよ。」
ヒルダはオルバを睨みながら立ち上がり、戻ろうとする。
「そろそろ、戻れよ。」
「へいへい。もちっと、雲を眺めてから戻りますよ。」
オルバは返事をすると流れてくる雲を目で追った。



笛の音色が心地良い。
ノラマはサリエルが吹く、笛の音に眠らされ、ベットの上で寝息を立てて眠っている。
同じく、その部屋に居るのはヴェロニカ。
彼女も又椅子に座り、笛の音に聞き惚れている。
「・・・・サリエルさん・・・もし、自警団の奴等にノラマが殺られそうになったらどうするお心算ですか?」
ヴェロニカの問いに、サリエルは笛を唇から外すと哂った。
「そりゃァ、殺るまでだ。」
「マジっすか?」
「あァ、マジだ。」
「でも、それだと、サリエルさんが捕まって・・・」
「俺が捕まって殺されるのは大した事ァねぇーよ。だがな、こいつや父さん、俺に関わる連中が殺られるのは我慢できねぇーな。」
「サリエルさん・・・・」
サリエルは不適に哂うと、笛を吹き始めた。
ヴェロニカは笛を吹く妖艶な男の横顔を見ながら、呟いた。
「親子揃って情が厚いですね・・・・」
彼女の言葉にサリエルは鼻で哂った。


*夜。
綺麗な月が世界を照らす綺麗な夜だった。
村内には温かい明かりが灯っている。
エルガはチルノとレイアと共に晩御飯の片づけをしながら笑っていた。
シャクはそんな彼を椅子に座って眺め、思う。
———————エルガさんは何でいつも笑顔でいるんだろう・・・。本当は悲しい顔だってしたいのにな。
同じ椅子にはヒカル、ギルティ、ヴェロニカ、ラヅが座っていた。サリエルとノラマは晩御飯を済ませ、2階に居るらしかった。
ぼーっとしている親友を見て、ヒカルが問い掛けた。
「どうしたんだ?シャク。」
「あ、いや・・・何でもねぇよ。」
「ぼーっとして何かあったんですか?そいじゃったら、何かお話聞きますよ。」
ヴェロニカが心配そうな顔をしてシャクに話しかける。
「い、いえ・・・大丈夫です。」
「そう・・・」
「おい、こう言う時こそ、その<透視>でさ、人の心ん中とか読んじまえば良いのによ。」
とギルティがラヅに向かって言った。
当のラヅは温かいお茶を静かに飲み、答えた。
「人の心の中を読むことをしたことが無いから出来るかどうかは分からんが・・・一応、俺の透視でやってみようか?」
ラヅは魔法の包帯を外そうとする。
そんな彼に向かってヴェロニカが怒号を上げた。
「テメェーは唯、下着が見たいだけだろうがァっ!!!」
「そんなことなぞ思っておらん。心配するな。」
そう言う彼の鼻からは鼻血が少し滴っていた。
「バレバレなんだよ!!このド変態がァっ!!」
いつものやりとりを眺め、シャクは苦笑した。
ヒカルは目を半眼にし、呆れている。
ギルティは牛乳を飲むと、腰に刀を差してソファに向かい、寝転がる。ラヅもヴェロニカも腰の武器を確認している。シャクはそんな彼等を見て疑問を抱いた。
——————何で皆・・・武器を確認なんかすんだ?
晩御飯の片づけが済んだエルガが愛用の刀——————輝く刀身、柄は緑——————を腰に差して微笑んだ。
「エルガさん・・・何で刀なんか・・・」
とシャク。
「そうですよ。こんな夜にお出かけですか?」
レイアも疑問詞を投げ掛ける。
そんな二人に向かって黒の布地に灰色の薔薇と茨を映やした着物を纏った村長は笑った。
「ううん。お出かけじゃないけど、お客を迎えるだけさ。」
「お客?」
「うん。」
彼は顔に向日葵を咲かせて言うと、武器を持っているギルティ達を眺めて声を掛けた。
「君達、武器は片付けなさい。来ているお客は君達のお客じゃないんだから。」
シャク達は<お客>と言う言葉にピンとこなかった。
———————お客・・・?来ているお客・・?一体何の事だ?
そう思っていた時だった。2階から刀を手にし、ワインレッドのシャツを着たサリエルが降りてきた。部屋にノラマを置いているのだろう。
息子を見て、エルガは向日葵を咲かせたまま言い放つ。
「全く、サリエルまで武器を持って・・・・。さっきも言ったけど、来ているお客はサリエル達のお客じゃないんだよ?僕の客だからね。」
「父さんの客じゃねぇ・・・誰も客でもねぇーよ・・・」
とサリエル。
エルガは息子の口から吐き出された言葉を受け止めたが、向日葵を咲かせていた。
そして、居間を出ようと部屋の敷居を跨ぐ。
彼を追ってサリエルが動く。
がしかし——————。
「部屋に居なさいって。でないと・・・怒るよ。」
エルガは振り向かず、いつもの明るい声色で言った。
その時、ヒカルの表情が変わった。
慌てた顔でエルガを見る。
「エルガさん・・・もしかして・・・」
「すぐに戻って来るから。僕が戻るまで、絶対に部屋から出ちゃいけないよ。」
「父さん・・・」
村長は言うなり、玄関の方へ歩いて行った。
サリエルはそんな父親の後姿を見つめ、拳を握り締めた。



滅神王ヘンリは滅神王城内の廊下を歩きながら、弟の事を考えていた。
———————エウリア・・・あいつをどうコントロールするかが問題だ。下手をすれば全滅に追い込まれる・・・。俺よりやや強い馬鹿兄でも奴に太刀打ちは不可能だ。滅界を守ることなど不可能に近い。・・・・勇者抹殺計画がこんなにまで滅界を危険な目に遭わせさせるとは・・思ってもみなかった。迂闊だった。エウリアの事を忘れようにも忘れられない。クソっ・・・元はと言えばお父様があんな物体をお創りにならねばこんな事にはならなかったのだ。一番尊敬していたお父様が・・・・あんな馬鹿な事を・・・!
危機を感じ、廊下を歩いていると大悪魔神官リンネルに出会った。彼女はヘンリを見るなり、駆け寄ってきた。そして、深々とお辞儀をする。
「ヘンリ様。」
「お、リンネルではないか。」
「何をそんなにお悩みなんですか?もしかすればですね、滅神王エウリア様の事で御座いましょうか?」
とリンネルは無表情で首を傾げる。
ヘンリはリンネルと並んで廊下を歩き、答えた。
「あぁ・・・奴を発見し、滅界に連れ帰るのは良いのだが・・・その後の事だ。どう奴をコントロールするか・・・」
「コントロール・・・ですか・・・」
「勇者抹殺計画がこんなにまで滅界に被害を及ぼすとは・・・」
ヘンリの言葉を聞き、リンネルは無表情で言い放つ。
「もし・・・滅神王エウリア様を上手くコントロール出来なくて、滅界が危うくなりましたならば、必ずや私が命を懸けて全てを護ります。ヘンリ様も含め、全てを。」
「それは止めろ、リンネル。」
魔王は部下の宣言を打ち消す。
「それは如何に言うても、この俺が許さん。お前の命を容易くエウリアに奪われるわけにはいかない。」
「ですが、ヘンリ様は私の王です。そして、私は忠実なるヘンリ様の犬です。ヘンリ様を御守りできなければ意味が御座いません。」
「お前は俺の忠実なる犬などでは無い。お前は・・・お前は・・・・」
ヘンリは口篭り、目を逸らした。そんな魔王をリンネルは虚ろな目で見つめ、首を傾げる。
「お前は・・・唯・・・俺の傍に居さえすれば良い。」
「それは命令ですか?」
とリンネル。
滅神王弟は目を逸らしたまま返事をする。
「め、命令の部類だ。兎に角、お前は俺の傍を離れるな。」
「御意のままに。」
部下の返事を受け取ると、ヘンリは眼鏡を押し上げた。
弟に全てを奪われるわけにはいかないのが魔王の本心であった。



「父さん・・・」
父親の背が消えた。
サリエルは力無げに階段に座り、刀の柄を握った。
シャクは状況が掴めない。
それ故、何が起こってエルガが出て行ったのか分からなかった。
「一体、何でエルガさんが出て行ったんですか?俺、よく事態が・・・」
「自警団の奴等が家の外に居るんだ。気配で分かったからエルガ師匠は出て行きなさった。」
ヴェロニカが暗い顔をして言った。
「自警団がっ!?」
「恐らく、ノラマを捕らえに来たのであろうな。」
「くそっ!」
ラヅの言葉にサリエルは階段の段を叩いた。
「おいおい、そんなに叩くと階段が壊れるだろうが。叩くんだったら別な場所を叩けよ。」
ソファに寝転がっているギルティが悠長に言い放つ。
「テメェーを叩いて殺ろうか?」
とサリエル。
「やめて下さいよ!こんな時に喧嘩なんて!」
レイアが慌てて叫んだ。
シャクはエルガが出て行った理由を聞き、その場に蹲った。
「俺のせいだ・・・俺が口走ってしまったから・・・!」
赤髪の青年の言葉に全員が彼を見る。その中でもサリエルの鋭い視線がシャクを突き刺す。
「おい・・・自警団が此処へやって来たのはテメェーのせいなのか?」
とサリエル。
立ち上がり、殺気立った彼をヴェロニカが止める。
「サリエルさん!」
「テメェーのせいで俺等が危険に晒されてんのか?」
「落ち着け、サリエル。」
ラヅも危ないと思ったのかサリエルの前に立ちはだかる。
シャクは頭を抱える。
「俺がアーノルドさんに踊らされてたから・・・俺が間抜けだったから・・・!」
「シャク・・・」
とレイア。
「踊らされていた・・・?どう言う事だ?」
ラヅがシャクに問い掛ける。
勇者は全てを語った。
何れは語らなければならないことであったからだ。
それを聞き、サリエルの殺気は別のモノに向けられた。
「あいつ等・・・・・」
今にも怒り狂い、部屋から飛び出しそうな彼をラヅが止める。
「今、居間をお前が飛び出して行ったってな意味は無いぞ。・・・・・<今、居間を飛び出して行ったってな>だって。ぷぷ、ギャグになっているではないか!天晴れだな。」
良い事を言って止めようとしたものの、自分の口から出たギャグに紅梅色の髪の男は笑ってしまった。
「笑っとる場合かァっ!」
ヴェロニカが蹴りを入れる。
「おいおい、場を和ませようとしたらしいけどな、駄目じゃねぇーか。サリエルの殺気度は益々上昇したぜ。」
とギルティ。
「意味はあるぜ、ロン毛。・・・・全員、皆殺しに出来るんだからよ。」
ワインレットのシャツを着た黒紫色の髪の男はラヅの制止を振り切って、飛び出した。

★ ★ ★

玄関の前には自警団が集まっていた。
自警団の中心にはアーノルド。
村の警備隊が夜にエルガの家に集まるものであるから村人達も何事かと家から出たり、窓から眺めたりして見ている。
エルガは自警団を目前にして、笑顔を浮かべている。
「こんばんわ、自警団の皆さん。今日は全員で村の警備ですか?それは安心して眠れますね。」
「エルガ・・・」
アーノルドは低い声で名を呼ぶ。
「何だい?アーノルド。」
「何もクソもねぇよ。エルガ、お前は裏切り者だ。」
急なアーノルドの言葉にエルガは向日葵を咲かせて首を傾げた。
自警団の隊長の言葉に村人達が騒ぐ。
「裏切り者・・・?僕が?・・・はてさて・・僕は何を仕出かしたかな?もしかして、無意識に何かいけないことでもしたのかい?」
「惚けるな!!村を、世界を滅ぼそうとする魔物使いめっ!」
再び、村人達が騒ぎ始める。
「僕が魔物使い・・・?・・・へぇ~・・知らぬ間にそんな肩書きが付いてるなんて驚いたよ。誰がつけたの?凄い肩書きだよ。」
「ふざけてるのか?貴様・・・」
アーノルドは鋭い目付きでエルガを睨んだ。他の部下達も武器を各々構え、警戒している。
「ふざけてなんかないよ。とんでもない。唯、正直に凄い肩書きだなって思っただけ・・・」
「相変わらず気に食わねぇ奴だな・・・お前は。」
「そうかい?そう思わせたのならすまない。そう言う気で振舞ってたワケじゃないから。」
と向日葵。
アーノルドは村長を睨み、三呼吸程後に言い放った。
「村人守る村長であるにも関わらず、魔物を拾い育てた罪は重い。況してや、村人全員に黙って仕出かした罪だ!これは村を危険に晒す可能性が非常に高い!裏切り者だ!裏切り者は消さねばならない!このまま生かしておけば、必ず未来に破壊を齎す!エルガの家の中に入り、匿っている魔物を引っ捕らえろ!そして、エルガとその息子達、匿っている魔物に関わる奴等を全て捕らえろ!!」
1番隊長の命令で一斉に自警団達、ヒルダ、オルバ、コネンドを除く皆が武器を構えて駆けて来る。
エルガは微笑み、腰から刀を抜く。
そして——————。
襲い掛かって来た自警団達を刀で弾き返す。
「・・・痛みを伴う遊びは好きじゃないんだ。」
「じゃぁ、抵抗するな。」
とアーノルド。
そんな彼の言葉にエルガは明るく笑うと返す。
「アハハハハ、無抵抗の人間を捕まえたって面白く無いでしょう?だから、こうして心持抵抗したんだ。もう、抵抗はしないよ。はい、捕まえちゃって良いよ。」
エルガは言うなり、向日葵を咲かせ、両手を差し出す。
アーノルドは不適に哂い、言う。
「随分、潔いじゃないか・・・」
「ふふ。」
自警団の輩に両手を縛られながら笑う。
そして、口を開く。
「僕が潔い代わりに、僕の家に居る全員に一切触れるな。害を与えるな。僕の両手を縄で縛ったのだから、この要求にはしたがってもらうよ。」
「っ!」
アーノルドは舌打ちを、村長に歩み寄った。
「貴様・・・己の身を犠牲にしてまで・・・そこまでして魔物を庇うか!」
「うん。あの子は僕の子だからね。庇って当然。それに、僕一人の命で全員が助かれば想い残した事は無いよ。あんなに元気に育ってくれたし・・・安心してあの世に行けるよ。」
「貴様っ!」
「それとアーノルド。僕は君に怒りを覚えているんだ。と言うより・・・謝って欲しい。」
「謝る?誰にだ?」
自警団1番隊長の問い掛けに、エルガは向日葵を消した。
「シャク君にさっ!君はシャク君を利用した!見知らぬ青年を翻弄した!それに一番怒っているんだ!」
「あぁ・・・シャクの事か・・・フン、奴が勝手にこの村に来て、関わったのが悪いんだろう?俺は奴に謝る・・・・うっ!」
エルガはアーノルドの腹へ蹴りを入れた。
腹を蹴られた隊長は呻く。
「どうやら性根が腐ったようだね。残念だ。」
「貴様っ!」
自警団達はエルガを地面へと叩きつける。
アーノルドは腹を抑えながら親友を睨む。
「腐ったのはお前の方だ。」
エルガは地面に抑え付けられながら笑う。
「・・・お互い様だよ。・・・そうそう、僕の要求、呑んでくれる?」
「・・・・さァな。」
隊長は返事をするとエルガを屯所の牢屋へ運ぶ様に命令した。すぐに部下達はエルガを引っ立て連れて行く。
その時だった。
エルガの家の玄関の扉が勢いよく開け放たれ、黒紫色の髪の青年が鬼の様な顔をして現れた。
それに自警団全体が歩を止める。
鬼神を止めるべく、シャク達も外に出る。ギルティとチルノは家の中らしい。
「父さんを放せ・・・・」
サリエルは血走った目で自警団達を睨む。
アーノルドは村長の息子を一瞥すると、再び命令を下し、屯所へと帰ろうとする。
それが気に入らなかったのかサリエルは刀を構えて自警団に襲い掛かった。
人の心を捨てて、獣の様に———————。
「サリエル!!」
「サリエルさんっ!」
シャク達が叫ぶ。
それに応じて自警団達が彼に牙を向く。
アーノルドとエルガに被害が及ばない様に全員がサリエルの攻撃を受け止める。
「邪魔をするなァっ!」
鬼神は叫び、自警団を容赦無く斬り捨てていく。村人達は恐怖に慄き、家に隠れた。
猛毒の様な殺気を剥き出しにしてサリエルは自分に関わる人物に害を為す輩達に向かって行く。
「俺の父さんが一体何をしたってんだァっ!あァ!?」
怒りが激しい波の様にサリエルの体を襲い、完全に彼の正気を奪う。
斬り捨て、返り血を浴びた鬼神は尚、攻撃を止めない。
ヴェロニカは獣の様なサリエルを虚ろな目で見つめ、腰の剣の柄を握る。
「おい、ヴェロニカ・・・加勢はするでない。」
とラヅ。
「自分がこれまで剣術を極めたのは、復讐のためじゃ。ラヅさん、止めないでくれ。」
「ヴェロニカ・・・お前・・未だ昔の事を・・・」
「怨念は消えん。絶対じゃ。」
ヴェロニカは言うと、剣先を自警団達に向けた。
そんな彼女を見た、オルバはサリエルの刀を回避し、ヴェロニカに攻撃の的を移す。
蘇芳色の髪の彼女は剣を構え、サリエルに加勢をする。
が、オルバが妨げる。
「テメェーまで殺る気か?」
とオルバ。
「ヴェロニカ、止めろ!」
ラヅが叫ぶ。
「来るな!」
彼女はおぞましい声で怒鳴る。
「退け、邪魔じゃ。」
「邪魔はテメェーの方だ。まな板女。」
「退かねば、殺るぞ。」
「フン、上等だ。」
「ヴェロニカ、止めろ!」
彼女を止めようとラヅが駆けつけたが、ヴェロニカは壮絶な殺気を放ち、彼を来させない様にする。シャク達も止め様にも動けない。
「来るなと言うとるじゃろうが。来たら、ラヅさんとて手に掛けるぞ。」
「ヴェロニカ・・・・」
「良い殺気じゃねぇーか・・・面白くなりそうだ。」
オルバは残酷な笑みを浮かべヴェロニカを見る。
「自分的には、貴様じゃァ物足りないがのうぅ。」
とヴェロニカ。
此処で又戦いが生じた。
刺々しいオルバの鞭がヴェロニカを襲うが、彼女はそれを回避し、剣を素早くオルバに叩き込む。ヴェロニカの剣先がオルバの腹を掠り、オルバの顔が歪む。
「結構腕上げたんだな・・・殺り甲斐があるってもんだ。」
「黙れ。」
容赦無く彼女は剣を振るう。
シャクは暴れる鬼神と鬼女を眺め、ラヅに問うた。
「どうして・・・ヴェロニカさんが・・・」
「ヴェロニカは・・・・・心の中に怨念を宿しておるのだ。」
「怨念・・・?」
「うむ・・・。ヴェロニカの両親は魔物では無く、人間に殺されたのだ。それも、大親友だった両親の友達にな。」
「っ!」
「だから、ヴェロニカはサリエルが自分と同じ境遇になろうとしてるかもしれないと言う己の判断からの行為であろう。重ね合わせてしまったのだろう。・・・・・しかし、雅か、未だ昔の事を根に持っていたとは・・・・」
「ヴェロニカさん・・・」
「しかし、こうしては居られぬ。止めるぞ!」
ラヅに促され、シャク達も止めに入った。

どれだけ斬り付け様が鍛えられた自警団は立ち上がって来る。サリエルは血塗れになりながらも血走った目で憎い輩を斬り捨てようとする。
そんな我が子を笑顔で見るエルガ。
「・・・何と醜い男だ・・・」
アーノルドが嘲笑いながら呟いた。
「自分の父親の咎を理解していないとはな。相当、自分の息子にもおかしな事を吹き込んだのだろう。」
「僕はおかしな事なんか吹き込んでないよ。唯、優しさを教えたまでだよ。誰にでも情を持って振舞えれるようにね。」
「お前が教えた情を持って振舞えとはこういう事か・・・・」
アーノルドは血塗れになって戦う自警団とサリエルを睨む。
「どうだろうね?僕にも分からないよ。」
「分からないとは随分適当だな・・・」
「ふふん、だって情ってモノは人それぞれだと思うよ。だから、僕にも分からない。」
「フン・・・まァ良い・・・」
「そっか。」
エルガは微笑むと戦うサリエルを見つめる。
そして———————。
「こらァ~!サリエル!シャク君達も!部屋から出ちゃ駄目だって言ったじゃないか~!父さん、怒るからね。もうカンカンだよ。、みんな、デザート無しだからね。」
父親の言葉を耳にするがサリエルは無視をし、血で手を染め続ける。
そんな息子を眺め、エルガは困った顔をし、アーノルドに問い掛ける。
「・・・・もしかして、反抗期かな?」
「さァな。」
とアーノルド。
素っ気無い親友の返答に、エルガは溜息をつく。
「・・・・・もう・・・無視して・・本当にデザート無しだからね。ギルティ~!サリエル達を止めてよ!」

何やら義理の父親の声がし、ソファに寝転がっていたギルティは頭を掻き、家を出る。
面倒そうな顔をして戦場化している村内を見る。
「ありゃりゃァ・・・凄ぇ事になってるなァ・・・パーティーでもしてんの?」
顔を出した淡い水色の髪の男を剣を振るいながら見、ラヅが叫ぶ。
「ギルティ!悠長な事を言わず、俺等と一緒に自警団を止めろ!いや、サリエルを止めろ!」
「あァ?サリエルを止めろ?・・・アイツ、何もしてなくね?寧ろ、正義の為に戦ってね?別に止める必要なんざァねぇーと思うがね。」
「っ!」
出て来てサリエルを止めようとしないギルティを苦笑し、エルガは呟いた。
「あァ~、全員、反抗期だ。これは参ったね。」
笑うエルガは内心真剣な感情をしていた。
————————このままじゃ、サリエル達全員が捕まってしまう。それだと、誰がノラマを守るんだ。恐らく、アーノルドは僕等全員を捕まえるはずだ。そして、ノラマを・・・・。
だから、エルガは叫んだ。
「全員止めェェェェェェっ!」
村長の言葉にシャク達を含め、自警団達の手が止まる。
「父さんっ!」
「反抗期の心算なんだろうけど、全員武器を捨てて戦いを止めなさい。戦いは悲しみしか生まない。戦いは駄目。良いね?僕はサリエル達に争いをする為に剣術を教えたんじゃないよ。弱い者を守る為に教えたんだよ。誤解してもらっちゃァ困るよ。」
と村長。
サリエルは口元に付着した血を手の甲で拭いながら父親に食って掛かった。
「父さんっ!俺ァコイツ等が許せねぇ!!絶対ェ、ノラマを殺す気だ!いや、それどころか父さんの身だって・・・!」
「サリエル・・・・」
エルガは泣き出しそうな息子を笑顔で見つめて言う。
「家に帰ってなさい。後で帰るから・・・」
「エルガさん・・・」
シャクは向日葵の様な笑顔を浮かべる村長を見つめた。
——————もしかして・・・雅か・・・・!
「シャク君達に頼んでしまっては旅に出られなくなりそうだから、ギルティ、ラヅ・・・」
名を呼ばれた二人が義理の父親を見る。
固まっていた自警団達は隊長の傍へと戻り、エルガを囲む。
笑顔の似合う男は花弁に水滴を載せた、満開の向日葵を顔に咲かせると言い放った。
「サリエルとノラマをお願いね・・・・」
その言葉を残し、向日葵は皆に広い背を向けて自警団達と共に歩き出す。
そんな父親を見て、サリエルの頬を涙が伝う。
そして———————。
「父さァァァァァァァァァァァァんっ!!!」
鬼神となって牙を向けた息子の悲痛な慟哭が響いた。
それでも月は静かに照っていた。
 

9章へ続く。
 

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1990-01-09 : 【異世界のイストワールⅠ】 : コメント : 0 :
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プロフィール

十二仙 百露

Author:十二仙 百露
性別:女
年齢:18
身長:158cm
血液型:AB
誕生日:9月12日
好きな食べ物:甘い物
嫌いな食べ物:苦い物
趣味:小説、書道、絵を描く、模写、ゲーム、ゲーム実況見物

 

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【勇者の特権を取り戻す為に俺は魔王を復活させ、無限ループを繰り返す。】


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