スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
-------- : スポンサー広告 :
Pagetop

2章

 
第2章
~スピアッジャの浜町~

*落ちる。無抵抗のまま落下していく。海に向かって———————。
———————誰か・・・誰か助けてくれっ!!
海の中へ落下し、海に飲まれる。
必死に足掻き、泳ごうとするが、慌てている為上手く泳げない。
————————誰か!俺を・・・・!
溺れる。体が言う事をきかない。声を出して助けを呼ぼうにも出ない。
———————俺はこのまま・・・・・。

★ ★ ★

「父さん!人が海に!!」
赤茶色の髪の毛をした青年が船の舵を握っている父親に向かって叫んだ。父親は息子の叫び声を耳にして、溺れている人影を捜す。
「ほら、あそこ!!」
少しして人影を発見し、慌てる。
「おい!海に飛び込んで引っ張って来い!早くしねぇーと死んじまうぞ!」
「分かった!」
青年は返事をすると浮き輪と鋭い短剣を持ち、海に飛び込んだ。



潮の香りがする。鴎が鳴く声もする。人々の声もする。そんな中、一際五月蠅い声が青年の耳元で騒ぐ。
“目を開けて下さい!!お願いですから!勇者様っ!”
聞き覚えのある少女の声がする。
シャクはゆっくりと目を開け、ベットから身を起こした。目を擦り、周囲を見回す。
丈夫な木で出来た家の中。
——————俺は・・・。
起き上がった青年を見て小さな少女は手を合わせて喜ぶ。
“勇者様!良かった・・・生きてて・・・”
傍らで喜んでいる凄く小さな少女—————天使ラーは言うと、安堵の息を吐いた。そんなラーを驚いた表情で見つめ、シャクは言った。
「何だ?その姿は?何か・・・15cm物差しくらいの大きさになってね?」
“あぁ、この小ささですか。いやぁ~・・・この方が何かと便利なんですよ。でも、この世界の一般の人間達には私達、天使の姿は見えないんですけどね。”
「そ、そうなのか?」
“はい。・・・それに、勇者様から言えばこんな姿の方が良いでしょ?”
「ま、まぁ・・・妖精みたいだからな・・・・・・って、ヒカルはっ!!」
シャクは慌てて横のベットを見た。そのベットにはヒカルが横たわっていた。
「ヒカルっ!」
シャクは驚くと、ヒカルに駆け寄った。
彼はシャクの声に起こされ、目をゆっくり開けた。
「シャ・・・シャク・・・?」
「あぁ!大丈夫か!?・・って、お前・・・服可笑しくね?」
「はぁ?」
ヒカルは返事をしながら、身を起こした。そして、自分の服装を見た。
「何で制服じゃねぇーんだよ!!」
とヒカルは言った。
「俺もだ・・・」
シャクも自分の服を見て呟いた。そんな彼等に向かってラーは言う。
“異世界用の服装に変わっただけですよ。”
「つまり・・・異世界に来たって事か・・・」
とヒカル。
ラーは頷く。
「ここが異世界?何か俺等が住んでる世界とあんまし変わりねぇーじゃん。まぁ、机とかタンスとかが木製で野生的だなって感じだけどさ。」
シャクは周囲を見回して呟いた。
「でも、何で選りに選って‘布の服’と‘布のズボン’、‘サンダル’なんだよ?俺が勇者ってんだったら、もっとこう・・・スゲェー鎧とかあっても良いんじゃね?」
“勇者様が最初から最強装備なんて事はありませんよ。誰でも最初は弱いんですから。”
ラーの言葉にシャクは不満げな顔をして応じる。
「それもそうだけど・・・で、何で俺等此処に居るわけ?俺等、溺れてなかったっけ?」
「確かに・・・」
“お二人が溺れていたところを偶々通りかかった漁師さんが助けてくれたんですよ。漁師さんって言っても若くて、赤茶色の髪をした男の子でしたけど・・・”
その時だった。
部屋の扉が開き、パンと牛乳をのせた盆を持った赤茶色の髪の毛をした青年が入って来た。その青年はシャクとヒカルの姿を認めるや否や満面の笑みを浮かべた。
「良かった!無事だったんだ!心配したんだぜ。」
「あ、ど、どうも・・・」
シャクは苦笑して頭を軽く下げた。
——————コイツか・・・俺等を助けてくれたって男は・・・。
青年は微笑んで、机の上に盆を置いた。
「まぁ、これでも食べてよ。」
「サンキュー・・・・」
シャクは言うと、口にパンを頬張った。そんなシャクを見て、青年は明るく言った。
「俺、アレク。アンタ等は?」
「あ、俺はシャク。」
シャクはパンを飲み込んで名前を名乗り、横目でヒカルを見て付け足した。
「アイツはヒカル。」
「シャクとヒカルか・・・宜しくな。」
言って笑顔を向けて握手を求めてくるアレクの手をシャクは握った。
「あぁ、宜しく。・・・てか、俺等を助けてくれたんだろ?ありがとう。」
「え?何で俺が助けたって分かったの?」
「あ~いや~・・・勘だよ、勘。」
「ふ~ん・・・・」
「ありがとう。おかげで助かったぜ。」
「良いって事よ。お互い困った時は助け合わないとな。」
アレクは白い歯を見せて笑うと、先程から黙っているヒカルの方へ視線を向けた。
「ヒカルだったよな?アンタ、腹は空いてないの?良かったらこれ食べな。」
「・・・・」
親切なアレクの物言いにも応じず、ヒカルは無言を突き通す。そんな彼を心配したのか、アレクは問う。
「大丈夫か?どっか具合でも悪いのか?」
「あ~いやいやいやいやいやいや!全然具合なんか悪くねぇーよ!コイツ、無口なんだよ。だから、放っておいてくれ。」
シャクは苦笑して言った。
「無口なのか・・・まぁ、何時かはちゃんと喋れる様になれると良いな。・・・で、何で溺れてたんだ?何してたの?」
「あ~・・・・何て言えば良いのかな・・・・」
シャクは頭を掻きながら、ラーに助けを求めた。彼女はそんな彼に向かって口パクで伝える。

“ヒカルが泳ぎ下手だから練習に付き合ってやってたら、俺まで溺れたんだ。”

——————何だよ、その下手な嘘・・・てか、俺まで溺れたってどんだけ間抜けなんだよ。
しかし、これを言うしか無い。
「えっと・・・ヒカルが泳ぎ下手だから・・・練習に付き合ってやってたら、俺まで溺れたんだ・・・アハハハ・・・」
シャクはヒカルの怒りの矛先が自分に向いているのに気付いた。
「泳ぎの練習か・・・って、ヒカル、泳ぐの下手なんだ。」
「そ・・・」
ヒカルが反論しようとしたのをシャクが見事に遮った。
「そーそー!コイツ、スゲェー下手でさァ~泳ぎのテストはいつもゼロ点。」
ヒカルは拳を握り、シャクを思いっ切り睨んだ。
「へぇ~・・・で、どっから来たんだ?」
「・・・」
再びラーに助けを求める。

“凄い遠いところから来たんだ。”

「凄い遠いところから来たんだ。」
「凄い遠いところ・・・・ガムラン王国辺りから?」
「ガムラン王国・・・?」
シャクの問いにアレクは頷いて説明する。
「うん。この浜町から・・・・」
「この浜町・・・?」
「ごめん・・・此処はスピアッジャって言う浜町なんだ。魚を捕ったりして生活している平和な町なんだ。」
「そうなんだ・・・」
「・・・で、ガムラン王国って言うのは、この浜町から凄く離れた場所にある美しい王国なんだ。でも、唯の美しい王国じゃないんだ。」
「唯の美しい王国じゃない?」
「うん。魔法も剣術も凄い王国なんだってさ。」
「へぇ~・・・」
「それに、あそこの王女様、凄い美人な上に剣術も凄いらしいんだ。はぁ・・一度でもいいから会ってみたいよ・・・・」
「そんなに美人なのか?」
「勿論!だから、結婚してくれって言う人が多いらしいよ。毎日毎日、男達が押しかけてるんだって。」
アレクは言うと、呆れた表情をした。その時、
「アレク!漁に出るぞ!」
と声がした。
アレクは目を輝かせると叫んだ。
「今行く!!」
「漁?」
とシャク。
「あぁ!・・・って、シャクとヒカルも一緒に漁に出ないか?きっと楽しいと思うぜ!」
アレクが満面の笑みで二人を誘う。
シャクはヒカルを見た。当の彼は半眼。シャクはアレクに視線を戻すと言った。
「あぁ、俺等も一緒に行くぜ。」
シャクの返事にアレクは飛び跳ねた。
「おっしゃーっ!決まりだ!今日はいっぱい捕るぞ!!」
元気の良いアレクと一緒にシャクとヒカルは部屋を出た。


*本棚が並び、非常に不気味だが、掃除の行き届いた部屋。魔王の部屋らしい部屋だ。その部屋の中で、机に向かい、パソコンと睨めっこをしている影があった。彼は少し悩み顔で、掛けている黒縁眼鏡を中指で押し上げた。当のパソコンは画面を真っ暗にして居座っている。
「・・・厄介な機械だな・・・・」
独り言を漏らす影は睨めっこを再開する。

数分後、眼鏡を掛けた影は机に置かれたコーヒーを一口飲んだ。そして、考える。
——————俺は一体どれくらいコイツと睨めっこをしていれば良いのか・・・。
誰も知る由も無い。

その時だった。
影の部屋の扉にノックの音が聞こえた。
「ヘンリ様、入っても宜しいでしょうか?」
と少年の様なくぐもった感情の籠ってない声がした。
ヘンリと呼ばれた影は扉を横目で見ると、「あぁ」と返事をした。
彼の返事と共に、小さなモノが入って来た。
青黒く短い髪の毛、その前髪は少し目に掛かっていた。白衣を纏い、書類を持っている。
この格好からすると男の子だと思われがちだが、女の子である。
「書類をお持ちしました。」
「そこの机に置いてくれ、リンネル。」
「はい。」
少女は机の上に書類を置いた。そして、主を無表情で見つめた。
「ヘンリ様、何をなさっているのですか?」
「あ、あぁ・・・別に何でも無い。」
ヘンリは真っ暗な状態のパソコンを閉じると、残ったコーヒーを飲み干した。
「パソコンが何か?」
とリンネルと呼ばれた少女。
ヘンリは顔を引き攣らせると、咳払いをして言った。
「何でも無い。・・・・・それより、お前が持って来た先程の書類は何だ?」
「人間界制圧の計画書類です。ヘンリ様のお兄様、ローレライ様が女神を捕らなさったでしょう?それ以後、女神の加護が無くなった人間界を今後、どの様にお二方、つまり、滅神王ヘンリ様とローレライ様がどう支配なさっていくかを書く書類です。」
「あぁ、それか。」
ヘンリは書類を手に取った。
「今は既に人間界へ魔物達を野放しになさっていらっしゃいますが・・・」
「まぁな・・・」
ヘンリは返事をしながら書類を眺めた。
少しして、リンネルは思い出した様に口を開いた。
「そう言えば・・・既にローレライ様は書いていらっしゃったらしいですが・・・」
「あの馬鹿兄が!?」
「はい。」
「見せろ!アイツの計画書を!」
「それは出来ません。」
「どうしてだ?」
「ローレライ様にお仕えしている大悪魔神官は、私の兄のカルコスです。彼がローレライ様の書類を常に管理しているのは十分にご承知の上でしょう?」
「あぁ、だがな・・・」
「よって、出来ません。」
「じゃぁ、カルコスに言えば見せてくれるか?あの馬鹿兄の書類は提出する前に俺がチェックしないと・・・くそ・・!」
「ヘンリ様の書類も提出する前には私がしっかりチェックしないと・・・と言うか書き直しておかなければ・・・・・字が汚いから・・・・読めないから・・・」
リンネルが小声で呟いた。
「何か言ったか?」
「いいえ、何も・・・・でも、どうでしょうか・・・ローレライ様の書類は無いかもしれませんね。」
リンネルの言葉にヘンリは呆れた表情をした。
———————確か、大悪魔神官リンネルの兄・・・大悪魔神官カルコスは馬鹿兄をいつも扱いている奴だったな・・・。だったら、リンネルの言う通り、奴の書類は最早・・・灰と化しているか・・・。
「リンネル、ホットコーヒーを持って来い。仕事をする。」
「はい、承知しました。」
リンネルは言うなり、滅神王ヘンリの部屋を後にしようとした。しかし、扉を開けて、
「ヘンリ様、パソコンの電源はパソコンを開いて中央に御座いますよ。」
と言い、少女は出て行った。
ヘンリは一瞬どきっとしたが、何事も無かったかの様にパソコンの電源を入れた。



太陽が笑う、晴天の下——————船上で大量の魚を網から出しては、氷が入った箱の中に入れていく青年達と中年の親父達。
“ちょっと、勇者様!こんなところでこんな事をしてても良いんですか!良くないですよね!?”
魚を網から出している勇者シャクの耳元で、15cmくらいの大きさの天使ラーは言うのであった。しかし、当の勇者は忙しそうに返答をする。
「仕方無ぇーだろ?命の恩人の誘いを断るなんかできっこねぇーよ。」
“それもそうですけど・・・”
「大体、ラーがちゃんとした陸地に飛ばしてくれれば、あんな海で溺れるような事は無かったんだし、アレクと出会う事も無かったんだぜ?だから、ここで漁をすることも無かったワケだ。」
“すみませんでした・・・ずっと勇者様達の世界に居たせいで天使の魔力が薄れてたみたいで・・・”
「言い訳かよ・・・・まぁ良いけど・・・っと、アレク!この魚レアじゃね!?」
とシャクがアレクに向かって叫んだ。
「おぉっ!!スゲェー!これ超レアだよ!ヤッホーっ!」
アレクは大喜びで飛び跳ねる。
ラーは溜息をついて、船の縁に座った。そんな天使の近くに何もせずに立っている青年の姿があった。ヒカルである。
ラーはヒカルに問うた。
“勇者様っていつもこんな感じなんですか?”
「あぁ。大体こんな感じ。一緒に居て呆れるぜ・・・・」
“でも、ヒカルさんは勇者様の事、嫌いじゃないんですね。”
「は?」
“だって、勇者様と一緒に居ると、ヒカルさんの表情は他人に見せる表情じゃないんですもん。心を許した人にだけ見せる顔って言う感じで・・・”
「ンな事ねぇーよ・・・・」
ヒカルは言うと、アレクと喜んで跳ねているシャクを見た。
その時だった。
“ヒカルさんっ!!”
ラーが甲高い声でヒカルの名前を呼んで来た。
「どうしたんだよ・・・?」
ヒカルは少し面倒そうに彼女の方を向いた。ラーは海を見下ろしていた。そんな彼女の横顔は青褪めていた。不審に思ったヒカルは彼女と同じ様に海を見下ろした。そこで、彼も驚愕した。
何かが船にしがみ付いて、上がって来ている。
「!」
“海の魔物ですよ!!!魔物っ!”
「魔物っ!?」
ヒカルは聞き返した。が、彼は振り返ってシャクに向かって叫ぼうとした。
「シャ・・・・」
しかし、背後におぞましい気配を感じた。船の縁に鋭く尖った脚が乗る。ヒカルは恐怖に支配され、その場から動けなかった。
がりがりと縁に傷がつく音が聞こえる。
“ヒカルさんっ!!”
ラーの悲鳴にも似た叫び声が聞こえたのか、シャクが気付きヒカルの背後に迫る魔物を発見した。
「ヒカルっ!逃げろ!!」
シャクの声で恐怖から解放されたヒカルは我に返って、走った。シャクの絶叫に、船上の人間達が各々武器を構える。
船上に上がって来たのは、鮫が白骨化し、鰭が鋭い武器に成り果てた——————キラーシャークと呼ばれる海の魔物だった。
「キラーシャークだ!!」
船上に叫び声が響き渡る。
そんな中、ラーがシャクの方へ飛んできて言う。
“勇者様、魔物ですよ!魔物!”
「だよな!魔物だよな!初めて見たぜ・・・」
“感動してる場合じゃないですよ!ほら、戦って!”
「戦ってって言われても・・・武器なんかねぇーじゃん。」
「シャク!!」
アレクが叫んで銛を投げてきた。シャクはそれを受け取り戸惑った。
「は!?」
「それで戦うんだ!」
と銛を構えているアレク。
「戦うってな・・・」
「キラーシャークは一匹だけじゃない!未だ、海から数匹は船上へ上がって来る!」
「マジで!?」
「あぁ。だから、この銛で倒すんだ!」
アレクは叫ぶと銛を手にし、雄叫びを上げて魔物へ向かって行った。
そんな彼を見てシャクは呆然としていた。
———————魔物をこの頼りない・・・叩いたらすぐに折れそうな銛で倒すなんか・・・できねぇーだろ・・・・。
“勇者様!!”
ラーの声でシャクは我に返った。
「何だよ・・・急に・・・」
“戦って下さい!”
「はっ!?出来るわけねぇーだろ!俺、何もしたことねぇーよ?唯の人間だよ?」
“アレクさん達だって唯の人間です!”
「ンな事ァ分かってるよ・・・」
“勇者様、さっき言いましたよね?アレクさんの事・・・命の恩人だって・・・”
「あぁ・・・言ったよ。」
“此処で挽回です!勇者様の命を救って下さったのなら、今度は勇者様が此処でみんなを救う番です!”
「みんなを救う・・・・俺が・・・?」
“出来ます!勇者様なら!”
その時、アレクの悲鳴が聞こえた。周囲を見回して見れば、船上にはキラーシャークが三匹居た。そんな中、シャクはアレクを発見した。
彼はキラーシャークの鋭い鰭で腹を深く抉られたらしく、片膝を突き立て、苦しそうにしていた。
「アレク!!」
シャクはアレクに襲い掛かろうとするキラーシャーク目掛けて突っ込んで行った。
「シャクっ!」
ヒカルがそんな無防備な親友に向けて叫んだ。しかし、彼は止まらない。シャクは雄叫びを上げ、アレクに振り翳された鋭い鰭を銛で突き刺し、力任せに引き抜いた。
「ギャーっ!!!」
魔物の甲高い悲鳴と共に、体液と引き抜かれた鰭が舞った。
「シャク!」
「アレク!腹は大丈夫か!?」
「あ、あぁ・・・何とか・・イテテ・・・」
「何とかじゃねぇーだろ!!その怪我!」
「アハハ・・・」
と力無げに笑うアレク。そんな彼を庇う様にシャクは銛を強く握り、立ちはだかる。
「シャク・・・・」
当のシャクは先程、攻撃したキラーシャーク—————片鰭を失ったキラーシャークを睨んでいる。
「コイツに止めを刺したら、後で二匹とも俺が始末してやるよ。」
「シャク・・・そ、それは無茶だって・・・・ほら、みんな苦戦してるんだし・・・」
「大丈夫だ。任せなって!」
シャクは目を光らせると力を溜めた。
「一発で終わらせてやるぜっ!!!」
と叫ぶと、銛をキラーシャークに向けて素早く突き出した。


*怒り狂ってキラーシャークは襲い掛かって来た。奪われていない方の鋭い鰭を振り回し、全体攻撃を仕掛けてくる。シャクはその攻撃を防御して防いだ。細かな掠り傷が痛む。
———————硝子が刺さった以上に痛いな・・・これ・・・。
アレクは自分を庇ってくれるシャクを見て、叫んだ。
「シャ、シャク、もう良いよ!」
「ンな見過ごす事なんかできるワケねぇーだろ!それに・・・アレクは俺達の命の恩人だろ!」
「シャク・・・・」
叫び返すシャクを魔物の攻撃が及ばない位置でヒカルは見ていた。
———————こんな化け物と戦った事が無いシャクが戦ってんのに・・・俺は・・・・。
“ヒカルさん!”
心を読まれたかの様なタイミングでラーが呼びかけてきた。
“シャクさんがああして戦ってるんです。ヒカルさんにだって出来ます!”
「でもな・・・」
“でもじゃないです!私も背後から魔法で援護します!だから・・・勇者様を助けて下さい!同じ仲間として!”
「仲間・・・」
ヒカルは必死に銛を振るい、攻撃を防御で耐え、それでも尚、立ち向かう親友を眺め決心した。
———————俺は・・・シャクの・・・・。
ヒカルは近くにあった銛を掴もうとした。しかし、彼には重くて持てなかった。
———————持てない?何でだよ?
何度持ち上げようとしても重くて持てなかった。そんな彼を見て、ラーが言った。
“ヒカルさんは・・・銛が持てない・・・装備できない・・・って事は・・・”
「は?」
“銛を持つのを止めて、あっちの樫の杖にしたらどうですか?”
ラーは樫の杖を指差して言った。
「あんなの武器でも何でもねぇーよ!」
“なりますって!ほら、あれを装備して援護、援護!”
天使の促しにヒカルは渋々、樫の杖を持った。軽くて装備し易い。杖を握り、シャクが居る方向を見る。未だ、彼はアレクを護りながら必死に戦っていた。
ヒカルはそこへ向けて走った。

キラーシャークの鋭く武器化した鰭がシャクの腹を抉った。
「っ!!」
回避し損ねたとシャクが舌打ちをする。抉られた傷口から血が滲んでくる。布の服が真っ赤に染まっていく。
「シャク!」
とアレク。
シャクは腹を左手で押さえ、右手で銛を杖代わりにして立っている。
———————くそっ・・・あそこで俺が回避していれば・・・・!
キラーシャークが弱った勇者に止めと言わんばかりに鰭を振り上げた時だった、ヒカルが樫の杖でシャクに襲い掛かる魔物を攻撃した。シャクがかなりダメージを与えていたおかげで、ヒカルの一撃でキラーシャークは息絶えた。その場に死体が転がる。
「ヒカル・・・・」
「シャク!お前・・・その怪我・・・」
「大丈夫だって・・・イテテ・・・」
「アレクも・・・」
ヒカルは深刻そうな顔をして二人の傷を見た。そんな彼に向かってアレクが言う。
「は、初めて俺の名前呼んでくれたな、ヒカル。」
「・・・・」
ヒカルは口を閉じると、目を反らした。
「ヒ、ヒカル、アレクを船室へ連れて行ってくれ・・・」
「は!?」
「良いから!アレクの怪我の方が酷い。」
「いや、お前もだろ!」
ヒカルの反論を無視し、シャクは天使を呼ぶ。
「ラー!」
“はい!”
慌てて飛んでくるラー。
「お前、ま、魔法で援護しろ・・・」
“ま、魔法で、ですか・・?”
「そ、そうだよ、魔法でだよ・・・しゃ、車道に馬鹿でかい・・・氷を突き立てたのはお前だろ?」
“そうですけど・・・”
ごちゃごちゃ何か別の方向を向いて言っているシャクを不審な表情でアレクは見つめる。
「シャク・・・だ、誰と喋ってんの?」
「あ、いや・・・」
とヒカル。
当のシャクは気付いていない。
「だ、だったら・・・あ、あのでかい氷をドカーンと・・・・コイツ等にお見舞いしてやれ・・・」
“アハハハ・・・”
「アハハハじゃねぇーよ・・・は、ほら、やれよ。てか、やってくれ!」
シャクは痛む腹を押さえてラーに言う。
“それが・・・”
「それが?」
「シャクっ!」
ヒカルが叫んだ。
船上に居たキラーシャークの一匹が襲い掛かって来た。どうやら、仲間が殺された事を知ったらしかった。怒りの矛先を向けて突進して来る。
「ほ、ほら、魔物来たぜ・・・魔法・・・頼む・・・・」
“・・・・”
ラーは苦笑して魔法を詠唱するべく、集中する。
そんな彼女に攻撃が当たらない様に、シャクは顔を痛みに歪めて、キラーシャークの攻撃を受け止める。
ヒカルはアレクを一応は庇える位置に立ち、攻撃を待つ。
少ししてラーの声が聞こえた。
“ブリザガルっ!!”
魔物がラーを見つめて、防御体勢へと転じた。

しかし———————。

何も起きなかった。何も発生しなかった。

“ブリザガルっ!!ブリザガルっ!!”

何も発生しない。

「おい・・・」
“ブリザガルっ!ブリザガルっ!・・・・何よ!何で氷魔法が発動しないのよ!”
ラーは怒った。
シャクは片膝を甲板につけてラーを見た。
「も、もしかして・・・・」
“何で発動しないのよ!もう!もう!もう!”
「お、おい・・・もしかして・・・・」
シャクが言おうとすのをラーは怒鳴って遮った。
“もしかしてって、そんな事は無いんです!無いですって!!”
「い、いや・・・俺未だ何も言ってないから・・・」
“次第に天使の魔力がダウンしていってるなんて有りえない!有りえなぁ~い!”
ラーの‘天使’と言う言葉に魔物がビックと動いた。そして、シャク達の隙を見計らって逃げて行った。
「あ!に、逃げた!ま、待ちやがれ!」
とシャクは追いかけようとしたが、その場に倒れそうになる。
ラーは逃げて行く魔物どもを見て、自慢げに言った。
“やっぱり私の魔法、発動してたんじゃないの!驚かせちゃって!いやぁ~ね!”
「い、いや、は、発動してねぇーよ・・・・」
「アレクっ!!」
とそこへ野太い声が近付いて来た。
「父さん・・・」
声の主はアレクの父デイノスだった。そして、彼の背後には大勢の漁師達。
「でぇー丈夫か!?・・・・!どうしたんだ、その怪我!!!」
デイノスはアレクの傷口を見るなり叫んだ。
「ち、ちょっと・・・抉られたんだよ・・・・」
「ちょっとどころの騒ぎじゃねぇー!!」
「だ、大丈夫だって・・・」
「おい、おめぇー等!とっとと浜町へ帰るぞ!!」
「へい!」
デイノスの命令で漁師達は返事をし、持ち場についた。
甲板に力尽きた様な姿になっているシャクを見て、デイノスが再び叫んだ。
「でぇー丈夫か!?・・・て、おめぇーも怪我してんじゃねぇーか!!」
「あ、あ・・・」
「本当にすまんな。ワシの息子がおめぇー等を誘ったばっかりに・・・・」
「良いんっすよ・・・」
「帰ったら存分に手当てしてやっからよ!待ってろよ!」
「あ・・・どうも・・・」
シャクは舵へ戻って行くデイノスを眺めて、苦笑した。
「と、父さん・・・凄く心配性なんだよ・・・大丈夫なのに・・・」
「い、いや、アレクの場合、大丈夫じゃねぇーだろ・・・・」
とシャクは言った。

船が浜町を目指して、夕暮れの海を渡っていく。
そう、気が付けば空にオレンジ色の絵の具が塗りたくってあったのだ。



「ローレライ様っ!!!」
白骨化した鮫型の魔物が一匹、大扉を勢い良く開け放ち、魔王の間へと駆け込んで来た。
「ローレライ様っ!!!」
「なぁ~に?」
ローレライと呼ばれた男——————肩まで掛かる白髪を赤いリボンで結い、紳士服を纏い、白い手袋をし、薄紫色の肌、赤い目をした———————は魔王の間に飾ってある花瓶に水を注いでいた。そんな魔王の傍に白衣を纏い、青黒い髪をした小さな大悪魔神官カルコス。
「大変なんです!!!」
「何!?私の薔薇の庭が荒らされちゃったみたいな感じに大変なの!?」
「ンなワケねぇーだろ。」
とカルコス。
「てか、そのどこが大変なんだよ?」
「大変よ!あの薔薇達をあそこまで育てるのに随分と時間が掛かったんだから!」
「知らねぇーよ!・・・で、何が大変なんだ?」
カルコスが駆け込んできたキラーシャークに向かって問うた。
「そ、それが・・・・とっても凄い情報をゲットしたんですよ!!!」
「ほう・・・」
「本当に凄いんですよ!いやぁ、その情報をゲットした時、‘出来した!’って思ったんですよ!!」
「あっそ・・・で?」
「この情報、凄い役に立つと思います!もう、最高に良い気分ですよ!殺された仲間の命が報われるってもんですよ!」
「良いから、早く言え!!」
カルコスは怒鳴った。
「す、すみません・・・・」
「何だ?一体・・・」
「それが、天使と一緒に居る人間を発見したんですよ!」
「何!?」
「天使?」
ローレライは聞き返すと、花瓶の花を匂った。
「はい!」
「私、天使を連れた人間を捜せって命令したかしら?」
「い、いえ・・・・」
「じゃぁ、別にわざわざ報告しに来なくったって良かったのに。・・・でもまぁ、ありがとう。」
とローレライは言うと、振り返って微笑んだ。
そんな魔王にカルコスが怒鳴った。
「‘でもまぁ、ありがとう’じゃねぇーよ!!聞き捨てならねぇーだろ!今の台詞!」
「そう?」
「‘そう?’って、天使だぞ!女神に仕えてる天使だぞ!」
「そうね。」
「呑気だな、おい!」
カルコスは頭を抱える。
「・・・・しかし・・・女神を捕らえ、神の国もろとも天使も天界の者達も消し去ったはずだが・・・何故生きている・・・?」
「生きてたんだ、すごぉ~い!!」
と言い、微笑んで拍手をする魔王。
「馬鹿野郎っ!!!!」
シャウトするカルコス。
「あっ!今、馬鹿って言った!馬鹿って言った方が馬鹿なのよ。」
「うるせぇー!黙れ!」
「嫌だ!黙んない!」
「ウゼェーな・・・テメェー・・・・!!」
カルコスは額に血管を浮かべながら、辛うじて保っている意識で言った。
「いよいよ・・・勇者のお出ましか・・・・」
「勇者?」
とローレライ。
「あぁ。女神が遣した厄介物だ。魔を祓いに来た・・・者だ・・・・」
大悪魔神官カルコスは言うと嫌らしい笑みを浮かべた。


*夕方。太陽が沈み掛けている。
シャク達は無事にスピアッジャの浜町へと帰還したのであった。帰還した際、直ちにシャク達はアレクの家へと連れ込まれた。
一室にあるベットに二人は寝かされ、抉られた腹には薬草を大量に挟み、包帯が巻かれている。そんな二人の傍らにヒカルが立っている。
「と、父さんも本当に・・し、心配性だよな。お、俺は大丈夫なのに・・・」
とアレクは力無げに笑うと、痛みに顔を歪めた。
「そ、それだったら・・・俺だって・・イテテ・・・」
シャクが対抗しようとした矢先、全身に痛みが走った。
「我慢比べじゃないんだぞ・・・・二人共・・・」
ヒカルが呆れて二人に言う。そんな彼を驚いた表情で見つめてアレクが言った。
「ヒカルが漸く会話してくれる・・・・ようになったな・・・な、何か嬉しい・・・」
「・・・・」
ヒカルはアレクを少し見て、いつもの様にそっぽを向いた。
その時。
部屋の扉をノックする者が居た。
「アレク、入るわよ。」
「うん。」
扉を開けて入って来たのは、アレクの母シエラだった。アレクと同様の赤茶色の長い髪の毛を一つにまとめて結い、エプロンをしていた。
「二人共、気分は大丈夫かしら?何か必要な物は無い?」
「お、俺は無いけど・・・・シャクは?」
とアレクが言い、シャクに問い掛けた。
「あ、ありません・・・どうぞお構いなく・・・・」
「そう遠慮しないで。アレクを助けて下さったんでしょう?魔物から。」
「そ、そんな・・・俺は何も・・・・」
「貴方がアレクを庇ってくれてなかったら・・・アレクは死んでたわ。」
シエラは言うと、シャクに頭を上げて礼を言った。そして、黙って立っているヒカルに視線を向けて微笑む。
「ヒカル君、貴方も勇敢に戦ったんですってね。頼もしいわ。」
「・・・・」
ヒカルはシエラから視線を外すと、下を向いた。
「まぁ、今日はシャク君もヒカル君も泊まって行きなさいね。もうすぐ夜になるから。」
「え・・・で、でも・・・・」
とシャク。
「それに、その傷じゃ歩いて貴方達の故郷へは帰れないと思うの。・・・・分かった?」
シャクはシエラの言葉を聞き、少し考えて、
———————このまま異世界に居たんじゃ・・・ヤベェー気がする。・・・・ん?そう言えば・・・異世界で寝たら現実世界じゃぁ1時間しか時間は経たないって言ってたっけな?だったら、ここで今日寝たら・・・俺等が異世界に行ったのは16時過ぎくらいだったんだから・・・17時くらいか。・・・・帰らねぇーとヤバイな・・・でもまぁ、此処は上手く言って逃れよう。
「わ、分かりました。今日はお言葉に甘えて泊まらせてもらいます。」
と言った。
その言葉にヒカルがシャクを見た。しかし、そんな彼は目で合図した。

——————後で話すから。

シエラは頷くと、部屋を後にしようとする。
「また、後で来るから・・・その時は夕飯を持って来るわ。・・・ヒカル君も此処で食べる?それとも・・・私達と食べる?」
「・・・・此処で・・・」
「はい。」
無口な青年の返事を聞くと奥様は部屋から出て行った。
そんな母親が出て行ったのを見て、アレクは言う。
「シャクとヒカルが今日泊まるのか~・・・何か楽しいな!お泊り保育みたい!」
「そうだな。」
「ヒカルは俺のベットで寝なよ。俺、床で寝るからさ。」
アレクがヒカルに白い歯を見せる。
「・・・・それは・・・駄目だ・・・」
とヒカル。
「アレクは・・・怪我してんだから・・・・・・」
「大丈夫だって!ほら、もう起き上がれ・・・イテテ・・・」
そう言って起き上がろうとしたアレクであったが、痛みに押され再びベットに戻る。
「俺は・・・座ってでも寝れる・・・だけど、アレクは無理だ・・・だから、ベットで寝ろ・・・」
ヒカルの言葉を聞いてアレクは苦笑して頷いた。
「・・・そ、そうするぜ・・・すまん、ヒカル・・・」
謝るアレクをヒカルは呆れた表情で見つめた。
少しだけ、少しだけ心が開けた様な気がした。



パソコンを立ち上げたのは良いのだが、それから一向に進まない。
滅神王ヘンリは無表情で画面を見つめ思った。
———————仕事をすると言ったのは良いのだが・・・・。
彼は画面を見つめ続ける。しかし、画面が進み方を教えてくれるわけではない。
その時だった。
ノックの音が聞こえたと同時に一人の背の高い青年——————フワフワのブロンド、アホ毛、紫色の大きな目、縞々の服、掃き心地の良さそうな短パン、黒いエプロンを纏っている——————が勢い良く部屋の中に入って来た。
「ヘンリ~っ!!林檎パイを持って来てあげたよっ!!召し上がれっ!」
と明るい声をした青年。
ヘンリは額に血管を浮かべ、その青年に向かって怒鳴った。
「返事を少しは待てないのか!?無礼極まりないな。」
「返事なんか待ってたら、ボクが作った温かぁ~い林檎パイが冷めちゃうだろ?」
「それぐらいで冷めるわけがないだろ!」
「もう、怒りんぼうさんだなぁ~、ヘンリーは。」
「だから!俺はヘンリだ!そのヘンリのリの後を延ばすな!!」
「良いじゃん!その方が良い易いし。」
「俺は良くない!それに、最初から言い易さなど求めていない。」
ヘンリは盛大な溜息をついた。
「まぁ、良いから、ボクが作った林檎パイを召し上がれ!」
青年は笑顔で言うとヘンリに焼き立ての林檎パイを差し出した。しかし、魔王弟は眼鏡を押し上げて言った。
「俺はホットコーヒーを頼んだのだ!それも、リンネルに!お前・・・・アプフェルに頼んだ覚えは無い。」
「そんな事言わずにィ~!」
アプフェルと呼ばれた青年は、開け放たれたままの扉を振り返って笑顔で叫んだ。
「お~い!リンちゃん!おいでよ!」
「・・・・・・・」
「リンちゃん?」
「・・・・・・入っても宜しいですか?ヘンリ様。」
感情の籠っていないリンネルの声が部屋の外から聞こえてきた。
「あぁ。もう既に無礼極まりない部下の神官が入って来ているからな。」
「それってボクの事?」
「お前以外に誰が居ると言うのだ。」
とヘンリ。
カツカツと靴音を鳴らし、部屋の中にホットコーヒーを持ったリンネルが入って来た。
「ホットコーヒーをお持ちしました。」
「遅い。」
「すみません、ヘンリ様。」
「・・・まぁ良い。そこの机の上に置いてくれ。」
「はい。」
リンネルは返事をすると机の上にコーヒーを置いた。そんな彼女を見て、笑ってアプフェルが言う。
「もう、リンちゃん、そんなに畏まっちゃって!もっとリラックスしなよ。」
しかし、リンネルは無表情で返す。
「ヘンリ様は滅神王様ですし、滅界を治めていらっしゃるのがローレライ様でいらしゃっても滅神王ローレライ様の弟様で在られるし、ヘンリ様は何よりも私の上司様ですから。」
「まぁそうだよねぇ~」
「・・・ところで、リンネル。」
「何ですか?ヘンリ様。」
「どうしてコーヒーを持って来るのに時間が掛かったのだ?いつもなら5分25秒で持って来るところだが、今日は20分37秒だったぞ。」
「申し訳ございません。その理由は・・・」
「ボクが邪魔したんだよぉ~!!」
アプフェルが笑ってヘンリに言った。
「だって、ヘンリーって最近甘い物とか食べてないでしょ?だから、ボクが作った林檎パイ食べさせてあげようって思ってさ。焼けるの待ってって言ったんだ。」
明るい部下の言葉にヘンリは半眼を向けた。
「俺はコーヒーだけで良いのだ。そんな甘ったるいモノなど食べる気は無い。」
「甘い物は適度に摂取しないと駄目だよぉ~」
「良いから出て行け、アプフェル。仕事の邪魔だ。」
「仕事の邪魔って何もしてないじゃん。」
「っ!」
アプフェルの言葉に魔王はどきっとした。しかし、部下は部屋から出て行く様子を見せずに続けた。
「ほら、林檎パイ食べて!冷めちゃうよ!」
「五月蠅い!良いから出て行け!!お前が居たら今から始める仕事がはかどりそうも無い。洗った皿を再び汚すのと同じ様に思えてくる。」
ヘンリの怒号にアプフェルは驚いた表情をし、笑った。
「はいはい、分かったよ。でも、林檎パイは此処に置いて行くよ。だから、ちゃんと食べてよ。じゃないと怒るよ。」
ヘンリは無言。
アプフェルは部屋を出ようとする。
「おーい、リンネル!外で遊ぼうよ!」
「仕事があるので無理です。」
「えぇ~!!」
「ヘンリ様、何か御座いましたらおっしゃって下さい。」
とリンネルは横で五月蠅いアプフェルを追い出し、扉を閉める前に言い放った。
「あぁ。」
返事をして、パソコンに向かうヘンリ。
そんな魔王を見つめ、最後にリンネルは感情の無い声で、
「ヘンリ様、書類を書き込む場所は一番左端のアイコンをクリックですよ。」
と言い、扉を閉めて去って行った。
ヘンリは何事も無かったかの様に仕事を始めた。



スピアッジャの浜町も真っ暗になった。浜町で起きている人間はこの二人と一人をおいて他に居ないだろう。
みんなが寝静まった夜、シャクはベットから身を起こした。それに伴い、壁に凭れ掛かり座って眠っていたヒカルも目を覚ました。そんな彼等を見て、小さな天使が言う。
“どうしたんですか?こんな真夜中に。”
「帰るんだよ。帰らねぇーとヤバイだろ?」
シャクが小声で言う。アレクが眠っているからだ。
シャクの言葉を聞いてヒカルは安堵の息を吐く。
「このまま泊まるのかと思ったぜ・・・」
とヒカル。
「ンなワケねぇーよ。あれは上手く言い逃れようと思っただけで、嘘だよ。」
「で、今から帰ったら何時なんだ?」
「多分・・・17時ちょい過ぎくらい。・・・で、帰るにはどうすんだ?」
シャクが天使に問う。
“帰りたい場所を願うだけです。心に思い描くみたいな感じです。”
ラーの言葉にシャクは指輪を見つめた。
「んじゃぁ、此処へまた来る時は来たい異世界の・・・・この浜町を思い描けば良い・・・みたいな感じか?」
“そうです。”
とラーはシャクの問い掛けに頷く。
「・・・それじゃぁ・・・帰るか。」
「あぁ。」
“いつ頃に戻って来られますか?”
「ん~・・・・適当な時間に戻って来る。」
「それじゃ駄目だろ。」
「?」
「此処で夜を迎えたら向こうの世界は1時間進むことになる。それだったら、向こうの1時間はこの世界の1日に相当する。だから、向こうの1時間以内にこの世界に戻って来ないとアレク達に怪しまれるんじゃないか?」
ヒカルの台詞にシャクは頭を抱えた。
「もぅーややこしいなっ!意味分かんねぇーよ!で、何分俺等の世界に居れるんだ?」
「30分以内ってとこだな。」
「マジか・・・・それ以内に学校から家に帰って・・・・とかしないといけねぇーのかよ・・・・」
悩み顔のシャク。それもそうだ、時間が限られているのは苦しい。
“大丈夫ですか?勇者様・・・”
心配そうな顔をして見つめてくる天使にシャクは苦しそうな顔をして返す。
「何とかしてみる・・・・」
“・・・では、お待ちしてます。”
「はっ!?ラーは来ないのか?」
“はい。何て言いましょうか・・・・その・・・えっと・・私は・・・異世界の者ですし・・・”
「・・・唯、面倒なだけだろ?」
シャクの言葉にラーは慌てた。
“ち、ち、違いますよ!そ、そ、そんな事なんてお、お、思ってなんか・・・”
「分かった分かった。まぁ、戻って来るから。」
“待ってます。勇者様、ヒカルさん。”
「おう。」
シャクは返事をする。
そして、帰りたい場所を心に描く。

夕方の教室。
数々の机。
黒板。
掲示板にたくさん貼られた紙。

描き終えた瞬間、シャクとヒカルは天使ラーの前から消えた。
残った天使は勇者の帰りを待つ。

 
3章へ続く。
 

スポンサーサイト

1990-01-03 : 【異世界のイストワールⅠ】 : コメント : 0 :
Pagetop
コメントの投稿
非公開コメント

Pagetop
« next  ホーム  prev »

プロフィール

十二仙 百露

Author:十二仙 百露
性別:女
年齢:18
身長:158cm
血液型:AB
誕生日:9月12日
好きな食べ物:甘い物
嫌いな食べ物:苦い物
趣味:小説、書道、絵を描く、模写、ゲーム、ゲーム実況見物

 

アクセスカウンター

本棚

【異世界のイストワールⅠ】
プロローグ
1章2章3章4章5章
6章7章8章9章

~番外編~
Happy Halloween !! . 2014

---------------------------------
【勇者の特権を取り戻す為に俺は魔王を復活させ、無限ループを繰り返す。】


★*:;;;;;:*★*:;;;;;:*★*:;;;;;:*★
ウィンドウは新規で開きます。

月別アーカイブ

12  11  03  02  01  12  11  10  10  01 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。