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1章

 
第1章
~青年達と迷い天使~

*食パンの焼ける良い匂いがする。食卓に並ぶハムや目玉焼き、サラダなどを頬張り、テレビが語るニュースを見る赤髪の青年。
「次のニュースです。昨日、車道に巨大な氷の塊が突然落下し、そのせいで現在、そこは通行止めとなっております。又、昨日、晴天にも関わらず雷が落ちるなど多くの被害が出ています。・・・・」
「車道に巨大な氷の塊?んなワケあるかよ。」
レタスにマヨネーズをかけながら呆れた様に呟く。そんな青年の許へ母親が焼き立ての食パンと小瓶に入ったブルーベリージャムを持って来た。
「でも、本当の事なのよ。お父さんも昨日帰りに見たって。」
「幻覚、幻覚。昨日、父さん、酒を飲んで帰って来たんだから。」
「確かに、昨日お酒を飲んで帰ったけど、酔いが醒めてたみたいだし・・・」
「巨大な氷の塊とか晴れてんのに雷とか可笑しいって。母さん、信じ過ぎ。」
「灼・・・」
「んな事より、遅刻、遅刻!」
灼は母親からパンを貰うと、ジャムを塗り、大急ぎで食べた。そして、洗面所に駆け込み、大急ぎで歯を磨く。
「灼、サラダは?」
と母親。
「はぁー・・・はへられないから、はあさんたへていいひょ。」
歯を磨きながら言う息子を見て、母親は溜息をつき、灼が食べ終えた食器をシンクに持って行った。数分して、灼が洗面所から出て来て、鞄を掴み、玄関へ駆けて行く。そんな息子を見て、母親はタオルで手を拭くと後に続いた。
玄関で靴を履く息子に言う。
「忘れ物は無い?」
「あぁ。」
「提出物はちゃんと出せる様にしてあるの?」
「あ、あぁ・・」
「お弁当は持った・・わね?」
「あぁ。」
「英語の単語テスト、ちゃんと覚えた?」
「あ・・あぁ・・」
「今日は何時に・・・」
「行って来ますっ!」
灼は母親の最後の台詞を聞かずに家から飛び出た。早く出ないと遅刻になってしまう。
———————今何時だ?・・・げっ!8時13分じゃん!遅刻だよ。これ絶対ぇ遅刻だよ!
灼は全力で走った。あらゆる近道を巡り、走った。
———————これで今日遅刻したら俺、30回越えだよ。
遅刻の事ばかり考えていたせいで、何度も車と衝突しそうになった。
———————今日に限って自転車が故障してるとかマジありえねぇーよ。バス待てば良いじゃんって思うだろうけど実際、走った方が速いんだよ。
と、その時。
「あら、灼君じゃないかい。おはよう。」
「あ、おはようございます!」
声の主は母親が勤めている仕事先の、優しい中年のおばさんだった。灼は挨拶だけしてその場を離れ様としていたのだが———————。
「何か灼君に会うなんて久しぶりだねぇ。元気にしてたかい?」
「えぇ、まぁ・・・」
「何年生になったんだっけ?」
「え・・・高2です。」
「えっ!もうそんなになったんだねぇ~・・・やっぱ他人の子は成長が早いわ。」
「アハハハ・・・」
おばさんは苦笑する灼を喜ばしい目で見つめていたが、突然、思い出したかの様に口を開いた。
「焼子さん、今日は仕事何時くらいにいらしてかしら?」
「えっと・・・母は金曜日は休みですから・・・今日は来ないっすねぇ・・・」
「えっ!?今日、金曜日?」
「あ、はい・・・」
「うそでしょ!」
「な、何かあったんっすか?」
「うん。今日ね、キムチ鍋の素が安いのよ!いつもならね、315円するのが今日は何と128円で売ってるらしいのよ!安いでしょ!」
「あ、あぁ・・・」
「やだぁ・・・今から支度して出たら間に合うかしら?」
「・・・・な、何時からスーパー開いてんっすか?」
「9時よ!9時!」
灼は時計を見た。
———————8時28分。
「今、8時28分なんで、十分間に合うと思いますよ。」
「本当!?良かった!ありがとう、灼君。」
「いえいえ・・」
「それはそうと・・灼君、遅刻するんじゃないのかい?」
「えっ・・・あ、あ・・・」
「急いだ方が良いよ。」
「そ、そうっすね・・・・じゃぁ・・行って来ます・・・」
「行ってらっしゃい。」
灼は苦笑し、猛スピードで駆け出した。
————————‘遅刻するんじゃない?’ってアンタと出会った時から遅刻だよ!やべぇーよ!あ~、絶対ぇ、あのおばさんと喋らねぇーぞ!
走る。
その時、頭の中を朝のニュースが過ぎった。
“昨日、車道に巨大な氷の塊が突然落下し、そのせいで現在、そこは通行止めになっております。”
———————巨大な氷・・・。
気になる。気にしたくはないが、気になる。
———————ちょうど、学校へ行く道のルートに入ってたんだ。少し、その巨大な氷を拝んでみようかな・・・。
灼は今朝のニュースの映像を思い出し、その現場へと向かった。



テレビが、ニュースが語っていたものが実在した。
灼の目に飛び込んできた。
「・・・す、スゲェー・・・・マジで巨大な氷だ・・・・」
普通の家より少し小さい程度の、決して小さいとは言い難い大きさの氷の塊があった。車道に、地面に減り込んでいた。そのせいで、コンクリートには皹が生じていた。
「マジだった・・・」
それにしても、何故、秋なのに氷があるのか?冬とは未だ言えない季節なのだ。氷が振るなど可笑しい。
———————今、10月の半ばだぞ。氷なんか可笑しいって・・・・。
灼は巨大で美しい氷を眺めながら思った。
その時。
「こらこら、君。」
と声をかけられた。
声を掛けてきたのは警察の人だった。
「あ、はい。」
「君、高校生だよね?」
「あ・・」
「こんな時間に何うろついてるんだい?学校は?」
「い、今から行く途中だったんっす。すいあせん・・・」
警官は呆れた顔をした。
「早く学校に行きなさい。関係無いんだから。」
「あ、はい・・・」
警官に注意された灼は最後に氷を眺めて、走り出そうとしたのだが———————。
“こんな変な世界で氷魔法を唱えちゃったけど・・・大丈夫かな?”
と少女の声が聞こえた。
「!」
灼は驚いて周囲を見回した。必死に声の主を捜す。
自身の周囲。
氷の周囲。
警官達の周囲。
前後左右上下。ビルの陰———————居たっ!
数十秒して発見した。ビルの陰にキラキラと光る少女を。
———————な、何だ・・・あれ!
“まぁ、でも・・・仕方無いよね。あっちが悪いんだし。それにしても・・・このせ界の魔物は本当に怖いわ。って、こんな事してる場合じゃないんだった!!”
少女は慌てて飛び立とうとした。
その時。
灼と目が合った。水色の綺麗な瞳。
二呼吸後。
“勇者発見っ!”
と少女は叫び、小さく輝いている純白の羽を広げて、灼に突進して来た。
「え、ちょっ!」
灼の鼻と少女の鼻が触れ合うかと言う程の間隔————————。
“勇者発見。”
再び同じ言葉を発する煌く少女。
「ゆ、勇者?」
“えぇ。貴方、私をはっきり見ることが出来るでしょ?出来るでしょ?”
「え、あ、まぁ・・・」
“だから、勇者。はい、決まり。”
「はっ!?」
“私と一緒に来て下さい。そして、女神様を助け出して下さい!”
「はい?」
独り言を言っている青年に嫌気が差したのか、警官が遠くで怒鳴った。
「君!未だ居たのか!早く学校に・・・」
「はいはい!今、行きます!行って来ます!」
灼は警官の言葉を遮り、羽の生えた少女のか細く白い腕を掴んで走り出した。



そうこうして、いや、やっとの思いで灼が通う、“四天魔高等学校”に着いた。現在時刻は8時34分だった。靴箱。
“此処どこですか?”
「学校。」
“ガッコウ・・・ですか?”
「そう。つーか、アンタ何?」
“天使です。”
「天使!?」
“はい。私は天使ラーです。”
「いや、幽霊だろ。」
“失礼ですね!私は正真正銘、天使ですっ!”
天使と名乗る少女は灼に怒鳴ると頬を膨らませた。灼は靴を履き替えると、
「俺、どっかで気絶とかしてんじゃない?てか、どっかで寝てんじゃね?これ夢だろ?」
と自分の頬を抓った。
「痛ぇっ!!」
そんな青年を眺めて、天使は言った。
“夢なんかじゃないでしょ?”
「・・・・・」
灼は目を点にした。

時が止まった。

聞こえているのは風の音と枯れ葉が転がって行く音だけ。
次第に灼の顔から血の気が引いていった。

そして、数秒後——————。

「ギャーっ!!!!」
悲鳴が学校中に響いた。
 

*2学年で一番の成績を誇る雷塔光の席は一番後ろの中央だった。彼は1時間目の古典の授業を受けながら、(しかし、下を向いている)別の事を考えていた。
———————灼・・・何で朝っぱらから保健室に運ばれるんだよ・・・。
そう、同じクラスの灼の悲鳴が学校中に響き渡り、その後、彼は保健室へと運ばれた。
———————てか、何で気絶?
それも気絶していたらしい。
光は溜息をついて、黒板を見た。その時、光は驚愕した。よくある、幽霊や宇宙人映像を見せられた時にぞっとするあの感覚が光を襲った。
———————な、何だ・・・あれは!!
光は我が目を何度も擦った。そして、黒板を見る。
———————居るよ。何か・・・。
確かに居た。古典教師の傍らに居た。白くて小さな少女——————純白の羽を生やした。
その少女は古典教師を眺めたり、黒板の堀に置かれたチョークを触ったりしていた。初めて見る少女だった。光はそんな少女の動きを眼で追った。気になって仕方が無いのだ。
———————あれ・・・幽霊・・だよな・・?いや・・・羽がある・・・。
羽を動かし、自由に飛んだりしている。何とも不思議な少女だ。
そんな不思議な少女に目を奪われていたせいで、光には教師の呼びかけが全く聞こえなかった。
「雷塔君!聞いてる?」
と古典教師。
「は、はい!!」
光は我に返って古典教師を見た。その瞬間、少女も光を見た。二人の目が合う。
「雷塔君、貴方ちょっと大丈夫?さっきから何度呼び掛けても返事もしないで・・・」
「す、すみません・・・」
教師は心配そうに光を見つめ、数秒して口を開いた。
「まぁ、それにしても・・雷塔君がこんなんになるなんてとても珍しい事だわ。何かあったの?」
「い、いいえ!何でも無いです。すみませんでした。」
光は古典教師に向かって頭を下げた。
「良いわよ。じゃぁ、雷塔君、この作者の心情を答えてくれるかしら?」
「はい。」
光は返事をして、古典教師の望みを叶えた。

★ 

4時間目終了のチャイムが鳴った。灼は保健室のベットから起き上がると、頭を振った。
そして、周囲を見回した。朝、出会った少女は居ない。
——————やっぱ、あれは夢だったのか・・・良かった。てか、何で俺・・・保健室に居るんだ?何があったんだ?
そう思った時。
“気絶したんですよ。”
と聞き覚えのある声が聞こえた。
灼は驚き、肩がびくっと動いた。
「だ、誰だよ!俺に話し掛けた奴!」
灼は言い捨て、隣のベットのカーテンを開けた。しかし、そこには誰も居なかった。
「!」
誰も居ないのに声がする。これはやはり———————。
「出たァァァァァァァァァァァァっ!!!先生!出たよ!!」
灼は叫ぶと、上履きを履かずにベットから逃げ出した。保健室の先生のところへ逃げようとしたのだが、残念な事に保健室には誰一人として居なかった。
「何で誰も居ないんだよっ!!」
灼は悔しさで地面を蹴った。
「痛ぇっ!」
それもそうだ。上履きを履いていないのだから。
そんな青年の方へ、天使ラーがゆっくりと浮遊して来る。
“大丈夫ですか?勇者様。”
「大丈夫なワケねぇーだろっ!てか、勇者ってな、俺そんなんじゃねぇーからっ!」
“いいえ、そんなんなんですっ!貴方は私の姿を見る事が出来た時点で勇者様なんです!”
「ンなワケねぇーだろ!」
その時———————。
「灼っ!」
光が保健室へ駆け込んで来た。
「光っ!」
走って来たのだろう、光は荒い息遣いをしながら灼の許へ歩み寄って来た。そして——————。
「あっ!1時間目の幽霊っ!」
光が叫んだ。
“幽霊なんかじゃありませんってっ!”
とラー。
「お前にも見えるのか!?この幽霊!」
「あ、あぁ・・・・てか、灼・・・気絶したって・・・」
「らしいな。俺もよく分かんねぇ。・・・もしかして、心配して来てくれたのか?」
目を輝かせて言う灼を一瞥して、光は冷たい目を向け、「いいや。」と答えた。
「俺、変な物が見えるんだって言おうとしてさ・・・」
「ちっ、何だよ。それが大親友の言葉かよ。」
“やっぱり見えてたんですね。”
ラーが頷きながら言う。そんな彼女を見て、灼が問う。
「つーことは、光もその勇者がどーのこーのってやつなのか?」
“そうです!異世界を救う人間の一人です!”
「何・・・それ?」
光が目を半眼にして冷たい口調で言った。
「何かさ、この幽霊・・いや、天使が俺の事を‘勇者’だって言うんだよ。そんで、異世界を救えなんか言うんだよ。・・・そんなん、急に言われたって知ったこちゃねぇーし、異世界なんかありっこねぇーよな?あったら笑えるぜ。な?光・・・」
灼が光に笑い掛けた瞬間———————。
“笑い事じゃありませんっ!”
天使ラーが怒鳴った。
体全体を包んでいた清らかな輝きが、一瞬にして真っ赤に輝いた。そんな彼女を見た二人は驚愕させられた。黙った二人を少し見て、ラーは輝きを戻した。
“・・・笑い事なんかじゃありません。・・・笑い事なんかじゃ・・・”
泣き出しそうな声でラーが言い出したのを耳にして、灼は慌てた。
「お、おい!ちょ、あ・・・・・ごめん!マジごめん!」
「はぁ・・・」
光は盛大な溜息をついた。
「光も何とかしろよ!」
「あ?・・・俺は関係無い。馬鹿にして笑ったのはお前だろ?」
「っ!」
“クスッ・・・”
———————え?もしかして・・・泣いてんの?マジ?
「・・あ・・・ちょ、泣くの止めようぜ?な?な?話ちゃんと聞くから・・・」
灼の言葉にラーは涙を手の甲で拭い、頷いた。彼女が涙を拭い終わるのを待って、灼が問い掛けた。
「・・で、笑い事なんかじゃないって・・・一体その・・異世界で何があったんだ?」
数分後———————。
“人間達が暮らす世界を、私達、天使が仕える女神様は見守っていました。その平和は長く続いていました。しかし・・・”
「しかし?」
“しかし、ある時・・・滅界と呼ばれる魔族達が暮らす世界から滅神王と言う魔王が神の国に突然現れました———————”

★ ★ ★ ★ ★

「ラー・・・勇者を捜して旅にお行きなさい。」
「勇者・・でございますか?」
ラーは呆気にとられて女神に聞き返した。
「はい。しかし、この世界の勇者ではありません。」
「?」
「この世界より別世界にこの世界を救う程の力を持った人間が居ます。その人間を捜しなさい。そして、ここへ連れて来て下さい。」
神の神殿内がざわめき始めた。
「しかし、女神様!もし、その世界に行けたとしても私達、天使の姿が見えなければ・・・」
「見えます。勇者となる者には私達の姿が見えます。だから、お行きなさい。滅神王が来る前に。」
女神が言った———————その時だった。
「呼んだかしら?」
男の声が背後から神の神殿内へ響いた。
神殿内に居合わせていた全員の表情が凍る。そして、天使達は一斉に振り返り女神を護るかの様に天使の弓を構える。
現れたのは薄紫色の肌をした背の高い男———————紳士服を纏い、白髪の髪を赤いリボンで結い、赤い目をした——————と、白衣を纏った青黒い髪をした小さな神官だった。
「滅神王・・・!」
天使達が低い声で悪名高い男の名前を呼んだ。
「そうよ。お久しぶりね、女神ちゃん。」
「滅神王・・・一体何の用ですか?貴方が此処へ来るなんて珍しいですわ。」
「そうでしょ。相変わらず美しい場所ねぇ。お手入れが行き届いて素晴らしい。」
「おい、それを言う為に此処へ来たんじゃねぇーだろ?」
神官は呆れた表情をして王へ言った。
魔王は微笑むと「そうだった」と思い出した様に手を合わせた。
「あのねぇ、女神ちゃん。この世界全体を頂けるかしら?」
と魔王。
「何を馬鹿げた事をっ!!」
天使の一人が食って掛かる勢いで怒鳴ったが、女神がそれを制した。
「全てを貴方に明け渡せ・・・と?」
「そう言う事になるわね。」
「この世界が手に入ったら貴方は何をする心算なんですか?」
「それは勿論・・・全てを魔界に創り変えるの。素晴らしいでしょ?」
女神は滅神王の言葉を聞くなり、玉座から立ち上がった。
「申し訳ありませんが、その申し出は受け入れられませんわ。」
「あら?どうして?それだと困るんだけど?」
「・・・貴方は貴方の世界・・・つまり、滅界があるでしょう?それと同様に人間には人間の世界があります。私達は私達で世界があります。全てにおいて平等でないとなりません。誰かが誰かのモノを奪ってはならないのです。」
滅神王は女神の言葉をきょとんとした表情で聞きながら、傍らに立つ神官に言った。
「やっぱり、カルトス君が言ったみたいに、邪魔するわね。」
「だろ?俺の予想は当たってんだよ。つーか、いつもの事。序でに、俺の名前はカルコス。カルトスじゃねぇーっての!いい加減覚えろよ。何千万年一緒に居ると思ってんだよ!」
カルコスと名乗った神官は小声で怒鳴った。しかし、王は聞いていない。
「交渉は無駄らしいわねぇ・・・だったら、仕方ないけど・・・消えて。」
滅神王は片手を女神達に向かって翳すと、暗黒の霧を放出させた。
その霧のせいで、神の国が石化し始める。天使達がそれを阻止すべく滅神王へ牙を向けて駆けて行く。しかし、その刃が滅神王に届くはずも無い。王へ向かう虫は全て大悪魔神官カルコスが取り去るのだから。
魔王の暗黒の霧を打ち消すべく、女神が神の息吹を吹きかける。
そんな中、天使ラーは何も出来なかった。唯、石化したり消されていく仲間の天使達を目に焼き尽くすだけだった。
———————私は・・・何も・・・。
その時、頭の中に女神の声が聞こえた。
‘聞こえますか?ラー・・・’
一瞬驚いたラーであったが、現状を把握し、敢えて彼女も口には出さずに脳内で返事をする。
‘は、はい!女神様!’
‘天使ラー、滅神王が此処へ来たとなると、もはや急ぐしかありません。私が隙を突いて勇者が居る世界へ貴女を飛ばします。ですから・・・どうか、勇者を見つけ出し、この世界を救って下さい。’
‘女神様!’
‘貴女とその勇者一行の幸運を祈っています。’
女神の声が途切れたと同時に、女神がラーに向かって手を翳した。その瞬間、ラーは今までに無い神々しい輝きに包まれ、神の国から消えた。
消える直後に見えたのは石化する女神の姿であった。
 

*天使ラーが話し終わっても保健室内は静まり返っていた。何とも言えない空間が灼達を飲み込む。保険室内の壁に掛けられている時計の針が一つ進んだ。それと同時に灼が口を開く。
「・・つまり・・・マジな話ってワケなんだろ・・・?」
“はい。”
ラーの返事に灼は光を見た。当の彼は眉一つ動かさず、冷淡な顔をしていた。
“あの時からすると・・・もう女神様は・・・・”
「消された・・・・か・・・」
灼の言葉にラーは小さく頷き、二人に向かって叫んだ。
“お願いです!どうか、私と一緒に私達の世界に来て下さい!そして、女神様を・・・世界を救って下さい!”
必死の叫び声に灼と光は戸惑った。急な申し出に対応する様な彼等ではない。
「一緒に来てくれって・・・そんな急に・・・」
その時だった。
保健室の扉が開かれ、保健教員が帰って来た。ベットでは無く床に居る彼等を不審な表情で見つめて問い掛ける。
「何してるの?」
「い、いやァ別に・・・・てか、コイツが・・・」
「コイツ・・?」
灼は横に居るラーを指差して言った。教員は灼に歩み寄り、彼が指差す方向を見た。
「何も居ないけど・・・何?」
「え?」
灼はラーを再び見た。
確かに居るんだ。
横に!!
やはり、見えていない様だ。
「よく分からないけど・・・・もう具合は良いの?紅日君・・・」
「は、はい!もうすっかりです!やっぱ、先生のおかげっすよ!ありがとうございました!」
「い、いえ・・・で、雷塔君はどうして此処に・・?」
「あ、唯来ただけです。」
「そう・・・まぁ、紅日君の調子が良くなったんだったら良いわ。このまま意識が戻らなかったら救急車を呼ぶところだったのよ。」
「すみません・・・」
「まぁ、良かった。それじゃぁ、教室に戻りなさい。昼御飯、食べてないでしょ?」
「は、はい!」
保健室を出て行こうとした光に向かって、教員が言った。
「それから、雷塔君、紅日君を頼むわね。」
「あ、はい・・・」
光は教員の思わぬ言葉に返事をし、保健室を後にした。勿論、背後にはラーの姿もあった。



数人居る教室。
弁当に食いつく灼。相当、腹が減っていたのだろう、すぐに弁当箱は空になった。
「ごっそさん。」
「もう、食べたのかよ。」
そう言う光はタコさんウィンナーを箸で掴んでいた。
「まぁな、早いだろ。」
「別に競争なんかしてねぇーけど・・・」
そうこうして弁当箱を収め終わった灼を見て、ラーが口を開く。
“あの・・・一緒に来てくれるんですか・・?”
灼は少女の言葉を聞き、彼女に視線を向けた。
三呼吸後。
「・・・行ってやるよ。その世界に。」
「はっ!?」
灼の思いがけない台詞にお茶を飲んでいた光は咳き込んだ。ラーは喜びに羽をばたつかせた。
“本当ですか!勇者様!”
「あぁ。」
「本気で言ってるのか?灼!」
「勿論。」
灼は簡単に返事をする。そんな彼を見て、光は呆れた表情をした。
「まぁ、お前が考える事とすれば、‘異世界に行ってると宿題とかしなくて良いじゃん!’だろ?」
光の言葉に灼は顔を引き攣らせた。そんな親友を見て、光は言う。
「そう言う事だろうと思ったよ。」
「光・・・(コイツ・・・!)」
「でも、俺等が居ない間、この世界はどんな風に進むんだ?」
光はラーに尋ねた。
“きっと、私達の世界で朝を迎えた場合は、この世界は1時間進んだ事になるんじゃないでしょうか?”
「は?」
と灼。
「よく分かんねぇーよ。もっとよく分かる様に説明しろよ。」
「例えばな、もし今、13時15分に俺等が異世界に行きます。そして、あっちの世界が夜になりました。寝ます。朝になります。俺等の世界に帰ります。そしたら、時間は14時15分になっています。」
光は呆れた口調で灼に言った。
「へぇ~・・・凄いな。」
“今から行きますか?”
「いやいやいやいやいやいやいやっ!未だ、心の準備っつーもんが出来てねぇーよ!放課後だ、放課後!」
“ホウカゴ・・ですか?”
「あぁ。俺等の学校が終わった後だ。」
灼の言葉にラーは少し考えて、「分かりました。」と返事をした。
「おっし決まりっ!」
白い少女に向かって言う灼を遠くから見つめ、冷愛は不審な顔をするのであった。



「明日はいつも通りだから、気をつけて帰れよ。最近、冬に近付いたせいか、暗くなるのが早いからな。」
灼のクラスの担任はそう言った。

ホームルームが終了し、各々生徒が散って行く。そんな中、灼と光は生徒達が去って行くのを唯ひたすら待っていた。教室を出て行く際に「じゃぁーな」と声を掛けて来る友達に返事をし、唯ひたすら待った。
しかし、一向に異世界へ行く段取りが進まない。
その理由は唯一つ————————あの女が一人居るからだ。
彼女は自分の席に座って本を読んでいた。動く気配が無い。
「氷山冷愛・・・・」
灼は恨みを込めた小声で呟いた。
「どうして居んだよ・・・・お前、追っ払ってくんない?」
「嫌だよ。お前、知ってるだろ。俺はお前以外の連中とは話さない。」
と光。
「ちっ、俺だってアイツと話したくねぇーよ。死んでもお断りだな。」
「俺はそうには見えねぇーけどな。仲良さそうだし・・・」
「はっ!?」
「誰が仲良さそうだって?」
突然、冷愛が本を閉じて立ち上がり、灼達の方を向いた。淡い水色の髪がふわりと揺らめく。
「ンな事言ってねぇーよ!てか、さっさと帰れよ!」
「アンタ等こそ帰りなさいよ!・・・・何?アンタ等、もしかして、その少女と何か変な事でもするワケ?」
「はっ!?馬鹿じゃねぇーの!?するわけねぇーじゃん!てか、変な事って何だよ!」
灼が怒鳴り散らす。

その数秒後、沈黙。

時が止まった。

———————その少女・・・?

灼は横に立っているラーを見た。ラーは灼を見上げると首を傾げた。

再び、沈黙が教室に残る三人と天使を包んだ。

*雅か・・・。その雅かだった。あの氷山冷愛にラーの姿が見えていたとは。
———————勇者となる者には姿が見える・・・っつー事は・・・氷山も・・・?
灼は顔を引き攣らせてラーに訊ねた。
「お、おい・・・雅か・・・雅か、ラーの姿が見えるっつー事は・・・その雅かだよな?」
ラーは冷愛を少し見つめて頷いた。
“その雅かです。きっと、勇者様を手助けしてくれる光さんの様な存在の人ですね。”
「マジかよっー!!!!」
灼はシャウトすると、床にガクリと両膝を突けた。
「何でだよ!何でこんな奴が!・・・くそっ!」
「何が‘こんな奴’よ!」
「ラー、嘘だって言ってくれ!俺、もう少し上品な女子が良かったぜ!」
“そう言われましても・・・”
「で、一体何なの?この子が見えると何かあるワケ?」
と冷愛は詰め寄った。
そんな彼女を睨み、灼は叫んだ。
「何でもねぇーよ!関係無いから、テメェーには!」
「何よ!関係無いって!」
「関係無いっつったら関係ねぇーんだよ!」
「あるでしょ!その子が見えてんだから!それに、友達に言ったって、この子見えないって言うんだもん!あたしにだけ見えて可笑しいでしょ?」
と言う冷愛を無視して灼はシッシと手を振る。
「ほら、さっさと帰れよ!友達は?いつも帰ってる友達は?」
「先に帰らせたわ!アンタ達の秘密を暴く為に!」
「はっ!?」
灼と冷愛の口論を横で聞きつつ、光は溜息をついた。そんな彼に気付いた冷愛は光にも食って掛かってきた。
「雷塔君も雷塔君よ!あたしを少しは援護しなさいよ!」
「・・・」
返答をしない光を見て、灼は自慢げに言った。
「へへん!光はな、俺以外の連中とは話さねぇーんだよ!馬ァー鹿!」
冷愛は灼の言葉を聞いて思った。
確かに、光が灼以外の人間と話しているのを見たことは無かった。話し掛けられても彼の返事はいつも「あぁ」とか「いいや」とかで、必要以上の言葉は彼の口から発せられる事はなかった。
だから、冷愛は下がらなかった。
「初めて喋った女子が氷山冷愛だったって凄いじゃん!ほら、喋って!」
「・・・・」
「無理だって。俺だって、幼稚園の卒業式くらいん時から話し始めたんだぜ?だから、そう簡単には光は口を開かねぇーよ。」
灼の言葉に冷愛は怒りを覚えたと同時にあることを思いついた。
そして、灼に人差し指を突きつける。
「分かったわ。明日、雷塔君とあたしがちゃんと会話出来たら、アンタ等の秘密を教えてよね!どう?良い?」
「はっ!?」
灼は彼女の指を仰け反って回避する。
「良いでしょ?ほら、良いって言いなさいよ!」
「そう言われると余計に良いって言いたくねぇーな。」
赤髪の青年の意地悪な発言を聞き、冷愛は指を下げて、鞄が置いてある自分の席に戻った。灼は体勢を戻すと冷愛に意地悪な笑みを向けた。
彼女は鞄を持ち、教室の扉まで行くと二人と天使を振り返り、
「じゃぁ、そう言う約束で。」
と言い置き去って行った。
「お、おい!」
灼が叫ぶが、彼女には届いていない。いや、届いていても無視したのだろう。
冷愛が去って数分後、光が沈黙を破って口を開いた。
「どうしてくれんだよ、灼・・・」
当の灼は溜息をついて応えた。
「良いじゃん、あの馬鹿を追っ払えたんだし。ありがと、光君。」
「テメェー・・・・」
故意に灼は笑うとラーに向き直った。
「よし、ラー、邪魔者は居なくなったんだ。異世界へ行こうぜ。」
“は、はい・・・でも、あの人・・・”
「良いんだよ。・・・・まぁ、ラーが見えたから異世界に行く資格があるってんだろうけど・・・つーか、あんな奴、一緒に来たって役に立たねぇーよ。」
と灼が言う横で、冷愛が校門を出るのを窓の外からラーは眺めていた。
「で、どうやって行くんだ?」
灼の言葉でラーは彼に向き直ると、自分の背に生えている天使の翼から羽を二本抜いた。その行為に二人は驚愕させられた。
「おい!何やってんだよ!」
と灼が叫ぶ。
ラーは羽を抜く時、少し顔を顰めたが、休む事無く羽に魔法を掛け始めた。天使の周囲がほのかに輝いた。

数十秒後。

先程、引き抜いた天使の羽が見る見るうちに指輪型へと変貌を遂げていく。
——————羽が指輪にっ!!
“これは天使の羽で造った指輪です。”
「お、おう・・・」
二人はラーから天使の羽で出来た指輪を受け取った。
羽で出来ている為、軽い。
「軽いな・・・これ・・・」
灼が指輪を眺めていると、光がラーに問い掛けた。
「これをどうするんだ?」
親友の言葉に灼もラーを見つめ、返答を待つ。
数秒後にラーは応じた。
“指にはめて下さい。”
言われ、二人は指に天使の羽の指輪をはめた。
「はめてどうすんだ?」
と灼。
そんな彼等に向かってラーは言う。
“その指輪を身につけていると別世界から来た人間だとバレずに済むと共に、異世界とこの世界を自由に行き来できます。”
「マジでか!?スゲェーな!この指輪!」
灼が目を輝かせて叫ぶ。
小学生みたいな親友を呆れた表情で見つめ、
「もし、バレたらどうなるんだ?」
と光はラーに問い掛けた。
光の問いを聞き、灼もラーを見つめる。
“もし、バレたのなら異世界の人間達がこの世界に来たがるだけです。だって、私達の世界から勇者様達を見たら不思議ですもの。”
「だったら、別にこの指輪をしなくても良いんじゃねぇーのか?」
と光。
そんな彼の言葉を耳にした瞬間に、ラーの表情が一変した。
“駄目です!その指輪をしていなくては!”
「何で?別に差し支え無ぇーじゃん。」
灼がきょとんとした表情で言った。
しかし、少女は指輪を外す行為をしてはならないと連呼する。
“普通の人間にはバレても良いですが、魔族にバレては絶対に駄目です!もし、バレたら・・・勇者様達のこの世界が滅んでしまうと思って下さい!”
「!」
ラーの真剣な物言いに灼と光は言葉を失った。
「この世界が・・・」
「滅んでしまう・・・・?」
“はい。魔族は全ての世界を支配したがります。そして、魔界を統べる魔王・・・滅神王は女神様と同等・・・いや、それ以上の力を持っているかもしれないんです。そしたら・・・この世界に魔の手が迫る危険性が・・・”
「マジで!?」
「なるほどな・・・」
と光。
「だから、俺等の行動が重要なわけだな。」
“光さんの言う通りです。”
「まぁでも、この指輪を外さなけりゃ良いんだし、何て事ァ無ぇーな。」
灼は気を取り直して言った。
「それはそうだけどな・・・」
「そんじゃァ、行くか!異世界!」
ラーは漸く見つけた勇者の言葉に大きく頷いた。
“では、異世界に向かいます。”
「おう!」
勇者の返事と共に、ラーは異世界へ向かう為に魔法陣を描き始めた。
 

2章へ続く。
 

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1990-01-02 : 【異世界のイストワールⅠ】 : コメント : 0 :
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プロフィール

十二仙 百露

Author:十二仙 百露
性別:女
年齢:18
身長:158cm
血液型:AB
誕生日:9月12日
好きな食べ物:甘い物
嫌いな食べ物:苦い物
趣味:小説、書道、絵を描く、模写、ゲーム、ゲーム実況見物

 

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【勇者の特権を取り戻す為に俺は魔王を復活させ、無限ループを繰り返す。】


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