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異世界のイストワール  第12章~闇に囚われし向日葵の青年~  その1

第12章~闇に囚われし向日葵の子~


~前回のあらすじ~
幻魔にニルバーナの向日葵である村長エルガを死者の国から連れて来てもらったシャク達は喜びを胸に彼と再会した。そこで、エルガは石化から解放し我が子の様に育てていた少年に上手く利用されていた事を知らされ、魔王の制止と愛する我が息子の奪還を決意する。
その時、そう固く決めた彼等の前に顔立ちの良い黒髪の青年と天使が現れた。


以下は続きです。


*暗黒の空間。
周囲全てが漆黒。
そんな場所に居る大悪魔神官アプフェルと魔王。
アプフェルは驚愕の表情を浮かべ、周囲を見ている。
———————此処は・・・一体・・・・?
いままで感じられていた魔物の気配や物音が全く聞こえない。
風も無い空間。
———————これはどう言う事だ・・・?
何か得体の知れない不安や恐怖に体を虫食まれながらアプフェルは周囲を見る。
少し縮まった神官を面白そうに笑みを浮かべて眺め、エウリアは言う。
「此処はボクが創り出した空間だよ。」
「へぇ~・・・魔王様が創り出された空間で御座いますか?」
「そうさ。・・・・でも、心配しないで良い。この空間は入った者の体力や魔力を奪う空間では無いから。」
「それは良かったです★・・・てっきり、そんな空間かと思ってましたよぉ~★」
豪快に笑い声を上げる部下を見て、少年は妖艶な笑みを浮かべる。
「フフ、そんな卑怯な事はしないさ。ボクは唯、滅神王城内で戦ってたら皆にバレてしまうだろうから此処へ移転したんだ。」
「なるほどぉ~♪流石は我が主様です♪素晴らしい★」
アプフェルは笑う。
笑う神官の笑みはやはり悪魔の様な微笑だった。
そして———————。
「では、エウリア様。早速ですが、一戦交えますかァ~♪」
アプフェルは腕を回す。
そんな部下を見、魔王はにやりと残忍な笑みを返し、
「あァ。」
と一歩踏み出し、魔王は口を開く。
「ボクのステータス確認に付き合ってくれる君には、何かお礼をしなくてはならないなァ。」
そこまで言うとエウリアは目を閉じて、思案顔をする。
そんな魔王にアプフェルは笑って言う。
「御礼だなんて要らないですよぉ~♪そんな図々しい!」
快活に笑う部下の声を聞き、エウリアは静かに目を開けると不気味な笑みを浮かべて言い放った。
「そうだ、お礼にボクが全てを君に話してあげるよ。ボクの全ての計画を・・・」
その笑みには何かぞっとさせる何かがあった。



★ ★ ★


自室。
お姫様が暮らしていそうな綺麗な部屋。
その一室にある豪華な椅子に座り、滅神王ローレライは三男に負わされた傷を滅軍回復部隊の魔物に癒してもらっていた。
利き腕である右腕を傷付けられた為、彼は少し悲しそうな顔をしていた。
「あァ~あ、これじゃァお庭のお手入れも出来ないじゃないの~・・・・残念。」
「ですが、ローレライ様の御命が無事で何よりで御座いますデス。」
回復部隊の角を生やした小さな黒い小型の魔物は微笑んだ。
「あら?何て嬉しい事を言ってくれる子かしら!」
とローレライは笑う。
「本当で御座いますデス。滅界のみんなは絶対にぼくと同じ事を思っていますデス。」
魔王の右腕に手を翳し、癒しの輝きを当てて言う魔物を眺めローレライは微笑む。
とその時だった。
魔王の部屋にノック音が響いた。
そして、声がする。
「俺だ、カルコスだ。入るぞ。」
「どうぞ♪」
ローレライの返事と共に、扉が開き、白衣姿の青黒い髪の色の神官が入ってきた。
「カルトス君♪お見舞いに来てくれたの?」
とローレライ。
いつもと変わらない主にカルコスは目を逸らして頷いた。
「ま、まァな・・・」
そして、回復部隊の魔物に言い放つ。
「もう良い。後は俺がやる。」
「は、はい!!」
小さな魔物は頭を下げて、魔王の部屋から出て行った。
扉が閉まる音を聞き、カルコスはローレライの近くの椅子に座る。
そして、手にした小瓶を机の上に置いた。
「キルラーが調合した、特製回復薬だ。これを飲め。」
「まァ、ありがとう♪」
微笑む魔王を一瞥し、彼は問い掛ける。
「・・・傷はどうだ?未だ、痛むのか?」
当の魔王は包帯をした右腕を撫で、苦笑する。
「少し・・・ね。でも、大丈夫よ♪」
「そうか・・・・」
カルコスは魔王の返事を聞くと俯いた。
元気の無い部下を見、ローレライは問う。
「どうしたの?カルトス君に限って珍しく元気無いわねぇ~・・・何かあったの?」
魔王の優しい問い掛けにカルコスは膝の上で拳を創った。
そして——————。
「・・・・・・・俺のせいでお前がそんな傷を負ってしまった・・・・これから先俺はどうやってその罪を償えば・・・・・」
「カルトス君・・・・」
悔しそうに呟く神官にローレライは切ない顔をする。
「俺が・・・あの時・・・よく考えて行動していたら・・・お前がこんな目に遭わなくて済んだんだ・・・・なのに、俺は・・・・感情で動いて・・・・我が主であるにも関わらず、傷つけてしまった・・・・・」
項垂れる神官はいつもより更に小さく見えた。
そんな部下を見つめ、ローレライは明るい調子で言う。
「何言ってんのよ。私は未だ生きてるのよ!だから、大丈夫だってば!」
どこまでも能天気な魔王にカルコスは顔を上げて叫んだ。
「大丈夫も糞も無ぇっ!!俺はお前の部下だぞ!・・・・・なのに、危機を前にして主の命を守らず俺は逆に主を危機的状況に追い込んでしまった!!」
彼は叫ぶと唇を噛んだ。
しかし、そんな彼の言葉にローレライは高笑いをする。
「私を危機的状況に追い込んだですって?何を馬鹿な事言ってるのよ。私をこの世で危機的状況に追い込ませれるモノはお庭の害虫と勇者だけよ!!あんなのどうって事無いわ。」
真剣な表情の部下にローレライは笑って遮った。
そして、続ける。
「良い事?今回の事はもう言わない。私は未だ生きてるんだから。」
「だがなっ!」
食って掛かってくるカルコスにローレライは人差し指を唇に当てて言う。
「駄目。言わない。そんな事次言ったら、私、カルトス君の主、辞めるわよ。」
「ローレライ・・・・」
魔王は笑ったのだが、それは一瞬だった。
すぐに魔王の顔が痛みに歪む。
「っ・・・」
「ローレライ!!」
カルコスは勢い良く椅子から腰を上げ、主に駆け寄った。
ローレライは包帯で巻かれた腕を押さえ、痛みに耐えている。
「おい!大丈夫か!!」
焦り声で問い掛けてくる神官にローレライは苦笑し言う。
「だ、大丈夫よ・・・・少し、痛んだだけ・・・・」
「少しどころの騒ぎじゃねぇだろう!!」
「へ、平気よ・・・・っ!」
「強がってんじゃねぇっ!!この馬鹿っ!」
カルコスは叫ぶと、机の上に置いた薬瓶を掴み、ローレライに差し出した。
「おい、これを飲め!!」
魔王は信頼している神官から瓶を受け取ると、液体を一口飲んだ。
次第に痛みが引いていく。
「・・・・あ、ありがとう・・・カルトス君・・・」
弱々しく笑う魔王を見、カルコスは魔王をベットに誘導し、ベットまで行かせると言う。
「後は安静にしておけよ。その傷じゃ、今は何もできねぇーんだから・・・」
「そ、そうだけど・・・・・・お庭のお手入れが・・・」
「馬鹿、そんな事は後で良いんだよ。先ずは傷を完治させる事だけ考えろ。俺が時々、様子を見に来るからさ。」
「あら・・・優しいのね・・・」
「・・・」
「こ、こんなに優しくされるんだったら・・・・いつも怪我をすれば良いのね・・・・フフ・・・・」
とローレライ。
そんな主の言葉にカルコスは目を逸らす。
「馬鹿言えよ・・・・・・俺は唯・・・・・」
「私が居ないと寂しくて嫌だから優しいのよねぇ~?」
「それは絶対に無いな!お前なんか居なくったって俺は平気だ!」
「本当かしらァ~?」
魔王は悪戯な目をして部下をからかった。
向きになって叫んだ彼であったが、続きを静かに語る。
「・・・・・・・俺は唯・・・・・・・今、お前に倒れられては困るからやってんだよ・・・・・優しさで動いてなんかねぇ・・・」
いつまでも素直で無い部下を眺め、ローレライは微笑し目を閉じる。
そして、暫くして口を開いた。
「・・・・ねぇ、カルトス君・・・一つお願い事があるの。」
「何だよ・・・お願い事って・・・」
少し悩み顔をした神官は魔王の望みを聞く為、視線を向けた。
そして——————。
「もし・・・滅界が危なくなったら逃げてね。」
「はっ!?」
「私の事は放って置いて、ヘンリー達を連れて逃げてね。」
「!!」
意外なローレライの言葉にカルコスは驚きに目を見開いた。
———————い、今こいつ何て言ったんだ!?は!?逃げる?
カルコスは目を瞬かせ問い掛けた。
「お、おい・・・い、今・・お前・・何て・・・」
部下の質問にローレライは微笑を浮かべる。
その微笑がカルコスの胸を深く抉った。
「逃げろって・・・・何言ってんだよ!!説明しろよ!」
怒鳴るカルコスに魔王は笑って言う。
「ほらァ~何時、エウリアちゃんが暴走するか・・・いや、何時、エウリアちゃんが本性を現すか・・・・これは時間の問題だからァ~・・・・」
「本性を現すって・・・・!」
とカルコス。
「あの子、今、滅界に居ないでしょう?」
「何!?」
「あの子の魔力を感じないもの。あれだけの壮大な魔力を持っていれば誰だって居場所が分かるわ。それなのに、無いでしょ?」
笑顔で問い掛けられカルコスは目を閉じて探ってみた。
確かにあの時——————魔王の間で向かって来た闇魔法の魔力の様な強大な魔力を感じない。
「た、確かに・・・」
「だから、私は思うの。・・・あの子は何か隠してる・・・そんな気がするのよ・・」
そう言って笑う魔王の目は笑っていなかった。


★ ★ ★


ヘンリは大悪魔神官リンネルと共に三男を捜していた。
理由は唯一つ。
「ヘンリ様、この城内にはエウリア様はいらっしゃらないと思います。」
隣を歩くリンネルが言う。
それにはヘンリも同意だった。
先程から全く三男の魔力が感じられない。
「一体、何所へ行ったと言うのだ!」
「それは分かりません。」
ヘンリは舌打ちをし、廊下を早歩きで進む。
——————兄であるローレライを傷付けるとは・・・許せん。だが、しかし・・・何故アイツはそこまでしてあの人間を庇うのだ?悔しいが理由が分からない。
思案顔のまま進む主を眺め、リンネルは口を開いた。
「ヘンリ様、エウリア様を見つけなさった後は、何をなさる御心算ですか?」
「・・・決まっている・・・兄として弟に注意を施すのだ。」
ヘンリは言うと眼鏡を押し上げた。


★ ★


顔立ちの良い黒髪の青年は純白の鎧に身を包み、天使と共に幻魔の館の大広間へと入って来た。
その青年を見るや否や、金色の髪をした絶世の美女は彼に向かって走る。
「カーツ!!」
「ペイン王女様!」
聖騎士は叫び、同じく王女へ向かって走って行く。
そして、再会を果たした。
ペインはカーツの手を握り言う。
「無事だったのか!!」
「はい!俺の事より、ペイン王女様方が御無事で何よりです!」
「ううん、私はカーツが無事だから嬉しい。」
ペインに言われ、カーツは頬を赤くした。
そんな親友を眺め、明るい緑色の髪をしたゼノが歩いていく。
「カーツ。」
「ゼノ、お前も無事だったのか。」
笑顔を向け合う騎士達。
そこへ、ガムラン王国王子エイクが駆けて行く。
「カーツ!!無事だったんだ!!良かった!!!」
「エイク王子様!」
何やら再会を果たし、喜んでいる彼等を眺め、シャク達は自然と笑顔を浮かべる。
とそこへ———————。
“勇者様!!”
天使ラーが飛んできた。
飛びつかれ、シャクはよろめく。
「ラーじゃないか!無事だったんだ!!」
“無事ですよ!!”
勇者に抱きついている天使を少し睨み、溜息をつくとレイアは作り笑いを浮かべ天使に声をかける。
「ラーちゃん、無事だったのね。」
“はい!”
ラーは元気良く頷くとヒカルに視線を向けた。
“ヒカル様もお元気で良かったです。”
「あ、あァ・・・・」
とヒカルはそっぽを向く。
“でも、相変わらずの無口様でいらっしゃる。”
「まァーな。」
シャクが笑って返す。
そんな勇者に天使は目を輝かせて言い放った。
“そう言えば、勇者様!”
「何だ?」
“あのですねぇ、私と聖騎士様で女神様を滅界から救出致しました。”
「マジか!」
“マジです。”
頷く天使を見、シャク達はやって来た聖騎士を眺めた。
そんな勇者達を見て天使は思った。
——————そう言えば・・・暗黒騎士であったカーツ様は顔を兜で覆っていたから、勇者様達にはあの時の暗黒騎士だって分からないんだわ!そして、カーツ様も記憶が無いって言ってたから・・・・これって言わない方が良いんじゃないかしら?・・・そうよ、きっと言わない方がお互いにとって良いわ。
そこへ、幻魔の咳払いが響いた。
それに伴い、皆が幻魔の方へ視線を注ぐ。
「再会の場を壊して済まぬが、神の国からの使者・・・天使よ。何故、この幻界へ参られた?」
幻魔の問いに天使ラーは老人の方へ飛んでいき、全てを説明し始めた。
滅界でカーツと言う青年に会った事。
それから、滅界の中を巡り、女神を見つけ救い出した事。
そして、荒廃した神の国を復活させる為、勇者の力が必要だと言う事。
それに応じ、幻魔もこれから勇者達が進むべき方向を説明する。
“・・・と言う事は・・・勇者様以外は滅界へ行く為、装備を幻界で整えるというわけですね?”
「そうじゃ。」
“では、勇者様はお借り出来るわけですね?”
「そうじゃな。・・・・勇者が神の国へ行って居ない間、勇者以外の仲間達は各々自分の装備を整えれば良いのじゃからな。
幻魔の頷きにラーは手を叩き、勇者を見た。
“それじゃァ、勇者様、一緒に神の国へ参りましょう。”
急な決まり事に勇者は悩み顔をした。
———————つーか、話の展開早過ぎんだろ・・・・・。


★ ★ ★ ★


白衣の内側から悪魔のナイフを取り出し、主に向けてフルスピードで投げる。
それを辛うじて回避する滅神王エウリア。
少年の額には少し汗が滲んでいた。
———————本当だァ~・・・普通の人間が刃物を回避する鈍い動きだァ~♪
アプフェルはナイフを投げながら主に笑いかける。
「本当に本気で掛かって良いんですかァ?」
「あ、あァ。そうしろと命令しているだろ。」
エウリアは回避しながら言う。
そんな魔王を眺め、アプフェルはにやりと厭らしい笑みを浮かべ、ナイフを投げる速さをアップさせ続けた。
「でも、もしですけど・・・エウリア様が死んでしまわれたらどうしますかァ?」
スピードが上がったせいで掠り傷を負い始めたエウリアは不適に笑って返す。
「ボクが死ぬ事は決して無い。例え、君が死んだとしても。」
「ほえ~・・・それは素晴らしい★」
不気味な笑みを浮かべ、アプフェルは魔王にナイフを突き出す。
息を切らせ、少年は必死にナイフを回避し続けていはいるが、血を落とす。
———————なるほど・・・後ろの蛇は使用しないと言うわけか・・・舐められたもんだよ★
「エウリア様ァ~、蛇様達は御使用にならないのですか?」
とアプフェルは魔王に向かってナイフを投げて突き刺し、言い放つ。
少年はナイフが突き刺さり、血が吹き出る腕から部下のナイフを抜き捨てると返す。
「あァ、無論その心算だが、何か問題でもあるのか?」
「いえいえ、唯、聞いただけですよ♪」
次のナイフを取り出し、魔王の足目掛けて投げる。
それをよろめき回避し、少し乱れた呼吸をしエウリアは蛇の頭を撫でる。
「蛇達の能力を使えば、確実に君は死ぬ。だから、使っていないんだ。」
「そうですかァ~・・・・でも、使わないと死んでしまいそうな時は遠慮せずに使って下さいねぇ~★」
とアプフェル。
そんな部下の言葉に少年は素直に頷く。
「分かった。では、そうさせてもらう。」
「はい♪」
神官は返事をすると、目の色を変えた。
そして——————。
「準備運動が終わりましたので、では、本気で取り掛かります♪」
アプフェルは言うなり、疾風の如く掛かってきた。


★ ★


聖なる輝きに導かれ、シャクは天使ラーと共に荒れ果てた神の国に現れた。
何もかもが石化し、風化している。
神聖な神殿は破壊され、聖水が湛えられていた場所は濁った水が溢れ出ていた。
綺麗に咲き誇っていた花々は散り、毒草が根強く生えている。
「酷ぇな・・・」
“でしょう?”
確かに残酷過ぎる。
足場は崩れ、見る影も無い。
しかし、そんな荒廃した神殿の外に美しく輝く光があった。
シャクはラーに案内され、女神が居る場所まで赴いた。
光は勇者の存在に気付くと、振り向いた。
美しい顔を勇者に向け、女神は慈愛に満ちた笑顔を浮かべる。
「勇者よ、よく此処へ参りました。」
女神の声は心地良くシャクの耳に響いた。
「そして、天使ラー、ありがとうございました。」
“いいえ、女神様の指示ですから。”
とラー。
女神は勇者を眺め、言う。
「私は神の国を治めている女神メリティスです。」
女神の自己紹介にシャクは慌てて姿勢を正す。
「お、俺はシャクです。一応・・・勇者の・・・」
奥底に力を秘めている青年の物言いに女神は柔和な笑みを浮かべた。
「まぁ、一応は勇者だなんて・・・」
「だって・・・いや・・俺は未だ勇者として何もしていませんから・・・・」
シャクは苦笑する。
「俺は・・・世界を魔王から救うどころか・・・人一人助けられなかったんですよ・・・俺は・・・勇者失格です・・・」
先程まで苦笑していた勇者であったが、次第に暗い顔をしていき、項垂れた。
そして、拳を固く握り、唇を噛んでいる。
そんな勇者の震える姿を哀しい表情をして見つめ、女神は鈴の様な綺麗な声で語りかけた。
「勇者シャクよ、そんなに己を責める事はありません。」
その言葉にシャクは顔を上げた。
勇者の顔を優しく煌く青い眼で見つめながら女神メリティスは続けた。
「生きとし生ける者は必ず守れるものはありません。手の平から落としてしまう事もあります。失うものもあります。・・・・だからと言って、己に与えられた使命をそう易々と失格だと決め付けるのはあまり良くありません。」
女神は言うと荒れ果てた神の国を見回す。
「見ての通り・・・女神である私でさえ、大切な神の国を守る事が出来ませんでした。」
「女神様・・・・」
「それに貴方は努力をした。何もせず唯黙ったままではなかった・・・・」
「しかし・・・!」
「・・・生きている者は皆、完璧な者は居ません。神とて完璧では無いのです。だから、自信をお持ちなさい。私は勇者に完璧な人間へなれと言っているのではないのですから。」
言って微笑んだ女神の顔は勇者の痛んだ心を癒した。
そして———————。
「貴方は決して勇者失格ではありません。・・・・・唯、勇者としての力を上手く引き出せていないだけなのです。」
「勇者としての・・・力・・・」
「はい。貴方の奥底には勇者としての力が宿っています。だから、それを引き出す為にも、この荒れ果てた神の国を私と共に復活させてはくれませんか?」
女神は真っ白い綺麗な手を勇者へ差し出した。
それをシャクを見つめ、握った。
女神は微笑み、目を静かに閉じる。
シャクも同じ様に目を静かに閉じた。
その途端にシャクの中から何かが湧き上がってきた。
それは——————。
聖なる魔力。
輝かしいオーラが勇者を包み、握り合った手を通し女神に伝わり———————。
丘を染めて桃色の花が咲き乱れ、優しい声で風が囁き始めた。
その歌声に撫でられ、枯れた泉は清い水を湛え、濁った聖水は元の輝きを取り戻し煌いた。
壊れた神の神殿は光と共に甦り、穏やかな風の囁きは石化の呪いに苦しめられていた天使達に潤いを齎した。
多くの桃色の美しい花々は喜びの種を天に蒔き上げた。
蒲公英の綿毛が風に乗り渡り、瑞々しい蔓草は元気良く世界樹に巻き付き、癒しの雫を垂らす。
終に神の国は復活したのだ。
シャクは神の国復活に驚き、自身の手を見つめていた。
——————俺にこんな力が・・・・!
「勇者シャク、貴方のおかげで神の国を復活させる事ができました。」
「い、いえ・・・俺は・・・」
「これは貴方の力です。私は唯、手を握り、貴方の奥底に眠る勇者としての力を引き出しただけです。」
「!」
驚愕の表情を浮かべている青年に女神は微笑んだ。
そして—————。
「ありがとう、勇者。」
礼を言われシャクは微笑を返し、甦った神秘的な神の国を眺める。
頬を撫でる癒しの風の囁きが心地良い。
——————神の国・・・。
大昔から今に至るまで輝きを保ち、聖者達の楽園である世界。


呪いから解放された天使達は己の肌を触り、生を確認する。
そして、女神を見つけ飛んでくる。
「女神様!!!」
シャクはそんな天使達を見つめる。
女神は駆けて来た天使達を抱きしめ、慈愛に満ちた涙を流した。
微笑を浮かべ黙って眺めている勇者を見、ラーが突付く。
そして、笑う。
“ありがとう、勇者様。”
微笑み掛けられシャクは笑いながら頬を掻いた。
礼を言われる程嬉しいものは無い。
しかし、シャクは次第に笑みを消していった。
そんな勇者を首を傾げて見つめ、ラーが問い掛けた。
“どうしたの?勇者様・・・暗い顔して・・・”
「いや・・・何でも無いよ・・・」
——————‘勇者としての力を上手く引き出せていないだけ’・・・そんなの駄目じゃなか・・・・女神様に引き出してもらわないと勇者としての力に目覚めないなんて・・・!
無意識の間に唇を噛み、拳を創っている。
そんな勇者を遠くから眺め女神は口を開いた。
「勇者シャク、貴方に渡したいものがあります。」
その声にシャクは顔を上げた。




続く…。
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2015-02-28 : 【異世界のイストワールⅠ】 : コメント : 0 :
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異世界のイストワール  第11章~幻界~  その5

※上手く粗筋書けなかったわ・・・すまん。


~前回のあらすじ~
幻魔と話をしている間に、シャクは幻魔にサリエルを取り戻す為に彼の父エルガを生き返らせてくれと懇願する。しかし、幻魔はエルガを復活させたとしてもサリエルが闇から光へと帰還する事は無いかもしれないと言う。それに応じて、封印師兄弟がとんでもない事を言い出し、サリエル奪還は諦めろと言う。だが、ギルティの言葉が影響を与えたのであった。


以下は続きです。


*次の日の朝。
不思議な色の雲が広がった空の下。
シャク達全員は幻魔が居る大広間に集まった。
豪華な椅子に座っている幻魔の横には青白いオーラを纏い、薔薇柄の着物を着た男が立っていた。
その男は顔に向日葵を咲かせている。
そんな彼を見つめ、シャク達三人とニルバーナの民は驚愕した。
「エ、エルガさん・・・・・っ!」
エルガと呼ばれた男は微笑む。
「やぁ、みんな。又、会えて嬉しいよ。」
昔から変わらない悠長な台詞を呟き、笑う。
ギルティは透けて居る義理の父親を見て言い放った。
「おいおい、あの世に行っても変わんねぇーのかよ・・・」
「そうかなァ~・・・ハハハ」
と幽霊のエルガ。
ヴェロニカはそんな師匠を見つめ、駆け寄って行った。
「エルガ師匠!!!」
彼女の目には涙が浮かんでいる。
普段は涙一つ見せない少女を笑顔で見つめ、エルガは言う。
「ヴェロニカじゃないか。やっぱり、君は変わらないねぇ~・・・・・ってあれ?ヴェロニカ、君、泣いてるの?」
少女は涙を拭い、
「泣いてませんよ。・・・唯、目にゴミが入っただけっす・・・」
と言う。
「そう。」
笑い声を上げる死者を遠くから眺めていたヒルダであったが、彼は村長に歩み寄る。
「エルガさん・・・」
「やぁ、ヒルダ君。お久しぶり。」
とエルガ。
微笑む彼にヒルダは頭を深々と下げた。
「エルガさん、許して下さいとは言いません。ですが、謝らせて下さい。・・・・本当に申し訳ありませんでした。俺の父親が貴方にとんでもない事を・・・」
「別に良いよ。怨んでないしね。・・・・・・・それに、僕がもし彼の立場だったら同じ事してたと思うしさ。」
「しかし、あれはっ!」
頭を上げて叫ぶ青年にエルガは唇に人差し指を当てて笑って言う。
「もう言わない。・・・ね?約束。」
「・・しかしっ・・・・」
微笑を浮かべている村長にシャクが歩み寄り言った。
「エルガさん、俺・・・エルガさんとの約束を・・・」
「シャク君、君もかい?」
エルガは困った様な苦笑を浮かべた。
「再会したと同時にみんな謝罪ばっかし。もう、そんな事は言わない。」
「でも・・・!!」
「“でも”は無し!」
言うと優しい死者は笑い、少し悲しそうな顔をし続ける。
「・・・君達が謝る事は無いよ・・・僕が悪かったんだから。僕がシャク君達に無理な事を依頼したから・・・・・・・・ごめんね。」
「エルガさん・・・」
青白いエルガは皆を見回す。
「・・・・・僕が死んでからの出来事全てを幻魔様に聞いたよ。・・・・本当に申し訳ない。」
「何でエルガさんが謝るんですか!!」
とヴェロニカ。
「僕がもっとしっかりしていればこんな事にはならなかったはずなんだ・・・・」
男は拳を握ると、真剣な表情をする。
「ノラマを・・・いや、滅神王エウリアを復活させたのは僕だ。僕が悪い。」
「でも、知らなかったんじゃ・・・・」
「知らなかったにしても・・・魔物の子である事は十分に分かっていた・・・・・だから、僕は取り返しのつかない事をしてしまったも同然。・・・・それに・・・・・僕は利用されていたみたいらしいしね・・・・あの子に・・・」
悲しい顔になり、エルガは呟いた。
そんな男をシャク達は見つめるだけで言葉を掛ける事が出来なかった。
優しさで石化の呪いから解放し、我が子の様に育ててきた少年。
彼が滅神王三男であることは誰も知る由も無かった。
沈黙に支配された大広間に再びエルガの声が響く。
「・・・・・ノラマを・・・滅神王エウリアを止めないとね。」
その言葉に全員が視線を彼に注ぐ。
「そして、サリエルを救い出さないと。」
真剣な表情で言ったエルガであったが苦笑して頬を掻く。
「・・・それで・・・そこの美人な女性さん達一行様は何方ですか?」
今更ながらの質問にシャク達は唖然とさせられた。


★ ★ ★


大悪魔神官アプフェルは折角見つけた獲物が逃げたのを思い返し、つまらなそうな顔をする。
女神を幽閉していた魔法の牢屋。
ずっと長い時間その場にアプフェルは座り込み、口をへの字にする。
「折角、ボクが我が主にプレゼントしようと思って見つけた獲物だったってのにさァ~・・・・魔法なんかで逃げちゃって~・・・ったく、魔法が使えるなんてずるいよ~・・・・!」
文句を言い捨て、大の字に寝転がる。
「あ~あ・・・ちくってやるもん!」
と叫んだ彼であったが、思い直し焦り顔をする。
「げっ!これってちくったらボクが殺されるじゃんか!!」
アプフェルは勢い良く起き上がると両手で顔を覆う。
「女神逃がした!って皆から怒られるじゃん!!やばいよ!やばいよ!・・・・つーか、何でお前がそこに居るんだよ!って事になってボクの最高の計画が台無しになっちゃうじゃないか!!ボクの馬鹿馬鹿馬鹿!!!」
己の頬を叩く神官であったが、何かの気配を感じ目付きを変えた。
背後に何か居る。
アプフェルは振り向かず、口元を緩ませると影に問う。
「・・・何の御用で御座いますか?滅神王エウリア様・・・・」
部下の問い掛けに白髪の魔王はぺたぺたと歩いて来て、口を開いた。
「・・・女神を逃がした様だね、アプフェル。」
その言葉にアプフェルは目を見開く。
何か恐怖が彼の背中を這い上がってくる。
ぺたぺたと少し歩み寄ると、少年は不気味な笑い声を上げた。
「ハハハハハハハ、何を怖がってるの?君らしくない。もっと明るく行こうよ。」
エウリアは黙り込んでいる神官にゆっくりと歩み寄る。
その時、アプフェルがさっと立ち上がり、振り向いた。
彼は苦笑し、頭を掻くと言う。
「いやァ~・・・女神を逃がしてしまったので怒られるかと思ったのですよ、エウリア様。」
エウリアは歩を止めると悪戯な笑みを浮かべ返す。
「フフ、良かったね。その心配は無い。ボクには女神が、洗脳されていた人間が、天使が逃げて神の国に戻ろうが知った事では無い。」
「そうですか、それは良かったです♪・・・てっきり、怒られるかと思いましたよ~♪・・・・ん?エウリア様、サリエルちゃんは一緒では無いのですか?いつもならば一緒にいらっしゃるのに~・・・・」
周囲を見回すアプフェルにエウリアは笑う。
「サリエル兄さんは何処かに出掛けると言っていたから独りで居るのさ。」
「へぇ~・・それは珍しい事で・・・・・・・・って・・・ん?エウリア様、蛇様が3本になっておられますよ?如何したのですか?」
魔王は寄り添ってきた白蛇、黒蛇、銀蛇の頭を撫でると答える。
「あァ、他の蛇達が邪魔だったから白蛇と黒蛇に食わせ、能力を吸収させた。」
「ほえ~・・・・」
「何せ、色に伴った蛇達が居ては能力を悟られてしまいそうだったからな。」
「確かにィ~・・・流石はエウリア様です★」
乾いた笑い声の後アプフェルは言うと、続けた。
「そう言えば、何かエウリア様、声色変わりましたか?・・・何かちょっと幼児みたい口調から青年風に変わっているので。」
微笑んで言う大悪魔神官に魔王は不適笑うと返す。
「これが本当のボクさ。お遊びは止めた。」
「へぇ~・・・・」
アプフェルはにやりと厭らしい笑みを浮かべると問う。
「・・・それで、エウリア様は何の御用で態々此処へ参られたのですか?」
問い掛けられ若き魔王は恐怖心が伴った笑顔を部下に向けた。
そして——————。
「君と一戦交えたいんだ。」
その発言にアプフェルは驚愕させられた。


★ ★ ★


荒れ果てた神の国。
そこへ魔法で帰還した三人。
女神は暗黒騎士の姿の青年に抱き抱えられていたが、地面に降ろしてもらい、神の国の残骸を見る。
「酷い・・・・」
「あんまりだわ・・・・・」
ラーも両手で口元を覆う。
カーツは荒廃した世界を眺め、女神に問う。
「元に戻す事は出来ないのですか?」
そんな青年の問い掛けに女神は首を横に振る。
「戻せ無いワケではないのですが、勇者の力が必要です。」
「勇者の力・・・・ですか?」
女神は頷く。
「今の私・・・滅神王城内に幽閉されていた私は魔力を吸い取られていた為に神の国を復活させる程の力が無いのです。それ故、勇者の力が必要なのです。」
女神の説明にカーツは思う。
——————俺等をあの悪魔から逃がす為に渾身の魔力で此処へ移転させて下さったのか・・・・。
「勇者ってのはきっとシャク達の事ね!!」
とラー。
「シャク・・・?」
ラーは首を傾げる暗黒騎士に言う。
「カーツさんも見た事あるわよ。・・てか、斬り殺しに来たけど・・・」
カーツは記憶を探ってみる。
しかし、全く思い出せない。
「すみません、記憶が無いですね・・・・」
「そ、そう・・・・」
天使は苦笑したが、声色を強くする。
「でも、兎に角、勇者を捜しに行きましょう!!」
元気良く言う天使に女神は笑って問う。
「分かるのですか?勇者の居場所が。」
問い掛けられ当の天使はどきっと固まり、苦笑する。
そして、笑って誤魔化す。
「アハハハハ・・・・・居場所・・・ですか・・・・・」
女神はそんな天使を笑って眺め、口を開いた。
「勇者達、聖なる者達が今いる場所は“幻界”です。」
そこまで言うと暗黒騎士に美しい顔を向ける。
そして、青年に向かって手を翳す。
女神の綺麗な手から聖なる輝きが放たれ、暗黒騎士の漆黒の装備を聖騎士の姿へと戻す。
顔立ちの良い青年は艶やかな黒髪を風に揺らし、黒い真珠の様に輝く目で女神を見つめた。
「ガムラン王国の青年騎士カーツよ、私が少なからずの魔力で“幻界”へと導くので、天使ラーと共に勇者達を連れて来て下さい。」
「はい。」
聖騎士は返事をするとラーに視線を向けた。
視線を投げられ天使は頷く。
「行くわよ、イケメン聖騎士様!!」


★ ★


初めて会う若き村長にペイン達一行と封印師兄弟、リザは自己紹介をした。
彼女等の自己紹介を聞き、エルガは笑う。
「僕が死んで居ない間にこんな美人さんを仲間にしたみたいだね。何か・・・仲間外れにされた気分だよ。」
悠長な村長に皆が苦笑する。
やはり、生前の彼とは全く変わらない。
「・・・もう一回言わせてくれ。・・・やっぱ、死んでも変わんねぇーな・・・アンタは。」
とギルティ。
そんな怠惰な青年にエルガは軽い笑い声を上げて言う。
「アハハハハハハ、ギルティも変わって無いなァ~・・・・怠け者ってとこが。」
「五月蠅ぇーよ、変わり者村長が。」
何を言われてもエルガは笑っている。
彼の笑い声を聞くと自然と頬が緩む。
しかし——————。
「ギルティ、テメェー、いい加減エルガ師匠を悪く言うの止めろや!!斬るぞ!」
頭を掻いている青年に向かってヴェロニカが怒鳴った。
向きになる少女にエルガは快活な笑い声を上げて言った。
「まァまァ、ヴェロニカ、そんなに怒らないの。」
「大体エルガ師匠は甘いんすよ!!普通、自分の事悪く言われたら言い返すでしょ!!・・・・だから・・・・・・今回みたいな事に・・・」
少女は村長に叫ぶと俯いた。
エルガはそんな弟子に歩み寄り、頭を撫でようとした。しかし、幽霊で透けている為撫でられない。仕方無く、彼は笑顔を向けて彼女に言う。
「相変わらず君は人の事ばかり想っているみたいだねぇ・・・・初めて出会った時とはまるで別人だよ。」
声を掛けられヴェロニカは顔を上げた。
「エルガ師匠・・・・」
「今もサリエルの事を想ってシャク君達と一緒に行動を共にしているんでしょ?」
「・・・・」
黙り込む弟子を見て、エルガは続けた。
「それだけの想いを持っていればきっとサリエルにだって届くよ。・・・・僕はそう信じている。」
煌く彼女の藍色の瞳を見据え、エルガは笑った。
そして、皆を見回す。
「・・・そろそろ出発しようか、魔界——滅界へ。」
エルガの言葉に全員が大きく頷いた。


★ ★ ★


女神を幽閉していた魔法の牢屋。
その場所で大悪魔神官アプフェルは固まっていた。
急な願いに神官は戸惑う。
———————確かに、エウリアちゃんとは殺りたかったけど、雅かこんなタイミングで言ってくるとはねぇ~・・・・・予想外だったよ。嬉しいけど・・・何でだろう?
アプフェルは平生の陽気さを取り戻すと笑顔で問い掛ける。
「光栄ですが、それは又どうしてで御座いますか?・・・貴方様の様な御方が雑魚キャラ同然のこのボクと一戦交えたいと御希望されるなんて・・・・」
丁寧な物言いの部下にエウリアは不適な笑みを浮かべる。
「どうしてって、理由は簡単さ。・・・唯、自身のステータス確認の為だよ。」
「御自身のステータス確認で御座いますか?」
「あァ。」
「なるほどぉ~・・・御理由は承知致しましたが、何故ステータス確認をなさるのですか?もう既に貴方様は御自分の強さを知っておられるはずでは?」
「いや、正確にはあまり分かっていない。唯、一つ分かっている事は・・・・・ボクは魔法以外の能力は全て平均以下だと言うことだ。」
魔王の言葉にアプフェルは驚いた。
———————何でだ?・・・・貰ったこの子のステータス表は全てが無限大の力が記入されていたはず。なのに・・・何で?
驚愕の表情を浮かべている部下に魔王は軽い笑い声を上げると続けた。
「ハハハハハ、君達は既にボクのデータを貰っているはずなんだろうけど・・・あれは嘘だ。あれはお父様のミスさ。」
「ミス・・・・で御座いますか?」
「そうさ。・・・まァ、正確に言えば・・・あのデータはボクが上の二人の魔王を吸収した後のステータスだ。」
「なるほど・・・・」
「でもさ、吸収して無いとボクは魔法以外の能力は全て平均以下なんだ。・・・・と言うか・・・普通の人間が剣を一突きしただけで死んでしまう程の弱さなんだ・・・・」
そこまで言うとエウリアは言葉を切り、曝け出している己の胸に手を当てた。
そして———————。
「・・・・つまり・・・・誰でも何時でもボクを殺せると言うわけだ。」
魔王のその発言にアプフェルは薄ら笑いを浮かべた後、数分後に言い放つ。
「・・・・・・では、その兄上様方を吸収なさってみては如何ですか?その方が余程宜しいかと思われますが・・・・?」
そんな部下の発言に白髪の少年は悪魔の様な笑みをし答える。
「吸収する心算なんだけど、彼等・・・・潔くボクに吸収されやしないでしょう?」
「アハハハハハ、おっしゃる通りで御座いますねぇ~・・・」
とアプフェルは笑う。
「何の能力も無いボクが二人に掛かって言っても殺られるだけな気がしてね・・・・・・・魔法ばっか放っていても何時かは尽き果ててしまう・・・・・だから、君と一戦交えて自身に知らせるんだ。・・・・・・・これからボクが本物の滅神王としてどこを強くしていくべきなのかをね。」
魔王の言葉を聞き、アプフェルは残忍な笑顔をして頭を下げ、応じる。
「それでしたら、何時でもボクを使って下さいませ、我が主エウリア様。」
深々と頭を上げる部下に魔王は笑い掛けると頷いた。
「あァ、そうさせてもらうよ。」
「有り難きお言葉。」


★ ★ ★


皆の決意が改まり、幻魔は集まった聖なる者達に呼び掛けた。
「この幻界に集まりし勇者一行達よ、決意を固めるのは良いのだが、その装備で行く心算なのか?」
問い掛けられシャク達は各々の装備を見つめ返した。
あらゆる魔物達との戦闘で皹が入っている剣や盾、鎧。
金が無い為に装備を変えられなかったのが原因で最弱な装備に身を固めた勇者達。
手強い魔物達が蔓延っているのに軽装備で旅を続けている人間達。
それら全ての装備にガタがきていた。
流石に今回は装備を買い変える必要があった。
「滅界には主らが今まで人間界で戦ってきた魔物達とは比べ物にならない魔物が数多く居る。じゃから、滅界へ行くには丈夫な装備が必要じゃが・・・・」
「見るからに丈夫そうでは無さそうですねぇ~・・・・」
とスピオ。
苦笑気味の彼等に幻魔は言い放った。
「この幻界には数多くの職人が居てな、人間界には無い珍しい装備品がある。じゃから、各町を回り装備品を変えてくると良いじゃろう。」
「ですが、幻魔様・・・・俺等にはお金が・・・・」
とシャク。
しかし、幻魔は首を横に振り笑った。
「心配しなくて良いわい。・・・・御主等の為にワシが各町の武器屋や防具屋などに伝えてある。」
「!」
驚愕する人間達に幻魔は胸を張って続ける。
「勇者達がこの幻界へ参ったのであるから、彼等に適した装備を考案せよとな。」
幻魔の言葉に集まった皆の顔が喜びに明るくなる。
「ありがとうございます!!」
シャクは大きな声で礼を述べる。
「・・・じゃが、勇者には無いかもしれんのぅ・・・」
「え?」
青年は少し落胆した表情を浮かべ呟いた。
——————俺には無い?・・・・どう言う意味だ?
「な、何で・・・・俺には・・・・」
泣きそうな顔の勇者に幻魔は笑った。
「御主には御主の装備があるのじゃ。それは神の国へ行けば授けてもらえる。」
「か、神の国・・・ですか?」
幻魔の“神の国”と言う言葉に皆が反応した。
皆の反応を見、ディが続きを引き取った。
「神の国は、女神様や天使達が暮らす聖域の事です。そこに、勇者専用の女神様の加護を受けた装備があるのですよ。」
「そうなんですか・・・」
とその時、幻魔が顔を上げ呟いた。
「・・・おぉ、噂をしていれば神の国から客人が来たわい。」
幻魔の呟きと共に大広間に黒髪の青年と真っ白い羽を生やした美しい天使が現れた。




続く…。
2015-02-23 : 【異世界のイストワールⅠ】 : コメント : 0 :
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俺は絶望的な方向音痴であり、出会いが嫌い。

最近、雨ばっか降って冴えねぇーな・・・・。
俺、前も言ったけど雨嫌いなんだよ。

ってなワケで久しぶりの日記っす。
でさ、ところで皆さん、方向音痴じゃァ無ぇーよな?

フフ、俺は根っからの方向音痴。
いや、唯の方向音痴じゃねぇーんだ・・・・・・<絶望的な程の方向音痴>なわけですよ。
これで、進路先東京ってどう言う事だっ!
って感じっすよねぇ~・・・・。

そんで、俺の進路先の入学式の場所がその学校じゃなかったって事に絶望していたのだよ!
場所がてんで分かんなくて焦ってた。
「<焦ってた>って過去形になってるっつー事は、お前、分かったのか?」
って思っているだろう。

フフフ、分かったのだよ。
終に突き止めたァァァァァァァァ!!
高校の地図帳でめっさ探したんだぜ。
つーか、東京ってめっさぐちゃぐちゃしてんな。
俺、頭が痛くなったぜ。
んで、やっと見つけた。
きっと、上手く行くと思う。
いや、思いたい。



話は変わるが、俺・・・出会いって嫌い。
最近、嫌いになった。
何故かって、理由はきっと、俺と同じだって思った人と同じだと思う。

★*★*★

俺は自由登校になってからバイト行ってて、めっさ良いおばちゃん達と出会った。
最初はあんまし喋ってなかったけど、少し話したら凄い良い人達で、正直、その人達が居たからバイト行くの楽しかった。
(いや、無愛想で意地が悪くて大嫌いなおばちゃんも居たよ。)
何を喋っても楽しくて、何せ、一緒に仕事してる時が一番笑った。何故か、そのおばちゃん達と会話してると自然と笑顔が出て来る。
学校じゃあんまし笑わない俺が笑えた。
でも、出会ったがばかりに別れがやってきた。
そうだよな、俺はバイト日数限られてるもんな。
所詮はバイトだから。
で、バイト最後の日に俺はそのおばちゃん達と会えた。
それが凄い嬉しかった。
最後ってなると何故か悲しくなった。
死別するワケでも無ぇーのに、何故か悲しくなった。
でも、ついつい俺は「今日で最後なんっすよ~・・・」などと笑ってみせた。
そうしたら、そのいつも喋ってるおばちゃん達が悲しそうな顔でこう言ってくれた。
「まァ・・・それは寂しいねぇ・・・・又、会えるかね?」
俺は苦笑し、答えた。
「さァ~・・・どうっすかねぇ~・・・・」
心の奥底には本当はもう会えないかもしれないことに気付いている自分が居た。

もう会話をするのが最後のおばちゃんと仕事をする時間はあっと言う間に過ぎ去って行ってしまう。
このまま時計の針が止まれば良いのになァ~なんて思っている自分が自分で無い様に思えてきた。
今までにこんな想いをした事は一度も無かった。
俺のバイト時間は朝9時から夕方の18時までだった。
それで、18時になった。
それでも帰ろと言われるまで俺は働いた。
その時、背中を叩かれているのに気付き、俺は振り返った。
そこに立っていたのは大阪弁のお姉さんだった。
そのお姉さんは凄い面白くて優しい。
「あ、お姉さんじゃないっすか。」
俺の顔は輝いていた。
しかし、お姉さんは少し悲しそうだった。
「今日でバイト終わりやったかいね?」
「はい。」
「そっか・・・・うち、もう帰んねん。」
「マジっすか・・・」
「うん・・・・まァ、又会える日まで元気でやんなよ。応援しとるけーさ。」
「あ、はい。頑張ります。」
俺は悲しい顔を笑顔で隠して明るく返事をし、
「今までお世話になりました。」
と言う。
「こっちこそ。」
お姉さんは笑うと、手を振る。
「ほいじゃァーね。」
そして、去って行った。

それから、班長さんの「18時30分まで大丈夫?」って言う台詞で俺は18時30分まで仕事した。
内心、飛び跳ねていた。
それで、俺は仕事しながらおばちゃん達と、仲良くなったお姉さん達と会話を楽しんだ。
しかし、30分は凄い早く過ぎて行くな・・・・。
あっと言う間に18時30分になって今度こそ帰らないといけねぇー時間になった。
俺は片付け立ち去る前におばちゃんに言った。
「では、お先に失礼します。」
おばちゃんは顔を上げて笑ってくれた。
「まァ、もう帰るん?早いねぇ。」
「あ、はい。30分になったんで・・・・」
「まァ・・・・それじゃァ、これから先頑張ってね。絶対上手く行くって祈っておくけーね。」
「あ、ありがとうございます。」
俺は悲しい顔を偽りの仮面を被って消し、礼を述べた。
「今まで色々と迷惑をかけましたが、今までありがとうございました。」
とそんな言葉を言い、俺はバイト先を去った。


★*★*★


俺は卒業式では絶対に泣かねぇ。
泣いてたまるもんかってんだ。
一々泣いてたら自分が駄目になっちまいそうでいけねぇ。

だから、俺は出会いが嫌い。

2015-02-22 : 日記 : コメント : 0 :
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異世界のイストワール  第11章~幻界~  その4

~前回のあらすじ~
幻界に着いたシャク達は幻魔の依頼通りディを連れ戻し、新たな依頼を受けた。
それは、幻界最強の封印師の兄弟を連れて滅界へ行き、滅神王達を封印してくれと言う事だった。


以下は続きです。


*幻界にも夜は訪れる。
勇者一行は幻魔の館で一先ず寝泊りする事になった。
そして、夕食時。
用意された大広間で幻魔を含めた全員が食事をしている。
しかし、ヴェロニカはこの場に居なかった。
彼女は食欲が無いと言い、何処かに行ってしまった。
グラスに入った水を飲み、幻魔が口を開いた。
「・・・何故、あの若い女剣士は悲しいオーラを纏っておるのじゃ?」
その問い掛けにラヅが応じた。
「アイツの大切な人が闇に堕ちたのだ。それを救えなかったのがずっとアイツの体を虫食んでいる・・・」
「大切な人・・・を救えなかった?・・・・一体何があったんですか?」
とスピオが問い掛けた。
ラヅはワインを一口飲むとニルバーナで起きた事件を語り始めた。
村の向日葵が散った事で邪悪な者が誕生した事を——————。
「・・だから、ヴェロニカはずっとあの調子で居るのだ・・・・」
「そうだったんですか・・・・」
そこで、シャクは幻魔に向かって口を開いた。
「あの・・・幻魔様・・・・」
「何じゃ?勇者よ。」
勇者は俯くと、拳を握り締めて呟き始めた。
「・・・一つ・・・お願いがあるのですが・・・・」
「シャク?」
レイアが不思議そうな顔をして勇者を見つめる。
誰もがシャクに視線を注ぐ。
「願い・・とな・・・何じゃ?」
「・・・・その・・・ラヅさんが話した通り・・・滅神王エウリアを復活させたのは他でも無い・・その村長エルガさんです。でも、エルガさんは決して悪用しようなどと思って魔王を復活させたのではありません。・・・・彼は唯・・・優しさで・・・」
「シャク殿・・・」
「・・・でも・・・そのエルガさんの優しさを理解していなかった人が居たせいで・・エルガさんは殺されました。そのせいで、彼の息子のサリエルさんは今も憎悪に支配されて、魔界側に居ます。・・・だから・・俺は・・・サリエルさんを救い出したいんです。」
そこまで言うとシャクは顔を上げて幻魔に言い放った。
「お願いです!彼を救い出す為にエルガさんを生き返らせてもらえないでしょうか!・・・・エルガさんなら、きっと・・・サリエルさんを助けられるはずです!!だって、サリエルさんはエルガさんが死んでしまってあんな風になってしまったのですから!」
渾身の願いを叫ぶ勇者を眺め、ギルティは顔を彼に向けた。その他の仲間も驚く。
暫くの間、幻魔は悩んだが、数分後に口を開いた。
「そのエルガと言う男に悪意が無かったのは話を聞けば分かる。だが、ワシには彼を甦らせる術は無い。だから、その人間を生き返らせる事はできん。」
「っ!」
「・・・それに・・・話を聞く限り・・・サリエルと言う青年の父親を生き返らせたところで、その青年が再び正しき光の道へ戻るかどうか分からない。」
俯き加減で言う幻魔にシャクは叫んだ。
「戻りますよ!!サリエルさんは・・・・絶対・・・」
「そうですよ!」
レイアも叫ぶ。
「きっと、戻りますって!」
真剣な顔で言う彼女に幻魔は顔を上げて問う。
「戻ると言う証拠が何所にあるのじゃ?」
「・・・そ、それは・・・」
「現に今、その青年は滅神王三男と行動を共にしておるのであろう?」
「ですが・・・」
「魔界側に堕ちた人間が再び光の道に戻って来るのは中々難しい相談ですよ。」
とスピオが静かに言い放った。
「私が思う限り・・・・そのサリエルと言う青年は滅神王エウリアに利用されているのではないでしょうか?」
「!!」
弟の発言にディも頷く。
「そうかもしれないねぇ・・・・・それに、その青年だけではなく、その父親さんもね。」
その言葉に大広間に居る全員が驚愕させられた。

★ ★

——————何所に行けば居るのかなァ~♪
何て事を考えて廊下を歩いている大悪魔神官アプフェル。
白衣のポケットに両手を突っ込み、鼻歌を歌いながら独り歩いている。
——————<あの御方>をエウリアちゃんに食べさせたら絶対能力が上がるよねぇ~♪そしたら、戦い甲斐があるってもんだよねぇ~♪
微笑みアプフェルはスキップしながら廊下を歩く。
興奮と喜びが止まらない。
———————さてさて、<あの御方>の居場所をどうやって突き止めようかァ~♪
アプフェルは満面の笑みのまま廊下をスキップしながら歩いた。

★ ★

滅神王ヘンリはブラックコーヒーを一口飲み、思案顔をしていた。
——————それにしても・・・・何故、あんなにも早く記憶を取り戻したのだ・・・?
深刻そうな顔をしてカップを戻す。
——————・・・・いや・・・そんな事より・・アプフェルの事だ。
アプフェルがヘンリの神官から外れてからと言うもの、ヘンリは胸騒ぎがしてならないのであった。
——————アプフェルの奴・・・一体何を考えているのだ・・・。・・・・・・・雅か、大それた事でも考えているのではなかろうな?
眼鏡を押し上げ、ヘンリは寒気がしたのを感じた。
何か危険が迫っている様な感触を味わう。
——————何だ・・・この嫌な予感は・・・。そして・・・・何だ・・この恐怖感は・・・。
魔王次男は拳を握ると、椅子から立ち上がった。


★ ★ ★


ディの言葉に皆が驚愕した。
—————利用している?そんな馬鹿な!!
「どう言う意味ですか!!」
とシャク。
勇者の問い掛けにディは答える。
「言葉通りですよ。彼等家族は少年魔王に利用されている。手の平の上でコロコロと転がされていたと言うワケですよ。」
「そんなっ!」
皆が絶望する。
「だが、一体どうやってだ!」
ヒルダが拳を握る。
そんな青年の言葉にディはワインを一口飲む。
「・・・恐らく・・・石化から解放した後でしょうねぇ。それしか考えられません。」
「きっと、慈愛に満ちた村長さんの心を利用したのでしょう。石化から解放されて未だ能力が回復してないとは言え・・・何と酷い・・・」
とスピオ。
「でも、あの子はそんなことする様な子じゃ・・・・・・だいたい、記憶が無かったんですよ!」
レイアが抗議した。
しかし、スピオは優しく否定する。
「そう見せていただけですよ。・・・・最初から彼に記憶はあったのです。・・・・だから、きっと、サリエルさんも滅神王の本心は知らないはず。」
「それじゃ・・・・」
皆が恐ろしい事を想像する。
「・・・まァ、体力と能力の回復で利用したのでしょうが、どちらにせよ、助からないと思います。」
スピオは言うとサラダを口にした。
「諦めた方が宜しいかと・・・・・」
少し冷めた様に言い放った封印師の弟に向かって声が掛けられた。
「諦める?・・フン、何馬鹿な事ほざいてんだよ。」
強い声に皆の視線が声の主に向く。
声を発した青年はグラスに入った真っ白い液体を手で弄びながら口を開いた。
「・・・へっ、諦めろってそりゃァ冗談キツイぜ。」
「そうですか?」
とスピオ。
「俺ァ、どーも昔から諦めが悪くてな諦められねぇー質なんだ。それに、大嫌いなアイツとは未だ決着がついてねぇーからよ、どうしても連れ戻さねぇーとならねぇーのよ。」
「ギルティさん・・・・」
「・・・で、俺と同じで未だ諦めずに必死に手を伸ばしてるまな板女も居るしなァ。そう簡単に諦めてたまるかってんだ。」
言うとギルティは液体を飲み干す。
「あの小せぇ魔王が利用してるんだか何だか知んねぇーが、俺等には関係無ぇ。飽く迄も俺等の目的は魔王封印とあの馬鹿息子の奪還だ。だから、余計な余所見なんかしんねぇーで、己の向かうべき方向を目に焼き付けておきやがれ。」
ギルティの言葉にシャク達は背中を押された様な気がした。
——————確かにそうだ。このまま諦めていては何も出来ない。
その時だった。
「若者よ・・・」
幻魔の声がギルティに掛けられた。
「何だ?おっさん。」
「主はその青年に未だ光があるとでも言うのか?」
「光?あの冷めた馬鹿野郎に?無い無い。絶対ぇ無ぇーな。」
ギルティは手を振ると、鼻で笑った。
「あるわけ無ぇーよ。」
「では、何故、あの女剣士同様に手を伸ばす?」
老人の問いに淡い水色の髪の毛をした青年は頭を掻くと答えた。
「アイツの中には唯の<光>は無ぇ・・・・飽く迄、奴の中にあるのは<光>を越える<光>だからだ。」
そこまで言うと青年は言葉を一旦切り、二呼吸程後に続けた。
「・・・・・・だけど、今はその光はあの魔王のせいで奪われている。・・・・・・・アイツの光を取り戻すには・・・向日葵が必要だ・・・」
ギルティは幻魔の顔を真っ直ぐに見つめて力強く言い放った。
「だから、向日葵を摘んできてくれ。」
その言葉に幻魔は目を見開いた。
シャク達もギルティの真剣な目を見て頷いた。



★ ★ ★



滅神王の間。
そこには滅神王長男ローレライが紳士服を纏い、玉座に座っていた。その横には彼の側近である大悪魔神官カルコスが居る。
そんな二人の前にはサリエルと真っ白いシーツを纏ったエウリア。
黒紫色の髪の青年は妖艶な笑みを浮かべたままだった。
「サリエルちゃんとエウリアちゃんが直々に滅神王の間に来てくれるなんて嬉しいわ★何か御用でもあって?」
とローレライは微笑む。
悠長な魔王を前にしてサリエルは口を開く。
「まァな・・・用が無ぇーと俺等も来ねぇーよ。」
「そうね。・・・で、御用は何かしら?」
実の兄の問い掛けにエウリアは9本の蛇達を広げた。
その蛇達を見て、カルコスの表情が一瞬だけ変わった。
——————9本だと!何故、1本生えている!!これは何かの前兆か!
「見ての通り、エウリアにもう1本蛇が生えてきた。」
とサリエル。
「そうねぇ~・・・銀色で綺麗じゃない。私、好きよ、銀色。」
「っ・・・・!」
カルコスが鋭い目で二人を睨んだ。
「だがな・・・この9本の蛇の能力が分からねぇ。・・・・・・・だからさ・・・・」
サリエルの言葉と同時にエウリアの銀色の蛇が動いた。
銀色の蛇は赤い目を煌かせ、魔王目掛けて向かって行った。
しかし、その妖しい目の輝きが魔王に当たらない様にカルコスは素早く魔法を詠唱した。
銀色の蛇に業火が向かっていく。
高位火属性魔法フォーラルガ。
だが、その業火が銀色の蛇を焼き上げる事は無かった。
赤い蛇がすぐに業火を飲み込む。
それで一旦は奇襲を止める。
一瞬の出来事にローレライは拍手する。
「凄い、カルトス君!!」
当の彼は冷汗を拭い、サリエルを睨む。
そして——————。
「おい!誰の命令だ!!答えろ!」
部下の怒鳴り声を他所にサリエルは笑みのままで呟く。
「どうやら石化効果らしいな・・・エウリア。」
「そうだネ。きっと、背後の敵を石化させる為に生えたのかナ?」
と少年。
「もう一度言う!誰の命令だ!答えろ!!」
喚く神官を見、サリエルは哂う。
「誰の命令でも無ぇーよ。俺の実験だ。」
「何だと!!」
「サリエル兄さン、帰ろうヨ。ボク、お部屋で積み木したイ。」
不適に哂う青年の着物の裾を引っ張り、エウリアが言った。
その仕草にサリエルは頷く。
「そうだな・・・今日は唯の実験だしな・・・」
帰る為、歩き出す不気味な人間にカルコスは殺気を隠せないで居た。
———————あの野郎!!!
カルコスは魔法を唱え始めた。
———————俺の高位闇魔法で消してやる!
今までに無い部下を見、ローレライは制止する。
「カルトス君、止めなさいよ。喧嘩は駄目!」
しかし、彼は無視し魔法を詠唱する。
そんな大悪魔神官に気付いたのか、エウリアは負のオーラを放ち始めた。目が虚ろになる。
「カルトス君!」
「死ねぇぇぇぇぇぇ、サリエル!!」
カルコスは魔法を青年に向けて放った。
巨大な闇の玉がサリエル目掛けて飛んでいく。
高位闇魔法ブイオーラル。
しかし、青年に闇魔法がダメージを負わせる事は無かった。
「なっ!」
エウリアの後頭部から生える黒い蛇がさっと反応し、巨大な闇を食いつくし、詠唱者の許へと牙を向けて、倍以上巨大な闇の玉を吐き出した。
カルコスが放った闇魔法とは大いに異なる闇魔法の魔力。
そんな魔法玉がカルコスに向かってくる。
「っ!」
滅神王の間を莫大な破壊音が包んだ。
カルコスは硬く閉じていた目を開ける。
——————お、俺・・・・生きている・・・・・!
目を開けて驚愕する。
防御した部下の前にローレライが立っていた。
そんな滅神王長男の片腕はボロボロで血塗れになり、だらりとしていた。
——————ま、雅か・・・あの魔法を片腕で吹き飛ばしたのか!?
「ローレライ!!」
カルコスに呼びかけれても魔王は振り向かず黙っていた。
そして、静かに三男を見つめていた。
当の三男はゆっくりと振り向き、実の兄と神官を睨み言い放った。
「サリエル兄さんに危害を加えるな。でなければ、殺す。」
聞いた事の無い凄みの効いた声だった。
それにカルコスは目を見開く。
それだけを言い放つと人間と魔王は滅神王の間から出て行った。
彼等を見送り、カルコスは我に戻って大ダメージを負ったローレライに駆け寄った。
「ローレライ!大丈夫か!」
しかし、当の彼は静かに言う。
「カルコス・・・少しは状況を考えろ。」
普段とは違う声の魔王に指摘を受け、カルコスは拳を握る。
「ですが、あのまま帰らせるわけには・・・」
「あのまま帰らせていれば、滅神王の間の半分以上が消し飛ぶ事は無かった。」
「すみません・・・・」
カルコスは深く頭を下げると、消し飛んだ部屋を見た。
玉座は吹き飛び、外がよく見えた。
その刹那。
滅神王の間の扉が開き、ヘンリとリンネル、その他の滅軍達が駆け込んで来た。
「ローレライ様!!!」
その声にローレライは静かに顔を向けた。
血塗れの兄と破壊された部屋を見回し、ヘンリとリンネルが走ってきた。
「一体、何があったのだ!」
ローレライはもう使えない腕を見、静かに呟いた。
「何かがあった・・・」
「ふざけるな!真面目に言え!」
「ローレライ様、すぐに傷の手当てを。」
リンネルは言うなり、滅軍の回復部隊を呼ぶ。
しかし、そんな彼女を制止、ローレライは言った。
「呼ばなくて良い。唯の怪我だ。大した事は無い。」
「ですが、ローレライ様!」
「カルコスさん、一体此処で何があったんですか!」
痺れを切らしヘンリはカルコスに訊ねた。
問い掛けられカルコスは全てを話した。
その話を聞き、滅軍達も恐怖する。
「エウリアが!」
ヘンリは驚愕し、ローレライに尋ねた。
「エウリアは本気だったのか!?」
その問い掛けに当の兄は静かに弟を見つめて返した。
「いいや、全く本気では無かった。足で砂を蹴った程度だ。」
「嘘だろ・・・」
と魔王の返答を聞き、部下達が騒ぐ。
そこへ、カルコスが割って入った。
「いや、俺が悪かったんです!俺が・・・状況を考えず・・・魔法を放ったせいで・・・ローレライ様がこんな目に・・・・」
部下は俯いて言った。
「俺のせいで・・・・」
拳を握り締め、悔しそうに言う部下を見つめ、ローレライは口を開いた。
「そんなに己を責めるな。」
「ですが!」
「それに、私は未だ生きている。死んだワケでは無いのでだからもう良い。」
「ローレライ様・・・・」
「・・・・それより、ヘンリ。」
ローレライは弟に真剣な視線を向けると言う。
「私は今日感じた。・・・エウリアが何を考えているか分からない事を。」
「ローレライ兄さん・・・」
「だから、これから先・・・エウリアに用心しておけ。」
兄の意外な発言に弟は叫ぶ。
「だけど、ローレライ兄さん!悪いのは全てアプフェルなのだぞ!アイツが仕組んだ・・・」
「いいや、アプフェルにエウリアをコントロールする事は不可能だ。仮に出来たならば、それはエウリアの幻術。」
「!」
「そして、私は二つ、恐怖を感じた。」
そこでローレライは言葉を切ると、二呼吸程後に口を開いた。
「一つ目はエウリアに新しい蛇が生えていた事だ。」
「なっ!」
「恐らく、その蛇の能力は“石化”。」
「二つ目は・・・おそろしい程の強力な“カウンター”。あれは倍以上のものを跳ね返してくる。」
「カウンター!?」
とヘンリ。
驚愕する弟を残し、ローレライは去ろうとする。
「ローレライ兄さん、何所へ行くのだ!!未だ、話が!」
魔王長男は振り向かず言う。
「部屋に戻る。・・・・それと・・・・」
静かに言った魔王であったが、彼は急に振り向くと舌を出して笑った。
「ごめんけど、滅神王の間・・・直しておいて★」
一瞬でいつもの魔王に戻った。


★ ★ ★


漸く捜し回って見つけた。
暗黒騎士カーツは天使ラーの導きで女神の居場所を突き止めた。
妖しい地下牢を破り、魔力の通った鎖で繋がれた美しき女神を解放する。
そんな中、爆音で三人は驚いた。
「何!?今の爆音と強大な魔力は!!」
と等身大に戻ったラー。
カーツも女神を抱き上げ、面頬の下で眉根を寄せた。
抱き上げられ、衰弱しきった女神は呟く。
「恐らく・・・・滅神王エウリアの魔力でしょう・・・」
「!!」
二人は驚く。
そんな彼等の前に影。
「御名答~★ぱちぱちぱちぱち♪」
拍手音。
カーツはラーに女神を預け、暗黒の剣を抜く。
歯向かいの意を見せる青年を笑って眺め、アプフェルは歩を一歩進めた。
「あれれ?君ってあの時、ボクが持ち帰った人間じゃん!・・・う~ん・・てか、洗脳されちゃわなかったっけ?」
「そこを退け!」
カーツの叫び声にアプフェルはにやりと厭らしい笑みを浮かべる。
「嫌だと言ったら?」
「斬るまでだ!!」
暗黒騎士は雄叫びを上げ、大悪魔神官に斬りかかって行った。


★ ★


青年の言葉で幻魔は目を静かに閉じ、口を開いた。
「・・・そこまで・・・その青年を助け出したいのだな・・・主等は・・・」
皆が頷く。
幻魔は目を開き、それを確認すると言い放った。
「では、その向日葵とやらを見つけて来よう。それまで、暫く待っていてはくれぬか?」
その意外な言葉にシャク達は驚愕する。
「もしかして・・・エルガさんに会えるんですか!?」
老人は静かに頷くと応じる。
「約束は出来ないがな。」
その返答に皆が少し明るい顔をする。
そんな彼等を見回し、スピオがディに囁く。
「ねぇ、兄さん。幻魔様が死者を連れて来れるか賭けない?」
「そうだねぇ・・・賭けてみるかい?」
何やら囁き合っている兄弟を見、幻魔は咳払いをした。
「二人共、ワシの力を知っていないようじゃな。」
「とんでもありませんよ!」
とスピオ。
慌てる兄弟を少し睨み、幻魔は席を立った。
「では、ワシは少し早いが一先ず夕食を辞しよう。・・・・向日葵を摘んでくるのでな。」
部屋から出て行こうとする幻魔の大きな背を眺め、シャクが立ち上がり叫んだ。
「幻魔様!!」
老人は振り返る。
「未だ、何か願いでもあるのか?若き勇者よ。」
「いいえ・・・・・」
シャクは首を横に振ると、真っ直ぐに幻魔を見つめて言い放った。
「ありがとうございます!!」
その礼に老人は笑顔を返した。


★ ★


真っ暗な部屋。
ベットに寝転がる上半身裸の白髪の少年。
今、部屋には珍しく黒紫色の髪をした青年は居ない。
少年は眠っている9本の蛇達を撫でながら天井を見上げる。
———————少年振ってるのも・・・そろそろ飽きちゃったなァ・・・・。
ふと、そんな事を思う。
———————みんな、ボクの事を未だ幼い魔王だと勘違いしているみたいだけど・・・違うんだよね・・・フフ・・・。
不気味な笑みを浮かべ、天井を見る。
———————何ったって一番傑作なのが、光を奪ったあの人間さ。ボクの事を弟の様に大切に守ってくれている。・・・・しかしまァ、サリエルを取り戻す為にニルバーナの奴等が勇者達と手を組んでいるのは好都合だ。どう料理してあげようか・・・・。
エウリアは舌なめずりをし、不適に笑う。
———————・・・・それにしても、ボクの記憶が無いなんて思ってた兄さん達・・・相変わらず馬鹿だねぇ。これは笑いが止まらないや。
少年は起き上がると、だらりと眠っている蛇達を眺め、不機嫌そうな顔をした。
そして———————。
「お父様もこんなにボクに蛇を生やさないでも良かったのにねぇ・・・鬱陶しいったらありゃしないよ。」
呟くと、エウリアは白い蛇と黒い蛇を起こした。
「おい、起きろ。」
「ウピャァ~・・・・・」
伸びをし、2匹の蛇達は目を覚ます。
そんな蛇達の頭を撫でながら少年は命令を下した。
「白蛇、お前は黄色の蛇と緑色の蛇と水色の蛇を食べろ。・・・・黒蛇、お前は赤色の蛇と青色の蛇と紫色の蛇を食べろ。そして、能力を吸収しろ。」
主の命令に2匹の蛇達は頷き、食べろと命令された蛇達に食らいついた。
噛み付かれ眠っていた蛇達は悲鳴を上げる。
体液を飛ばし、2匹の蛇達は共食いをする。
「体液を飛ばすな。汚い。」
少年は不満げに呟くと蛇達が食べ終わるのを待った。

先程まで暴れていた蛇達であったが死を覚悟したらしく、暴れなくなった。
数分後に蛇達の食事が終わり、エウリアは吐息をつき後頭部を触り、哂う。
「・・・フフ、これで良くなった。」
呟くと蛇達の頭を撫でる。
「色に伴って能力を持っていたら、何を使うか分かっちゃうじゃないか。・・・・・・全く、お父様も間抜けだ。」
独り言を言い、少年はふと何かを思い付く。
そして、微笑を浮かべた。
「そうだ、良い事考えた。」
主の言葉に黒と白の蛇は見つめる。
蛇に見つめられ、少年は哂い掛けた。



★ ★ ★ ★



夜。
幻魔の館の屋上。
夜風が心地良く、満月が煌き綺麗な月明かりを浴びせてくる。
ヴェロニカは蘇芳色の髪の毛を靡かせ、幻界の夜空を見上げていた。
———————サリエルさん・・・・。
愛しく想う人の名前が脳内から離れない。
どうしても忘れられない人。
———————未だ・・・・彷徨っているんですか・・・・。
憎悪と復讐の渓谷。
彼が彷徨っているのはその谷。
一度は彼女も足を踏み入れた場所。
しかし、彼女はラヅに救われた。
だから、今の彼女が居るのだ。
———————助けたかった・・・・・その渓谷に行く前に・・・。
でも、無理だった。
幾ら手を伸ばしても彼は払った。
———————・・・・・払われても良いから自分がもっとしっかりあの人を引き止めていれば良かったんだ・・・。
そう思うと涙が溢れ出そうになる。
しかし、未だ彼女は諦めたわけではなかった。
だから、あの人の名前を呼び続けれるのだ。
ヴェロニカが拳を強く握り締めた時だった。
何かの気配を感じ、ヴェロニカは涙を塞き止めた。
そして、口を開く。
「誰かと思ったら、お前か・・・・オルバ・・・」
夕食を済ませた栗色の髪の青年は不敵に哂うと、歩を少し進め止めた。
「誰がこんなとこで泣いてんのかと思ったら、やっぱお前か・・・ヴェロニカ・・・・」
「泣いてねぇーよ。」
ヴェロニカは焦った様に言い放つと、声の調子を強くした。
「つーか、何しに来たんだよ。」
彼女の問い掛けにオルバは真剣な表情をして言い放った。
「・・・・・・大事な話があって来たんだよ。」
ヴェロニカは少し驚き、彼を振り返った。
そして、問う。
「何だ?」
振り返った彼女にオルバは悪戯な笑みを浮かべる。
「聞きたい?」
「は?」
「聞きてぇーのかって聞いてんだよ。」
「そんな間はどうでも良いから話せ!」
「どうしよっかなァ~・・・・」
意地が悪い青年にヴェロニカは剣の先を向けた。
「良いから、話せ。さもないと、斬り殺すぞ。」
剣先を向けられオルバは笑い、手を上げた。
「へいへい、分かったよ。」
彼の返事を聞き、彼女は剣を収める。
それを見届けると、オルバは言い放った。
「・・・・サリエルさんは利用されているとさ。」
「!」
オルバの意外な言葉にヴェロニカは驚愕の表情を浮かべた。
「どう言う意味だ!!」
「そのまんま。利用されてたの。」
「誰に!!」
「ノラマ。・・・あ、いや、今は滅神王エウリアと言うべきか・・・・」
「何であの子に!?ワケ分かんねぇーよ!」
叫ぶ剣士にオルバは溜息をつき口を開く。
「俺だって急な事で飲み込めてねぇーよ。・・・だが、ファレルレット家が利用されていたらしい。あの封印師が言うにはな。」
「何で又そんな・・・」
衝撃のあまりヴェロニカはふらついた。
有りえないと言った表情だ。
「記憶が無かったってのも嘘。・・・・・・アイツは単に体力と能力の回復でエルガさん達を利用していた。そして、用が無くなったから村を破滅へと導いた。」
「そんなっ・・・・!」
ヴェロニカは悔しそうに拳を握る。
「何で・・・・何で・・・・サリエルさんを・・・・」
「それは分からねぇ・・・・」
彼女はオルバから話を聞くと俯いた。
そして、小声で呟く。
「・・・それじゃァ・・・本当にニルバーナを壊したのは・・・・・」
「あの魔物だ。」
ヴェロニカは唇を噛み、剣の柄を握り、顔をオルバへと向けた。
「オルバ、魔界への行き方・・・・聞いたか?」
「聞いてねぇーけど・・・」
剣士は舌打ちをすると歩を進めた。
オルバはそんな彼女の腕を掴んだ。
「おい、ヴェロニカ!」
「放せ!オルバ!」
必死に振り払おうとする彼女の腕を強く掴み、青年は叫んだ。
「独りで魔界へ行く気か!?そんなん無理に決まってんだろ!」
「早く行かねぇーと、サリエルさんが危ねぇんだよ!」
「危ねぇーのは百も承知だ!だがな、独りで行って助けられっかよ!」
「放せ!!」
叫ぶとヴェロニカは腰の剣を抜き、オルバを斬ろうと振り翳した。青年はそれを感じると鋼を鞭を取り出し、彼女に向けた。しかし、ヴェロニカは軽やかに回避する。
オルバは鞭を戻すと、ヴェロニカに叫ぶ。
「つーか、未だ話の続きがあんだよ!」
「は!?」
青年の言葉に彼女は動きを止めた。
それを確認するとオルバは言う。
「ギルの旦那のおかげで、エルガさんが帰って来るかもしれねぇーんだよ。」
「エルガ師匠が!?」
「あァ、幽霊っぽいけど・・・・・・・・だから、サリエルさんの中に光が戻って来るかもしんねぇ・・・」
ヴェロニカはその言葉を聞くと、剣を収めた。
「それは何時だ!」
「分かんねぇーよ。・・・・・・・・・・でも、少しはこれでテメェーも心を休めれるんじゃねぇーか?」
青年にそんな事を言われ、ヴェロニカはそっぽを向く。
そして——————。
「いいや、サリエルさんを取り戻すまでは休む事は出来ない。」
と言い放った。


———————そう、この手に取り戻すまでは—————————



続く…。
2015-02-20 : 【異世界のイストワールⅠ】 : コメント : 0 :
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異世界のイストワール  第11章~幻界~  その3

~前回あらすじ~
シャク達は幻獣の少女リザと運良く出会った為に幻界へ行く事に成功した。だが、幻界へ行き、幻魔と会ったのは良いのだが、幻魔にシャク達はある男を連れ戻して来てくれと依頼された。そして、連れ戻しに行ったのだが———————。


以下は続きです。


*古びた牢屋の中。
鎖で繋がれ動けない男が独り寂しく呻いている。
気が狂ったかの様に奇声を上げ、折角与えられている貴重な食事でさえ蹴散らし、喚いている。
「くそ野郎がっ!!!此処から早く出しやがれ!!」
汚い顔のまま怒鳴り散らす男を妖艶な笑みを浮かべて見ている青年。
そんな青年にしがみ付いている白髪の少年。
「この馬鹿息子がっ!!一体、俺をこんな汚い場所に放り込んでどうする心算だ!!」
血走った目で叫ぶ男を見て、恐怖しエウリアはサリエルの着物に顔を埋めた。
サリエルはエウリアの頭を撫でると男に声を掛けた。
「よぉ・・・アーノルドさん・・・・・フフ、相変わらず汚ぇー面してんなァ・・・」
「お前もな!」
アーノルドは憎たらしい青年を睨み付けた。
届かぬ足を振り乱し、暴れる。
「テメェー等の様な奴等が居るから世界は危険に満ちているんだ!!貴様等なんか、貴様等なんか地獄へ落ちるが良い!!!馬鹿な父親と共にな!!」
不適な笑みを浮かべて言い放ったアーノルドを殺気だった目で見つめ、サリエルは笑みを消して、父親エルガの刀である薔薇刀の柄を握り、切っ先をアーノルドへ向けた。
「父さんの事を侮辱すんじゃねぇ・・・この下衆野郎が・・・・」
「サリエル兄さン・・・」
強烈な殺気を全身から放つ青年を見下した様な目で睨み、アーノルドは続けた。
「フン、その化け物にでも食われちまえよ!馬鹿息子!」
「っ!」
「・・・・・そうそう、そう言えば・・・・テメェーの母親・・・サーリアは・・・テメェーが生まれたから死んだんだったなァ・・・・」
その言葉にサリエルは目を見開いた。
「テメェーを産むのは駄目だって止められていたってのに・・・フフ・・・あの女、お前を産んだんだぜ?・・・命と引き換えに。」
「!」
サリエルの胸に何かが刺さった。
そんな青年を不気味な笑みをして眺め、アーノルドは嘲笑った。
「そう、お前が母親を殺したんだ。そして、父親もな!お前さえ生まれなきゃエルガもサーリアも生きていたんだ。」
彼は驚愕な衝撃を受け、固まった。
嘲笑う男を見て、エウリアは叫んだ。
「嘘を言わないデ!!サリエル兄さンは悪くなイ!」

———————俺が・・・母さんと父さんを殺した・・・?

———————俺が生まれたから・・・・平穏な日々が破壊された・・・・?

———————俺が全て悪いのか・・・。

衝撃のあまり口を開かず、そのまま固まっている無様な青年を哂って眺め、最期に言い放った。
「・・・もしかしてだが・・・この事はエルガに聞かされて無かったのか?・・・・・・フフ、まァ、その様子だとそうらしいなァ・・・・すまねぇ、すまねぇ・・アハハハハハ。」
俯き、唇を噛み、柄を握り締めている青年を見て、エウリアは顔色を変えた。
少年の全身から負のオーラが溢れ出す。
そして——————。
牢屋を破壊し、滅神王の後頭部から生えている9本の蛇達が一斉に食い掛かった。
それを必死に暴れて回避しようとするアーノルド。
「ぎゃーっ!!来るな!来るな!あっちへ行け!!ぎゃーあああああああああ!!!」
血飛沫を上げ、一瞬の間にアーノルドは骨と化した。
その骨に吐き捨てる様にエウリアは凄みの効いた声で言い放つ。
「お前程、不細工な人間は居ない。つまり、貴様は神が創り出した失敗作だ。失敗作は処分しなくてはな。」
言い終わるとエウリアはいつもの可愛らしい少年に戻り、サリエルに駆け寄った。
「サリエル兄さン!しっかりしテ!」
泣き出しそうな声で言う少年に見向きもせず、サリエルは呟く。
「俺が・・・存在するからいけないのか・・・。俺が存在するから・・・全て無くなってしまうのか・・・・」
「違ウ!!そんなの違ウ!」
「俺が居なくなりゃァ・・・少しは世界は碌なものになるのか・・・」
「ううン!ならなイ!」
己を責める虚ろなサリエルの腕を掴み、エウリアは叫ぶ。
「サリエル兄さンは何にも悪くなイ!悪いのはボクの存在なんダ!・・・・ボクが生まれたから・・・ボクが存在するから・・・・」
そこまで言うと少年は泣き出した。

——————そう・・・何所に行ってもボクの存在は必要無い。

———————失敗作はボクだ・・・・。

———————ボクは一体何?

泣き出した少年を見、サリエルは少年の頭を撫でた。
その優しい撫でにエウリアは顔を上げた。
「サリエル兄さン・・・・」
「お前は悪くねぇ・・・・お前の存在は俺の証だ。お前は俺にとっては必要な存在だ・・・」
静かに涙を流し、撫でてくる黒紫色の髪の青年を見つめ、エウリアは返した。
「ボクだって・・・サリエル兄さンの存在はボクの証。サリエル兄さンはボクにとっては必要な存在・・・・」
言うとエウリアは笑った。
向日葵の様な笑みだった。


★ ★


エルフ族のディを連れ戻ったや否や、彼は女仲間達に目を奪われた。
「いやァ~、こんな絶世の美人達をぼくの為に用意してくれているとは!!流石は幻魔様だ!」
べたつかれてペインはディを払った。
「寄るな、気持ち悪い男だな。」
「ぼくは“気持ち悪い男”ではありません。エルフ族のディ・シィールです。」
自己紹介をするとディはペインの手を取った。
がしかし、彼女は払う。
「触るな!」
「そうです!ペイン様はガムラン王国の王女様なのですよ!無礼にも限度があります!」
ゼノもディからペインを守る様にして立ちはだかる。
そして、エルフ族の青年はペインに触れられない事が分かると、ミーシアの方へ歩み寄り、彼女の手を取る。
「貴女も綺麗ですねぇ~・・・まるで薔薇の花の様だ・・・」
当のミーシアは苦笑し、黙っている。
馴れ馴れしくミーシアに触れる青年を鋭い眼光で睨み付け、ヒルダがディの腕を掴んでミーシアから払った。
「おい、貴様。馴れ馴れしいぞ。」
払われ、ディは不満顔をした。
「酷いですねぇ~・・・ぼくは唯、綺麗な薔薇に触れただけじゃないですか。」
「それが馴れ馴れしいんだよ。」
「それに何ですか、貴方は?彼女の彼氏さんですか?」
ディに問い掛けられヒルダは口篭った。
そして、そっぽを向いて言う。
「唯の仲間だ。」
「ならば、関係無いじゃないですか。」
「関係ある!」
深緑色の髪の青年の怒鳴りに、ディは肩を竦めた。
「・・フフ、やはり、どの薔薇にも棘がありますねぇ・・・・まァ、あの女性達に触れても帰って来るのは暴言でしょうし・・・」
ディは言いながらヴェロニカとレイアを眺めた。
そして、シャクは咳払いをして幻魔に言った。
「幻魔様、お話を聞いてもらえますか?」
幻魔は頷く。
それを確認し、シャクは全てを語った。
女神に勇者だと選ばれ、異世界からやって来た事。
魔王を倒し、女神と世界を救うために戦っている事。
新たな魔王を発見した事。
それらを聞き、ギルティ達も驚愕していた。だが、誰も口を挟もうとはしなかった。
幻魔は険しい表情で全てを聞き終えると口を開いた。
「・・・うむ・・・恐れていた事が終に起こってしまった様じゃな・・・」
その言葉に女誑しの青年とお金に目が無い青年も頷く。
「その様ですねぇ・・・」
シャク達に緊張が走る。
老人はシャク達を見ると言う。
「じゃが、起きてしまった事は仕方が無い。何としても女神を救い出さねばならん。」
「はい。」
「・・・何か神の国が騒がしいとは思っておったが・・・雅か、神の国に滅神王が現れるとはな・・・そして・・・滅神王三男が復活するとは・・・」
深刻そうな声で言う幻魔に向かってヒルダが問い掛けた。
「その、滅神王三男ってのは一体何者なんだ?」
幻魔は二呼吸程置き、口を開いた。
「・・・・滅神王三兄弟の中で最強最悪の滅神王じゃ。亜奴は・・・生まれたと同時に滅界を破壊した。そして、父親である魔王も手に掛けた三男坊じゃ。」
「!」
「滅神王三男エウリアは・・・・石化させられ地上へ落とされたのじゃが・・・雅か、その封印を解いた奴がおるとは・・・・」
「厄介ですねぇ・・・」
とディ。
「倒す方法は無いんですか?」
ペインが真剣な顔をして幻魔に問うた。
しかし、当の幻魔はあまり良い顔はしなかった。
「・・・あるとは言えぬ。」
「そんな・・・」
絶望する人間達に幻魔は更なる追い討ちを掛ける様に言う。
「滅神王三男エウリアは長男ローレライと次男ヘンリとは全く異なる能力と魔力を持っておる。」
「!」
その言葉にスピオが真剣な表情で続ける。
「滅神王エウリアは魔王であり魔族でありながら光を好みます。そして、見た者を石化させる能力も備え持ち、彼の後頭部から生える蛇達は全ての属性を吸収し、扱います。」
スピオの発言を通し、シャク達の脳内は恐怖に支配された。
そんな神をも越える能力を持った魔王と戦おうなどとは無理である。
「俺のこの魔法の目を持ってすれば奴の弱点は見破れるだろう?スピオ殿。」
とラヅ。
しかし、スピオは首を横に振った。
「それは無理です。」
「何故ですか!」
「何せ、彼には弱点が無いからです。」
「!」
「弱点が無いって・・・・」
レイアも絶望する。
「そんな化け物・・・どうやって倒せば良いのよ・・・・」
「確かに・・・」
ミーシアも不安な顔をする。
そんな彼等の中から、ヒカルが声を上げた。
「幻魔様、貴方は先程、“倒す方法は無い”とは言いませんでしたよね?・・・・もしかして、あるのですか?」
「ヒカル・・・・」
とシャク。
魔法使いの問い掛けに幻魔は皆を見回して言い放った。
「これは倒す方法では無いのじゃが・・・・・・これは一種の賭けじゃ。」
「賭け・・・ですか?」
「うむ。」
頷くと、幻魔はオレンジ色の髪の毛の兄弟に視線を向けた。
「この兄弟・・・兄ディと弟スピオは幻界の最強封印師でな、彼等に封印出来ぬものは無いのじゃ。じゃから、この二人に滅神王達の封印を命じた。」
幻界の王の言葉にシャク達は驚愕した。
そんな彼等に向かってディは胸を張る。
「よって、勇者シャク達よ、この兄弟を滅界へと同行させ、滅神王の封印を手伝ってくれぬか?」
「つまり・・・護衛役ってワケか・・・」
とヒルダ。
「いや、護衛役と時間稼ぎ役ですぜ、ヒルダさん。」
オルバが言う。
シャクは幻魔の依頼を聞き、思う。
———————滅神王エウリア・・・・・。
俯き加減の赤い髪の青年に向かって幻魔が問う。
「勇者よ、出来るか?」
問い掛けられシャクは顔を上げた。
彼の目は煌いていた。
そして——————。
「はい!」
大きな返事をし、勇者は仲間達を振り返り、
「仲間が居れば、出来ます!」
と言い放った。
その宣言に仲間達は笑った。


★ ★ ★


「幻界に居るのかもね、勇者様達。」
自室でクッキーを優雅に食べながら、ローレライが呟いた。
そんな悠長な魔王に向かってカルコスが怒鳴る。
「何が“幻界に居るのかもね、勇者様達”だよ!」
何故、この様な話題が上がったのかと言うと、最近勇者達の居場所を魔物達が突き止められなくなってしまったと言う報告があったからである。
「どーすんだよ!マジで勇者達が幻魔のとこに居たら!」
「“どーすんだよ!”って言われても・・・・分かんないわよ。私だって忙しいんだから。」
「何所が?てか、遊んでない?」
「ううん、遊んでないわ。」
「俺には遊んでるにしか見えねぇーんだがな!」
カルコスの嫌味を無視し、ローレライは紅茶を飲む。
そんな魔王を見て、カルコスは溜息をつき言った。
「・・・エウリア様の能力は未だ使えないのか?」
魔王は紅茶のカップを置くと応じる。
「えぇ。」
その返答にカルコスは舌打ちをする。
「くそ、アプフェルの奴・・・エウリア様をコントロールする為に部下にならせてくれって言ったくせに・・・何にも出来てねぇーのかよ。」
唇を噛む、部下を見て、ローレライは静かに言った。
「これは難しいの。」
「難しいってな・・・」
「あの子を・・・エウリアちゃんを操作するのは難しいわ。何せ、サリエルちゃんに懐いているんだもの・・・」
ローレライはそこまで言うと言葉を一旦切り、微笑をカルコスに向けた。
「それより・・・エウリアちゃんの事より、アプフェルちゃんの事を警戒した方が良さそうよ★」
意外な魔王の発言にカルコスは眉根を寄せた。
「どう言う意味だ?ローレライ・・・・」
長男は微笑し、紅茶を一口飲むと言う。
「どう言う意味って・・・言葉通りよ。警戒しなさいって。」
「分かってるけどよ、何所で気付いたんだ?」
部下の問い掛けにローレライは笑う。
「そうねぇ~・・・・アプフェルちゃんがエウリアちゃんの部下になるって提案した時かしら?」
魔王の返答にカルコスはクッキーを頬張り、飲み込むと言う。
「俺も・・・・アプフェルを警戒しておいた方が良さそうだとは薄々感じてはいたが・・・・雅か、お前の口からそんな言葉が出て来るとはな・・・・・・・少しは魔王らしくなったな。」
「そう?」
笑う魔王を見て、カルコスは思った。
———————やはり、お前は魔王なんだな。
ローレライは紅茶を足すと、微笑する。
「アプフェルちゃんを警戒しなさいって言うのは、上司命令だからね★」


★ ★


「ごめんなさい・・・サリエル兄さンの試したい事に使うはずだった人間を殺しちゃっテ・・・・・」
エウリアはサリエルに謝った。
今、彼等が居るのは三男の部屋。
サリエルは不適に哂うと返す。
「別に良いさ。・・・・・フフ、それに・・・此処には実験材料が幾らでもある。」
この青年が試したかった事はエウリアの新しい蛇の能力だった。
一体、どんな能力を秘めているのか。
それが気になって仕方が無いのだ。
だから、アーノルドを実験材料として使うはずだったのだが・・・・。
「そうだけド・・・・」
「気にすんな。アイツは俺の玩具だっただけだから。」
「ごめんなさイ・・・・」
しょげる白髪の少年と共に9本の蛇達もしょげる。
そんな彼等を見て、サリエルは笑う。
「そんなにしょげんなよ。俺ァ何も怒っちゃいねぇーよ。」
「でもネ・・・・」
「それより、俺ァ・・・今、凄ぇー嬉しいんだ・・・」
「え?」
サリエルの意外な言葉に少年はきょとんとした顔をする。
「ボク・・・何かサリエル兄さンが喜ぶ様な事しタ?」
「あァ・・・してくれたさ・・・」
青年は言うなり、少年の頭を撫でた。
「・・・ありがとうな・・・」
その言葉がエウリアの心の中に響いた。


続く…。

2015-02-19 : 【異世界のイストワールⅠ】 : コメント : 0 :
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異世界のイストワール  第11章~幻界~  その2

~前回のあらすじ~
謎の島で幻界へのルートを探していたシャク達の前に何とギルティと猫耳の少女が魔法でやって来た。猫耳少女はギルティからシャク達の事情を全て聞き、幻界へ連れ行くと言う。


以下は続きです。


*禁断の部屋。
この部屋には先代の魔王が綴って残した書記がある。
滅界、滅神王などに関する全ての情報が眠る所謂宝庫だ。
そんな部屋の中に居る二つの影。
林檎のペロペロ飴を舐め、開いた古い本のページを捲っている白衣の人物。
そして、その人物を眺める黒い着物を纏った青年。
「・・・この部屋、凄いでしょ?・・・・此処は先代の魔王が残した情報の宝庫なんだ。」
大悪魔神官アプフェルの言葉にサリエルは不適に哂う。
「・・フフ・・・それで、何故話をする場所を此処にした?此処にはたくさん部屋があんだろう。」
「あるけどねぇ~・・・サリエルちゃんとボク二人の会話・・・他の連中に聞かれちゃ不味いでしょう?」
「・・・フフ・・・」
鼻で哂う青年にアプフェルは微笑んだ。
「それでこの部屋にしたワケさ。」
林檎の飴を舐める。
明るい物言いの神官にサリエルは妖艶な笑みを浮かべて返す。
「そうだったのか・・・・・俺ァ、てっきりこの情報の山と何かを交換するのかと思ってたんだがな・・・読みが外れたぜ。」
青年の言葉にアプフェルの表情が一瞬だけ変わった。
それを見逃さなかったサリエルは哂う。
「その表情だと御名答ってワケだな。」
「・・・・」
何も言い返せなかったアプフェルは肩を竦め、諦めた。
「大正解だよ。・・・・・・はァ~あ、全くサリエルちゃんには完敗だよ。どうして分かるの?・・・・・もしかして、サリエルちゃん・・・エスパーだったりして?」
「かもな。」
不気味に二人は哂う。
そして、漸くアプフェルは本題に入った。
「それじゃァ、ボクの狙いを話すよ。」
「あァ。」
神官は本を閉じ、飴をかりっと噛んで飲み込み、残忍な笑みを浮かべると呟いた。
「ローレライとヘンリーを殺して欲しいんだよね。」
その言葉にサリエルはおぞましい笑みを返した。

★ ★

退屈そうに積み木で遊んでいる滅神王エウリア。
大好きなサリエルを待っているのだ。
「何時戻って来るんだろう・・・・サリエル兄さン・・・」
木の城を積み木で完成させ、手で壊す。
それの繰り返し。
少年は纏っている真っ白いシーツを脱ぎ、上半身裸で立ち上がる。
皺になった真っ白いズボンを綺麗に整え、裸足でペタペタと白と黒の床を歩く。
そして、大きな窓から外を眺める。
今日も魔物達が滅界で蠢いている。
———————動く魔物達の数でも数えていればサリエル兄さン・・・・戻って来るかナ・・・。
エウリアは自分に問い掛け、数え始めた。
その時だった。
「!」
急に頭が激痛に襲われた。
視界がぼやける。
「うっ・・・!」
頭を押さえ、呻く。
記憶が戻りつつあったあの頃以上の激しい痛みが少年の弱々しい体をのた打ち回る。
石化効果のある左の赤目にも激痛が走った。
それ故、その目から赤い涙が溢れる。
「な、何故・・・・痛みが・・・・!!」
床に両膝を突き立て、床を叩く。
「ぐはっ!!」
口から真っ赤な血を吐き、床や純白のズボンを汚す。
後頭部の蛇達も暴れる。
次第に襲って来た痛みは後頭部の方へ寄って行った。
「・・あ、頭が・・・・!!」
何かが後頭部から出ようとしているのが分かる。
エウリアは目を見開く。
———————新しい・・・蛇が・・・生まれる・・・!!
そう、何かが頭の中から這いずり出て来る様な感触を味わう。
「くっ・・・・!!」
床を何度も叩き、激痛に耐える。
蛇達も悲鳴を上げながら必死に耐えている。
そして———————。


★ ★


「あれ程申したのに、又人間界へ行ったと言うのか!!」
老人の怒鳴り声が館内に響いた。
その怒声を浴び、リザは目を固く閉じる。
「何度言えば分かるのだ!!我々、幻界に暮らす者が易々と人間界へ赴いてはならないと!まったく・・・・この娘は・・・」
赤黒いローブを纏い、豪華な椅子に座っている老人を見て、シャク達は苦笑した。
今、シャク達一行が居るのは幻魔の館である。
その館に着き、幻魔の居る大広間へ辿り着いたや否や、リザに向かって怒声が掛かった。
「で、でも、幻魔様。アタシ、勇者を連れて・・・・」
「黙らんか!!全くお前と言う娘は・・・・」
目元を押さえる老人を見て、リザはギルティに囁いた。
「ほら、アンタの出番よ。」
「はァ?」
当の彼は面倒臭そうな顔をし言う。
「はァ?って、アタシ言ったわよね?お願い聞いてねって!」
「願い?そんなの知らねぇーよ。俺ァ、魔法使いじゃねぇーんだぜ?無理だろ。」
「何よ!!約束と違うじゃないの!!」
「リザ!何を言っておるのじゃ!!」
幻魔はごちゃごちゃ言う幻獣に向かって厳しい眼を向けた。
とそこへ、優しい声が背後から聞こえた。
「何を騒いでいるのですか?」
声に全員が振り返った。
その瞬間にリザは声の主を振り返り、向かって叫んだ。
「スピオ!!!」
「おや?リザお嬢さんではありませんか。」
スピオと呼ばれた———————真っ白いローブ、真っ白い靴、青い瞳、オレンジ色の長い髪の毛、少し尖った耳—————青年は微笑んだ。
「スピオ、リザにも言ってやってくれ。二度と勝手に人間界へ行くなとな。」
幻魔が悩み声で言った。
そんな主を見て、スピオと呼ばれた青年は笑う。
「アハハハハ、又、人間界へ行ったのかい?」
「うん・・・・」
「駄目だよ、勝手に独りで行っちゃ。」
「・・・・」
注意され、リザは猫耳を下げた。
そして、スピオは見かけないシャク達を見て頭を下げた。
「人間界の方ですね。・・・・・・・申し送れました、私はエルフ族のスピオ・シィールと言います。」
見かけからして18歳くらいの青年だった。
スピオの自己紹介を聞き、幻魔は人間達を一瞥し、スピオに問い掛けた。
「ディの奴は何所に居るのじゃ?」
「兄さんなら、遊女達のところに行きましたよ。」
「何じゃと!!」
「止めたんですが、無理でした。アハハハハハ。」
幻魔は盛大な溜息をつき、シャク達を見て言った。
「・・・・お主等の話は聞きたいのじゃが、そのディと言う男が居なければ話が出来ない。だから、すまないが、連れて来てくれぬか?恐らく、ディはこの館の近くにある“ファントリア”と言う町におるであろう。」
「は、はい・・・」
苦笑し、返事をするシャクにレイアは囁いた。
「何でこうなるのよ。」
「知らねぇーよ。」
ヒカルも苛立った顔をしていた。
「リザ、お前もスピオも手伝ってくれ。」
と幻魔。
その刹那——————。
「俺ァ行かねぇーぜ。面倒だしな。」
ギルティが大欠伸をして言った。
それに同意だったらしく、ヒルダもラヅもオルバもヴェロニカもペイン達も頷く。
「シャク達三人で行って来いよ。俺等は此処に居るからさ。」
「ちょっと!」
レイアは叫ぶ。
「そんな身勝手な!」
「だって、男一人連れて来るのにこんなに大人数要らないっしょ?」
とオルバ。
「それは自分も同じ。」
「俺もだ。」
ヴェロニカもラヅも言う。
そんなワケでシャク達三人はディと言う男を捜す破目になったのだった。

★ ★

けたけた笑って言うアプフェルにサリエルも不気味に哂った。
「・・・そうそう、殺して欲しいのさ。滅神王達二人をね。」
悪戯な紫色の目を煌かせて神官は言った。
そんな彼にサリエルは問う。
「何で又そんな大それた事をしようと思ったんだ?・・・フフ、元はテメェーの主だろう?」
「うん。だけどね、これは愛の裏返しって奴だよ。ボクって大好きな人程、傷付けたくなっちゃうんだよね。痛めつけて、血だらけにして、生と死の狭間を漂ってもらいたいんだ。まァ、本当はボクが殺りたいんだけどさ。」
「ふ~ん・・・なるほどな。」
「・・・ってのもあるけど、三男が兄二人を殺すって・・・凄く面白いと思わない?そう言うの一回やってみたかったんだよ。てか、滅界に三人も滅神王は要らないし。」
「だから、この全情報と引き換えにエウリアに命令しろと・・・・?」
「うん!大正解!フフん、サリエルちゃんには簡単でしょ?」
そこまで言うとアプフェルは一旦言葉を切り、飴を舐めて続けた。
「・・・だって、サリエルちゃんしかエウリア様をコントロール出来ないんだもん。」
アプフェルは古い書物の埃を払い、本を開いた。
そんな彼を哂って見つめ、サリエルが呟いた。
「・・・で、その後に・・・お前が俺を殺る・・・・か・・・・」
青年の呟きを聞き、アプフェルは笑顔を向けた。
「さァ~ね。・・・・でも、それも有りかな。その方が面白いもんね。・・・・・・・エウリア様制御人物が殺された後の暴走したエウリア様はどう世界を絶望へと叩き堕とすのか・・・・フフ、考えただけでワクワクしてきちゃった♪」
残酷な笑みを浮かべ、笑い声を上げる大悪魔神官アプフェル。
「不可視の深淵・・・・が見たいって事か・・・・」
「そう★」
明るく言い、アプフェルは付け足す。
「これを上手く成功してくれたら、ボクはエウリア様の側近且つサリエルちゃんの側近になるよ。」
「ほぅ・・・そりゃァ、楽しみだな・・・・」
哂うとサリエルは部屋から出て行こうとする。
そんな青年の背に向かってアプフェルは疑問を投げ掛けた。
「・・・でも、何でサリエルちゃんは人間なのに魔界側についたの?普通は人間なんだから勇者側につくよねぇ~・・・・」
扉前まで歩いていくと黒い青年は歩を止めた。
「それにさ、サリエルちゃんの憎悪は憎悪って言っても普通の人間が持つ様な憎悪じゃないし・・・変なの~・・・」
神官の言葉にサリエルは拳を握り締める。
そして———————。
「俺を人間界に居る人間達と同じ様に見るな。・・・・俺ァそんな人間なんかじゃねぇ・・・」
恐ろしい殺気だった口調だった。
アプフェルは得体の知れない恐怖に体が震えたのに驚いた。
———————お~怖い怖い。・・・でも、良いねぇ~・・その殺気。その憎悪!・・・・・まァ確かに、サリエルちゃんは普通の人間の様に見ない方が良さそうだねぇ~・・・。
だから、微笑を返す。
「ごめん、ごめん。そう怒らないでよ。」
青年は神官を振り返る事無く歩を進め、
「・・・・・まァ精々、派手に裏切ってくれよ・・・期待してるぜ。」
言うなり、サリエルは出て行った。
そんな彼を微笑んで見つめ、アプフェルは頷いた。

★ ★ ★

ファントリア。
そこはあらゆる幻獣達が暮らす賑やかな町。
シャク達三人とリザ、スピオはとある妖しげな店の前に辿り着いた。
「此処に多分、私の兄さんが居ると思います。」
とスピオは笑う。
そんな彼に向かってリザは言う。
「もしかして、スピオ。貴方、ディにお金か何か貰ったんじゃない?」
鋭い彼女の問いにスピオは微笑んで頬を掻いた。
「バレちゃいましたかァ~・・・アハハハハハハ」
「ったく・・・!」
リザは呆れて目元を押さえた。
「どう言う意味だ?」
今まで黙っていたヒカルが口を開いた。魔法使いの問いに猫耳少女は言った。
「スピオはお金にはてんで弱いの。」
「すみませんねぇ~・・・・」
彼の笑みにシャク達は呆れた。
———————本当に大丈夫かよ・・・・。
「・・・で、お兄さんの方は美人に弱いのね。」
とレイア。
「えぇ。」
「仕方無い人達ね・・・」
そこでシャクは思った。
———————美人に弱いんだったら、ペインを連れて来れば良かったぜ。
「まァでも、連れ戻さなきゃ。」
レイアは拳を握ると、シャクに視線を向けた。
「シャク、行ってらっしゃい。」
「はっ!?何で俺だけ!?」
急な言動にシャクは叫ぶ。
「誰もアンタだけって言ってないでしょ?ヒカルもスピオさんも行くのよ。」
「俺もかよ!」
とヒカル。
「だって、こんな店、あたし達は入れないわ。ね?リザ。」
「えぇ。」
頷き合う女子達を見てシャクは内心思う。
———————じゃァ何で付いて来たんだよ・・・・・。
「アンタ達がスピオさんのお兄さんを連れ戻している間、あたし達女の子組は町を見て回ってるから。」
「何呑気にしてんだよ!!」
とシャク。
「良いじゃない!ほら、さっさと行って!」
レイアに促され、シャク達は渋々怪しげな店へ押された。

★ ★

部屋に戻り一瞬程驚愕させられた。
サリエルは目を見開き、抱き付いて来た白髪の少年を見た。
彼のズボンに血。
床に血。
そして、後頭部からは一本見た事の無い蛇が生えていた。
銀色の艶やかな鱗と赤目をした蛇だ。
「サリエル兄さン、遅いヨ!」
エウリアは大好きな青年に抱きつき言った。
そんな少年を見、サリエルは妖艶に哂って呟いた。
「おいおい・・・・見掛け無ぇー蛇が生えてんじゃねぇーか・・・・」
「うン、新しく生えたノ。これで9本になったヨ。」
微笑んで言うエウリア。
少年から解放されるとサリエルは不気味な笑みを浮かべながら窓の方へ歩み寄り、呟いた。
「・・・なァ・・・エウリア・・・・」
「なァーに?サリエル兄さン。」
きょとんとした顔でサリエルの背中を見つめる。
返事があったのを確認すると、サリエルは笑いを浮かべたまま続けた。
「一つ試してぇー事があるんだが・・・付き合ってくれるか?」
青年の言葉にエウリアは無垢に頷いた。


★ ★


女に囲まれ、優雅にワインを飲んでいる白いタキシードを纏った19歳くらいの青年。
そんな青年の前にシャク達。
「おや?スピオじゃないか、どうして此処に?」
とワインを一口。
「さァ?」
首を傾げるスピオを遮り、シャクは言った。
「あの、貴方がディさんですよね?」
オレンジ色の髪の青年は寄り添って来る女どもの頭を撫でると頷く。
「うん、そうだよ。・・・で、君達は?」
「俺はシャク。女神様に選ばれた勇者です。で、こっちがヒカル。」
“勇者”と言う言葉にディと呼ばれた青年は顔色を変えた。
「勇者・・・?君が?」
「はい。」
「ふ~ん・・・・随分と頼り無い勇者だねぇ。」
「っ!」
ディは不適に哂うと立ち上がった。そんな客に遊女どもは引き止める。
「ディ様!」
「ごめんねぇ。ちょっと仕事が入ったみたいでさ。・・・フフ、その仕事が終わったらいっぱい遊んであげるから。」
青年は遊女達に言い放つと、シャク達に向き直って言った。
「ぼくを仲間にするには相当な美人さんが必要だけど、君達、持ってるの?」
その言葉にシャクは絶句した。


続く…。

2015-02-17 : 【異世界のイストワールⅠ】 : コメント : 0 :
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異世界のイストワール  第11章~幻界~  その1

~前回のあらすじ~
謎の島で“幻界”への道を探していたシャク達の前にギルティが謎の少女を連れて魔法でやって来た。何と、その少女は“幻界”から来た言うのであったが——————。


以下は続きです。


第11章~幻界~


*「アタシはリザ・スティーラ。幻獣よ。」
そう言う黒いフリル付きビスチェを纏った彼女は猫耳と尻尾を動かした。
「“幻界”から来たの。」
その発言に皆が驚かされた。
“幻界”と言えば今将にシャク達が必死に探している場所ではないか。
「“幻界”・・・・から・・・来たのか?」
とシャク。
「えぇ。てか、貴女達、“幻界”に行きたいんでしょ?」
「何でその事を知っている?」
ヒルダが割って入ってきた。
鋭い視線を向ける青年にリザは応じる。
「何でって、この怠け者が話してくれたのよ。・・・・・まぁ、事情は全て分かったわ。きっと、幻魔様もお力を貸して下さると思うわ。」
言うと彼女は少し真剣な顔をする。
「それじゃァ、今すぐにでも“幻界”へ行きましょう!!」
促し、魔法を唱えようとする彼女に向かってレイアが叫んだ。
「ちょっと、あたし達名前も名乗ってないのよ!」
だが——————。
「そんな事してる暇なんて無いわ!自己紹介なんてあっちに着いてからでも出来るわよ!」
叫び返した彼女は魔法を詠唱すべく集中し始めた。

★ ★

滅界中に広まった。
滅神王エウリアが記憶を取り戻し、復活なさったと。
そのおかげで魔王軍は遥かに戦力を高めた。
だがしかし、ヘンリとしては未だエウリアを我が手中に収められない事が腹立だしい事この上無いらしい。
ヘンリは廊下をリンネルと歩きながら思案顔をする。
そんな主を眺め、無表情でリンネルは問い掛ける。
「エウリア様の事で御座いましょうか?」
「あぁ・・・・・・兄としてどうしてもあいつをコントロール出来ないと言う事に腹が立つのだ。」
ヘンリは眼鏡を押し上げ、不機嫌そうな顔をして続けた。
「それに・・・・アプフェルがエウリアの側近に自らなると言い出すとは予想外だったのだ。」
「私もです。・・・・・・・ですが、私自身、アプフェルさんを手放して欲しくは無かったのです。」
リンネルは虚ろな目をして言い放った。
そんな彼女の発言に同感し、ヘンリも頷く。
「出来れば俺もそうはしたくなかったのだ。・・・・亜奴は何を考えているのか分からないからな。そして、奴は自分が面白いと思う方へ付く癖があるのでな・・・・」
「おっしゃる通りで御座います。私もそれを疑っていました故・・・・・もし、ヘンリ様に危害を加える様であれば、同僚とは言え・・・アプフェルさんでも斬り捨てなくてはなりません・・・・・・・ヘンリ様のお命を護るのは私の役目ですから。」
静かに言う彼女の顔を横目で一瞥し、ヘンリは少し安堵した。
——————リンネル・・・。
だから、強く言う。
「俺は滅神王として滅界を護る心算だ。勿論、部下も全てだ。だから、リンネル、お前は・・・・」
「ヘンリ様。貴方様とローレライ様は滅界の核で御座います。故に、危険を冒されるのはどうかと思うのです。」
「しかしだな・・・核とは言えども俺は魔王・・・滅神王なのだ。魔王は・・・・王は国を守るのが・・・・」
「死んでしまっては元も子もないのです。だから、ヘンリ様は私が御守りします。」
「リンネル・・・・」
少女は一旦言葉を切ると二呼吸程後に続けた。
「ヘンリ様を御守りすると言う私の使命は絶対に破られる事は御座いません。」
部下の言葉は深くヘンリに響いた。



新しく用意された滅神王三男エウリアの部屋。
真っ白な家具ばかりが設置してある。
綺麗で大きな窓達に真っ白なカーテン。
そして、黒と白の床と積み木。
「新しく用意させて貰ったんですよ。どうです?お気に召しましたか?」
愛想良く話し掛けてくる大悪魔神官アプフェルにエウリアは微笑んで頷く。
「うン、此処ならサリエル兄さンと過ごせるヨ。ありがとう、アプフェル。」
「ありがたきお言葉です。」
と彼は頭を下げる。
しかし、そんな神官にサリエルは妖艶な笑みを浮かべ、声を掛ける。
「アプフェルとか言ったな・・・・」
「はい、何で御座いましょう?」
笑い掛けてくる神官にサリエルは不適な笑みを見せて言う。
「・・・話したい事がある。」
「それは奇遇ですねぇ。実はボクもなんですよ。・・・・今からしますか?でしたら、お話しますが?」
「あァ。」
「では。」
アプフェルは哂う青年を話の出来る場所へ案内するべくエウリアの部屋の扉を開ける。
部屋を出て行こうとするサリエルの真っ黒い着物の裾を掴み、白髪の少年は悲しい顔をして訴える。
「サリエル兄さン、何所行くノ?」
「少しコイツと話がしたいだけだ。部屋に居ろ。」
「嫌だ、ボクも付いて行くヨ。」
泣きそうな顔で言う魔王にアプフェルは微笑んだ。
「大丈夫ですよ、エウリア様。サリエル様はすぐに帰って来ますから。」
「嫌だ、ボクはサリエル兄さンと一緒に居たいんダ。」
破れるくらい着物の裾を引っ張る少年を眺め、サリエルは不適に哂う。
「ありゃりゃァ、それは困りましたねぇ。(これは時間かかるかも・・・)」
とアプフェル。
「独りにしないデ・・・・」
しがみ付く少年に向き直り、サリエルは頭を撫でた。そして、心地良い声で語り掛ける。
「良い子で待ってろ。すぐに戻って来る。」
頭を撫でられ、エウリアは半泣き状態で頷くと裾を手放した。
そして、出て行くサリエルを見送る。
扉が閉まった。
独り部屋に取り残された魔王は寄り添って来た蛇達の頭を撫で囁く。
「“すぐに戻って来る”・・・だっテ・・・」

★ ★

淡いオレンジ色の雲と綺麗な水色の空の下。
異空間とも言うべきそこにはタコの足の様にうねった大陸と汚い緑色の海が広がっていた。
そんな大地に降り立ったシャク達は驚く。
見たことの無い世界に目が蠢く。
「あそこ・・・・あの先にある大きな屋敷が“幻魔様”のお屋敷なの。急ぎましょう!えっと・・・・」
リザは名前の分からないシャク達を見回し、苦笑した。
「名前・・・教えて。」
少し抜けたところのある彼女の言葉に全員は名を名乗った。
「それじゃァ、勇者一行!“幻魔様”がいらっしゃるお屋敷に行くわよ!!」
猫耳少女の促しにシャクは肩を竦めた。

★ ★

豪華な大広間に呼ばれた青年二人。
「幻魔様、ぼく達を此処へ呼んで何をなさる心算ですか?ぼくは暇じゃないんですよ。」
と純白のタキシードを纏ったオレンジ色の髪の青年。
そんな青年に向かって真っ白いローブを纏い、オレンジ色の長い髪の毛をしている青年は微笑む。
「まァ、そんな事言わずに。兄さんだって幻魔様の為に働けるの嬉しいでしょ?」
「いいや。ぼくは美しい女性の為に働きたいのさ!・・・こんな年老いた老人の為なんかに働きたくはないよ。」
肩を竦めて言う青年に側近の幻獣達が牙を向く。
「貴様!!偉大な幻魔様に向かって何と失礼な言葉を!!」
「如何に“最強の封印師”と言えど限度があるだろう!!!」
怒鳴ってくる輩に青年は溜息をついた。
「相変わらず五月蠅いですねぇ~・・・封印しますよ?」
「何を!!」
見兼ねた幻魔は盛大な溜息を吐き、制した。
「こんな時に口論をするでない。」
「しかし!!」
幻魔に制され、幻獣達は下がった。
それを確認すると幻魔は口を開く。
「幻界最強の封印師の兄弟よ。お前達に頼みたい事がある。」
老人は赤黒いフードの下で目を光らせた。

★ ★

草木が覆い茂る道を只管歩き、シャク達は幻魔の館を目指す。
「・・・・・それにしても・・・滅神王三兄弟の三男が復活するなんてねぇ・・・最悪だわ。」
リザは悩み顔で呟いた。
そんな彼女に向かってヒルダが問う。
「知っているのか?」
「えぇ・・・・でもまぁ、アタシの場合は幻界図書館で読んだ事があるってだけだけど。」
これまでの事を全て彼女に話したシャク達は俯く。
猫耳少女の言葉にペインが真剣な表情で問う。
「その三男とやらがどれ程強いのか分かるか?」
「ううん・・・・・強さは未だ未知数よ。誰にも知られていない・・・幻魔様だって知っていないわ。・・・・・・でも・・・三兄弟の中で一番強いのは確かね。」
「そうか・・・」
「今のシャク達全員の強さでは絶対に無理でしょうね。」
「っ!」
リザの言葉に全員が固まった。
そして、続ける。
「・・・・まァでも・・・勇者は奇跡を起こすからね、私は信じてるの。この世界は救われるってね。」
「リザ・・・」
「それに、その三男に対抗するくらいの助っ人も居るし。」
「助っ人?」
とシャク。
「そんなに強い人が居るのか、リザ殿。」
ラヅも驚く。
「余程の剣使いか、或いは・・・勇者くらいのステータスを持っているかだな・・・」
紅梅色の青年にリザは苦笑し、手を横に振る。
「違うわよ。全くもってあの人達は強くないわよ。剣も使えない、防御力だって無いんだから。強いて良い所は・・・回復魔法が唱えられるってとこだけかしらね。」
「でも、アンタは“三男に対抗するくらいの助っ人”って言ったじゃんか。」
ヴェロニカが口を挟む。
それに応じてヒルダも口を開く。
「それのどこが“三男に対抗するくらいの助っ人”なんだよ。全然違ぇーだろ。」
「まるでヒルダさんみてぇーじゃないっすか。」
とオルバ。
「何だと貴様!」
血管を浮かばせヒルダが怒鳴る。
からかったオルバに向かってミーシアが頬を膨らませて言った。
「オルバさん!ヒルダさんは強いんですよ。私知ってるんですから!」
怒られ栗色の髪の青年は黙る。
そんな彼を見てヴェロニカが笑う。
「怒られてやんの!!ふふ、ダサぇー!!」
「まな板女・・・・」
オルバは腰の鞭を掴んだ。それを見てヴェロニカも剣の柄を握る。
「殺んのか?」
「止めろ、二人共。此処で喧嘩をするでない。」
とラヅ。
ヒルダも溜息をついて言う。
「幼児か、お前ぇー等は。」
今にも一戦交えそうな勢いの二人を眺め、シャク達は呆れた。
「又、やんの?」
レイアが呟く。
「さァーな・・・」
しかし、オルバは鞭から手を放すと鼻で笑った。
「絶対ぇ、殺ってやるからな、ヴェロニカ。覚悟しとけよ。」
彼女も剣から手を放すと言う。
「お前が覚悟しとけ。次は年貢を納めてもらうからな、オルバ。」
仲が良いのか悪いのか分からない二人を見て、リザは溜息をついた。
一方で、ギルティはと言うと、彼はいつもより暗い表情をしていた。
そんな彼を見てシャクは問い掛けた。
「どうしたんですか?・・・ギルティさん・・・」
声を掛けられギルティは淡い水色の頭を掻き、息を吐いた。
「何でもねぇーよ。」
「何でもねぇーよって・・・暗いじゃないですか・・・」
「別に俺ァ暗くねぇーよ。」
心配そうな勇者の言葉に全員がギルティを見る。
「確かに。ギルティさんっていつも明るいのに・・・」
とレイア。
「そうじゃねぇ。エータイ(いつも)馬鹿みてぇーに明るいのにな。つーか、そげんな(そんな)面なんざァ見せねぇーよな。」
ヴェロニカも呆れた様な顔をして呟く。
「俺だってギルの旦那のそんな面はあんまし見ねぇーな。」
オルバも言う。
口々に言う仲間に向かってギルティは急に叫んだ。
「五月蠅ぇー!!俺だって毎日馬鹿みてぇーに呑気に過ごしてねぇーよ!ちゃんと喜怒哀楽使ってんだよ!」
叫んだものの彼はすぐに顔を暗くした。
吐息をつく。
シャクはそんなギルティを眺め、思う。
———————きっと、サリエルさんの事だな・・・・。
ニルバーナでは壮絶な出来事があった。
あれだけ平和に暮らしていた村であったのに残酷な出来事が生じてしまった。
それを思い出す度に胸が酷く抉られる。
恐らく、ギルティはその事をずっと胸に秘めているのだろう。
だから、シャクは口を開く。
「大丈夫ですよ、ギルティさん。」
赤い髪の青年の言葉にギルティは顔を向けた。
「何が?」
「きっと、救い出せます。此処に居る皆で力を合わせれば。」
「そうよ。」
シャクに続けてレイアも同意する。横では全員が頷いている。
そんな彼等を見、ギルティは不適に笑う。
「・・フフ、そうだと良いな。・・・・・でも、アイツは、一筋縄じゃァいかねぇーぜ。」
——————そう・・・アイツはそう言う男だ。
いつもより弱々しい青年をシャクは見つめる。
「一筋縄でいかなければ、二筋縄で。二筋縄でいかなければ、三筋縄で。それで駄目ならそれ以上でいきます。」
とシャクは宣言する。
「俺は諦めない。」
異世界から来た青年の言葉にギルティはいつもの怠惰な笑みを取り戻した。




続く…。
2015-02-16 : 【異世界のイストワールⅠ】 : コメント : 0 :
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番外編で使用した<惚れ薬>と<霊薬エリクサ>の作り方

いやぁ~・・・・バレンタインデーが過ぎたな。
だからか知んねぇーけど、店行ったら、バレンタインデー用の広間が空になってたよ。
そのせいで、
「踊り場や!!」
って叫んでしまった。


さてさて、魔界側パロディー編のバレンタインデーは如何だったでしょうか?
俺としては、今までに無い過激な話だった様に思えるのだが・・・・・(=正直言って、恥ずかしかった・・・)
随分とまぁ、ヘンリのキャラが崩壊していたな。
次の行事は<ホワイトデー>だな。
これがどんな話になるかは未だ分からないが、てか、怖い。
そこで、今日は番外編に出て来た<惚れ薬>と<霊薬エリクサ>の作り方を紹介しようじゃないか。
あ、でも、実際、俺やったことないから保証はしないぜ。
やっても自己責任でお願いします。




<イシュタルの秘密の惚れ薬>
◎材料
バニラビーンズ・・・6個
赤い薔薇の花弁・・・6枚
シナモン・スティック・・・1本
お湯・・・適量


◎作り方
①金曜日の深夜にお湯を沸かし、バニラビーンズと赤い薔薇の花弁を入れる。

②それをシナモン・スティックで掻き混ぜながら、「サチュロス・ヴォルグ・ギルブ」と唱える。

③煮詰まったら全て取り出し、液体を瓶に詰める。

④液体を体(首、腕‥)に塗ればOK.

※この薬は匂いがすぐになくなってしまうので、使用期間は凄く短い。なので、ご使用はお早めに。





<オレンジの媚薬>
◎材料
蜂蜜・・・ひとさじ
シナモンの粉末・・・少々
グローブの粉末・・・少々
カルダモンの粉末・・・少々
ナツメグの粉末・・・少々
松の実の粉末・・・少々
オレンジジュース・・・1カップ
麝香エキス・・・一滴


◎作り方
①全ての材料(蜂蜜~松の実の粉末)をオレンジジュースの中に入れて混ぜ、最後に麝香エキスを垂らして完成。

②後は相手に飲ませる。






<ジプシーの薬>
◎材料
ミネラルウォーター(分量は好みで)
赤ワイン(分量は好みで)
ナツメグ
フェンネル・・・3粒
シナモン・・・一つまみ


◎作り方
①ミネラルウォーターとその同量の赤ワインを混ぜる。これを鍋にかけて沸騰過ぎない様にしながら、ナツメグを削ったものをほんの少し、フェンネルをほんの3粒、シナモンを一つまみだけ加える。

②右回りに掻き混ぜながら、好きな人の事を想い浮かべ、名前を唱え続ける。十分に相手への想いが高まったら、その液体を布でこして、瓶に入れておく。
※この作業は決して誰にも見られてはならない。

③後は好きな異性を呼んで、お茶に混ぜるとか、何かに混ぜるとかして飲ませる。
※しかし、入れるのは<一滴>だけ!→決して<一滴>以上は駄目!
※相手が口にしたのを見たら、液体は夜の間に庭の土に流してしまうこと!




<白の媚薬>
◎材料
オレンジジュース・・・100cc
赤ワイン・・・小匙1
ラズベリージャム・・・小匙2
塩・・・少々


◎作り方
①赤ワインから順番にオレンジジュースの中に入れる。そして、混ぜる。

②混ぜたら、それを先ずは三口飲む。但し、三口飲んだ後は下記の呪文をそれぞれ唱える。
・一口飲んだら、「ビーナスキューピッド、エロスよ、友よ。」
・二口飲んだら、「貴方の助けを、私の願いを叶えたまえ。」
・三口飲んだら、「我が愛、真実の愛を貴方に、我が愛する人に私を与えたまえ。」

③唱え、残った液体は四口目に全て飲み干す。



★ ★ ★


<霊薬エリクサ>
◎材料
アロエ・・・13g
ルバーブ・・・2.3g
リンドウ・・・2.3g
白ウコン・・・2.3g
スペインサフラン・・・2.3g
水・・・114ml
蒸留酒(ウォッカ、ジン)・・・240ml


◎作り方
①アロエを搾り、汁を出す。

②ルバーブ、リンドウ、スペインサフランを細かく砕き、アロエの液と混ぜる。

③これに水と蒸留酒を混ぜ合わせ、3日間放置する。この時、薬効成分が沈殿しない様に頻繁にシェイクする。

④一度、濾過して使用。



★ ★


ってなワケだ。(=番外編の方は、材料名を魔界らしくアレンジしたけど・・・・)
まぁ、実際効き目があんのかは知んねぇーけど、やってみる価値はあんじゃね?
俺的には香水みたいなタイプが良いな。(=いや、作らないけど。使用しないけど。)
だってさ、飲ませるのとかは何か怖いじゃん。
「魔女」みたいでさ。

・・・・・で、今日は変なレシピを紹介したワケだが、これからも「良いんじゃね?」って思うレシピはじゃんじゃん紹介していく心算だ。
では、又、小説の方でお会いしましょーや。
じゃあ、また今度。




2015-02-15 : 日記 : コメント : 0 :
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異世界のイストワール  魔界側パロディー編~危ないバレンタインデー~

◎当パロディーは本編とは全く関係が御座いません。

※字抜けや字間違いをしているかもしれませんが勘弁してください。


*2月14日。
朝。
と言っても滅界を照らす綺麗な太陽は無い。
いつも暗雲と雷鳴があるだけ。
滅界の朝はその暗雲が少し明るくなるだけなのだ。

そんな朝。
廊下を歩く一つの影があった。
コツコツと靴音を響かせ、白衣を纏っている小さな影。
兄に似て青黒い髪をした少女は無表情で歩いていた。
すれ違う下っ端の魔物達に挨拶をされ、無表情で返す。
彼女—————リンネルが向かっている先はキッチン。
理由はご存知の通り、今日は“バレンタインデー”だからである。
いや、リンネルが単独で何かを作ろうとしてキッチンへ向かってるわけではない。
誘われたのだ。
とある人物に——————。

そうこうしている間にリンネルはキッチンへ辿り着き、中に入った。
居たのはいつもの二人と一人。
紳士服の上からフリル付きピンク色のエプロンを纏った滅神王長男ローレライ。
林檎の飴を舐めている、白衣姿の大悪魔神官アプフェル。
赤い眼鏡をかけ、白衣姿の研究員キルラー。
キッチンへやって来たリンネルを見るや否やローレライは微笑んだ。
「リンちゃん、来てくれたのね♪」
そんな魔王にリンネルは無表情で返す。
「はい。ローレライ様のご命令とあらば、何所にでも参ります。」
「相変わらず真面目だねぇ~、リンネルは。」
とアプフェル。
「リンちゃん可愛い!!★」
キルラーはリンネルを見て呟く。
当の彼女はやはり何を言われても無だった。
とそこへ、ローレライが手を合わせて明るく言った。
「さァっ!今日は“バレンタインデー”よ!!張り切ってチョコを作るわよ♪」
「おー!!」
アプフェルとキルラーが笑顔で拳を上げる。
しかし、リンネルは無のまま。
「・・・・それはそうと、リンちゃん、“バレンタインデー”で誰かにチョコ贈った事あるかしら?」
魔王は無口な部下に優しく問い掛けた。
「無いです。」
「それじゃァ、恋をした事はあるかしら?」
「恋・・・ですか?」
聞き返すリンネルにキルラーが言う。
「あるんじゃないですか★?」
「そうだよ!リンネルって顔に出さないだけで誰か好きな人とか居るでしょ!!」
笑顔で言い放つアプフェルにリンネルは又しても無で応える。
「居ないです。私は誰に対しても“無”です。命令以外の行為は致しません。」
「ヘンリーの事とか好きじゃないの?」
「好きと言うよりか非常に尊敬しています。」
「へぇ~・・・・」
アプフェルは悪戯な目をし、飴を舐めた。
そして———————。
「キルちゃんは誰にあげるの?」
問われてキルラーは鼻息を荒くして言い放った。
「勿論、皆にですけど!!!ローレライ様にもあげますよ!!」
「きゃ、嬉しい♪・・・実は私もあげようと思ってたの♪」
「本当っすか!!」
「えぇ。・・・だって、みんな大好きなんですもの♪」
笑い合う二人を無表情で眺め、リンネルは思う。
———————“好き”と言う感情・・・・いやはや、分からない世界です。どうすれば、“好き”だと言う感情が芽生えるのか・・・・やはり、分からないのです。
「ボクもみんなの事好きだからみんなに友チョコをあげるんだ!!」
アプフェルも言う。
「・・・で、リンちゃんは一体誰にあげるの?」
「渡す心算は毛頭御座ませんが、チョコレートを作り、誰かに渡せと言うご命令であれば渡しますが・・・・」
とリンネル。
そんな彼女の返答に三人は顔を見合わせる。
そして、苦笑してローレライは言う。
「これは命令してどうとかそう言うものじゃないのよ。“バレンタインデー”って言うのは自分の意志で動かないと駄目よ。」
「そうっすよ!」
キルラーも大きく頷く。

——————自分の意志・・・・・・。

リンネルは虚ろな目をして、三人を眺めた。
「もっと、感情を出してさ。自分に素直で居なきゃ駄目よ。ほら、リンちゃんは女の子なんだし!勿体無いわよ★」
「そうっすよ!」

———————自分に素直・・・・・・。

ずっと黙っている少女を見て、悲しげな顔をしてローレライは付け足した。
「・・・ま、まァ・・・どうしても“バレンタインデー”に参加したくないなら・・・仕方無いけど・・・・私としてはリンちゃんにも参加して欲しかったから誘ったんだけど・・・・」
そんな魔王を無で見つめ、数分後にリンネルは口を開いた。
「・・・・・・・・・参加してみます。上手く出来るかどうかは定かではありませんが。」
彼女の意外な返答にキッチンに居た三人は驚愕の表情を浮かべた。
雅か、リンネルがその様な反応を返すとは思っていなかったからだろう。
「ですが、私の場合は“好き”と言う感情が分からないので、“尊敬”と言う形で“バレンタインデー”を過ごします。」
冷静且つ、無感情の声で言う少女に呆然としていたローレライであったが、我に返り手を叩いた。
「それは良い考えね★・・・それだったら貰った人も嬉しいわ♪」
「そうだねぇ~♪」
とアプフェル。
「それじゃァ、早速、“バレンタインデー”クッキングを始めるわよ!!!」
「おー!!!」
「お、お・・・・」
明るく言う三人の後に続きリンネルの声が響いた。


★ ★ ★

落ち着いた自室に籠り、パソコンと格闘している人物が居る。
深緑色のネクタイを引き締め、盛大な溜息をつく。
——————どうにかして、俺の絶望的な機械音痴を直さねばならないのだな・・・・。
ヘンリはブラックコーヒーを一口飲む。
この苦さが心地良い。
一先ず、パソコンを閉じ、ヘンリは伸びをしカレンダーを見た。
———————今日は2月14日・・・か・・・・・。
そう内心呟き、カレンダーから目を外して、一息つくとパソコンへと視線を突き刺した。


★ ★ ★


キッチン内に甘い匂いが漂い始めていた。
チョコレートの甘ったるい匂いが体全体を支配する。
その頃、大悪魔神官アプフェルは林檎を取りに庭へ出かけて行った。
ローレライはバレンタインデーのチョコを作るべく、刻んだチョコレートを溶かしている。
「チョコレートの匂いって何でこんなに良い匂いなのかしら♪」
「何ででしょうねぇ~★」
とキルラー。
当の彼女はケーキトリュフを作っている。

<ケーキトリュフ>→約25個~30個分
◎材料
スイートチョコレート・・・40g
カステラ・・・130g
アーモンドパウダー・・・60g
クルミ・・・20g
レーズン・・・20g
ラム酒・・・大匙2
生クリーム・・・25cc

○コーティング用チョコレート
スイートチョコレート・・・300g
ホワイトチョコレート・・・適量

◎作り方
①天板にオーブンシートを敷き、アーモンドパウダーを一面に広げる。170度に温めたオーブンで約8分焼く。同様にしてオーブンペーパーを敷いた天板にクルミを広げ、160度に温めてオーブンで約6分焼く。粗熱が取れたら包丁で粗く砕く。

②スイートチョコレートを細かく刻み、ボウルに入れる。その他の材料も全て加え、ゴムベラなどでしっとりなるまで混ぜる。

③②を一口大の俵型に手でまとめ、バットも並べる。ラップを被せ、冷蔵庫で冷やし落ち着かせる。

④コーティング用のスイートチョコレートを細かく刻み、湯せんにかけて滑らかに溶かす。③を一つ一つフォークなどに載せて潜らせ、オーブンペーパーを敷いた台の上に載せる。冷蔵庫に入れて、表面がしっかりと固まるまで冷やす。

⑤ホワイトチョコレートを細かく刻んで湯せんにかけて溶かす。コルネ袋に入れ、④の上に線状に細かく絞り出し、再び冷蔵庫に入れて冷やす。





一方、大悪魔神官リンネルはと言うと———————。
焼けた生地をオーブンから取り出し、竹串を刺している。
「出来上がったの?」
とローレライ。
リンネルは無表情で返事をする。
「はい。“コーヒー味のスポンジケーキ”が出来ました。」


<コーヒー味のスポンジケーキ>
◎材料
卵・・・2個
砂糖・・・70g
小麦粉・・・70g
無塩バター・・・20g
牛乳・・・10cc
インスタントコーヒー・・・7g
お湯・・・10cc

◎作り方
①小麦粉は振るっておく。無塩バターと牛乳は湯せんで温め、バターを溶かす。

②ボウルに卵を入れて軽く解し、砂糖を加えて湯せんにかけ混ぜる。人肌位になったら湯せんから外す。

③リボン状になるまで泡立て、仕上げにキメを整えるために低速で泡立てる。

④小麦粉を振るい入れゴムベラで泡を潰さない様に混ぜる。

⑤溶かしたバターと牛乳をゴムベラに添わせる様にして加え、更に混ぜる。

⑥お湯で溶いたインスタントコーヒーを加えて混ぜる。オーブンを180度に温めておく。

⑦型に流し入れ、トントンと空気抜きをする。

⑧オーブンに入れて、180度で16分焼く。竹串を刺して何も付いてこなければ完成。






彼女の作ったものを見ようと魔王と研究員が覗く。
茶色く綺麗に焼けている。
「上手く出来たわねぇ~♪凄いわ★」
とローレライ。
魔王の賞賛にキルラーも大きく頷く。
そして、リンネルに問い掛ける。
「・・・で、リンちゃん先輩は何を作る心算なんですか?」
リンネルはコーヒー味のスポンジケーキを丁寧に取り出し、皿の上に載せると答える。
「“ティラミス”です。」
「へぇ~★それで、ティラミスの為にコーヒー味のスポンジケーキを作ってたんすか★」
キルラーの言葉にリンネルは頷く。
「どうしてなの?“バレンタインデー”は大体甘いチョコレートじゃなくって?」
ローレライは不思議そうな顔をして言う。
そんな魔王にリンネルは洗い物をしながら返した。
「ヘンリ様はあまり甘い物がお好きではありませんので、あまり甘さの無い‘ティラミス’にした次第です。」
「そうだったわねぇ~、ヘンリーってば甘い物好きじゃなかったわよね。忘れてたわ。」
「そして、他の皆様には生チョコを差し上げたいのです。」
とリンネルは続けた。
彼女の考えに二人は感心させられた。
あまり甘い物を好まない上司の事を思い、苦味の効いているティラミスを選択し、その他は甘さのあるチョコを選択しても良いと言う部下の考え。
何と人の事を思っている女の子ではないか。
「カル兄さんのは猛烈に甘い物を作ってあげれば良いのです。」
「そうね。」
喋りながら手を動かし、リンネルはティラミスを作るべく材料を揃える。そして、作り方を書いたメモを眺める。




<本格的なティラミス>
◎材料
マルカポーネ・・・250g
卵黄・・・2個
グラニュー糖・・・60g
牛乳・・・60cc
生クリーム・・・100cc
ゼラチン・・・5g
水・・・30cc
カルーア(コーヒーリキュール)・・・小さじ2
エソプレッソコーヒー・・・60cc
ジェノワーズ・オ・カフェ(コーヒー味のスポンジケーキ)・・・スライス厚さ1㎝を2枚
ココアパウダー・・・適量
ミント・・・好み

◎作り方
①マスカルポーネは室温に戻し、ゴムベラで練っておく。ゼラチンは水でふやかしておく。

②卵黄とグラニュー糖の3分の2を加え、泡だて器でもったりするまで混ぜる。鍋に牛乳を入れて沸騰直前まで温めてゼラチンを入れて溶かす。

③卵黄のボウルにゼラチンを溶かした牛乳を加えて混ぜ、滑らかになったらこし器を使い、マスカルポーネに加えて練らない様に混ぜる。

④生クリームに残りのグラニュー糖を加え、9分立てにし、マスカルポーネに加える。泡を潰さない様にしっかり混ぜる。

⑤ジェノワーズ・オ・カフェをカップに合わせて抜き、底に敷く。エソプレッソコーヒーにカルーアを加えてシロップを塗る。

⑥その上にマスカルポーネクリームを載せ、⑤⑥⑤⑥の繰り返し。

⑦最後にパウダーとミントを載せる。





「出来ました。これでヘンリ様にいつでもお渡し出来ます。」
とリンネル。
そして、出来たティラミスを冷蔵庫へ入れて、洗い物をする。
そんな無少女を眺め、二人は呆然とする。
この子のする事は早い。
リンネルと言う大悪魔神官はその言葉一つで片付く。


★ ★ ★ ★


‘キャー!’と言う興奮した女子の悲鳴とノック音。
それ等に苛立ち、ヘンリは眼鏡を押し上げる。
———————全く・・・何なのだ、一体・・・!
立ち上がり、扉を開ける為に歩を進める。
———————自棄に騒がしい・・・・何故だ?
ドアノブを掴み、扉を開ける。

ガチャン!

「何なのだ、一体!今俺は忙し・・・・」
「ヘンリ様!!!」
「キャー!!ヘンリ様よ!!」
「ヘンリ様!!」
滅神王次男の部屋の前に集まった女型の魔物達————————ドラキュラレディ、ラミア等の露出度の多い——————は一斉に手に持っているラッピング付きの箱をヘンリに差し出す。
「ヘンリ様、受け取って下さい!!!」
「心を込めて作ったんです!!」
「受け取って下さい!!」
「私のも受け取って!!」
「アタシのが先よ!!」
ヘンリは目の前に群がる女型の魔物どもと桃色やハート型の箱を眺め、眉根を寄せる。
———————何故、俺の部屋の前に女型の魔物どもが居るのだ?そして、何だあの桃色の箱は!ハート型は!!何故、それを俺が受け取らねばならないのだ?・・・・・ま、雅か!
何か嫌な予感がした魔王は咳払いし、ヒートしている場を鎮めた。
「おい、お前等。」
「はい!!!」
ヘンリが発した言葉は自分の物だと言う雰囲気を纏わり付かせ、魔物どもは目を輝かせた。
「一体、何なのだ?何故、俺にその得体の知れない箱を渡す?しかも、何故俺なのだ?俺はそんな罠っぽい箱は貰わないぞ。」
魔王の発言に集まった魔物達は一瞬固まったが、微笑み応じる。
「ヘンリ様、今日は女の子の恒例行事、“バレンタインデー”ですよ。」
「そうですよ!“バレンタインデー”ですって!!」
魔物どもの返答にヘンリは目を点にする。
「ば、ばれんたいんでー・・・・?」
「はい。今日は2月14日でしょう?」
「・・・あ、あぁ・・・その様だが・・・・」
「2月14日は女の子にとっては特別な日なんですよ。」
「好きな人に想いを告げる大切な日なんです。」
集まっている大勢の女型の魔物どもの言葉にヘンリは呆然とする。
———————“バレンタインデー”・・・・だと・・?何だ、それは!・・・・それに・・何だ?好きな人に想いを告げる大切な日だと?俺はそんな日なんぞ知らないし、興味など無い。
「ヘンリ様、もしかしてご存知なかったんですか?」
「でも、知ってなかったヘンリ様って超可愛いわよね♪」
「確かに!!」
盛り上がる部下達を眺め、当の彼は眼鏡を押し上げて言った。
「・・・い、いや、知っていた。知らない事は・・・決して無い。」
「まぁ~ですよねぇ★」
魔物どもは笑うと、一斉にピンク色の箱を手渡そうとする。
「だから、ヘンリ様!!私の想いを受け取って下さい!!」
「私もです!!」
「これも!」
「是非、受け取って下さい!!てか、好きです!」
「大好きです!!」
犇き合う、女どもに押され、服を引っ張られ、ヘンリは朝から悲惨な攻撃を受けた。


★ ★ ★


カルコスやその他諸々の部下達にバレンタインデーのチョコを配る為、ローレライ、リンネル、キルラーの三人は皆で生チョコを作る事にしたのであった。
「・・・ってなワケで、この私が創った“惚れ薬”は全く効果が無かったんですよ★」
笑って言う研究員キルラーの話を無表情で聞くリンネル。
キルラー曰く、彼女は魔王軍の武力を高める為に“惚れ薬”作り出したらしいのだ。そして、実際にその薬が効果を発揮しなけらばならないので、カルコスに実験して結果を報告しに来いと言われ、キルラーはとある部下を実験材料に“惚れ薬”を使用してみた。
しかし、彼女の創った薬は何の効果も無かったらしい。大量に薬を飲ませても、何時間経っても効果は発揮されない。
仕方無く、キルラーはカルコスに報告した。結果が悪く、彼女の“惚れ薬”作戦は無しとなった。
「それで、この“惚れ薬”は無駄になってしまったのです★」
「可哀想に・・・」
とローレライ。
だが、キルラーは笑った。
「それでなんですがね、この“惚れ薬”、匂いが凄く良いんですよ!・・・で、この何の効果も無い液体を生チョコの中に入れてはどうですかね?香りが良くなるんじゃないすか★」
研究員の提案にローレライは思案顔をして無表情のリンネルに問い掛けた。
「どう思う?リンちゃん。」
「私は判断を下せません。」
返答する神官にローレライは苦笑すると、続けた。
「私としては・・・・・・・・ちょっとチョコレートの匂いが変になるんじゃないかしら?」
「そうですかねぇ?」
「うん・・・でも、まぁ・・・チョコの方が匂いキツイかしらね?」
「自分はそうだと思ったんですけど・・・」
キルラーは持って来た瓶を振った。
中の液体は淡く七色に綺麗に輝いていた。
そんな液体の輝きを眺め、ローレライは微笑んだ。
「その輝きだと、チョコも輝くかしら?」
「あ、そうですかね?」
「綺麗にてかるんじゃない?」
「そうっぽいですね★」
「淹れてみる?」
「淹れてみましょうよ!!!」
魔王と研究員は笑い合うと、生チョコの中に何の効き目も無い“惚れ薬”を淹れる事を決めた。


★ ★ ★


どっさりと机の上、床の上に積まれたチョコレートの箱を眺め、ヘンリは不機嫌そうな顔をする。一方では、助っ人として呼ばれた大悪魔神官カルコスは目を輝かせて甘いチョコレートを食している。
「・・・・・・それにしてもカルコスさんが居て助かりましたよ。」
ヘンリは盛大な溜息をつき、苦笑した。
当のカルコスは生チョコを食べ終わると、次の箱を持つ。
「いや、こんなに甘い物が食べられるなんて夢の様ですよ。」
そう言うカルコスはヘンリの部屋に来る前に女型の魔物どもに貰ったチョコを全部食べて来たらしい。
「俺は甘いのなんてあまり食べられませんから、バレンタインデーとやらは困りますね。」
とヘンリ。
「そうですか?俺は結構好きですけどね・・・・」
「甘い物、好きですね。」
「はい。大好物ですよ。」
嬉しそうに答えてチョコを頬張り、幸せそうな顔をするカルコス。
そんな彼を眺め、ヘンリは苦笑する。
そして——————。
「もしかしたら・・・・馬鹿兄貴からも来るんですかね?チョコ・・・」
「そ、そうですね。・・・てか、チョコは嬉しいけど、アイツは要らないって感じです。」
「俺も同感です。・・ですが、俺の場合チョコもアイツも要らないです。」
少し微笑む二人。
同じ意見を持つ者同士、彼は部下なら良かったのにと思うヘンリと彼は上司なら良かったと思うカルコスが居た。


★ ★ ★

「くしゅんっ!」
ローレライはくしゃみをした。
「あら嫌だ、誰か私の事噂してる?」
とそんな独り言を言う魔王。
今、彼等の前では生チョコが出来上がろうとしている。
冷蔵庫に入れられ、チョコ達は冷やされている。


<生チョコ>
◎材料
生クリーム・・・100g
チョコ・・・200g
グランマルニエ(洋酒)・・・大匙1→※魔族側は洋酒を“効き目の無い惚れ薬”にした。結構、多く。

◎作り方
①生クリーム、洋酒を常温に戻す。チョコを刻む。

②生クリームを沸騰直前まで温める。

③刻んだチョコレートを入れて完全に溶かす。溶けたら冷水に付けてねっとりするまで混ぜ、洋酒を入れて混ぜる。

④ラップしたバット、四角い箱にチョコを流し込み、切れる固さまで冷やす。

⑤パウダー(ココア)を掛けて完成。



冷蔵庫でチョコを冷やしている間、キルラーは調べた“惚れ薬”の事を語った。
「“惚れ薬”って素晴らしいですよね★それも、何か知らないですけど、色々種類があったんですよ★驚きでしょう!!」
「そうね。私も知らなかった世界だわ。」
「飲ませるタイプと体に付けるタイプがあるみたいなんです★」
「へぇ~。」
「まぁでも、自分が今回創った“惚れ薬”は飲むタイプですけどね★」
二人が“惚れ薬”について語っている間、リンネルは無表情で聞いていた。
「体に付けるタイプって・・・やっぱり、良い匂いで異性を惹き付けるみたいな感じ?」
とローレライが目を瞬かせて研究員に問い掛けた。
当の彼女は笑顔で応じる。
「はい★首とか、腕とかその辺りです★」
「香水みたいな感じね♪」
「はい★・・・でも、そのタイプは一つ面倒臭いとこと弱点があるんですよ。」
「何かしら?」
「先ず、面倒臭いとこは、その“惚れ薬”—————“イシュタルの秘密の惚れ薬”は金曜日の深夜に作らないといけないらしんです。」
「そうなの!何で又金曜日に限定なワケ?」
「それはちょっと分からないです。・・・・・で、弱点は、すぐに匂いが消えるんです。だから、効果がすぐに薄れてしまうんですよ。」
「でも、キルちゃんが作った薬はしっかり匂いがしてたわね。」
「あれは改良したんです★だから、匂いの方は大丈夫だったんですけど・・・中身が抜けちゃったみたいですね★アハハハハハハハ♪」
「キルちゃんらしいわ♪可愛い。」
「マジっすか!!!あざっす!」
そんな二人の会話を聞きながら、リンネルは船を漕いでいた。
寝ない様に頑張っているのだが、目蓋がもう緩くなっている。
恐らく、二人の声が子守唄になっているらしい。
それに無理も無い。
慣れない仕事をしたのだ。
流石の彼女も睡魔に襲われるだろう。
船を漕いでいるリンネルを眺め、魔王と研究員は微笑む。
そして、小声で言う。
「カルトス君同様、この兄妹は可愛いわね★」
「はい★常識を超えた萌えさを兼ね備えていますっ★」
興奮気味の研究員はその後に付け足す。
「あ、勿論、ローレライ様とヘンリ様、アプフェルさんも萌えさは異常ですよ★」
「あら、本当?」
笑い合う二人の横で、リンネルは睡魔に負けた。


★ ★ ★


昼。
いつもならサンドイッチ(=因みに具はレタスとマヨネーズの卵和え)一つとコーヒーで済ます昼食も今日は真逆の昼御飯になってしまった。
昼の読書の時間もバレンタインデーに奪われている。
昼でも尚、女型の魔物どもはバレンタインデーのチョコレートを渡しに滅神王次男ヘンリの部屋へやって来る。
鬱陶しいなどと追い返しているのだが、魔物どもは下がらずチョコレートと投げキッスをヘンリに手渡し去って行く。
チョコレートを食べてくれていた大悪魔神官カルコスは仕事があるからと言い魔王の部屋を後にしていた。
魔王は盛大な溜息をつき、部屋の中に持ち入った。
そして、未だ山積みにされているチョコレートの山を眺め、ヘンリはうんざりした顔をする。
———————甘い物があれだけ嫌いだと言うのに何故、俺に甘い物を持って来るのだ!好きだの何だのと言い訳を吐き、俺に対する嫌がらせか!
ヘンリは眼鏡を押し上げ、椅子に座った。
いつもならば檸檬系統の柑橘系の香りがする部屋なのだが、今はチョコレートの甘い匂いが充満している。
———————窓を開けなければならないのだな・・・まったく・・・。
ヘンリは深緑色のカーテンを開け、窓を開けた。
チョコよりマシな外の空気が流れ込んでくる。
「甘い物は大嫌いだ。」
魔王次男はそんな独り言を呟いた。
その時だった。
ノックの音がした。
それと同時に聞きたくない声がする。
「ヘンリ~♪」
「ヘンリー様★」
その声にヘンリはうんざりした表情をし、叫んだ。
「何なのだ!今、俺は忙しいのだ!!後にしろ!」
「えぇ~、後って言われても無理よ♪」
「無理ならば今日来るな!」
「それも無理だから入るわね♪」
ローレライは言うなり弟の部屋の中に入った。勿論、研究員キルラーも入る。
「俺は入って良いなどと一言も言っていないのだがな!!」
「良いじゃない♪ね、キルちゃん!」
「はい★」
キルラーは元気良く返事をし頷く。
そして、ローレライは部屋の中を見回す。
「忙しいって貰ったチョコを食べるのに忙しいって事だったの?」
「違う!!!」
「ヘンリー様も隅に置けませんねぇ~★この色男!!」
とキルラーが言う。
「黙れ!」
「って言うよりはヘンリ様って格好良いですもんね★」
と付け足す。
「そりゃぁ、魔界の女どもにチョコレート死ぬ程もらえるわ★」
「そうね♪」
二人の会話を聞き、ヘンリは不機嫌そうな顔をする。
そんな弟に兄は微笑み続けた。
「それで、私達のヘンリーにチョコをあげようと思って持って来たの♪ね、キルちゃん!」
「はい★」
笑い合いチョコを差し出す二人を睨み、ヘンリは怒鳴る。
「要らないのだ!」
「良いじゃない!!受け取ってって!!」
「そうですよ、ヘンリー様!」
「要らないのだ!俺はそんな甘ったるいものなど食さないのだ!帰れ!」
「えぇ~!折角作ったのにィ~!一口で良いから食べてよ!」
ローレライは箱を開けて生チョコを一つ摘むと、ヘンリに近付けた。
「ほら、ヘンリー、あ~ん♪」
「要らないと言ったら要らないのだ!気持ち悪い!」
「良いから、あ~んして♪」
「しない!いいから帰れ!」
「一口で良いから食べて下さいよ★」
とキルラー。
「一口で良いですから★」
懇願する様に言うキルラーを横目で見て、ヘンリはネクタイを直した。
「そうよ、一口で良いから。心を込めて作ったのよ。」
ローレライも少ししょんぼりした顔をして言った。
そんな二人を眺め、次男は吐息をつく。
もの凄い潤潤目で見られては流石のヘンリも観念せざる終えない。
だから、呟く。
「・・・・・・・・・・・・・・本当に一口だけで良いのか?」
「はい★食べてくれるんですか★」
「・・・あまり、食べたくは無いが一口だけなら食ってあげても良い。有り難く思え。」
「やった!!!」
二人は手を合わせ、飛び跳ねる。
「そんなに心を込めて作ったと言うのならば、相当美味いのだろうな?」
「そりゃぁ、美味しいわよ!!きっと、一口だけじゃ終わらないわよ♪」
とローレライ。
そんなワケでヘンリは二人が作ったと言うチョコを食べることにした。
誰だって心を込めて作ったと言われれば食べたくなるものである。
例え、ヘンリであっても。



★ ★ ★



眠ってしまった。
大悪魔神官リンネルははっとなり飛び起きた。その弾みで掛かっていたブランケットが床に落ちる。
キッチンの台に突っ伏して寝ていたせいで、額が少し赤くなっている。
周囲を見回すがキッチンには誰も居なかった。
———————私とした事が眠ってしまった様です。ローレライ様もキルラー様も居なくなってしまいました。
そんな事を思っていると、置手紙が置いてあるのに気付いた。
「これは・・・・?」


————————————————————————————————
リンちゃんへ

先に私達二人で生チョコを配っておくからね。
リンちゃんの生チョコもね。
だから、ティラミスをヘンリにあげてね。


               ローレライより
————————————————————————————————


「ローレライ様・・・キルラー様・・・」
リンネルは置き手紙を白衣のポケットに入れると、冷蔵庫に向かった。
そして、作ったティラミスを出す。
——————後はこのティラミスをヘンリ様に届けるだけですが・・・。
と、キッチンの壁に掛かっている時計を見る。
12時30分過ぎ。
——————この時間は大体、昼食を召し上がって・・・暇な時間ですね。
そんな事を独り思いながらティラミスを金の盆の上に載せ、キッチンを後にする。
———————初めてのバレンタインデーです。はてさて、上手くいくでしょうか?
と言うワケでリンネルはコツコツと廊下を歩き、尊敬する上司の部屋へと向かって行った。


★ ★ ★


ローレライ達から一口だけ生チョコを食べ、ヘンリは独り無言で減らない山積みチョコを見ていた。
凡そ10分置きくらいに女型の魔物達がチョコを持ってやって来る。
そのせいで何だか頭が痛い。
——————そのまま無視しても良いのだが、部屋の前にチョコを置かれては部屋から出られないし・・・・・・・・困ったな。
頭が痛い。
これは気のせいなどでは無い。
———————何故か頭が痛くなってくるし・・・・これもやはりチョコのせいか?・・・いや、ローレライ達のチョコを貰ってからだ・・・・・・・・・・・・・・・雅か、奴等、あの生チョコに何か薬か何かを入れていなのではないだろうな?
視界がぼやけてくる。
眩暈も頭痛もする。
———————俺の体が可笑しい・・・。
体も何故か熱くなってきている。
性欲を急き立てる様なそんな感情が湧き上がってくる。
———————何なのだ、この変な感情は!
何故だかは分からないが尋常では無い程、無性に部屋から出たい。そして、異性に会って触れたい気分。
———————可笑しい!これは絶対に可笑しい!これは俺では無い!
自我があるのだが体が言う事を聞かない。
———————やはり、奴等の仕業か!!くそ、とんでもない罠に填まってしまった様だ!!
ヘンリは焦り、部屋から己の体を出さない様に抵抗する。
とその時だった。
「ヘンリ様!!」
部屋の外から女型の魔物達の声がした。
——————しまった!!
しかし、彼の体は思考とは真逆に走ってしまった。
勢い良く部屋の扉を開け放ち、来てくれた女型の魔物達に爽やかな笑みを浮かべて出迎える。
「やぁ、君達。今日は何の用で来てくれたのかい?」
いつもとかなり違う魔王の様子に一瞬引いた魔物達であったが、悲鳴を上げて喜ぶ。
「キャー!!ヘンリ様!!」
「ヘンリ様、素敵!!」
顔を真っ赤にして女型の魔物達は叫ぶ。
そんな叫び声にヘンリは内心悲鳴を上げていた。
———————何なのだ、これは!!!俺はこんな恥ずかしい事など言わない!!
しかし——————。
「OK,OK・・・・あまり城内で悲鳴を上げると駄目だよ。皆、真剣に仕事をしているからね。俺だって今さっきまでは仕事をしてたんだ。・・・でも、君達の声が聞こえたからね、仕事を途中で放棄したよ。まぁ何たって、仕事よりレディを優先すべきじゃないか。」
「キャーっ!!!!」
———————俺の馬鹿!!何可笑しい発言をしてるのだ!!訂正しろ!!
喜んで叫ぶ女型の魔物の一人—————ラミアをヘンリは見つめ、急に彼女を壁まで押し、片腕を壁へ突き、顔を寄せて囁いた。
「君・・・・口紅変えた?」
憧れの魔王との近い会話にラミアは赤面し、口篭る。
「え、えっと・・・は、はい・・・ヘンリ様・・・・」
「やっぱりね・・・」
「お、お、お気に召しませんでしたか・・・?」
「いいや、君にぴったりだよ。美しさが増して良い。」
———————おい!!これ以上恥ずかしい台詞を吐くな!!でないと、俺が崩壊していくではないか!!
滅神王次男ヘンリに壁ドンをされているラミアを女型の魔物どもが睨み、何やら不満を言っている。
「何よ、あの女!!」
「ヘンリ様に壁ドンだなんて!!」
「羨ましい!!」
「あの女、勇者に殺されれば良いのに!!」
「そうよ!」
今にも口付けをされそうな魔王次男とラミアの間に女型の魔物達は不満の声を上げる。
ヘンリの自我も焦っている。
——————近い!近い!近い!近い!近い!!顔が近いではないか!!離れるのだ、俺!!
しかし、内心とは裏腹にヘンリはラミアに顔を近づける———————。
「きっと、君の唇は俺の唇と合わさる為に用意されたみたいだね。・・・・・・フフ、参ったな・・・」
「ヘ、ヘ、ヘ、ヘンリ様・・・・!!」
戸惑うラミア。
「見た感じ、誰にも汚されていない唇の様だ・・・・」
——————おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい!!!それだけは止めろ!!絶対に止めろ!!!
顔をゆっくりと近づけていく魔王を見つめ、チョコを渡しに来た魔物どもは驚愕の事態を目に焼きつける。
泣きそうな顔をする魔物も中には居た。
「ヘ、ヘ、ヘ、ヘ、ヘ、ヘ、ヘンリさ、さ、さ、様!!」
ヘンリは不適な笑みを浮かべて囁く。
「君のファーストキスは俺で決まりだな。」
そして———————。
ラミアと魔王の唇と唇が触れ合うだろう瞬間———————。
「ヘンリ様・・・」
無感情の冷たい声が掛けられた。
ヘンリはその声に目を見開き、ラミアから顔を離し、声の主を見つめた。
立っていたのは手作りティラミスを金の盆の上に載せた白衣姿のリンネルだった。
———————リンネル!!!これにはワケが!!と言うよりかは良いタイミングに来てくれた!!!
「愛しいリンネルじゃないか!一体何所に居たんだ!!」
ヘンリはリンネルに駆け寄った。
「俺をいつも独りにするなと言っているじゃないか。」
「そうでしたか?」
「そうだよ!ったく、可愛いな。」
ヘンリは笑うと、リンネルの青黒い頭を撫でた。
それを彼女は無表情で受け止めていた。
次男は部下の頭を撫でながら女型の魔物達に言う。
「ごめんね、君達。後で相手してあげるから、部屋で待ってなよ。」
ヘンリの言葉に女型の魔物達は赤面しそのまま去って行った。
そして、ヘンリはリンネルが持っているティラミスに気付く。
「あれ?リンネル、もしかして、そのティラミス、俺の?」
「はい、<ヘンリ>様のです。」
「もしかして、俺の為に作ってくれたのか?」
「はい、<ヘンリ>様の為に作りました。」
「嬉しいな!!やっぱり、俺はリンネルの事が大好きだ!絶対誰にも渡さないぞ!」
と言ってヘンリはティラミスを手に取ろうとした。
だが———————。
手を伸ばそうとしてきた魔王の手をリンネルは払った。
「リンネル・・・?」
大悪魔神官リンネルは無表情で冷たい声を響かせた。
「このティラミスは<滅神王ヘンリ>様ので御座います。決して貴方様のものではありません。」
そして、続ける。
「すみませんが、<ヘンリ>様を見かけませんでしたか?私はこのティラミスを<ヘンリ>様に届けなくてはならないのです。」
「あ、いや・・・」
焦り気味のヘンリは爽やかな笑みを浮かべ返す。
「ったく、冗談がきついなぁ・・・まぁ、そこも可愛いけどな。」
「<ヘンリ>様はいらっしゃらないのですか?」
「いや、俺がヘンリ。」
名を名乗るヘンリを無視し、リンネルは魔王に背を向け歩き出した。
「ちょっと!リンネル!俺がヘンリだって!」
次男の焦り声にリンネルは歩を止めると振り返った。
「申し訳御座いません。私が知っている<滅神王ヘンリ>様はその様な卑猥な御方ではないので。・・・・失礼します。」
言うなり、リンネルは去って行った。
そんな彼女を呆然と見つめ、ヘンリは動けなかった。


★ ★ ★


妖しい気配を感じ、大悪魔神官カルコスはローレライとキルラーの生チョコを振り払っている。
必死に抵抗する部下にローレライは言う。
「何も入れて無いわよ!」
「妖しいんだよ!!きっとチョコ自体には何の罪も無いんだろうけど、お前等のは何か異様な気配がすんだよ!!」
「失礼ね!!」
「カルトス君!!食べて★」
一方でキルラーは強引にカルコスに抱きつき、生チョコを食べさせようとしている。それにも抵抗しながら、カルコスは叫ぶ。
「食いたいけど要らないって!!」
「食べたいんだったら食べて下さいって★」
「俺は普通のチョコが食いたいんだよ!!そんな妖しげなチョコなんか食えるか!!」
「妖しくないですって!!★」
「そうよ!」
ローレライも言う。
「入っているのは私達のたっぷりの“愛情”よ♪」
「それが要らねぇーんだよ!!」
「愛情と・・・・何か綺麗な液体ですよ★」
とキルラー。
「何だよ!その<何か綺麗な液体>って!!」
と揉めている中。
カルコスの部屋の扉がノック音に揺れた。
ノックに皆が静まる。
「何だ!今、俺は猛烈に忙しい!!用件は何だ!!」
とカルコス。
彼の声に扉の外から声がした。
「私です。リンネルです。」
「リンネルか。」
カルコスは<入れ>と言い、妹を部屋の中に入れた。
入って来たリンネルを見つめ、キルラーが微笑んだ。
「リンちゃん先輩、起きたんですか★」
「寝てたのかよ・・・」
とカルコス。
「すみません、眠ってしまって。」
「良いんですよ★誰だって寝たりします★」
「お前の場合は会議中でも平気で寝るがな!!」
キルラーの励ましにカルコスが突っ込む。
しかし、そんな二人には触れず、彼女は彼等を見て言い放った。
「ローレライ様、キルラー様、すぐにその生チョコを処分して下さい。」
「!!」
唐突なリンネルの言葉に皆が驚愕する。
当のローレライは苦笑して言う。
「リ、リンちゃん・・・何で又急にそんな酷い事を言うの?」
「その生チョコは“惚れ薬”の効果が出ています。」
「えっ!?」
とローレライ。
「マジっすか!?だって、あの薬は失敗作だったじゃいっすか!!」
キルラーも驚愕する。
「つーか、その生チョコに“惚れ薬”なんか入ってたってのか!!<何か綺麗な液体>じゃねぇーじゃんか!!!」
カルコスは青筋を立てて言う。
そんな彼に研究員は笑う。
「まぁまぁ★」
「俺に<失敗しました★>って言ってたあの薬を入れてたってのか!!」
「はい★」
「何で又そんな危ねぇー薬入れてんだよ!!馬鹿かお前等は!!いや、元から馬鹿だけど!」
「だって、失敗して使い道が無かったからつい・・・テヘ★」
とキルラーはウィンクをする。
「何が<つい・・・テヘ★>だよ!!危うく俺まで変になるところだったぜ!!つーか、失敗してねぇーじゃん!!」
「そうみたいっすねぇ~★何か嬉しい★」
「<何か嬉しい★>じゃねぇーよ!!!ったく!」
カルコスは怒鳴り終わると盛大な溜息をつき、妹に問うた。
「・・・・・・・・・で、リンネル、被害はどこら辺までに及んでいるんだ?」
「それはローレライ様達がお配りになったところだと思います。」
「マジかよ・・・・」
カルコスは目元を押さえる。
「少なくとも、ヘンリ様に症状が出ているのは確かです。」
「はっ!?」
妹の言葉にカルコスは目を見開いた。
「ヘンリ様に!?」
「はい。」
次男に惚れ薬が効いたのを知り、密かに喜び合っているローレライとキルラー。
「それじゃぁ、早速見に行ってみましょうよ♪」
「レッツゴー★」
笑って言う二人にカルコスは怒鳴る。
「駄目だ!貴様等は“惚れ薬”の入った危険な生チョコを配った罪で、症状を直す薬を直ちに作れ!!一刻も早く皆を元通りにしなければ・・・・滅界は大変なことになってしまう・・・・」
真剣な顔をして言っているカルコスの横でローレライはキルラーの肩に手を置いて感想を漏らす。
「それにしても、キルちゃん、凄いわねぇ~♪ヘンリーにも効く薬を作っちゃうなんて!」
「いやぁ~、それ程でもありますよねぇ~★」
「やっぱり、私の目に狂いは無かったわ。」
「感心してる場合か!!早く作ってこい!!」
と怒鳴るカルコス。
カルコスに促されて二人は研究室へと向かった。
部屋に残った兄妹は暫くの間は無言だったが、兄が口を開いた。
「リンネル、お前は何とかして“惚れ薬”に体を虫食まれているヘンリ様を止めてくれ。俺は他の連中を止める。あの馬鹿達の事だ、城内の魔物達に絶対配ってるからな。」
「と言いますと、無抵抗のままヘンリ様の壁ドンに付き合えと言うのですか?」
妹の発言にカルコスは驚愕した。
「ま、雅か!ヘンリ様が壁ドンをしてたのかっ!?」
「はい。滅軍部隊547909号のラミアに壁ドンをしていました。私があの時、ヘンリ様の前に現れなかったら接吻までしていたのです。」
「せ、接吻だと!!!」
驚きのあまり叫ぶ兄を無視し、リンネルは彼の部屋を出て行こうとする。それから、ドアノブを掴み回す。
「・・・・・・・・・では、カル兄さんの命令通り、ヘンリ様を抑制してきます。」
言うと、扉を開ける。
そして———————。
「・・・あの様なヘンリ様は・・・・大嫌いですから・・・・」
と彼女は小さく呟き部屋を出て行った。
カルコスはそんな妹の囁きを聞き逃さなかった。
——————リンネル・・・・お前・・・。
兄として時に見せる感情の入った妹の顔が気にはなっていた。
———————俺にはごく稀に感情の入った顔を見せるが、ヘンリ様と居る時の方が俺より多い。・・・・・・・・やはり・・・リンネルは・・・・。
カルコスはそこまで考えて首を横に振った。
———————今はそんな事を考えるのは止そう。それより・・・・城内を“惚れ薬”の支配から解放しなければ!!
大悪魔神官は思うと部屋を飛び出した。


★ ★ ★


滅神王城にあるとある研究室。
キルラーが生活している研究室。
そこで、のんびりと会話をしている二つの影。
「“惚れ薬”の効果を打ち消す万能薬なんて一体どうやって作れば良いの?」
「さぁ?自分も分からないです★」
「そうよね。」
ローレライは笑う。
「でも、大体、薬の効果ってのは一日で切れるものですよね★だったら、そのまま放って置いて、“惚れ薬”が効いているヘンリ様を眺める方が楽しいですよね、ローレライ様!」
キルラーは呑気な顔をして微笑む。
「それ、私も思うわ。」
魔王長男は頷き、少し残念そうな顔をした。
「私としては、カルトス君に効果があってほしかったわ。ヘンリーだけでも面白いけど、カルトス君も効いてほしかったわ。」
「確かに★」
「今度はもっと強烈な惚れ薬を作ってみたいわね♪」
「ですね★・・・でも、自分的には性別が入れ替わる薬も作ってみたいです★・・・・・・ほら、女性が飲めば、むきむきの筋肉が付くとか・・・男性が飲めばぼいんぼいんの巨乳になって可愛くなるとか!」
「良いわね♪その時は絶対ヘンリーに飲ませてみたいわ!」
「同感です★」
お互い新しい薬の開発を出し、笑い合う。
“惚れ薬”の効果を打ち消す薬の開発など頭に無い様だ。
「自分、ヘンリー様に壁ドンやってもらいたかったです★」
「そうね、されたらレアだもんね♪」
「きっとされたら<ふぅ~!!>って凄いテンション上がってましたよ★」
「私も見てみたかったわ。ヘンリーったら、絶対女の子にそんな事しないもんね。」
「しませんね★」
「普段、やってくれたら良いのに。そしたら、あの子の印象も変わるのにね。」
「そうですね★・・・でも、あの冷たさも好きですよ★こう、見下した様な目で見て、鞭を振るう様な鋭く酷いお言葉・・・・はぁ~何か興奮してきました★アハハハハハハハ★」
「キルちゃん、相当のMね。」
「はい★」
大きく頷く研究員を微笑んで見つめ、ローレライは言った。
「・・・まぁでも、“惚れ薬”の効果を打ち消す薬を作りましょうか。」
「そうですね・・・嫌ですけど・・・・」
少し不満げな顔をしたもののキルラーは色んなファイルが並べられている棚から一つファイルを取り出し、そのファイルから紙を出した。
「これは?」
「一応は色んな効果を打ち消すハーブの一覧表です★」
「へぇ~」
「これ等のうち、どれかを組み合わせれば“惚れ薬”を打ち消す薬が出来るかもしれません★」
ローレライは一覧を見ながら呟く。
「この“魔性アロエ”は使えそうね。」
「はい★何たって“魔性アロエ”は色んな事に使用できて、薬効が高いですからね★」
何やかんやで二人は“惚れ薬”から滅界を救う為、万能薬を作り出す事にした。


★ ★ ★


命の危機に晒されている。
大悪魔神官カルコスはごくりと喉を鳴らし、冷汗を掻いている。
右に女型の魔物、左にも女型の魔物、真正面にも。
そして、カルコスの背後には壁。
彼に逃げ場など無い。
———————ちっ!何所にも逃げ場が無ぇっ!このままじゃ・・・俺はコイツ等の餌食だぜ。
カルコスは興奮しきって狂っている女型の魔物どもの隙間を見る。
———————このミスヴァンパイアと魔人魚の隙間を通れば・・・ぎりぎり逃げれるか・・・。
「カルコス様、貴方は私の物です!」
「いいえ、貴方はあたしの物です!」
「私も所有物ですわ!」
「アタイの私物よ!」
カルコスに群がっている女型の魔物どもは喚く。
未だ口吸いはされていないものの、時間の問題だ。
何せ逃げ場が無いのだから。
———————認めたくは無いが・・・こういう時に身長が低いと楽で良い。喧嘩している間にコイツ等の足元を潜って行けば・・・・。
カルコスはじりじりとしゃがみ、下を抜けた。
彼が消えた事に気付いていない魔物達は喧嘩に走っている。
逃げ場を見つけ、内心思う。
————————友チョコあげ過ぎだろ!!つーか、何でチョコに“惚れ薬”を入れんだよ!ったく、相変わらず迷惑な奴等だ!
とカルコスが立ち上がり、逃げようとした時だった。
足に何かが纏わりつき、扱けてしまった。
「っ!」
カルコスは足元を見た。
—————————こ、これは蜘蛛の糸!ま、雅か!
「オーホホホホホホっ!あたしから逃げられるとでも思って?カルコス様!」
「アラウネ!」
アラウネと呼ばれる上半身が女で下半身が蜘蛛型の魔物が高笑いをして蜘蛛の糸をカルコスに纏わり付かせ、彼の身動きを出来なくさせる。
「くそっ!」
アラウネの声に口論をしていた女型の魔物達が気付き、カルコスを取り囲む。
流石のカルコスも恐怖する。
—————————や、やべぇっ!このままじゃ・・・俺・・・・立ち直れねぇっ!!
覚悟をして目を固く閉じた時だった。
「あれ~?カルコス先輩、何やってんすか?」
聞きたくは無いがこの時は頼り甲斐のある声がした。
その声に女型の魔物達は顔を向ける。
人物は赤い果物を齧り、不適に笑う。
「何すか、その女に囲まれた贅沢な様は!」
「お、おい!アプフェル、助けろ!」
「もう、呼んで下さいよ。何独りで楽しんでんすか~♪」
「楽しんでいる様に見えるか!!!」
怒鳴るカルコス。
現れた大悪魔神官アプフェルは笑って林檎を齧ると言った。
「うん。凄く見えるっす♪てか、城内やばくないすか?」
と悠長に言っている彼に向かってポルポと呼ばれる上半身が女で下半身がタコの魔物がタコ足をアプフェルの体に巻きつけた。
縛られた状態のアプフェルは齧った林檎を床に落とす。
「あ、林檎が。」
「そんな事どーでも良いだろうがっ!てか、来た意味無ぇーな!!」
とカルコス。
床に落ちた齧りかけの林檎をミスヴァンパイアが広い、齧る。
「わぁ、“間接キス”だ。」
感心した様な顔をするアプフェルを睨むカルコス。
「何感心してんだよ!!お前もコイツ等を抑えないと立ち直れなくなるぞ!!」
「マジっすか。ありゃりゃぁ、ボクってとんでもない時に城に入ったんだね。」
「いや、城内の雰囲気で分かんだろ!!!」
焦るカルコスとは反対にアプフェルは悠長に笑う。
「いやぁ~分からなかったすわ。」
「おい!」
「つーか、エウリア様とサリエルちゃんにチョコあげようと思ったんすけど、部屋に行ったら二人共居なくて・・・・」
「そりゃぁ、城内のやばい雰囲気感じ取って逃げたんだよ!!!」
「マジっすか!?」
驚愕するアプフェルを取り囲む女型の魔物達。
恐らく、これからやばい事になる。
寄り添ってくる魔物達の目を見、アプフェルは思う。
———————キルちゃんとローちゃん様が又何かやらかしたみたいだねぇ~・・・困った困った。
「カルコス先輩、麻痺魔法とか唱えられないんすか?」
「この状況じゃ無理だろ!!集中なんか出来ねぇ!」
「使えない神官っすねぇ~・・・アンタ、それでもローちゃん様に仕える悪魔っすか?」
「何だと!!!」
「助けろってねぇ・・・ボクはそんな魔法は唱えられないから魔法ではこの子達を抑えるのは無理っす。・・・・・・・・・はぁ~、麻痺魔法があれば楽で良かったんすけどねぇ~・・・・」
「・・・・・」
アプフェルの言葉に唇を噛むカルコス。
魔法を詠唱するには集中しなくてはならない。
しかし、この状況だと無理に近い。
———————アプフェルは魔法なんか使えない物理攻撃タイプ。それとは違い、俺は魔道士タイプ。・・・・魔法が唱えられない今、どうすべきか・・・・。
とその刹那。
アプフェルに近付いた女型の魔物が一体その場に倒れた。
「!」
気絶している。
カルコスは驚き、アプフェルに問い掛けた。
「アプフェル・・・一体何をしたんだ!!!」
“惚れ薬”の影響で狂っている魔物達がざわめく。
当の彼は舌なめずりをした。
そして———————。
「魔法は唱えられないっすけど、気絶するくらいの口付けで相手を戦闘不能にするくらいは出来るかもしれないねぇ~♪」
と言い、アプフェルは厭らしい笑みを浮かべた。


★ ★ ★


ベットに寝かされた白衣姿のリンネル。
その横には“惚れ薬”に体を虫食まれているだらりとしたヘンリ。
———————やばい!これは完全にやばい!・・・一体俺はどうなってしまったのだ!女型の魔物達に卑猥な行動と発言を繰り返し、性欲が制御出来ない。況してや、リンネルにまで俺は手を出そうとしているではなか!!!・・・これはやばい!このままでは俺が完全にリンネルを取り込んでしまう!!・・・何とかしてリンネルを俺から守らねばならない!!
深緑色のネクタイを緩め、カッターシャツの第二ボタンまでを外しているヘンリ。
彼は横に無表情で寝転がっているリンネルを横目で見る。
初めての添い寝。
ヘンリは興奮が抑えられていない。
当のリンネルは天井を見上げている。
そんな彼女に向かって魔王は口を開く。
「なぁ、リンネル・・・・」
「何で御座いましょう?」
「俺はな・・・ずっとお前を見てきた。戦闘でも普段の生活でもな。」
その発言を聞き、リンネルは無感情で返す。
「それは“ストーカー”だと言う意味で取って宜しいのでしょうか?」
「違う!決して、“ストーカー”などではない!」
「分かりました。」
ヘンリは訂正後、吐息をつき続けた。
「つまり・・・俺は・・・リンネル・・お前の事を誠実な部下であり女だとしても見ているのだ。・・・・この意味が分かるか?」
「分かると言えば分かりますが、分からない点の方が多いです。」
「・・・そうか・・・」
彼女の返答に魔王は不適に笑う。
———————おい!俺!何をくだらん事を言っているのだ!!リンネルから離れろ!!見っとも無い!!何とダーティーな!!
「分かり易く言おうではないか。」
ヘンリは言い放つとベットから起き上がり、眼鏡を押し上げて言った。
「つまり、俺はお前が欲しいのだ。」
———————俺ェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!!
自我は絶叫する。
「リンネル、お前も俺が欲しいだろう?」
上司の言葉に神官は無で返す。
「私には貴方は必要ありません。それに、欲されても困ります。」
「なっ!」
無感情で返されたショッキングな言葉にヘンリは愕然とさせられた。
無感情であるので尚更心が硝子の様に砕ける。
かなりの心理的ダメージを負わされたヘンリはズレた眼鏡を押し上げ、苦笑する。
「又、冗談を言う。止めろよ、そんな冗談。」
「冗談などではないのです。これは時間稼ぎなのです。」
「は?」
「私が貴方の部屋へやって来たのは他でも無い時間稼ぎなのです。」
リンネルの言葉にヘンリは不審な顔をする。
「な、何故・・・時間稼ぎをする必要があるのだ?」
「貴方を元のヘンリ様に戻す為、ローレライ様とキルラー様が薬を作っておられます。その時間稼ぎなのです。」
「元の・・・俺?・・・俺は俺だぞ。俺は本物なのだぞ。」
不機嫌そうに言うヘンリを横目で見、リンネルはベットから起き上がり、言い放った。
「時間稼ぎなのです。」
そう言う彼女の目はどこまでも虚ろだった。


★ ★ ★


「出来た~・・・・・んじゃない?」
金色に輝く液体が入った大きな瓶を掲げ、ローレライは疑問っぽく言った。
「これが本当に全ての状態を直す霊薬エリクサなのかしら?」
「絶対エリクサですよ★材料も作り方も書いてあったじゃないすか★」
「でもねぇ~・・・」
ローレライは作り方のメモを見つめた。


<霊薬エリクサ>
◎材料
魔性アロエ・・・13g
悪魔のラバル・・・2.3g
夢魔のリンドウ・・・2.3g
黒ウコン・・・2.3g
火魔の番紅花・・・2.3g
水・・・114ml
蒸留酒(ウォッカ、ジン)・・・240ml


◎作り方
①魔性アロエを搾り、汁を出す。

②悪魔のラバル、夢魔のリンドウ、火魔の番紅花を細かく砕き、魔性のアロエの汁と混ぜる。

③②に水と蒸留酒を混ぜ、少し放置。


「まぁでも、気にしないで良いじゃないすか★」
キルラーが豪快に笑う。
「きっとそれが霊薬エリクサですって★ほら、カルトス君に報告しに行きましょうよ★」
促されてローレライは微笑んだ。
「そうね。」
そんなワケでローレライ達は万能薬として有名な“霊薬エリクサ”を作り出したのであった。


★ ★ ★


何匹の女型の魔物達を唇で気絶させたのだろう。
アプフェルは床に倒れた全ての魔物達を見て、唇を拭いた。
「ざっとこんなもんですねぇ~♪と言うワケで、カルコス先輩はボクに助けられたワケっすね★」
立ち上がり、カルコスは白衣についた埃を払い除け不満顔をした。
「つくづく思うぜ、お前はどんな大悪魔神官なのかってな。」
「ボクは普通の大悪魔神官だよ。唯、お遊び好きなね♪」
「なるほど、女遊びもしてきたと?」
「そんな事は言ってないでしょ!!失礼だね!」
カルコスの言葉に頬を膨らませてアプフェルは怒った。
「飽く迄もボクの恋人は林檎だからね!そこ勘違いしないでよ!」
「あぁ。」
カルコスは笑い、倒れた魔物どもを見下ろした。
———————何はともあれ今回は・・・コイツに助けられた・・・。・・・・・・・それは良いとして、“惚れ薬”・・・・危険だな・・・。だが・・・意外と使えそうだ・・・・。
「カルトス君~!!!」
声を掛けられ、カルコスは顔を向けた。
遠方から駆けて来たのは大きな瓶を持ったローレライとキルラーだった。
「やっほ~!!二人共♪」
アプフェルが大きく手を振る。
彼等は大悪魔神官達の方へやって来ると“霊薬エリクサ”が入った瓶を見せた。
「どうよ!」
と二人。
金色の液体を見てカルコスとアプフェルは驚く。
「エリクサか!?」
「そうよ。」
「マジすか!?凄いや~★」
「キルちゃんが調合したの。」
ローレライはキルラーに微笑む。
頷く白衣の研究員を眺め、カルコスは少し驚く。
「凄いでしょ?カルトス君。」
魔王に問われ彼は目を逸らした。
「・・あ、あぁ・・・まぁ・・そんなもんだろう。」
「ヒャー!!カルトス君、可愛い★」
「離れろ!!」
興奮して抱きついてくる研究員から必死に離れようとカルコスはもがく。
そんな彼等を見て、アプフェルが問うた。
「・・・で、何で城内の皆がそんな変なのになってたんだい?」
「そうだ!話が急展開し過ぎて詳しく聞くの忘れてたぜ!」
とカルコス。
林檎好きの問いにローレライは苦笑交じりに話した。
「あのね、実は・・・・アプフェルちゃんが林檎を取りに出掛けてからね、私達、絶好調にバレンタインデーのチョコを作ってたの。リンネルちゃんなんか、甘い物が苦手なヘンリの為に‘ティラミス’を作ったのよ。」
「えっ!?」
アプフェル同様カルコスも驚いた。
「・・・それで、他の部下さん達にもチョコをあげようって生チョコを作ってたの。でね、キルちゃんが・・・効き目の無い惚れ薬を入れてみないかって・・・・」
「キルちゃん・・・」
アプフェルは苦笑する。
「いや、でも、マジで効き目が無かったんですよ!!本当ですって!!ね?カルトス君!」
投げ掛けられ、カルコスは渋々頷いた。
「あぁ。キルが作って俺に提案した惚れ薬は何の効果も無かった。てか、唯の水っぽかった。」
「ほら!!」
「つーか、何で入れたんすか?」
とアプフェル。
キルラーはもじもじして呟いた。
「だって、惚れ薬の匂いが良かったし、入れたらチョコがてかるかなって・・・・・・何せ、捨てるのが勿体無かったんだもん・・・」
「それは分かるけど・・・・てか、何でこんな時に効果発揮したんすか?絶妙なタイミングじゃんか。」
アプフェルは笑う。
「それは分かりませんよ・・・沈殿してたとか?」
研究員の言葉にカルコスは反論した。
「それは無いな。つーか、キルが試した部下の奴等、相当相手を嫌ってたんじゃね?だから、効果が無かったんじゃねぇーのかよ?」
「そうなんですかね?」
「そうとしか考え様がねぇーよ。」
カルコスは呆れたと言わんばかりに肩を竦め、続ける。
「・・・まぁ、ヘンリ様にまで効果を与える薬を作れる様になったんだから、キルの能力も上がったんじゃねぇーの。」
「カルトス君!!」
キルラーは再び抱きつく。
「離れろって!!気持ち悪いな!」
「褒めてくれたんっすね!!★ふぅ~嬉しい★」
「べ、別に俺は褒めてなんかねぇーよ!!・・・た、唯・・・唯、思った事を言ったまでだ。」
「何すか、そのツンデレは★」
「離れろ!!」
「ヘンリーにも効果あったの!?」
そこでアプフェルが叫んだ。
それにローレライが応じる。
「えぇ。効いちゃったみたいなのよ。リンちゃん曰く・・・・・・!」
ローレライは言いかけて口を閉じた。
アプフェル以外の皆が固まる。
「リンちゃん、そう言えば何所に行ったの?」
カルコスはキルラーから解放されると焦り声を上げた。
「リンはヘンリ様の部屋だ!危ないかもしれない!!」
その発言に四人は真っ先にヘンリの部屋へと向かった。


★ ★ ★


ベットの上に座っている大悪魔神官リンネルの膝の上に頭を置いて泣いている。
そんな魔王次男の頭を無表情で撫でているリンネル。
「・・・そんな酷い事言うなよ・・・俺、凄い傷ついたよ・・・」
「すみません。」
「俺は何度もお前にアタックしているのに・・・・グスっ・・・」
「すみません。」
「俺が必要ないとか・・・・凄い傷付いた・・・・」
「すみません。」
「もう少し、フルのであればオブラートに包んでフッてもらいたかったのだ・・・・グスっ・・・」
「すみません。」
どれだけ謝っても泣き止まない赤ん坊化した滅神王次男を無表情で見つめ、リンネルは頭を撫でる。
————————ヘンリ様が珍しく泣いておられるのです。珍しく・・・・。
「俺は・・・・この先どう生きていけば良いのだ・・・・」
——————そうだ・・・俺はこの先どう生きていけば良いのだ・・・。
ヘンリ自身内心そう思う。
失恋と言う奴に出会った後はどう生きていけば良いのか。
そんな事など思った事は無かった。
今まで恋などしたことがなかったのだから。
「すみません。その後の道案内は出来ません。」
「道案内してくれよ・・・・リンネル・・・」
「すみません。そこら辺の看板か、車掌様にお聞き下さいませ。タクシーなど如何ですか?」
「・・・・グスっ・・・・・こんな時にボケんなよ・・・・突っ込む気すらないのだから・・・・」
「すみません。」
涙が止まらない。
無表情で謝っていたリンネルにノックの音が聞こえた。
「リン!!居るんだろう!」
兄の声がする。
「カル兄さん・・・」
「入るぞ!」
それと同時に扉が開き、カルコス、ローレライ、アプフェル、キルラーの四人が入って来た。
そして、彼等は驚愕した。
——————リンネルに膝枕してもらってる!?しかも泣いてるし!!
全員が内心叫んだ。
「皆さん。」
「“皆さん”じゃねぇーよ・・・・」
とカルコス。
「入って来るな!!此処は俺の聖域なのだぞ!!」
ヘンリの思いがけない発言に場が凍る。
しかし、それを割ってアプフェルの笑い声が響いた。
「“俺の聖域”だってさ!!ぷぷ、ウケるんですけど!!!てか、泣いてるし!可愛い!本当に殺したい程可愛い!!」
「出て行け!!」
「ヘンリー・・・」
ローレライも笑いを我慢している。
そんな魔王次男を見兼ねてカルコスは言った。
「良いから早く、エリクサを振り掛けろ!!」
「えぇ。」
とローレライ。
「てか、カルコス先輩だって笑いを我慢してんじゃないっすか!!」
「し、してねぇーよ!」
「アハハハハハハハ★」
アプフェルは転げ回る。
ローレライはフフと笑いつつ、エリクサを入れた瓶の蓋を取り、振り掛ける。
金色に輝く綺麗な液体がヘンリに優しく降り掛かる。
その瞬間————————。
泣いていたヘンリははっと目を開けた。
そして、リンネルの膝の上に頭を置いている事に気付き、赤面しばっと起き上がる。
「リリリリリリリリリリリリリリ・・・・リンネルっ!!すすすすすすすすまない!」
「平気です。」
ヘンリは顔を真っ赤にし、眼鏡を押し上げた。
そんな上司を眺め、アプフェルは大笑いした。
「ヘンリーが、ヘンリーが・・・ぷぷ、アハハハハハハハハ!」
「う、う、五月蠅いのだ!」
「ぷぷぷ、アハハハハハハハハハハっ!」
「し、仕方無かったのだ!何かしら生チョコに・・・・」
そこまで言い掛けてヘンリはローレライとキルラーに鋭い視線を突き立てて怒鳴った。
「元はと言えば、貴様等が生チョコなんぞに余計なものを入れたのが悪いのだ!!!生チョコと言うものはチョコだけで十分なのだ!それを貴様等は・・・!!!」
「良いじゃない、元に戻ったんだし♪」
とローレライ。
「そうですよ。てか、あのままのヘンリー様も可愛かったですよ★」
キルラーは笑う。
「可愛いも何も無いのだ!!貴様等のせいで、俺は卑猥な行動と発言を・・・・!!!この責任、どう取ってくれる!!」
激昂する弟にローレライは笑って返す。
「まぁまぁ、皆無事だったし、良いじゃない。」
「俺は良くないのだ!!・・・色んな部下にまで迷惑を掛けて・・・・況してやリンネルにまで・・・」
顔を真っ赤にして言うヘンリを見て、皆が静まったが、それを破ったのはやはりアプフェルだった。
「泣いてたって事はさ、やっぱフラれたって感じ?」
「黙れ!アプフェル!直ちに俺の部屋から出て行け!」
「嫌だよ~ん♪」
アプフェルは笑うと付け足す。
「ふふん♪これでヘンリーをからかう良いネタが増えたよ!」
「何だと!!」
焦るヘンリを無視し、アプフェルはリンネルに問い掛けた。
「ねェねェ、リンネル!ヘンリーって他に何かしてた?」
問い掛けられリンネルは無感情の目をアプフェルに向けた。
ヘンリは冷汗を掻き、リンネルを見つめた。
————————言うなよ・・・リンネル!!
「ねぇねぇ~、どんな卑猥な事してた?」
「卑猥な事ですか?」
リンネルは虚空を見つめ黙った。
そして、三呼吸程後————————。
「・・・・・・・・・・ヘンリ様は何もしていませんでした。唯、少しいつもより発言が強かっただけです。」
「えぇ~本当?」
「はい。」
「本当に本当?」
「はい。」
「本当に本当に本当?」
「はい。」
「本当に本当に本当に本当?」
「はい。」
「本当に本当に・・・」
「くどい!!」
カルコスに怒鳴られアプフェルは信じられないと言った表情をし、諦めた。
「そっか。なぁ~んだ、何にも無いのか~・・・・何か面白くないなぁ。」
「そうです。ヘンリ様は面白くないのです。」
「おい!」
とヘンリ。
———————そう、ヘンリ様はいつも面白くないのです。面白くなくて当然なのです。
リンネルは内心そう思った。

これが尊敬する私の上司。

元に戻った魔王次男を見、カルコスは咳払いをしてローレライ達に言い放った。
「とりあえず、ヘンリ様は元にお戻りになった。・・・・・・・・で、残った城内の連中にエリクサを振り撒いてこい。良いな!」
「分かったわよ。そう怒らなくても良いじゃない。」
「怒るわ!!あんな馬鹿げた薬なんぞ入れおってからに!!今度入れたら唯じゃ済まねぇーからな!!」
「はいはい★」
笑ってローレライとキルラーはヘンリの部屋から出て行った。
そして、カルコスは疑いを未だ隠せないでいるアプフェルを引っ張り部屋から出て行った。


さて、残ったのはヘンリとリンネル。
無言のまま数分が過ぎていく。
ヘンリはリンネルから目を逸らし、緩んだネクタイを引き締めた。
———————少しは自我を保っていたとは言え・・・・俺はとんでもない事をリンネルに言ってしまった・・・・これは謝罪では済まない・・・・。魔王として一生の不覚だ。
だから、誤りたいのだが言葉を彼女に掛けられない。
掛ければ彼女が遠くに行ってしまいそうだ。
そうこうしている間、リンネルは時計を見、歩を扉へと向けて歩き出した。
そんな彼女の後姿を眺め、ヘンリは口を開きかける。
だが、言葉が出ない。
リンネルはドアノブを回す。
そして——————。
「・・・ヘンリ様は決して面白い御方ではないのです。絶望的な機械音痴、絶望的な料理センス、絶望的な字の汚さ、そして、ツンツンしているのです。」
「リンネル・・・?」
「ですが・・・面白くないのがヘンリ様なのです。」
「リンネル、俺は!」
「後程、ヘンリ様のお部屋に参ります。その時に言い訳をお聞かせ下さいませ。」
「リンネル・・・・」
彼女は一瞬だけ微笑みを浮かべ、部屋から出て行った。
そんな彼女を見送り、ヘンリは独り部屋に残された。


★ ★ ★


———————決して面白くないのです。ヘンリ様が面白かったならば私は尊敬できないのです。

私は面白げの無く、ツンツンしているヘンリ様を尊敬しているのです。
だから、私はヘンリ様に対して一瞬ですが、感情を出す事が出来るのです。

今日、新しい感情を学ぶ事が出来た様な気がするのです。
飽く迄もこれは私の勝手な思いかもしれいないのですが————————。




※その後、ローレライ達の手によって滅界を支配していた“惚れ薬”の効果は打ち消された。そして、安全なバレンタインデーを過ごした。
今後、キルラーは食べ物に変な薬を入れない事を誓わされたのであった。
アプフェルは林檎型のチョコを作ったとさ。
ヘンリもリンネルが作ったティラミスを食し、嬉しさに胸を躍らせた。
滅神王次男の卑猥な行動と言動は“惚れ薬”のせいだと滅界中に知らされ、ヘンリの評判が下がる事は無かった。



◎明日は魔界側パロディー編で紹介した“惚れ薬”と“霊薬エリクサ”(本当のレシピ)を公開しますっ!(=ってなワケで日記っす。)


2015-02-14 : 【魔界側パロディー】 : コメント : 0 :
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バレンタインデーを語ってみた。

久しぶりのブログだと思ったら日記ですまん。
小説<異世界のイストワール>の方は2月16日あたりかな?
とりあえず、明日はパロディーの方だわ。



ってなワケで、諸君!
明日は何の日だか知っているか!!
勿論、「バレンタインデー」なのだよ。
それで、皆は誰かにチョコあげたりすんのかな?
・・・・・俺は今回しないけど。

それで、今日はバレンタインデーに作ったら良いじゃね?って言うレシピを書こうかなと思ってさ、書いてみた。





<とろとろチョコソースのフォダンショコラ>
◎材料→直径5cmの紙のマフィン型容器8個分
(ガナッシュソース)
チョコレート<A>・・・60g
生クリーム<A>・・・60cc
製菓用リキュール(ラム酒など)・・・小さじ2
チョコレート<B>・・・100g
バター・・・25g
生クリーム<B>・・・100cc
卵(卵黄・卵白に分けて使用)・・・2個
グラニュー糖・・・20g
小麦粉・・・25g
ココア・・・20g

◎作り方
※オーブンを180度に予熱しておく。

①小麦粉とココアを合わせてふるう。

②ガナッシュソースを作る。湯せんで溶かしたチョコレート<A>に、電子レンジで温めた生クリーム<A>を加えてよく混ぜ、製菓用リキュールを加えて、バットなどに流し込み冷蔵庫で冷ます。

③卵白にグラニュー糖を加え、角が立つまで硬く泡立てる。

④バター、生クリーム<B>はそれぞれ電子レンジで加熱する。

⑤ボウルにチョコレート<B>を湯せんで溶かし、④で温めたバターを加えて混ぜ、更に生クリーム<B>を加えて混ぜ合わせる。そして、卵黄を加えて更に混ぜる。

⑥ふるっておいた①を⑤に加え、切る様にさっくりとよく混ぜる。

⑦⑥に③を三回に分けて加え、泡が潰れない様にさっくりと混ぜる。

⑧型の3分の1まで⑦を流したら、②のガナッシュソースをスプーンですくい中心に載せ、残りの生地を型の3分の2のとこまで入れる。

⑨180度のオーブンで約15分焼き、出来上がったら皿に盛る。





これ、作ったら美味いんじゃね?
てか、こんなのバレンタインデーに欲しいよな。
何か、気持ちが凄い籠もってるって言うか・・・・・いや、別に、籠もってないって言ってるわけじゃねぇーからな!!
唯、俺が思っただけで・・・・。

とそこで、バレンタインデーとは何かじっくり考えてみようではないか。
そもそも、「バレンタインデー」とは・・・・、
2月14日。
269年頃殉教死したローマの司祭、聖バレンタインの記念日。
この日には友人や愛する人の間でカードを交換したり、贈り物をしたりする。
日本では1958年頃より流行し、女性から男性にチョコレートを贈る習慣になった。

・・・・らしい。
何でチョコレートをあげんだろうな?
別に、花でも良いってワケだろ?
贈り物だしな。
・・・でもまぁ、女から男に贈るって言やぁー大体、手作りのお菓子とか何かだよな。
俺は毎年、手を汚さない簡単クッキーを作るワケだが・・・・今回は作らないぞ。
理由は忙しいからだ。
バレンタインデーなんぞやっている場合ではない。
だから、今回はこの日記と魔界側パロディーでバレンタインデーを過ごさせてもらう。
簡単で良いだろう?

どの番組にしてもこの2月14日の為にチョコレートの事しか言わねぇーな。
まぁ、そこで俺は行きたいと思った店がある。
多分、東京にある店。
「チロルチョコ」の専門店みたいな店。
あそこに行ってみたい。
多分、渋谷?
でもさ、ショッキングな事聞いたんだよ。
チョコを馬鹿みたいに食う人って、キス不足とかって聞いたんだ。
何か・・・・凄い引いた。
俺は唯、チョコが食いたいだけなのにさ、そんな事言われたら、チョコ食い難いじゃんかよ!!
勘弁、勘弁。
だから、言っておくぜ。

「俺は唯、チョコが食いたいだけ!!」

宣言したからな。
俺は単に甘党なだけよ。
でも、こんな事言っても俺の友人は「信じるなよ、そいつの言葉を!」って言いそう。

今日、俺は麦チョコを食べたんだ。
甘くて美味しいね。
その後にピーナッツ。
何か、甘い後に塩辛ってのも変だけど美味かったぜ。
そして、又しても林檎を食べている。
毎日な。
林檎って食べると医者要らずって言うらしいよ。
だから、俺、健康になってるとちゃう?
まぁ、どっちでも良いけど。(=いや、健康第一だろうが!)

でまぁ、何が言いたいかって、兎に角自分を大切にしてねって事だよ。
(=何で此処でそんな事言うのかが分からん)
最終的に自分を守れるのは自分なんだからさ。
だから、バレンタインデーで、他人にチョコレートや手作りお菓子をあげるのは良いけど、偶には自分にご褒美であげても良いんじゃねぇーの?
この日だけは自分を甘やかせても良い気がする。

ってなワケで、素敵なバレンタインデーをお過ごし下さいませ。
では、明日。






2015-02-13 : 日記 : コメント : 0 :
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プロフィール

十二仙 百露

Author:十二仙 百露
性別:女
年齢:18
身長:158cm
血液型:AB
誕生日:9月12日
好きな食べ物:甘い物
嫌いな食べ物:苦い物
趣味:小説、書道、絵を描く、模写、ゲーム、ゲーム実況見物

 

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プロローグ
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6章7章8章9章

~番外編~
Happy Halloween !! . 2014

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【勇者の特権を取り戻す為に俺は魔王を復活させ、無限ループを繰り返す。】


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