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異世界のイストワール  魔界側パロディー編~危ないバレンタインデー~

◎当パロディーは本編とは全く関係が御座いません。

※字抜けや字間違いをしているかもしれませんが勘弁してください。


*2月14日。
朝。
と言っても滅界を照らす綺麗な太陽は無い。
いつも暗雲と雷鳴があるだけ。
滅界の朝はその暗雲が少し明るくなるだけなのだ。

そんな朝。
廊下を歩く一つの影があった。
コツコツと靴音を響かせ、白衣を纏っている小さな影。
兄に似て青黒い髪をした少女は無表情で歩いていた。
すれ違う下っ端の魔物達に挨拶をされ、無表情で返す。
彼女—————リンネルが向かっている先はキッチン。
理由はご存知の通り、今日は“バレンタインデー”だからである。
いや、リンネルが単独で何かを作ろうとしてキッチンへ向かってるわけではない。
誘われたのだ。
とある人物に——————。

そうこうしている間にリンネルはキッチンへ辿り着き、中に入った。
居たのはいつもの二人と一人。
紳士服の上からフリル付きピンク色のエプロンを纏った滅神王長男ローレライ。
林檎の飴を舐めている、白衣姿の大悪魔神官アプフェル。
赤い眼鏡をかけ、白衣姿の研究員キルラー。
キッチンへやって来たリンネルを見るや否やローレライは微笑んだ。
「リンちゃん、来てくれたのね♪」
そんな魔王にリンネルは無表情で返す。
「はい。ローレライ様のご命令とあらば、何所にでも参ります。」
「相変わらず真面目だねぇ~、リンネルは。」
とアプフェル。
「リンちゃん可愛い!!★」
キルラーはリンネルを見て呟く。
当の彼女はやはり何を言われても無だった。
とそこへ、ローレライが手を合わせて明るく言った。
「さァっ!今日は“バレンタインデー”よ!!張り切ってチョコを作るわよ♪」
「おー!!」
アプフェルとキルラーが笑顔で拳を上げる。
しかし、リンネルは無のまま。
「・・・・それはそうと、リンちゃん、“バレンタインデー”で誰かにチョコ贈った事あるかしら?」
魔王は無口な部下に優しく問い掛けた。
「無いです。」
「それじゃァ、恋をした事はあるかしら?」
「恋・・・ですか?」
聞き返すリンネルにキルラーが言う。
「あるんじゃないですか★?」
「そうだよ!リンネルって顔に出さないだけで誰か好きな人とか居るでしょ!!」
笑顔で言い放つアプフェルにリンネルは又しても無で応える。
「居ないです。私は誰に対しても“無”です。命令以外の行為は致しません。」
「ヘンリーの事とか好きじゃないの?」
「好きと言うよりか非常に尊敬しています。」
「へぇ~・・・・」
アプフェルは悪戯な目をし、飴を舐めた。
そして———————。
「キルちゃんは誰にあげるの?」
問われてキルラーは鼻息を荒くして言い放った。
「勿論、皆にですけど!!!ローレライ様にもあげますよ!!」
「きゃ、嬉しい♪・・・実は私もあげようと思ってたの♪」
「本当っすか!!」
「えぇ。・・・だって、みんな大好きなんですもの♪」
笑い合う二人を無表情で眺め、リンネルは思う。
———————“好き”と言う感情・・・・いやはや、分からない世界です。どうすれば、“好き”だと言う感情が芽生えるのか・・・・やはり、分からないのです。
「ボクもみんなの事好きだからみんなに友チョコをあげるんだ!!」
アプフェルも言う。
「・・・で、リンちゃんは一体誰にあげるの?」
「渡す心算は毛頭御座ませんが、チョコレートを作り、誰かに渡せと言うご命令であれば渡しますが・・・・」
とリンネル。
そんな彼女の返答に三人は顔を見合わせる。
そして、苦笑してローレライは言う。
「これは命令してどうとかそう言うものじゃないのよ。“バレンタインデー”って言うのは自分の意志で動かないと駄目よ。」
「そうっすよ!」
キルラーも大きく頷く。

——————自分の意志・・・・・・。

リンネルは虚ろな目をして、三人を眺めた。
「もっと、感情を出してさ。自分に素直で居なきゃ駄目よ。ほら、リンちゃんは女の子なんだし!勿体無いわよ★」
「そうっすよ!」

———————自分に素直・・・・・・。

ずっと黙っている少女を見て、悲しげな顔をしてローレライは付け足した。
「・・・ま、まァ・・・どうしても“バレンタインデー”に参加したくないなら・・・仕方無いけど・・・・私としてはリンちゃんにも参加して欲しかったから誘ったんだけど・・・・」
そんな魔王を無で見つめ、数分後にリンネルは口を開いた。
「・・・・・・・・・参加してみます。上手く出来るかどうかは定かではありませんが。」
彼女の意外な返答にキッチンに居た三人は驚愕の表情を浮かべた。
雅か、リンネルがその様な反応を返すとは思っていなかったからだろう。
「ですが、私の場合は“好き”と言う感情が分からないので、“尊敬”と言う形で“バレンタインデー”を過ごします。」
冷静且つ、無感情の声で言う少女に呆然としていたローレライであったが、我に返り手を叩いた。
「それは良い考えね★・・・それだったら貰った人も嬉しいわ♪」
「そうだねぇ~♪」
とアプフェル。
「それじゃァ、早速、“バレンタインデー”クッキングを始めるわよ!!!」
「おー!!!」
「お、お・・・・」
明るく言う三人の後に続きリンネルの声が響いた。


★ ★ ★

落ち着いた自室に籠り、パソコンと格闘している人物が居る。
深緑色のネクタイを引き締め、盛大な溜息をつく。
——————どうにかして、俺の絶望的な機械音痴を直さねばならないのだな・・・・。
ヘンリはブラックコーヒーを一口飲む。
この苦さが心地良い。
一先ず、パソコンを閉じ、ヘンリは伸びをしカレンダーを見た。
———————今日は2月14日・・・か・・・・・。
そう内心呟き、カレンダーから目を外して、一息つくとパソコンへと視線を突き刺した。


★ ★ ★


キッチン内に甘い匂いが漂い始めていた。
チョコレートの甘ったるい匂いが体全体を支配する。
その頃、大悪魔神官アプフェルは林檎を取りに庭へ出かけて行った。
ローレライはバレンタインデーのチョコを作るべく、刻んだチョコレートを溶かしている。
「チョコレートの匂いって何でこんなに良い匂いなのかしら♪」
「何ででしょうねぇ~★」
とキルラー。
当の彼女はケーキトリュフを作っている。

<ケーキトリュフ>→約25個~30個分
◎材料
スイートチョコレート・・・40g
カステラ・・・130g
アーモンドパウダー・・・60g
クルミ・・・20g
レーズン・・・20g
ラム酒・・・大匙2
生クリーム・・・25cc

○コーティング用チョコレート
スイートチョコレート・・・300g
ホワイトチョコレート・・・適量

◎作り方
①天板にオーブンシートを敷き、アーモンドパウダーを一面に広げる。170度に温めたオーブンで約8分焼く。同様にしてオーブンペーパーを敷いた天板にクルミを広げ、160度に温めてオーブンで約6分焼く。粗熱が取れたら包丁で粗く砕く。

②スイートチョコレートを細かく刻み、ボウルに入れる。その他の材料も全て加え、ゴムベラなどでしっとりなるまで混ぜる。

③②を一口大の俵型に手でまとめ、バットも並べる。ラップを被せ、冷蔵庫で冷やし落ち着かせる。

④コーティング用のスイートチョコレートを細かく刻み、湯せんにかけて滑らかに溶かす。③を一つ一つフォークなどに載せて潜らせ、オーブンペーパーを敷いた台の上に載せる。冷蔵庫に入れて、表面がしっかりと固まるまで冷やす。

⑤ホワイトチョコレートを細かく刻んで湯せんにかけて溶かす。コルネ袋に入れ、④の上に線状に細かく絞り出し、再び冷蔵庫に入れて冷やす。





一方、大悪魔神官リンネルはと言うと———————。
焼けた生地をオーブンから取り出し、竹串を刺している。
「出来上がったの?」
とローレライ。
リンネルは無表情で返事をする。
「はい。“コーヒー味のスポンジケーキ”が出来ました。」


<コーヒー味のスポンジケーキ>
◎材料
卵・・・2個
砂糖・・・70g
小麦粉・・・70g
無塩バター・・・20g
牛乳・・・10cc
インスタントコーヒー・・・7g
お湯・・・10cc

◎作り方
①小麦粉は振るっておく。無塩バターと牛乳は湯せんで温め、バターを溶かす。

②ボウルに卵を入れて軽く解し、砂糖を加えて湯せんにかけ混ぜる。人肌位になったら湯せんから外す。

③リボン状になるまで泡立て、仕上げにキメを整えるために低速で泡立てる。

④小麦粉を振るい入れゴムベラで泡を潰さない様に混ぜる。

⑤溶かしたバターと牛乳をゴムベラに添わせる様にして加え、更に混ぜる。

⑥お湯で溶いたインスタントコーヒーを加えて混ぜる。オーブンを180度に温めておく。

⑦型に流し入れ、トントンと空気抜きをする。

⑧オーブンに入れて、180度で16分焼く。竹串を刺して何も付いてこなければ完成。






彼女の作ったものを見ようと魔王と研究員が覗く。
茶色く綺麗に焼けている。
「上手く出来たわねぇ~♪凄いわ★」
とローレライ。
魔王の賞賛にキルラーも大きく頷く。
そして、リンネルに問い掛ける。
「・・・で、リンちゃん先輩は何を作る心算なんですか?」
リンネルはコーヒー味のスポンジケーキを丁寧に取り出し、皿の上に載せると答える。
「“ティラミス”です。」
「へぇ~★それで、ティラミスの為にコーヒー味のスポンジケーキを作ってたんすか★」
キルラーの言葉にリンネルは頷く。
「どうしてなの?“バレンタインデー”は大体甘いチョコレートじゃなくって?」
ローレライは不思議そうな顔をして言う。
そんな魔王にリンネルは洗い物をしながら返した。
「ヘンリ様はあまり甘い物がお好きではありませんので、あまり甘さの無い‘ティラミス’にした次第です。」
「そうだったわねぇ~、ヘンリーってば甘い物好きじゃなかったわよね。忘れてたわ。」
「そして、他の皆様には生チョコを差し上げたいのです。」
とリンネルは続けた。
彼女の考えに二人は感心させられた。
あまり甘い物を好まない上司の事を思い、苦味の効いているティラミスを選択し、その他は甘さのあるチョコを選択しても良いと言う部下の考え。
何と人の事を思っている女の子ではないか。
「カル兄さんのは猛烈に甘い物を作ってあげれば良いのです。」
「そうね。」
喋りながら手を動かし、リンネルはティラミスを作るべく材料を揃える。そして、作り方を書いたメモを眺める。




<本格的なティラミス>
◎材料
マルカポーネ・・・250g
卵黄・・・2個
グラニュー糖・・・60g
牛乳・・・60cc
生クリーム・・・100cc
ゼラチン・・・5g
水・・・30cc
カルーア(コーヒーリキュール)・・・小さじ2
エソプレッソコーヒー・・・60cc
ジェノワーズ・オ・カフェ(コーヒー味のスポンジケーキ)・・・スライス厚さ1㎝を2枚
ココアパウダー・・・適量
ミント・・・好み

◎作り方
①マスカルポーネは室温に戻し、ゴムベラで練っておく。ゼラチンは水でふやかしておく。

②卵黄とグラニュー糖の3分の2を加え、泡だて器でもったりするまで混ぜる。鍋に牛乳を入れて沸騰直前まで温めてゼラチンを入れて溶かす。

③卵黄のボウルにゼラチンを溶かした牛乳を加えて混ぜ、滑らかになったらこし器を使い、マスカルポーネに加えて練らない様に混ぜる。

④生クリームに残りのグラニュー糖を加え、9分立てにし、マスカルポーネに加える。泡を潰さない様にしっかり混ぜる。

⑤ジェノワーズ・オ・カフェをカップに合わせて抜き、底に敷く。エソプレッソコーヒーにカルーアを加えてシロップを塗る。

⑥その上にマスカルポーネクリームを載せ、⑤⑥⑤⑥の繰り返し。

⑦最後にパウダーとミントを載せる。





「出来ました。これでヘンリ様にいつでもお渡し出来ます。」
とリンネル。
そして、出来たティラミスを冷蔵庫へ入れて、洗い物をする。
そんな無少女を眺め、二人は呆然とする。
この子のする事は早い。
リンネルと言う大悪魔神官はその言葉一つで片付く。


★ ★ ★ ★


‘キャー!’と言う興奮した女子の悲鳴とノック音。
それ等に苛立ち、ヘンリは眼鏡を押し上げる。
———————全く・・・何なのだ、一体・・・!
立ち上がり、扉を開ける為に歩を進める。
———————自棄に騒がしい・・・・何故だ?
ドアノブを掴み、扉を開ける。

ガチャン!

「何なのだ、一体!今俺は忙し・・・・」
「ヘンリ様!!!」
「キャー!!ヘンリ様よ!!」
「ヘンリ様!!」
滅神王次男の部屋の前に集まった女型の魔物達————————ドラキュラレディ、ラミア等の露出度の多い——————は一斉に手に持っているラッピング付きの箱をヘンリに差し出す。
「ヘンリ様、受け取って下さい!!!」
「心を込めて作ったんです!!」
「受け取って下さい!!」
「私のも受け取って!!」
「アタシのが先よ!!」
ヘンリは目の前に群がる女型の魔物どもと桃色やハート型の箱を眺め、眉根を寄せる。
———————何故、俺の部屋の前に女型の魔物どもが居るのだ?そして、何だあの桃色の箱は!ハート型は!!何故、それを俺が受け取らねばならないのだ?・・・・・ま、雅か!
何か嫌な予感がした魔王は咳払いし、ヒートしている場を鎮めた。
「おい、お前等。」
「はい!!!」
ヘンリが発した言葉は自分の物だと言う雰囲気を纏わり付かせ、魔物どもは目を輝かせた。
「一体、何なのだ?何故、俺にその得体の知れない箱を渡す?しかも、何故俺なのだ?俺はそんな罠っぽい箱は貰わないぞ。」
魔王の発言に集まった魔物達は一瞬固まったが、微笑み応じる。
「ヘンリ様、今日は女の子の恒例行事、“バレンタインデー”ですよ。」
「そうですよ!“バレンタインデー”ですって!!」
魔物どもの返答にヘンリは目を点にする。
「ば、ばれんたいんでー・・・・?」
「はい。今日は2月14日でしょう?」
「・・・あ、あぁ・・・その様だが・・・・」
「2月14日は女の子にとっては特別な日なんですよ。」
「好きな人に想いを告げる大切な日なんです。」
集まっている大勢の女型の魔物どもの言葉にヘンリは呆然とする。
———————“バレンタインデー”・・・・だと・・?何だ、それは!・・・・それに・・何だ?好きな人に想いを告げる大切な日だと?俺はそんな日なんぞ知らないし、興味など無い。
「ヘンリ様、もしかしてご存知なかったんですか?」
「でも、知ってなかったヘンリ様って超可愛いわよね♪」
「確かに!!」
盛り上がる部下達を眺め、当の彼は眼鏡を押し上げて言った。
「・・・い、いや、知っていた。知らない事は・・・決して無い。」
「まぁ~ですよねぇ★」
魔物どもは笑うと、一斉にピンク色の箱を手渡そうとする。
「だから、ヘンリ様!!私の想いを受け取って下さい!!」
「私もです!!」
「これも!」
「是非、受け取って下さい!!てか、好きです!」
「大好きです!!」
犇き合う、女どもに押され、服を引っ張られ、ヘンリは朝から悲惨な攻撃を受けた。


★ ★ ★


カルコスやその他諸々の部下達にバレンタインデーのチョコを配る為、ローレライ、リンネル、キルラーの三人は皆で生チョコを作る事にしたのであった。
「・・・ってなワケで、この私が創った“惚れ薬”は全く効果が無かったんですよ★」
笑って言う研究員キルラーの話を無表情で聞くリンネル。
キルラー曰く、彼女は魔王軍の武力を高める為に“惚れ薬”作り出したらしいのだ。そして、実際にその薬が効果を発揮しなけらばならないので、カルコスに実験して結果を報告しに来いと言われ、キルラーはとある部下を実験材料に“惚れ薬”を使用してみた。
しかし、彼女の創った薬は何の効果も無かったらしい。大量に薬を飲ませても、何時間経っても効果は発揮されない。
仕方無く、キルラーはカルコスに報告した。結果が悪く、彼女の“惚れ薬”作戦は無しとなった。
「それで、この“惚れ薬”は無駄になってしまったのです★」
「可哀想に・・・」
とローレライ。
だが、キルラーは笑った。
「それでなんですがね、この“惚れ薬”、匂いが凄く良いんですよ!・・・で、この何の効果も無い液体を生チョコの中に入れてはどうですかね?香りが良くなるんじゃないすか★」
研究員の提案にローレライは思案顔をして無表情のリンネルに問い掛けた。
「どう思う?リンちゃん。」
「私は判断を下せません。」
返答する神官にローレライは苦笑すると、続けた。
「私としては・・・・・・・・ちょっとチョコレートの匂いが変になるんじゃないかしら?」
「そうですかねぇ?」
「うん・・・でも、まぁ・・・チョコの方が匂いキツイかしらね?」
「自分はそうだと思ったんですけど・・・」
キルラーは持って来た瓶を振った。
中の液体は淡く七色に綺麗に輝いていた。
そんな液体の輝きを眺め、ローレライは微笑んだ。
「その輝きだと、チョコも輝くかしら?」
「あ、そうですかね?」
「綺麗にてかるんじゃない?」
「そうっぽいですね★」
「淹れてみる?」
「淹れてみましょうよ!!!」
魔王と研究員は笑い合うと、生チョコの中に何の効き目も無い“惚れ薬”を淹れる事を決めた。


★ ★ ★


どっさりと机の上、床の上に積まれたチョコレートの箱を眺め、ヘンリは不機嫌そうな顔をする。一方では、助っ人として呼ばれた大悪魔神官カルコスは目を輝かせて甘いチョコレートを食している。
「・・・・・・それにしてもカルコスさんが居て助かりましたよ。」
ヘンリは盛大な溜息をつき、苦笑した。
当のカルコスは生チョコを食べ終わると、次の箱を持つ。
「いや、こんなに甘い物が食べられるなんて夢の様ですよ。」
そう言うカルコスはヘンリの部屋に来る前に女型の魔物どもに貰ったチョコを全部食べて来たらしい。
「俺は甘いのなんてあまり食べられませんから、バレンタインデーとやらは困りますね。」
とヘンリ。
「そうですか?俺は結構好きですけどね・・・・」
「甘い物、好きですね。」
「はい。大好物ですよ。」
嬉しそうに答えてチョコを頬張り、幸せそうな顔をするカルコス。
そんな彼を眺め、ヘンリは苦笑する。
そして——————。
「もしかしたら・・・・馬鹿兄貴からも来るんですかね?チョコ・・・」
「そ、そうですね。・・・てか、チョコは嬉しいけど、アイツは要らないって感じです。」
「俺も同感です。・・ですが、俺の場合チョコもアイツも要らないです。」
少し微笑む二人。
同じ意見を持つ者同士、彼は部下なら良かったのにと思うヘンリと彼は上司なら良かったと思うカルコスが居た。


★ ★ ★

「くしゅんっ!」
ローレライはくしゃみをした。
「あら嫌だ、誰か私の事噂してる?」
とそんな独り言を言う魔王。
今、彼等の前では生チョコが出来上がろうとしている。
冷蔵庫に入れられ、チョコ達は冷やされている。


<生チョコ>
◎材料
生クリーム・・・100g
チョコ・・・200g
グランマルニエ(洋酒)・・・大匙1→※魔族側は洋酒を“効き目の無い惚れ薬”にした。結構、多く。

◎作り方
①生クリーム、洋酒を常温に戻す。チョコを刻む。

②生クリームを沸騰直前まで温める。

③刻んだチョコレートを入れて完全に溶かす。溶けたら冷水に付けてねっとりするまで混ぜ、洋酒を入れて混ぜる。

④ラップしたバット、四角い箱にチョコを流し込み、切れる固さまで冷やす。

⑤パウダー(ココア)を掛けて完成。



冷蔵庫でチョコを冷やしている間、キルラーは調べた“惚れ薬”の事を語った。
「“惚れ薬”って素晴らしいですよね★それも、何か知らないですけど、色々種類があったんですよ★驚きでしょう!!」
「そうね。私も知らなかった世界だわ。」
「飲ませるタイプと体に付けるタイプがあるみたいなんです★」
「へぇ~。」
「まぁでも、自分が今回創った“惚れ薬”は飲むタイプですけどね★」
二人が“惚れ薬”について語っている間、リンネルは無表情で聞いていた。
「体に付けるタイプって・・・やっぱり、良い匂いで異性を惹き付けるみたいな感じ?」
とローレライが目を瞬かせて研究員に問い掛けた。
当の彼女は笑顔で応じる。
「はい★首とか、腕とかその辺りです★」
「香水みたいな感じね♪」
「はい★・・・でも、そのタイプは一つ面倒臭いとこと弱点があるんですよ。」
「何かしら?」
「先ず、面倒臭いとこは、その“惚れ薬”—————“イシュタルの秘密の惚れ薬”は金曜日の深夜に作らないといけないらしんです。」
「そうなの!何で又金曜日に限定なワケ?」
「それはちょっと分からないです。・・・・・で、弱点は、すぐに匂いが消えるんです。だから、効果がすぐに薄れてしまうんですよ。」
「でも、キルちゃんが作った薬はしっかり匂いがしてたわね。」
「あれは改良したんです★だから、匂いの方は大丈夫だったんですけど・・・中身が抜けちゃったみたいですね★アハハハハハハハ♪」
「キルちゃんらしいわ♪可愛い。」
「マジっすか!!!あざっす!」
そんな二人の会話を聞きながら、リンネルは船を漕いでいた。
寝ない様に頑張っているのだが、目蓋がもう緩くなっている。
恐らく、二人の声が子守唄になっているらしい。
それに無理も無い。
慣れない仕事をしたのだ。
流石の彼女も睡魔に襲われるだろう。
船を漕いでいるリンネルを眺め、魔王と研究員は微笑む。
そして、小声で言う。
「カルトス君同様、この兄妹は可愛いわね★」
「はい★常識を超えた萌えさを兼ね備えていますっ★」
興奮気味の研究員はその後に付け足す。
「あ、勿論、ローレライ様とヘンリ様、アプフェルさんも萌えさは異常ですよ★」
「あら、本当?」
笑い合う二人の横で、リンネルは睡魔に負けた。


★ ★ ★


昼。
いつもならサンドイッチ(=因みに具はレタスとマヨネーズの卵和え)一つとコーヒーで済ます昼食も今日は真逆の昼御飯になってしまった。
昼の読書の時間もバレンタインデーに奪われている。
昼でも尚、女型の魔物どもはバレンタインデーのチョコレートを渡しに滅神王次男ヘンリの部屋へやって来る。
鬱陶しいなどと追い返しているのだが、魔物どもは下がらずチョコレートと投げキッスをヘンリに手渡し去って行く。
チョコレートを食べてくれていた大悪魔神官カルコスは仕事があるからと言い魔王の部屋を後にしていた。
魔王は盛大な溜息をつき、部屋の中に持ち入った。
そして、未だ山積みにされているチョコレートの山を眺め、ヘンリはうんざりした顔をする。
———————甘い物があれだけ嫌いだと言うのに何故、俺に甘い物を持って来るのだ!好きだの何だのと言い訳を吐き、俺に対する嫌がらせか!
ヘンリは眼鏡を押し上げ、椅子に座った。
いつもならば檸檬系統の柑橘系の香りがする部屋なのだが、今はチョコレートの甘い匂いが充満している。
———————窓を開けなければならないのだな・・・まったく・・・。
ヘンリは深緑色のカーテンを開け、窓を開けた。
チョコよりマシな外の空気が流れ込んでくる。
「甘い物は大嫌いだ。」
魔王次男はそんな独り言を呟いた。
その時だった。
ノックの音がした。
それと同時に聞きたくない声がする。
「ヘンリ~♪」
「ヘンリー様★」
その声にヘンリはうんざりした表情をし、叫んだ。
「何なのだ!今、俺は忙しいのだ!!後にしろ!」
「えぇ~、後って言われても無理よ♪」
「無理ならば今日来るな!」
「それも無理だから入るわね♪」
ローレライは言うなり弟の部屋の中に入った。勿論、研究員キルラーも入る。
「俺は入って良いなどと一言も言っていないのだがな!!」
「良いじゃない♪ね、キルちゃん!」
「はい★」
キルラーは元気良く返事をし頷く。
そして、ローレライは部屋の中を見回す。
「忙しいって貰ったチョコを食べるのに忙しいって事だったの?」
「違う!!!」
「ヘンリー様も隅に置けませんねぇ~★この色男!!」
とキルラーが言う。
「黙れ!」
「って言うよりはヘンリ様って格好良いですもんね★」
と付け足す。
「そりゃぁ、魔界の女どもにチョコレート死ぬ程もらえるわ★」
「そうね♪」
二人の会話を聞き、ヘンリは不機嫌そうな顔をする。
そんな弟に兄は微笑み続けた。
「それで、私達のヘンリーにチョコをあげようと思って持って来たの♪ね、キルちゃん!」
「はい★」
笑い合いチョコを差し出す二人を睨み、ヘンリは怒鳴る。
「要らないのだ!」
「良いじゃない!!受け取ってって!!」
「そうですよ、ヘンリー様!」
「要らないのだ!俺はそんな甘ったるいものなど食さないのだ!帰れ!」
「えぇ~!折角作ったのにィ~!一口で良いから食べてよ!」
ローレライは箱を開けて生チョコを一つ摘むと、ヘンリに近付けた。
「ほら、ヘンリー、あ~ん♪」
「要らないと言ったら要らないのだ!気持ち悪い!」
「良いから、あ~んして♪」
「しない!いいから帰れ!」
「一口で良いから食べて下さいよ★」
とキルラー。
「一口で良いですから★」
懇願する様に言うキルラーを横目で見て、ヘンリはネクタイを直した。
「そうよ、一口で良いから。心を込めて作ったのよ。」
ローレライも少ししょんぼりした顔をして言った。
そんな二人を眺め、次男は吐息をつく。
もの凄い潤潤目で見られては流石のヘンリも観念せざる終えない。
だから、呟く。
「・・・・・・・・・・・・・・本当に一口だけで良いのか?」
「はい★食べてくれるんですか★」
「・・・あまり、食べたくは無いが一口だけなら食ってあげても良い。有り難く思え。」
「やった!!!」
二人は手を合わせ、飛び跳ねる。
「そんなに心を込めて作ったと言うのならば、相当美味いのだろうな?」
「そりゃぁ、美味しいわよ!!きっと、一口だけじゃ終わらないわよ♪」
とローレライ。
そんなワケでヘンリは二人が作ったと言うチョコを食べることにした。
誰だって心を込めて作ったと言われれば食べたくなるものである。
例え、ヘンリであっても。



★ ★ ★



眠ってしまった。
大悪魔神官リンネルははっとなり飛び起きた。その弾みで掛かっていたブランケットが床に落ちる。
キッチンの台に突っ伏して寝ていたせいで、額が少し赤くなっている。
周囲を見回すがキッチンには誰も居なかった。
———————私とした事が眠ってしまった様です。ローレライ様もキルラー様も居なくなってしまいました。
そんな事を思っていると、置手紙が置いてあるのに気付いた。
「これは・・・・?」


————————————————————————————————
リンちゃんへ

先に私達二人で生チョコを配っておくからね。
リンちゃんの生チョコもね。
だから、ティラミスをヘンリにあげてね。


               ローレライより
————————————————————————————————


「ローレライ様・・・キルラー様・・・」
リンネルは置き手紙を白衣のポケットに入れると、冷蔵庫に向かった。
そして、作ったティラミスを出す。
——————後はこのティラミスをヘンリ様に届けるだけですが・・・。
と、キッチンの壁に掛かっている時計を見る。
12時30分過ぎ。
——————この時間は大体、昼食を召し上がって・・・暇な時間ですね。
そんな事を独り思いながらティラミスを金の盆の上に載せ、キッチンを後にする。
———————初めてのバレンタインデーです。はてさて、上手くいくでしょうか?
と言うワケでリンネルはコツコツと廊下を歩き、尊敬する上司の部屋へと向かって行った。


★ ★ ★


ローレライ達から一口だけ生チョコを食べ、ヘンリは独り無言で減らない山積みチョコを見ていた。
凡そ10分置きくらいに女型の魔物達がチョコを持ってやって来る。
そのせいで何だか頭が痛い。
——————そのまま無視しても良いのだが、部屋の前にチョコを置かれては部屋から出られないし・・・・・・・・困ったな。
頭が痛い。
これは気のせいなどでは無い。
———————何故か頭が痛くなってくるし・・・・これもやはりチョコのせいか?・・・いや、ローレライ達のチョコを貰ってからだ・・・・・・・・・・・・・・・雅か、奴等、あの生チョコに何か薬か何かを入れていなのではないだろうな?
視界がぼやけてくる。
眩暈も頭痛もする。
———————俺の体が可笑しい・・・。
体も何故か熱くなってきている。
性欲を急き立てる様なそんな感情が湧き上がってくる。
———————何なのだ、この変な感情は!
何故だかは分からないが尋常では無い程、無性に部屋から出たい。そして、異性に会って触れたい気分。
———————可笑しい!これは絶対に可笑しい!これは俺では無い!
自我があるのだが体が言う事を聞かない。
———————やはり、奴等の仕業か!!くそ、とんでもない罠に填まってしまった様だ!!
ヘンリは焦り、部屋から己の体を出さない様に抵抗する。
とその時だった。
「ヘンリ様!!」
部屋の外から女型の魔物達の声がした。
——————しまった!!
しかし、彼の体は思考とは真逆に走ってしまった。
勢い良く部屋の扉を開け放ち、来てくれた女型の魔物達に爽やかな笑みを浮かべて出迎える。
「やぁ、君達。今日は何の用で来てくれたのかい?」
いつもとかなり違う魔王の様子に一瞬引いた魔物達であったが、悲鳴を上げて喜ぶ。
「キャー!!ヘンリ様!!」
「ヘンリ様、素敵!!」
顔を真っ赤にして女型の魔物達は叫ぶ。
そんな叫び声にヘンリは内心悲鳴を上げていた。
———————何なのだ、これは!!!俺はこんな恥ずかしい事など言わない!!
しかし——————。
「OK,OK・・・・あまり城内で悲鳴を上げると駄目だよ。皆、真剣に仕事をしているからね。俺だって今さっきまでは仕事をしてたんだ。・・・でも、君達の声が聞こえたからね、仕事を途中で放棄したよ。まぁ何たって、仕事よりレディを優先すべきじゃないか。」
「キャーっ!!!!」
———————俺の馬鹿!!何可笑しい発言をしてるのだ!!訂正しろ!!
喜んで叫ぶ女型の魔物の一人—————ラミアをヘンリは見つめ、急に彼女を壁まで押し、片腕を壁へ突き、顔を寄せて囁いた。
「君・・・・口紅変えた?」
憧れの魔王との近い会話にラミアは赤面し、口篭る。
「え、えっと・・・は、はい・・・ヘンリ様・・・・」
「やっぱりね・・・」
「お、お、お気に召しませんでしたか・・・?」
「いいや、君にぴったりだよ。美しさが増して良い。」
———————おい!!これ以上恥ずかしい台詞を吐くな!!でないと、俺が崩壊していくではないか!!
滅神王次男ヘンリに壁ドンをされているラミアを女型の魔物どもが睨み、何やら不満を言っている。
「何よ、あの女!!」
「ヘンリ様に壁ドンだなんて!!」
「羨ましい!!」
「あの女、勇者に殺されれば良いのに!!」
「そうよ!」
今にも口付けをされそうな魔王次男とラミアの間に女型の魔物達は不満の声を上げる。
ヘンリの自我も焦っている。
——————近い!近い!近い!近い!近い!!顔が近いではないか!!離れるのだ、俺!!
しかし、内心とは裏腹にヘンリはラミアに顔を近づける———————。
「きっと、君の唇は俺の唇と合わさる為に用意されたみたいだね。・・・・・・フフ、参ったな・・・」
「ヘ、ヘ、ヘ、ヘンリ様・・・・!!」
戸惑うラミア。
「見た感じ、誰にも汚されていない唇の様だ・・・・」
——————おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい!!!それだけは止めろ!!絶対に止めろ!!!
顔をゆっくりと近づけていく魔王を見つめ、チョコを渡しに来た魔物どもは驚愕の事態を目に焼きつける。
泣きそうな顔をする魔物も中には居た。
「ヘ、ヘ、ヘ、ヘ、ヘ、ヘ、ヘンリさ、さ、さ、様!!」
ヘンリは不適な笑みを浮かべて囁く。
「君のファーストキスは俺で決まりだな。」
そして———————。
ラミアと魔王の唇と唇が触れ合うだろう瞬間———————。
「ヘンリ様・・・」
無感情の冷たい声が掛けられた。
ヘンリはその声に目を見開き、ラミアから顔を離し、声の主を見つめた。
立っていたのは手作りティラミスを金の盆の上に載せた白衣姿のリンネルだった。
———————リンネル!!!これにはワケが!!と言うよりかは良いタイミングに来てくれた!!!
「愛しいリンネルじゃないか!一体何所に居たんだ!!」
ヘンリはリンネルに駆け寄った。
「俺をいつも独りにするなと言っているじゃないか。」
「そうでしたか?」
「そうだよ!ったく、可愛いな。」
ヘンリは笑うと、リンネルの青黒い頭を撫でた。
それを彼女は無表情で受け止めていた。
次男は部下の頭を撫でながら女型の魔物達に言う。
「ごめんね、君達。後で相手してあげるから、部屋で待ってなよ。」
ヘンリの言葉に女型の魔物達は赤面しそのまま去って行った。
そして、ヘンリはリンネルが持っているティラミスに気付く。
「あれ?リンネル、もしかして、そのティラミス、俺の?」
「はい、<ヘンリ>様のです。」
「もしかして、俺の為に作ってくれたのか?」
「はい、<ヘンリ>様の為に作りました。」
「嬉しいな!!やっぱり、俺はリンネルの事が大好きだ!絶対誰にも渡さないぞ!」
と言ってヘンリはティラミスを手に取ろうとした。
だが———————。
手を伸ばそうとしてきた魔王の手をリンネルは払った。
「リンネル・・・?」
大悪魔神官リンネルは無表情で冷たい声を響かせた。
「このティラミスは<滅神王ヘンリ>様ので御座います。決して貴方様のものではありません。」
そして、続ける。
「すみませんが、<ヘンリ>様を見かけませんでしたか?私はこのティラミスを<ヘンリ>様に届けなくてはならないのです。」
「あ、いや・・・」
焦り気味のヘンリは爽やかな笑みを浮かべ返す。
「ったく、冗談がきついなぁ・・・まぁ、そこも可愛いけどな。」
「<ヘンリ>様はいらっしゃらないのですか?」
「いや、俺がヘンリ。」
名を名乗るヘンリを無視し、リンネルは魔王に背を向け歩き出した。
「ちょっと!リンネル!俺がヘンリだって!」
次男の焦り声にリンネルは歩を止めると振り返った。
「申し訳御座いません。私が知っている<滅神王ヘンリ>様はその様な卑猥な御方ではないので。・・・・失礼します。」
言うなり、リンネルは去って行った。
そんな彼女を呆然と見つめ、ヘンリは動けなかった。


★ ★ ★


妖しい気配を感じ、大悪魔神官カルコスはローレライとキルラーの生チョコを振り払っている。
必死に抵抗する部下にローレライは言う。
「何も入れて無いわよ!」
「妖しいんだよ!!きっとチョコ自体には何の罪も無いんだろうけど、お前等のは何か異様な気配がすんだよ!!」
「失礼ね!!」
「カルトス君!!食べて★」
一方でキルラーは強引にカルコスに抱きつき、生チョコを食べさせようとしている。それにも抵抗しながら、カルコスは叫ぶ。
「食いたいけど要らないって!!」
「食べたいんだったら食べて下さいって★」
「俺は普通のチョコが食いたいんだよ!!そんな妖しげなチョコなんか食えるか!!」
「妖しくないですって!!★」
「そうよ!」
ローレライも言う。
「入っているのは私達のたっぷりの“愛情”よ♪」
「それが要らねぇーんだよ!!」
「愛情と・・・・何か綺麗な液体ですよ★」
とキルラー。
「何だよ!その<何か綺麗な液体>って!!」
と揉めている中。
カルコスの部屋の扉がノック音に揺れた。
ノックに皆が静まる。
「何だ!今、俺は猛烈に忙しい!!用件は何だ!!」
とカルコス。
彼の声に扉の外から声がした。
「私です。リンネルです。」
「リンネルか。」
カルコスは<入れ>と言い、妹を部屋の中に入れた。
入って来たリンネルを見つめ、キルラーが微笑んだ。
「リンちゃん先輩、起きたんですか★」
「寝てたのかよ・・・」
とカルコス。
「すみません、眠ってしまって。」
「良いんですよ★誰だって寝たりします★」
「お前の場合は会議中でも平気で寝るがな!!」
キルラーの励ましにカルコスが突っ込む。
しかし、そんな二人には触れず、彼女は彼等を見て言い放った。
「ローレライ様、キルラー様、すぐにその生チョコを処分して下さい。」
「!!」
唐突なリンネルの言葉に皆が驚愕する。
当のローレライは苦笑して言う。
「リ、リンちゃん・・・何で又急にそんな酷い事を言うの?」
「その生チョコは“惚れ薬”の効果が出ています。」
「えっ!?」
とローレライ。
「マジっすか!?だって、あの薬は失敗作だったじゃいっすか!!」
キルラーも驚愕する。
「つーか、その生チョコに“惚れ薬”なんか入ってたってのか!!<何か綺麗な液体>じゃねぇーじゃんか!!!」
カルコスは青筋を立てて言う。
そんな彼に研究員は笑う。
「まぁまぁ★」
「俺に<失敗しました★>って言ってたあの薬を入れてたってのか!!」
「はい★」
「何で又そんな危ねぇー薬入れてんだよ!!馬鹿かお前等は!!いや、元から馬鹿だけど!」
「だって、失敗して使い道が無かったからつい・・・テヘ★」
とキルラーはウィンクをする。
「何が<つい・・・テヘ★>だよ!!危うく俺まで変になるところだったぜ!!つーか、失敗してねぇーじゃん!!」
「そうみたいっすねぇ~★何か嬉しい★」
「<何か嬉しい★>じゃねぇーよ!!!ったく!」
カルコスは怒鳴り終わると盛大な溜息をつき、妹に問うた。
「・・・・・・・・・で、リンネル、被害はどこら辺までに及んでいるんだ?」
「それはローレライ様達がお配りになったところだと思います。」
「マジかよ・・・・」
カルコスは目元を押さえる。
「少なくとも、ヘンリ様に症状が出ているのは確かです。」
「はっ!?」
妹の言葉にカルコスは目を見開いた。
「ヘンリ様に!?」
「はい。」
次男に惚れ薬が効いたのを知り、密かに喜び合っているローレライとキルラー。
「それじゃぁ、早速見に行ってみましょうよ♪」
「レッツゴー★」
笑って言う二人にカルコスは怒鳴る。
「駄目だ!貴様等は“惚れ薬”の入った危険な生チョコを配った罪で、症状を直す薬を直ちに作れ!!一刻も早く皆を元通りにしなければ・・・・滅界は大変なことになってしまう・・・・」
真剣な顔をして言っているカルコスの横でローレライはキルラーの肩に手を置いて感想を漏らす。
「それにしても、キルちゃん、凄いわねぇ~♪ヘンリーにも効く薬を作っちゃうなんて!」
「いやぁ~、それ程でもありますよねぇ~★」
「やっぱり、私の目に狂いは無かったわ。」
「感心してる場合か!!早く作ってこい!!」
と怒鳴るカルコス。
カルコスに促されて二人は研究室へと向かった。
部屋に残った兄妹は暫くの間は無言だったが、兄が口を開いた。
「リンネル、お前は何とかして“惚れ薬”に体を虫食まれているヘンリ様を止めてくれ。俺は他の連中を止める。あの馬鹿達の事だ、城内の魔物達に絶対配ってるからな。」
「と言いますと、無抵抗のままヘンリ様の壁ドンに付き合えと言うのですか?」
妹の発言にカルコスは驚愕した。
「ま、雅か!ヘンリ様が壁ドンをしてたのかっ!?」
「はい。滅軍部隊547909号のラミアに壁ドンをしていました。私があの時、ヘンリ様の前に現れなかったら接吻までしていたのです。」
「せ、接吻だと!!!」
驚きのあまり叫ぶ兄を無視し、リンネルは彼の部屋を出て行こうとする。それから、ドアノブを掴み回す。
「・・・・・・・・・では、カル兄さんの命令通り、ヘンリ様を抑制してきます。」
言うと、扉を開ける。
そして———————。
「・・・あの様なヘンリ様は・・・・大嫌いですから・・・・」
と彼女は小さく呟き部屋を出て行った。
カルコスはそんな妹の囁きを聞き逃さなかった。
——————リンネル・・・・お前・・・。
兄として時に見せる感情の入った妹の顔が気にはなっていた。
———————俺にはごく稀に感情の入った顔を見せるが、ヘンリ様と居る時の方が俺より多い。・・・・・・・・やはり・・・リンネルは・・・・。
カルコスはそこまで考えて首を横に振った。
———————今はそんな事を考えるのは止そう。それより・・・・城内を“惚れ薬”の支配から解放しなければ!!
大悪魔神官は思うと部屋を飛び出した。


★ ★ ★


滅神王城にあるとある研究室。
キルラーが生活している研究室。
そこで、のんびりと会話をしている二つの影。
「“惚れ薬”の効果を打ち消す万能薬なんて一体どうやって作れば良いの?」
「さぁ?自分も分からないです★」
「そうよね。」
ローレライは笑う。
「でも、大体、薬の効果ってのは一日で切れるものですよね★だったら、そのまま放って置いて、“惚れ薬”が効いているヘンリ様を眺める方が楽しいですよね、ローレライ様!」
キルラーは呑気な顔をして微笑む。
「それ、私も思うわ。」
魔王長男は頷き、少し残念そうな顔をした。
「私としては、カルトス君に効果があってほしかったわ。ヘンリーだけでも面白いけど、カルトス君も効いてほしかったわ。」
「確かに★」
「今度はもっと強烈な惚れ薬を作ってみたいわね♪」
「ですね★・・・でも、自分的には性別が入れ替わる薬も作ってみたいです★・・・・・・ほら、女性が飲めば、むきむきの筋肉が付くとか・・・男性が飲めばぼいんぼいんの巨乳になって可愛くなるとか!」
「良いわね♪その時は絶対ヘンリーに飲ませてみたいわ!」
「同感です★」
お互い新しい薬の開発を出し、笑い合う。
“惚れ薬”の効果を打ち消す薬の開発など頭に無い様だ。
「自分、ヘンリー様に壁ドンやってもらいたかったです★」
「そうね、されたらレアだもんね♪」
「きっとされたら<ふぅ~!!>って凄いテンション上がってましたよ★」
「私も見てみたかったわ。ヘンリーったら、絶対女の子にそんな事しないもんね。」
「しませんね★」
「普段、やってくれたら良いのに。そしたら、あの子の印象も変わるのにね。」
「そうですね★・・・でも、あの冷たさも好きですよ★こう、見下した様な目で見て、鞭を振るう様な鋭く酷いお言葉・・・・はぁ~何か興奮してきました★アハハハハハハハ★」
「キルちゃん、相当のMね。」
「はい★」
大きく頷く研究員を微笑んで見つめ、ローレライは言った。
「・・・まぁでも、“惚れ薬”の効果を打ち消す薬を作りましょうか。」
「そうですね・・・嫌ですけど・・・・」
少し不満げな顔をしたもののキルラーは色んなファイルが並べられている棚から一つファイルを取り出し、そのファイルから紙を出した。
「これは?」
「一応は色んな効果を打ち消すハーブの一覧表です★」
「へぇ~」
「これ等のうち、どれかを組み合わせれば“惚れ薬”を打ち消す薬が出来るかもしれません★」
ローレライは一覧を見ながら呟く。
「この“魔性アロエ”は使えそうね。」
「はい★何たって“魔性アロエ”は色んな事に使用できて、薬効が高いですからね★」
何やかんやで二人は“惚れ薬”から滅界を救う為、万能薬を作り出す事にした。


★ ★ ★


命の危機に晒されている。
大悪魔神官カルコスはごくりと喉を鳴らし、冷汗を掻いている。
右に女型の魔物、左にも女型の魔物、真正面にも。
そして、カルコスの背後には壁。
彼に逃げ場など無い。
———————ちっ!何所にも逃げ場が無ぇっ!このままじゃ・・・俺はコイツ等の餌食だぜ。
カルコスは興奮しきって狂っている女型の魔物どもの隙間を見る。
———————このミスヴァンパイアと魔人魚の隙間を通れば・・・ぎりぎり逃げれるか・・・。
「カルコス様、貴方は私の物です!」
「いいえ、貴方はあたしの物です!」
「私も所有物ですわ!」
「アタイの私物よ!」
カルコスに群がっている女型の魔物どもは喚く。
未だ口吸いはされていないものの、時間の問題だ。
何せ逃げ場が無いのだから。
———————認めたくは無いが・・・こういう時に身長が低いと楽で良い。喧嘩している間にコイツ等の足元を潜って行けば・・・・。
カルコスはじりじりとしゃがみ、下を抜けた。
彼が消えた事に気付いていない魔物達は喧嘩に走っている。
逃げ場を見つけ、内心思う。
————————友チョコあげ過ぎだろ!!つーか、何でチョコに“惚れ薬”を入れんだよ!ったく、相変わらず迷惑な奴等だ!
とカルコスが立ち上がり、逃げようとした時だった。
足に何かが纏わりつき、扱けてしまった。
「っ!」
カルコスは足元を見た。
—————————こ、これは蜘蛛の糸!ま、雅か!
「オーホホホホホホっ!あたしから逃げられるとでも思って?カルコス様!」
「アラウネ!」
アラウネと呼ばれる上半身が女で下半身が蜘蛛型の魔物が高笑いをして蜘蛛の糸をカルコスに纏わり付かせ、彼の身動きを出来なくさせる。
「くそっ!」
アラウネの声に口論をしていた女型の魔物達が気付き、カルコスを取り囲む。
流石のカルコスも恐怖する。
—————————や、やべぇっ!このままじゃ・・・俺・・・・立ち直れねぇっ!!
覚悟をして目を固く閉じた時だった。
「あれ~?カルコス先輩、何やってんすか?」
聞きたくは無いがこの時は頼り甲斐のある声がした。
その声に女型の魔物達は顔を向ける。
人物は赤い果物を齧り、不適に笑う。
「何すか、その女に囲まれた贅沢な様は!」
「お、おい!アプフェル、助けろ!」
「もう、呼んで下さいよ。何独りで楽しんでんすか~♪」
「楽しんでいる様に見えるか!!!」
怒鳴るカルコス。
現れた大悪魔神官アプフェルは笑って林檎を齧ると言った。
「うん。凄く見えるっす♪てか、城内やばくないすか?」
と悠長に言っている彼に向かってポルポと呼ばれる上半身が女で下半身がタコの魔物がタコ足をアプフェルの体に巻きつけた。
縛られた状態のアプフェルは齧った林檎を床に落とす。
「あ、林檎が。」
「そんな事どーでも良いだろうがっ!てか、来た意味無ぇーな!!」
とカルコス。
床に落ちた齧りかけの林檎をミスヴァンパイアが広い、齧る。
「わぁ、“間接キス”だ。」
感心した様な顔をするアプフェルを睨むカルコス。
「何感心してんだよ!!お前もコイツ等を抑えないと立ち直れなくなるぞ!!」
「マジっすか。ありゃりゃぁ、ボクってとんでもない時に城に入ったんだね。」
「いや、城内の雰囲気で分かんだろ!!!」
焦るカルコスとは反対にアプフェルは悠長に笑う。
「いやぁ~分からなかったすわ。」
「おい!」
「つーか、エウリア様とサリエルちゃんにチョコあげようと思ったんすけど、部屋に行ったら二人共居なくて・・・・」
「そりゃぁ、城内のやばい雰囲気感じ取って逃げたんだよ!!!」
「マジっすか!?」
驚愕するアプフェルを取り囲む女型の魔物達。
恐らく、これからやばい事になる。
寄り添ってくる魔物達の目を見、アプフェルは思う。
———————キルちゃんとローちゃん様が又何かやらかしたみたいだねぇ~・・・困った困った。
「カルコス先輩、麻痺魔法とか唱えられないんすか?」
「この状況じゃ無理だろ!!集中なんか出来ねぇ!」
「使えない神官っすねぇ~・・・アンタ、それでもローちゃん様に仕える悪魔っすか?」
「何だと!!!」
「助けろってねぇ・・・ボクはそんな魔法は唱えられないから魔法ではこの子達を抑えるのは無理っす。・・・・・・・・・はぁ~、麻痺魔法があれば楽で良かったんすけどねぇ~・・・・」
「・・・・・」
アプフェルの言葉に唇を噛むカルコス。
魔法を詠唱するには集中しなくてはならない。
しかし、この状況だと無理に近い。
———————アプフェルは魔法なんか使えない物理攻撃タイプ。それとは違い、俺は魔道士タイプ。・・・・魔法が唱えられない今、どうすべきか・・・・。
とその刹那。
アプフェルに近付いた女型の魔物が一体その場に倒れた。
「!」
気絶している。
カルコスは驚き、アプフェルに問い掛けた。
「アプフェル・・・一体何をしたんだ!!!」
“惚れ薬”の影響で狂っている魔物達がざわめく。
当の彼は舌なめずりをした。
そして———————。
「魔法は唱えられないっすけど、気絶するくらいの口付けで相手を戦闘不能にするくらいは出来るかもしれないねぇ~♪」
と言い、アプフェルは厭らしい笑みを浮かべた。


★ ★ ★


ベットに寝かされた白衣姿のリンネル。
その横には“惚れ薬”に体を虫食まれているだらりとしたヘンリ。
———————やばい!これは完全にやばい!・・・一体俺はどうなってしまったのだ!女型の魔物達に卑猥な行動と発言を繰り返し、性欲が制御出来ない。況してや、リンネルにまで俺は手を出そうとしているではなか!!!・・・これはやばい!このままでは俺が完全にリンネルを取り込んでしまう!!・・・何とかしてリンネルを俺から守らねばならない!!
深緑色のネクタイを緩め、カッターシャツの第二ボタンまでを外しているヘンリ。
彼は横に無表情で寝転がっているリンネルを横目で見る。
初めての添い寝。
ヘンリは興奮が抑えられていない。
当のリンネルは天井を見上げている。
そんな彼女に向かって魔王は口を開く。
「なぁ、リンネル・・・・」
「何で御座いましょう?」
「俺はな・・・ずっとお前を見てきた。戦闘でも普段の生活でもな。」
その発言を聞き、リンネルは無感情で返す。
「それは“ストーカー”だと言う意味で取って宜しいのでしょうか?」
「違う!決して、“ストーカー”などではない!」
「分かりました。」
ヘンリは訂正後、吐息をつき続けた。
「つまり・・・俺は・・・リンネル・・お前の事を誠実な部下であり女だとしても見ているのだ。・・・・この意味が分かるか?」
「分かると言えば分かりますが、分からない点の方が多いです。」
「・・・そうか・・・」
彼女の返答に魔王は不適に笑う。
———————おい!俺!何をくだらん事を言っているのだ!!リンネルから離れろ!!見っとも無い!!何とダーティーな!!
「分かり易く言おうではないか。」
ヘンリは言い放つとベットから起き上がり、眼鏡を押し上げて言った。
「つまり、俺はお前が欲しいのだ。」
———————俺ェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!!
自我は絶叫する。
「リンネル、お前も俺が欲しいだろう?」
上司の言葉に神官は無で返す。
「私には貴方は必要ありません。それに、欲されても困ります。」
「なっ!」
無感情で返されたショッキングな言葉にヘンリは愕然とさせられた。
無感情であるので尚更心が硝子の様に砕ける。
かなりの心理的ダメージを負わされたヘンリはズレた眼鏡を押し上げ、苦笑する。
「又、冗談を言う。止めろよ、そんな冗談。」
「冗談などではないのです。これは時間稼ぎなのです。」
「は?」
「私が貴方の部屋へやって来たのは他でも無い時間稼ぎなのです。」
リンネルの言葉にヘンリは不審な顔をする。
「な、何故・・・時間稼ぎをする必要があるのだ?」
「貴方を元のヘンリ様に戻す為、ローレライ様とキルラー様が薬を作っておられます。その時間稼ぎなのです。」
「元の・・・俺?・・・俺は俺だぞ。俺は本物なのだぞ。」
不機嫌そうに言うヘンリを横目で見、リンネルはベットから起き上がり、言い放った。
「時間稼ぎなのです。」
そう言う彼女の目はどこまでも虚ろだった。


★ ★ ★


「出来た~・・・・・んじゃない?」
金色に輝く液体が入った大きな瓶を掲げ、ローレライは疑問っぽく言った。
「これが本当に全ての状態を直す霊薬エリクサなのかしら?」
「絶対エリクサですよ★材料も作り方も書いてあったじゃないすか★」
「でもねぇ~・・・」
ローレライは作り方のメモを見つめた。


<霊薬エリクサ>
◎材料
魔性アロエ・・・13g
悪魔のラバル・・・2.3g
夢魔のリンドウ・・・2.3g
黒ウコン・・・2.3g
火魔の番紅花・・・2.3g
水・・・114ml
蒸留酒(ウォッカ、ジン)・・・240ml


◎作り方
①魔性アロエを搾り、汁を出す。

②悪魔のラバル、夢魔のリンドウ、火魔の番紅花を細かく砕き、魔性のアロエの汁と混ぜる。

③②に水と蒸留酒を混ぜ、少し放置。


「まぁでも、気にしないで良いじゃないすか★」
キルラーが豪快に笑う。
「きっとそれが霊薬エリクサですって★ほら、カルトス君に報告しに行きましょうよ★」
促されてローレライは微笑んだ。
「そうね。」
そんなワケでローレライ達は万能薬として有名な“霊薬エリクサ”を作り出したのであった。


★ ★ ★


何匹の女型の魔物達を唇で気絶させたのだろう。
アプフェルは床に倒れた全ての魔物達を見て、唇を拭いた。
「ざっとこんなもんですねぇ~♪と言うワケで、カルコス先輩はボクに助けられたワケっすね★」
立ち上がり、カルコスは白衣についた埃を払い除け不満顔をした。
「つくづく思うぜ、お前はどんな大悪魔神官なのかってな。」
「ボクは普通の大悪魔神官だよ。唯、お遊び好きなね♪」
「なるほど、女遊びもしてきたと?」
「そんな事は言ってないでしょ!!失礼だね!」
カルコスの言葉に頬を膨らませてアプフェルは怒った。
「飽く迄もボクの恋人は林檎だからね!そこ勘違いしないでよ!」
「あぁ。」
カルコスは笑い、倒れた魔物どもを見下ろした。
———————何はともあれ今回は・・・コイツに助けられた・・・。・・・・・・・それは良いとして、“惚れ薬”・・・・危険だな・・・。だが・・・意外と使えそうだ・・・・。
「カルトス君~!!!」
声を掛けられ、カルコスは顔を向けた。
遠方から駆けて来たのは大きな瓶を持ったローレライとキルラーだった。
「やっほ~!!二人共♪」
アプフェルが大きく手を振る。
彼等は大悪魔神官達の方へやって来ると“霊薬エリクサ”が入った瓶を見せた。
「どうよ!」
と二人。
金色の液体を見てカルコスとアプフェルは驚く。
「エリクサか!?」
「そうよ。」
「マジすか!?凄いや~★」
「キルちゃんが調合したの。」
ローレライはキルラーに微笑む。
頷く白衣の研究員を眺め、カルコスは少し驚く。
「凄いでしょ?カルトス君。」
魔王に問われ彼は目を逸らした。
「・・あ、あぁ・・・まぁ・・そんなもんだろう。」
「ヒャー!!カルトス君、可愛い★」
「離れろ!!」
興奮して抱きついてくる研究員から必死に離れようとカルコスはもがく。
そんな彼等を見て、アプフェルが問うた。
「・・・で、何で城内の皆がそんな変なのになってたんだい?」
「そうだ!話が急展開し過ぎて詳しく聞くの忘れてたぜ!」
とカルコス。
林檎好きの問いにローレライは苦笑交じりに話した。
「あのね、実は・・・・アプフェルちゃんが林檎を取りに出掛けてからね、私達、絶好調にバレンタインデーのチョコを作ってたの。リンネルちゃんなんか、甘い物が苦手なヘンリの為に‘ティラミス’を作ったのよ。」
「えっ!?」
アプフェル同様カルコスも驚いた。
「・・・それで、他の部下さん達にもチョコをあげようって生チョコを作ってたの。でね、キルちゃんが・・・効き目の無い惚れ薬を入れてみないかって・・・・」
「キルちゃん・・・」
アプフェルは苦笑する。
「いや、でも、マジで効き目が無かったんですよ!!本当ですって!!ね?カルトス君!」
投げ掛けられ、カルコスは渋々頷いた。
「あぁ。キルが作って俺に提案した惚れ薬は何の効果も無かった。てか、唯の水っぽかった。」
「ほら!!」
「つーか、何で入れたんすか?」
とアプフェル。
キルラーはもじもじして呟いた。
「だって、惚れ薬の匂いが良かったし、入れたらチョコがてかるかなって・・・・・・何せ、捨てるのが勿体無かったんだもん・・・」
「それは分かるけど・・・・てか、何でこんな時に効果発揮したんすか?絶妙なタイミングじゃんか。」
アプフェルは笑う。
「それは分かりませんよ・・・沈殿してたとか?」
研究員の言葉にカルコスは反論した。
「それは無いな。つーか、キルが試した部下の奴等、相当相手を嫌ってたんじゃね?だから、効果が無かったんじゃねぇーのかよ?」
「そうなんですかね?」
「そうとしか考え様がねぇーよ。」
カルコスは呆れたと言わんばかりに肩を竦め、続ける。
「・・・まぁ、ヘンリ様にまで効果を与える薬を作れる様になったんだから、キルの能力も上がったんじゃねぇーの。」
「カルトス君!!」
キルラーは再び抱きつく。
「離れろって!!気持ち悪いな!」
「褒めてくれたんっすね!!★ふぅ~嬉しい★」
「べ、別に俺は褒めてなんかねぇーよ!!・・・た、唯・・・唯、思った事を言ったまでだ。」
「何すか、そのツンデレは★」
「離れろ!!」
「ヘンリーにも効果あったの!?」
そこでアプフェルが叫んだ。
それにローレライが応じる。
「えぇ。効いちゃったみたいなのよ。リンちゃん曰く・・・・・・!」
ローレライは言いかけて口を閉じた。
アプフェル以外の皆が固まる。
「リンちゃん、そう言えば何所に行ったの?」
カルコスはキルラーから解放されると焦り声を上げた。
「リンはヘンリ様の部屋だ!危ないかもしれない!!」
その発言に四人は真っ先にヘンリの部屋へと向かった。


★ ★ ★


ベットの上に座っている大悪魔神官リンネルの膝の上に頭を置いて泣いている。
そんな魔王次男の頭を無表情で撫でているリンネル。
「・・・そんな酷い事言うなよ・・・俺、凄い傷ついたよ・・・」
「すみません。」
「俺は何度もお前にアタックしているのに・・・・グスっ・・・」
「すみません。」
「俺が必要ないとか・・・・凄い傷付いた・・・・」
「すみません。」
「もう少し、フルのであればオブラートに包んでフッてもらいたかったのだ・・・・グスっ・・・」
「すみません。」
どれだけ謝っても泣き止まない赤ん坊化した滅神王次男を無表情で見つめ、リンネルは頭を撫でる。
————————ヘンリ様が珍しく泣いておられるのです。珍しく・・・・。
「俺は・・・・この先どう生きていけば良いのだ・・・・」
——————そうだ・・・俺はこの先どう生きていけば良いのだ・・・。
ヘンリ自身内心そう思う。
失恋と言う奴に出会った後はどう生きていけば良いのか。
そんな事など思った事は無かった。
今まで恋などしたことがなかったのだから。
「すみません。その後の道案内は出来ません。」
「道案内してくれよ・・・・リンネル・・・」
「すみません。そこら辺の看板か、車掌様にお聞き下さいませ。タクシーなど如何ですか?」
「・・・・グスっ・・・・・こんな時にボケんなよ・・・・突っ込む気すらないのだから・・・・」
「すみません。」
涙が止まらない。
無表情で謝っていたリンネルにノックの音が聞こえた。
「リン!!居るんだろう!」
兄の声がする。
「カル兄さん・・・」
「入るぞ!」
それと同時に扉が開き、カルコス、ローレライ、アプフェル、キルラーの四人が入って来た。
そして、彼等は驚愕した。
——————リンネルに膝枕してもらってる!?しかも泣いてるし!!
全員が内心叫んだ。
「皆さん。」
「“皆さん”じゃねぇーよ・・・・」
とカルコス。
「入って来るな!!此処は俺の聖域なのだぞ!!」
ヘンリの思いがけない発言に場が凍る。
しかし、それを割ってアプフェルの笑い声が響いた。
「“俺の聖域”だってさ!!ぷぷ、ウケるんですけど!!!てか、泣いてるし!可愛い!本当に殺したい程可愛い!!」
「出て行け!!」
「ヘンリー・・・」
ローレライも笑いを我慢している。
そんな魔王次男を見兼ねてカルコスは言った。
「良いから早く、エリクサを振り掛けろ!!」
「えぇ。」
とローレライ。
「てか、カルコス先輩だって笑いを我慢してんじゃないっすか!!」
「し、してねぇーよ!」
「アハハハハハハハ★」
アプフェルは転げ回る。
ローレライはフフと笑いつつ、エリクサを入れた瓶の蓋を取り、振り掛ける。
金色に輝く綺麗な液体がヘンリに優しく降り掛かる。
その瞬間————————。
泣いていたヘンリははっと目を開けた。
そして、リンネルの膝の上に頭を置いている事に気付き、赤面しばっと起き上がる。
「リリリリリリリリリリリリリリ・・・・リンネルっ!!すすすすすすすすまない!」
「平気です。」
ヘンリは顔を真っ赤にし、眼鏡を押し上げた。
そんな上司を眺め、アプフェルは大笑いした。
「ヘンリーが、ヘンリーが・・・ぷぷ、アハハハハハハハハ!」
「う、う、五月蠅いのだ!」
「ぷぷぷ、アハハハハハハハハハハっ!」
「し、仕方無かったのだ!何かしら生チョコに・・・・」
そこまで言い掛けてヘンリはローレライとキルラーに鋭い視線を突き立てて怒鳴った。
「元はと言えば、貴様等が生チョコなんぞに余計なものを入れたのが悪いのだ!!!生チョコと言うものはチョコだけで十分なのだ!それを貴様等は・・・!!!」
「良いじゃない、元に戻ったんだし♪」
とローレライ。
「そうですよ。てか、あのままのヘンリー様も可愛かったですよ★」
キルラーは笑う。
「可愛いも何も無いのだ!!貴様等のせいで、俺は卑猥な行動と発言を・・・・!!!この責任、どう取ってくれる!!」
激昂する弟にローレライは笑って返す。
「まぁまぁ、皆無事だったし、良いじゃない。」
「俺は良くないのだ!!・・・色んな部下にまで迷惑を掛けて・・・・況してやリンネルにまで・・・」
顔を真っ赤にして言うヘンリを見て、皆が静まったが、それを破ったのはやはりアプフェルだった。
「泣いてたって事はさ、やっぱフラれたって感じ?」
「黙れ!アプフェル!直ちに俺の部屋から出て行け!」
「嫌だよ~ん♪」
アプフェルは笑うと付け足す。
「ふふん♪これでヘンリーをからかう良いネタが増えたよ!」
「何だと!!」
焦るヘンリを無視し、アプフェルはリンネルに問い掛けた。
「ねェねェ、リンネル!ヘンリーって他に何かしてた?」
問い掛けられリンネルは無感情の目をアプフェルに向けた。
ヘンリは冷汗を掻き、リンネルを見つめた。
————————言うなよ・・・リンネル!!
「ねぇねぇ~、どんな卑猥な事してた?」
「卑猥な事ですか?」
リンネルは虚空を見つめ黙った。
そして、三呼吸程後————————。
「・・・・・・・・・・ヘンリ様は何もしていませんでした。唯、少しいつもより発言が強かっただけです。」
「えぇ~本当?」
「はい。」
「本当に本当?」
「はい。」
「本当に本当に本当?」
「はい。」
「本当に本当に本当に本当?」
「はい。」
「本当に本当に・・・」
「くどい!!」
カルコスに怒鳴られアプフェルは信じられないと言った表情をし、諦めた。
「そっか。なぁ~んだ、何にも無いのか~・・・・何か面白くないなぁ。」
「そうです。ヘンリ様は面白くないのです。」
「おい!」
とヘンリ。
———————そう、ヘンリ様はいつも面白くないのです。面白くなくて当然なのです。
リンネルは内心そう思った。

これが尊敬する私の上司。

元に戻った魔王次男を見、カルコスは咳払いをしてローレライ達に言い放った。
「とりあえず、ヘンリ様は元にお戻りになった。・・・・・・・・で、残った城内の連中にエリクサを振り撒いてこい。良いな!」
「分かったわよ。そう怒らなくても良いじゃない。」
「怒るわ!!あんな馬鹿げた薬なんぞ入れおってからに!!今度入れたら唯じゃ済まねぇーからな!!」
「はいはい★」
笑ってローレライとキルラーはヘンリの部屋から出て行った。
そして、カルコスは疑いを未だ隠せないでいるアプフェルを引っ張り部屋から出て行った。


さて、残ったのはヘンリとリンネル。
無言のまま数分が過ぎていく。
ヘンリはリンネルから目を逸らし、緩んだネクタイを引き締めた。
———————少しは自我を保っていたとは言え・・・・俺はとんでもない事をリンネルに言ってしまった・・・・これは謝罪では済まない・・・・。魔王として一生の不覚だ。
だから、誤りたいのだが言葉を彼女に掛けられない。
掛ければ彼女が遠くに行ってしまいそうだ。
そうこうしている間、リンネルは時計を見、歩を扉へと向けて歩き出した。
そんな彼女の後姿を眺め、ヘンリは口を開きかける。
だが、言葉が出ない。
リンネルはドアノブを回す。
そして——————。
「・・・ヘンリ様は決して面白い御方ではないのです。絶望的な機械音痴、絶望的な料理センス、絶望的な字の汚さ、そして、ツンツンしているのです。」
「リンネル・・・?」
「ですが・・・面白くないのがヘンリ様なのです。」
「リンネル、俺は!」
「後程、ヘンリ様のお部屋に参ります。その時に言い訳をお聞かせ下さいませ。」
「リンネル・・・・」
彼女は一瞬だけ微笑みを浮かべ、部屋から出て行った。
そんな彼女を見送り、ヘンリは独り部屋に残された。


★ ★ ★


———————決して面白くないのです。ヘンリ様が面白かったならば私は尊敬できないのです。

私は面白げの無く、ツンツンしているヘンリ様を尊敬しているのです。
だから、私はヘンリ様に対して一瞬ですが、感情を出す事が出来るのです。

今日、新しい感情を学ぶ事が出来た様な気がするのです。
飽く迄もこれは私の勝手な思いかもしれいないのですが————————。




※その後、ローレライ達の手によって滅界を支配していた“惚れ薬”の効果は打ち消された。そして、安全なバレンタインデーを過ごした。
今後、キルラーは食べ物に変な薬を入れない事を誓わされたのであった。
アプフェルは林檎型のチョコを作ったとさ。
ヘンリもリンネルが作ったティラミスを食し、嬉しさに胸を躍らせた。
滅神王次男の卑猥な行動と言動は“惚れ薬”のせいだと滅界中に知らされ、ヘンリの評判が下がる事は無かった。



◎明日は魔界側パロディー編で紹介した“惚れ薬”と“霊薬エリクサ”(本当のレシピ)を公開しますっ!(=ってなワケで日記っす。)


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2015-02-14 : 【魔界側パロディー】 : コメント : 0 :
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異世界のイストワール  魔界側パロディー編~節分だわっしょーいっ!!~

◎今回の当パロディー編は本編と全く関係はありません。

※字間違い、字抜けしているかもしれませんが許して下さい。



*夜。
暗黒の世界でも夜は訪れるのだ。
滅神王次男ヘンリは不機嫌そうな顔して自室を眺めていた。
そろそろ怒りが爆発してもおかしくはない。
理由は————————。
「節分♪節分♪豆撒きよ~♪福は内、鬼も内♪」
「福は内♪鬼も内♪」
滅神王長男ローレライとヘンリの部下である大悪魔神官アプフェルの二人がヘンリの部屋の中に豆を撒いている。
そんな二人を無表情で眺める大悪魔神官リンネル。
「福は内♪鬼も内♪」
「福は内♪鬼も内♪」
綺麗に整理整頓され、掃除が行き届き、埃一つ無いヘンリの部屋が次第に豆に埋め尽くされていく。
深緑色の絨毯の上に豆。
テーブルの上に豆。
本棚の隙間に豆。
ベットの上に豆。
「福は内♪鬼も内♪」
「福は内♪鬼も内♪」
「いい加減にしろっ!!!!」
笑顔で振り撒いている腹立だしい輩に向かってヘンリは怒鳴った。
「人の部屋で何豆撒きしているのだっ!それも許可無く!!」
怒鳴れたローレライは最後に豆を撒くと微笑んだ。
「良いじゃない!・・・ほら、こうして全部の部屋に豆を撒いて福を招きましょうよ!だから、ヘンリーも!」
「やるワケないだろう!部屋が汚れる!・・・折角、綺麗にしたというのに・・・汚しやがって!」
ヘンリは拳を創り、怒りを露にしている。
しかし、当の豆撒き隊は笑っている。
「そんなに怒らないでよ、ヘンリ~!ちゃあ~んとヘンリーの分もあるからさ!」
アプフェルは言って炒り豆を手渡した。
「要らないのだ!今、俺に必要なのは箒と塵取りなのだ!」
「まァまァ、そんな固い事言わずにさ、ヘンリーもやろうよ、豆撒き!」
「しない!」
「えぇ~!!!」
「そんなくだらんお遊びに付き合っていられる程俺は暇では無いのだ。だから、さっさと部屋を綺麗にして出て行け!邪魔だ!」
ヘンリは不機嫌そうに言い放ち、箒を握る。
———————ったく、夜、俺の部屋に現れたと思うと、急に豆撒きなんぞしおってからに!!折角、昼に綺麗に掃除したと言うのに!!これじゃァ、水の泡ではないか!!
箒で撒かれた豆を集めた魔王の方へリンネルが塵取りを持って行く。
とそこへ————————。
ヘンリの部屋の扉がノックに揺れた。
「今忙しいのだが、誰だ!!」
と魔王次男は叫んだ。
すると、扉の外から聞き覚えのある声がした。
「カルコスです。・・・・ヘンリ様、此方に馬鹿魔王が来てませんか?居ましたら、少し言いたい事があるのですが・・・・」
馬鹿兄のしっかり者の神官に救われた気がした。
ヘンリは扉を開ける。
「カルコスさん。」
「すみません、お忙しい中・・・」
「いえいえ・・・・・あ、馬鹿なら居ますよ。」
「そうですか。」
「馬鹿じゃないわよ!!」
とローレライ。
カルコスはヘンリの部屋に入り、上司を見つけ怒鳴った。
「おい!ローレライ!貴様だろう!俺の部屋ん中に豆を撒いたのはっ!!」
再び怒鳴られてローレライは笑った。
「あら?もしかして態々お礼を言いに来てくれたの?嬉しいわ★」
「違ぇーよ!!どう見ても違ぇーだろう!」
「カルコス先輩、良い具合に豆散らばってましたか?」
とアプフェル。
そんな生意気な同僚をカルコスは睨み皮肉を込めて言い放つ。
「あァ!綺麗に汚してあったよっ!ありがとさん!」
「それはどういたしまて!」
カルコスは額に血管を浮かび上がらせて盛大な溜息をついた。
そんな神官を見てヘンリが言う。
「カルコスさんもやられたんですか?」
「はい。俺が留守の間にたんまりと!」
「そうだったんですか・・・」
「ったく!安心して部屋から出られないですよ!・・・・・折角、綺麗にしていたと言うのに・・・・」
「俺なんか俺が部屋に居てもこれですからね。勘弁して欲しいですよ。」
「それはキツイですね。」
愚痴を言い合う二人を眺め、ローレライが明るく言う。
「そんなにこの炒り豆を嫌わないで。」
「テメェーを嫌ってんだよ!」
ヘンリとカルコスが同時に突っ込む。
「この炒り豆にはね、たくさんの栄養が含まれているのよ。・・・・う~ん、そうねぇ~・・・100gあたり食べたら、食物繊維は9.3g、タンパク質は36.49g、炭水化物は30.16g、脂肪は19.94gなの。それに、カルシウムとかミネラルとか鉄分とか含んでるから体にもの凄く良いのよ。」
「あっそ。」
とヘンリ。
「まァ、私がこの炒り豆を好む理由は未だあるの。」
「もう良いよ、喋らなくて。」
カルコスはローレライが今から語り出そうとするのを止めるが彼は無視。
「暗所で発芽させればモヤシ、未熟大豆を枝ごと収穫して茹でれば枝豆、炒って粉にすればきな粉、蒸した豆を納豆菌で発酵させれば納豆、蒸した大豆を加水・浸漬・破砕・加熱したものを絞ると豆乳、その豆乳の残りはオカラ、豆乳を温めてラムスデン現象によって液面に膜を形成させれば湯葉、苦汁を入れて塩析でタンパク質を固めれば豆腐・・・・」
そこまで言うと滅神王長男は炒り豆を食べた。
そして続ける。
「他にもね、骨粗しょう症とか更年期障害を軽減したりとか・・・乳癌とか予防出来たり・・・脳梗塞や心筋梗塞のリスクを下げたりとか・・・兎に角、炒り豆は凄いの!!」
「あっそ。」
ヘンリは言うと目を半眼にした。
そんな輩を無視し、ローレライは手を叩き、思い出したかの様に付け足した。
「因みに、節分の炒り豆は歳の数だけ食すってのが普通なんだけど、歳の数より一つ多く食べるのも良いのよ。」
「どうでも良いから早く俺の部屋から出て行け。」
とヘンリ。
そんな主を無視し、アプフェルが疑問を投げ掛けた。
「何で節分があるんですかァ~?」
アプフェルの問いにローレライは咳払いをし応じる。
「‘魔目’を鬼の目に投げつけて鬼を滅する<魔滅>に通じたらしくてね、鬼に豆をぶつけることによって邪気を払うみたいなの。」
「へぇ~★」
感心する部下の横でヘンリは鼻で笑い、呟く。
「俺等は魔族なんだからそんな邪気を払わなくてもいいでは無いか!寧ろ、邪気が欲しい。」
「魔族だって幻獣だって人間だって、みんなみんな払いたいのよ。」
「何かどこかで聞いた事のある台詞だな・・・・」
ヘンリは呟く。
横でカルコスも頷く。
そして、再びアプフェルが疑問を投じる。
「えっと・・・・何で“炒り豆”を撒くんですかァ~?普通の大豆じゃ駄目なんですかァ?」
「節分は旧年の厄災を負って払い捨てられるもので、撒いた豆から芽が出るのは駄目なんだって。」
「へぇ~★・・・・ローちゃん様って何でも知ってるねぇ。」
「そうかしら?私だって知らない事はたくさんあるわよ。」
「ボクにはそう見えないけどなァ~♪」
笑い合う二人を睨み、ヘンリが再び言い放つ。
「どうでも良いから俺の部屋から出て行け。邪魔だ。」
言い放たれたローレライは微笑む。
「出て行くけど、ヘンリーもよ。」
「何でだよ!此処は俺の部屋なのだぞ!」
と怒鳴る。
「いやァ~ね、今日は節分よ★みんなで恵方巻き食べないと♪」
「はっ!?」
ヘンリとカルコスは同時に叫ぶ。
「さァ~、みんなで魔王の間にレッツゴー♪」
滅神王長男ローレライの促しに全員、強制的に移動させられた。


★ ★ ★ ★


魔王の間。
そこに長いテーブルが用意され、各々の前に“恵方巻き”が並んでいる。
「さァ、食べましょう♪」
「あのな・・・・」
促すローレライにヘンリは不機嫌そうな目を向ける。
「手作りなんだからちゃんと食べてよね★因みに、今年の向きは“西南西”よ★」
ローレライお手製恵方巻きを前にしてカルコスは突っ込む。
「恵方巻き作ってる暇あったら仕事出来んだろ!!!」
「まァまァ、カルトス君も食べて食べて。」
「そうっすよ!恵方巻きの後は恵方ロールもあるんすから!」
とアプフェル。
「・・・っ!」
‘恵方ロール’と言う単語に一瞬気を奪われたカルコスであったが首を横に振った。
「あのなっ!」
「・・ところで何で“恵方巻き”を食べるの?」
とアプフェル。
それにローレライが答える。
「恵方巻きには大体、胡瓜とか桜でんぶ、干瓢、椎茸、伊達巻、アナゴを巻くでしょう?」
「うん、」
「でね、その具の“胡瓜”と“桜でんぶ”に意味があってね。“胡瓜”は青鬼を示していて、“桜でんぶ”は赤鬼を示しているんですって。」
「へぇ~」
「それで、それらを食べて、<鬼を食べて退治する>って感じらしいの。」
「そうなんだ★」
笑い合う二人を無視し、大悪魔神官リンネルは西南西の方向を向き、無言で食べている。
「おい!リンネル!!」
主が呼び掛けても当の彼女は無表情で食している。
それにつられローレライとアプフェルも食べ始めた。
残されたのはヘンリとカルコスだけになった。
二人は食うまいか食うべきかで悩んでいる最中であった。

———————正直、腹が減っているのだが・・・これを食せば俺が負けとなる・・・・。
これがヘンリ様の想い。

———————これを食べれば恵方ロールが食べれる!!・・・だが、これを食えば・・・負けてしまう!!
これがカルコスの想い。

そうこうして約15分が経過した。
「食べたっと♪」
黙って恵方巻きを食べ終えたアプフェルが笑う。
「美味しかったわねぇ~★やっぱり手作りが良いわ。」
「そうですね。私もローレライ様のお手製モノが好きです。」
とリンネル。
「本当!?」
「はい。」
「嬉しいわ♪」
ローレライは手を叩き喜ぶ。
しかし、そんな彼等の周囲では未だ悩んでいる奴等が居る。
とそこへ———————。
「・・・ヘンリー?カルトス君?食べないの?」
とローレライ。
兄の問いにヘンリは咳払いし、立ち上がる。
「まァな。最初から食べる気は毛頭無かったのでな。」
「あら・・・折角作ったのに・・・」
「部屋に戻って仕事でもするか。」
立ち去ろうとする滅神王次男に続き、カルコスも立ち上がる。
「俺も仕事があるからな・・・」
「カルトス君まで!」
「こんな馬鹿げた事にいつまでも付き合っていられねぇ。」

とその時。

「失礼しますっ★」
入って来たのは———————。
部屋に入って来た人物を見るなりヘンリとカルコスの顔が引き攣った。
「わァ~★本当に恵方巻きがある!!!」
「研究員キルラー・・・・」
「キルちゃん、座って座って!!」
「はい★」
キルラーは椅子に座り、恵方巻きを食べ始めた。
そんな彼女はあっと言う間に平らげた。
「ふ~美味しかったァ★」
「でしょでしょ!」
喜ぶローレライの横にアプフェルが恵方ロールを持って現れた。
「じゃじゃあ~ん♪」
「わァ~★」
キルラーが目を輝かせる。
同じく、カルコスもロールに目を注ぐ。
「ボクお手製、“節分恵方ロールケーキ”だよ♪」
彼は言うなりテーブルにロールケーキを並べる。
「どうやって作ったんすか?」
とキルラー。
彼女の問い掛けにアプフェルは微笑んで語る。
「えっとねぇ~・・・・・・

<材料>
◎シフォン生地
卵(M)・・・4個
薄力粉・・・70g
砂糖・・・65g
サラダ油・・・30g
水(温めた牛乳でも可能)・・・30g

◎クリーム
生クリーム・・・150g
グラニュー糖・・・10g弱
練乳・・・15g
ブランデー・・・少量


<作り方>
①薄力粉を振るう。天板にシートを引く。卵は分けておく。

②卵白に半分の砂糖を少しずつ加え角が立つまで泡立てる。そして、冷蔵庫で冷やしておく。

③卵黄のボウルに残りのグラニュー糖を入れ、もったりするまで混ぜ、サラダ油と水を加えて混ぜる。

④卵黄のボウルに振るった粉を一度に入れて混ぜる。

⑤④のボウルに卵白3分の1を入れて混ぜたら、もう半分の卵白を入れて混ぜる。

⑥卵白のボウルに生地を全部移してボウルを回して混ぜながら、底から持ち上げて切る様に混ぜる。

⑦天板に流し込み、表面の泡を消しす。180℃のオーブンで10分前後焼く。

⑧焼きあがったらすぐに天板ごと少し高い位置から落とし、焼き縮みを防止する。(ラップをかけて冷ますと焼き色が綺麗に取れる。)

⑨クリームを作って塗る。

・・・・とまァ、ざっとこんな感じさ。良かったら作ってみてね★」
アプフェルは語り終わると自作のロールを頬張る。

そして、皆が食べ終わり、静かに節分は幕を閉じた。
結局、ヘンリとカルコスは食べず仕舞で終わったのだった。


★ ★ ★


部屋に撒かれた豆を片付け終わり、滅神王次男ヘンリは溜息をつくと、椅子に座った。
それと同時に腹が鳴る。
——————くそ・・・・・節分を拒否したとは言え・・・やはり、恵方巻きとやらを食べるべきであったな・・・・これでは深夜に抓み食いをせねばならないではないか。
ヘンリは独りそんな事を思い、再び盛大な溜息をつく。
時既に遅し。
後の祭りである。
空腹を我慢したまま、ヘンリは脱衣所へと向かう。
———————今日はもう、風呂にでも入って寝るとしよう。
次男は自分に言い聞かせると愛用の眼鏡を外し、白いシャツのボタンを取り、深緑色のネクタイを緩め脱衣所の扉を開けて入った。



一方。
滅神王次男ヘンリの部屋へと向かっている影が居た。
両手で盆を持ち、その上には細長い物体。
虚ろな目を目的地に向け思う。
———————ヘンリ様も頑固者で少々困ります。
大悪魔神官リンネルはコツコツと廊下を歩き、主の部屋の前まで辿り着いた。
ノック2回。
しかし、返事は無い。
再び、ノック2回。
又しても返事は無い。
リンネルは少しの間無表情で扉を見つめた。
——————お風呂に入っておられますか。
彼女はそう思うとドアノブを回して部屋に入った。

案の定、当たっていた。
主は部屋に居なかった。
リンネルはテーブルの上に持って来た“恵方巻き”を置くと、紙とペンを白衣のポケットから取り出し伝言を綴った。
そして、伝言の紙を恵方巻きに添え、主が風呂から戻って来る前に部屋から出て行った。

★ ★

愛用の淡い青色のパジャマに着替えて脱衣所から出て来たヘンリは眼鏡を掛け、タオルで髪を拭いていた。
そして、気付く。
——————何なのだ・・・?あれは・・?
テーブルに近付き、発見する。
「!」
驚愕し、固まる。
———————“恵方巻き”っ!!何故、俺の部屋にある!?・・・・ま、雅か・・・恵方巻きの呪いかっ!!
焦ったが、彼は添えられたメモを見つけ、読んだ。

——————————————————————————————————————————————————————————
ヘンリ様へ

恵方巻き、ヘンリ様が食されていなかったので持って参りました。
向きは、西南西でございます。

   許可無く勝手にヘンリ様の部屋に入って申し訳御座いません。

                         リンネル
——————————————————————————————————————————————————————————

読んだ彼は鼻で笑い、メモを置く。
「リンネル・・・・」

正直、嬉しかった。
誰も俺の空腹に気付いていないと思っていたから。
ヘンリは恵方巻きを掴むと、西南西だろう方向に向きかぶり付いた。
白米に絡んだ酢は程良く効いていて美味しい。
そのせいか、恵方巻きを食べる手が止まらない。
—————————・・・・美味いじゃないか・・・・。
ぽつり独り感想を脳内に走らせ、完食する。

本当に美味しかった。
空腹であったからではない。
手作りであったからだ。

ヘンリが食べ終わった頃、部屋にノックの音が響いた。
「誰だ?こんな時間に。」
少し不機嫌そうな声で魔王は応じ、外に居る奴の声を待つ。
「お茶をお持ちしました、ヘンリ様。」
反応にヘンリは顔色を変えた。
そして、扉を開け、お茶を持って来た者を部屋に入れる。
「リンネル、こんな時間に珍しいな。」
当の彼女は温かいお茶をテーブルに置くと、無表情で返した。
「ヘンリ様が恵方巻きを食されたかもしれない時間でしたので、温めたお茶をお持ちした次第です。」
「そ、そうか・・・すまない。」
「とんでもありません。」
リンネルは感情の籠っていない声で言うと、空になった皿と盆を持ち、部屋から出るべく扉の方へ歩いて行く。
そんな彼女の小さな後姿を見つめ、ヘンリは声を掛ける。
「あ、あのな・・・リンネル・・・」
主の声に部下は振り返る。
「何でございましょう、ヘンリ様。」
虚ろな目で見つめ返してくる彼女の目に耐えられず、ヘンリはそっぽを向いて言う。
「そ、その・・・・恵方巻き・・・・・」
「?」
「・・・恵方巻き・・・・ありがとう・・・・お、おかげで空腹から解放された・・・」
詰まりながらお礼の言葉を述べる主を見つめ、リンネルはほんの一瞬だけ微笑んだ。
いや、そう見えたのかもしれない。
「私の行為でヘンリ様の空腹を解除できたのであれば、私は十分です。」
「リンネル・・・・」
「では、良い夢をご覧になって下さいませ、ヘンリ様。」
リンネルは一礼をし、ドアノブを掴み扉を開け掛けて止める。
そして————————。
「歯磨き粉が無くなっていましたので取り替えておきました。・・・・ヘンリ様の好きな苺の香りの歯磨き粉に。」
言うと彼女は出て行った。
部屋に残されたヘンリは不適に笑い、リンネルが持って来た温かいお茶を飲むべく、湯飲みに触れた瞬間———————。
「熱っ!!!」
ヘンリは火傷を負った。
少し涙目になっている。
「っ!リンネル・・・・何が“温めたお茶”だ。溶岩並みの熱さではないか!」
文句を言い、ヘンリは溜息をついた。
結局、お茶は飲めず仕舞。
———————歯磨きして寝よう・・・・。
自身に言い聞かせ、とんでもない節分を終えた滅神王ヘンリであった。




※因みに、大悪魔神官カルコスはこっそり恵方ロールを食べたのだ。
そして、一応全員、豆は食べました。(=カットしたけど・・・)



2015-02-04 : 【魔界側パロディー】 : コメント : 0 :
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異世界のイストワール  魔界側パロディー編~大悪魔神官アプフェルの機嫌を取り戻せ!!~

◎当魔界側パロディーは、ワケあって本編9章中に機嫌を損ねたアプフェル——————滅神王次男ヘンリの部下の機嫌を取り戻すパロディーで御座います。
ごゆっくりどうぞ。



大悪魔神官アプフェルの機嫌を取り戻せ!!!


*林檎のドアノブ、林檎のマット、林檎の絨毯、林檎の壁紙、林檎のテーブル、林檎の窓枠、林檎柄のカーテン、林檎の鏡、林檎の箪笥、林檎のクローゼット、林檎の電気、林檎の御香、林檎のクッキー、林檎のコップ、林檎のジュース、林檎のベット、林檎の枕、林檎の掛け布団、林檎のスリッパ…………。
全てを“林檎”に染めている大悪魔神官アプフェルの部屋。
入った途端にする林檎の香りはほんのり優しい。
アプフェルは仕事着の白衣のまま、林檎のベットに蹲り、拗ねていた。
「どうして・・・どうして・・・ヘンリーはボクに頼ってくれないんだろう?・・・・・・酷いよっ!ヘンリーの馬鹿っ!うえ~ん!」
林檎の枕に顔を埋め、呟く。
此処のところ、ヘンリは酷く冷たかった様な気がした。


* * * * * * * * * *

—————とある日。ヘンリの部屋にて。
アプフェル「ヘンリー!!何してるの!?」
ヘンリ「仕事だ。」
アプフェル「仕事って何ィ~?いつものパソコンかちかち?」
ヘンリ「そうだ。」
アプフェル「ぷぷ♪絶望的な程に機械音痴なのにィ~?」
ヘンリ「(ムカっ!)お前が居ては仕事が出来ん。直ちに俺の部屋から失せろ。」
アプフェル「えぇ~!酷いよぉ~!」
ヘンリ「黙れ。五月蠅い。さっさと出て行け。邪魔だ。」

部屋から追い出される始末。
そして——————。

ヘンリ「・・・あ、それと、リンネルにコーヒーを持って来いと伝えておいてくれ。以上。」

扉をガチャン。

* * * * * * * * * *

思い出し、アプフェルは林檎の枕に顔を押し付ける。
林檎の匂いがしていつもなら癒されるのだが、それも今は効果が薄い。
「ヘンリーの馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿っ!」
主にこんなにも指示を貰えない悲しさ。
「その点、リンネルは良いよねぇ・・・ヘンリーにいっぱい仕事貰ってさ。絶対、ボク嫌われてるんだァァァァァァァ~!」

将又、思い返す。

* * * * * * * * * *

——————滅神王城、林檎の木を植えた庭で、ピクニックをした際。

アプフェル「ローちゃん様!!見て、こんなに林檎が成長したよ!」
ローレライ「凄いわねぇ~★」
アプフェル「でしょでしょ!これ、ヘンリーにあげたら喜ぶかな?」
ローレライ「喜ぶんじゃない?」
アプフェル「それじゃァ、コーヒーの中に摩り下ろした林檎をダイブさせた奴を飲ましてみようかな?」
ローレライ「林檎コーヒー?」
アプフェル「うん!きっと美味しいよ!」
ローレライ「美味しいなら、あげてみるのも良いわねぇ。」
アプフェル「作ってくるよ!!」

10分後。

椅子に座って読書をしているヘンリ。

アプフェル「ヘンリー!」
ヘンリ「(見向きもせずに)読書をしている。」
アプフェル「ヘンリー!コーヒーをさ・・・」
ヘンリ「(見向きもせず)読書をしている。邪魔をするな。」
アプフェル「ちょっとだけで良いから読書を止めて、ボクが作ったコーヒーを飲んでみて。」
ヘンリ「(見向きもせず)今、コーヒーを飲みたい気分ではないのだ。あっちへ行って馬鹿兄と遊んでいろ。」
アプフェル「(頬を膨らませて)何さ!ボクが折角、ヘンリーの為に作ったのに!」
ヘンリ「(見向きもせず)俺は頼んでいない。頼むからあっちへ行け。読書の邪魔だ。」

* * * * * * * * * *

未だ未だ酷い事はたくさんあった。
読者の皆さんには分からないだろうけど、読者の皆さんには公開していないけど、ヘンリとアプフェルの間には酷い話があるのだそうだ。
本人は話したくないらしい。
「ヘンリーなんか知らないもんねっ!」
大悪魔神官は独り言を言い、枕に顔を埋めたままであった。



と言うのをアプフェルの部屋の外から聞き、滅神王次男ヘンリは盛大な溜息をついた。
———————全く・・・アプフェルの奴・・・拗ねれば中々機嫌が直らないんだったな・・・やれやれだな・・・。
しかし、ヘンリは眼鏡を押し上げると、扉をノックし部下を呼ぶ。
「アプフェル!お前に命令したい事がある。出て来い。」

一方、アプフェルの方はヘンリの声が聞こえたと同時に枕から顔を上げた。
そして、紫色の目を輝かせる。
———————ヘンリーだっ!
知らないと思っていても声が掛かれば知らないフリなど出来やしないのだ。

一方、ヘンリの方はと言うと。
——————命令したい事があると言ったものの・・・これと言って考えていない。唯、ローレライに言われて来ただけだからな・・・・うむ・・何か良い命令は無いか・・・?
部屋の扉が開き、アプフェルが出て来た。
「何?何?ボクに命令したい事って!!」
目を輝かせて問い掛けてくる。
ヘンリは少し仰け反って口篭る。
「そ、それはだな・・・・」
———————ちっ!何もアプフェルに命令したい事などない!いや、待てよ・・・・コーヒーを淹れて・・・・却下だな。コイツにコーヒーを頼めば、必ずコーヒーの中に林檎下しが入っている。あんな不味いものは飲めない!他は・・・・書類を書かすか・・・?いやいやいやいやいや!書類を書かせた日には大惨事だ!書類が落書き帳になって帰って来る。
黙っている滅神王次男を目を輝かせて見つめるアプフェルは再び問い掛けた。
「何?命令って!!」
「そ、それが・・・・実はな・・・・・」
———————くっ!良いものが出て来ない!これはもう・・・・・あの手しか・・・・。
ヘンリは顔を緩ませるとアプフェルの肩を叩き、笑った。
「アハハハ・・・冗談なのだ、冗談。いや、お調子者のお前が中々部屋から出て来ないから、ローレライに言われて・・・」
「あっそ。」
言うなり、アプフェルは部屋の中に入り、鍵を掛けた。
その場に取り残されヘンリは沈黙した。

★ ★ ★ ★

魔王の間。
滅神王長男ローレライ、大悪魔神官リンネルが居る。カルコスは仕事、サリエル達は部屋に戻ったらしい。
「ヘンリがそんなふざけた冗談を言うからいけないのよ!普段、冗談やふざけたりしないキャラがそんな事やっちゃ駄目よ!」
ローレライが優しく弟を叱る。
「しかしだな・・・」
「あの子はね、ヘンリーが好きなのよ。」
「気持ち悪い。」
「それがいけないのよ!」
「どこがだ!!男と男の恋愛など・・・うっ・・考えただけで吐き気を催す・・・!」
ヘンリは不快な顔をし、目元を押さえた。
「そんな汚いものじゃないわよ!純粋に“男同士の友情”みたいな感じよ!」
「例えそうだとしても、俺は知らん。こんな馬鹿げた事に付き合っていられるか!俺には仕事があるのだ。じゃァな。」
滅神王次男は言うと間から出て行こうとする。
そんな分からず屋な弟の背に向かってローレライは言った。
「どうするのよ!アプフェルちゃんが居なくなったりでもしたら!」
「別に構わない。俺にはリンネルが居る。リンネルさえ言えば十分だ。」
振り返らずに言うヘンリに向かってリンネルは無表情なまま言い放った。
「ヘンリ様、アプフェルさんの機嫌を直してみたら如何でしょうか?」
その言葉にヘンリは振り返った。
「リンネル、お前まで・・・」
「アプフェルさんはヘンリ様の大切な部下です。アプフェルさんは私よりかは年上ですが、私の大切な同僚です。ですから、このままヘンリ様とアプフェルさんが別々に歩んでいらっしゃるのを見るのは嫌です。」
「リンネル・・・」
「私はヘンリ様とアプフェルさんの遣り取りを見るのが楽しみなんです。」
「リンちゃん・・・」
「だから、拗ねているアプフェルさんの機嫌を直して下さい。」
リンネルは言うと、深く頭を下げた。
そんな健気な部下に頭を下げられ、ヘンリは少し考え、そっぽを向いた。
そして———————。
「わ、分かったよ。」
「ありがとうございます、ヘンリ様。」
「べ、別にお前の為にやるのではないからな。勘違いするなよっ。」
「はい。」
次男と部下の遣り取りを眺め、ローレライは微笑を浮かべた。

★ ★ ★

滅神王次男ヘンリは赤黒い絨毯が敷かれた長い廊下を歩き、大悪魔神官アプフェルの部屋へと向かう。
——————っ、何故この俺が部下の機嫌を取らねばならんのだ。亜奴など唯の部下じゃないか。・・・・・・しかし、アプフェルの奴は本当に面倒だな・・・。
すれ違う部下達はヘンリの姿を見るなり頭を下げ、敬礼をする。
と、前方に会いたくない部下が居た。
ヘンリは見なかった事にしようと行き先を変えようとくるりと向きを変えた時だった。
「あっ!ヘンリー様じゃないですかっ☆」
びくっとヘンリの肩が震えた。
そして、背後から駆けて来る部下。
次男は不機嫌そうな顔をして振り返った。
駆けて来たのは白衣を纏い、ブラックチョコレートの様な髪の色をし、赤い目をしたキルラーだった。
「ヘンリー様、お久しぶりです☆それにしても、いつ見ても可愛いですねぇ~☆」
「黙れ。・・・して、何の用だ?俺は今急いでいるのだ。」
「それじゃァ、歩きながらお喋りでもしましょう☆」
キルラーは笑うと、ヘンリの腕と自分の腕を組ませ、歩を進めようとしたが、すぐにヘンリに振り払われた。
「ふふふ☆」
「何を無礼な事をするのだ!!」
「照れてるヘンリー様も可愛い☆」
「黙れ!!」
ヘンリは怒鳴るとキルラーから離れる為に足早に歩を進めた。しかし、彼女は付いて来る。
「付いて来るなっ!」
「何所に行くんですか☆」
「何所でも良いだろう。貴様には関係無いのだ。仕事に戻れ。」
「仕事なら終わりました☆」
とキルラーはウィンクをした。
滅神王次男は顔を引き攣らせた。
「本当なのか?」
「はい☆ヘンリー様とデートしようと思って☆」
キルラーは不気味な笑みを浮かべ、言った。
「へへへ、どうですか、ヘンリー様☆良かったら、今から自分と・・・・」
「黙れっ!何と卑猥なっ!」
「冗談ですよ、冗談☆テヘ☆」
「今のは冗談の部類ではなかったぞっ!!!」
怒る滅神王次男を笑って流し、キルラーは言う。
「そう言えば、エウリア様、お戻りになったとか・・・」
「あァ・・・それがどうしたと言うのだ?」
彼女はにやりと厭らしい笑みを浮かた。
「それじゃァ、エウリア様にもちょっかいを・・・」
「死ぬぞ、お前。」
とヘンリ。
しかし、キルラーは笑う。
「アハハハハハ☆」
魔王は眼鏡を押し上げると閃く。
———————コイツ・・・・暇にしているな・・・。
「おい、キルラー。お前に頼みたい・・・・」
「何ですか☆」
何時の間に腕を組んだのかキルラーがヘンリの腕にくっ付いて首を傾げる。
「離れろっ!!」
と次男は振り払う。
そして、部下から距離を置いて言う。
「キルラー、お前に頼みたい事がある。」
「何でしょうか☆」
「アプフェルの機嫌を直して来い。」
「アプフェル様の機嫌ですか☆それは又、何でです?」
「色々あってな・・・良いから、機嫌を直して来い。」
キルラーは大好きな主の命令に少し考えて頷いた。
「良いですけど、御代はヘンリ様のお体ですか?」
「っ!」
ヘンリは赤面し叫んだ。
「何故、頼みの御代が俺の体なのだっ!本気で言っているのか!!!!」
「ふふふ☆」
「もう良い!!お前には頼まんっ!」
滅神王次男は言うなり去って行った。
そんな主の後姿を眺め、キルラーは思う。
———————大切な部下さんなんですから、御自分で仲直りして下さい☆

★ ★

機嫌を悪くし、漸く辿り着いた大悪魔神官アプフェルの部屋。
ヘンリは深呼吸をし、扉をノックする。
「アプフェル。お前に頼みたい事があるのだ。」
しかし、中からはくぐもった不機嫌そうな声が聞こえる。
「どーせ、嘘でしょ?帰って帰って。ボク、今忙しいから!」
部下の返答に滅神王次男は腕を組む。
——————っ!生意気な奴だなっ!
「あァー分かった、先程はすまなかった。・・・・そこでなんだが、俺に林檎パイを焼いて欲しいのだ。今、無性にお前が作った林檎パイが食べたい。」
———————奴は死ぬ程林檎が好きだからな・・・これならば機嫌を直すだろう。まァ・・・俺は林檎パイなど甘ったるいモノは食べたくないのだがな。
数分して、中からくぐもった声が帰って来た。
「あっそ。自分で作れば?」
「(ムカっ!)」
ヘンリは額に青筋を立てて拳を握り締めた。
——————調子に乗りやがってっ!!!
「あのなっ!!!」
そこで言葉を切り、ヘンリはローレライとリンネルに言われた事を思い出す。

“良い?何があっても怒っちゃ駄目よ。”
“ヘンリ様、怒りは抑えて下さいませ。”

次男は溜息をつく。
そして——————。
「分かった。自分で作るとする。」
と彼は言うなり去って行った。

それから・・・・。
滅神王次男が去って行ったのを扉を少し開けて確認し、アプフェルはキッチンに向かった。


★ ★ ★ ★ ★

アプフェルの部屋から帰って約1時間が経過した。
部屋。
絶望的な機械音痴なヘンリはパソコンを前に、調べモノをしていた。
——————くそっ・・・どうやったら俺の絶望的な機械音痴が直せるのか調べたいのに、調べ方が分からんっ!
とそこへノック音。
「何だ?今、俺は忙しいのだ。」
ヘンリの声に扉が少し開き、腕が伸びてきた。その手の平の上には林檎パイが乗っている。
———————林檎パイっ?・・・雅か・・・っ!
「林檎パイ・・・食べたかったんでしょ?ボク、作ってて余ったから持って来たんだけど・・・・」
「アプフェル・・・お前・・・」
ヘンリは椅子から立ち、林檎パイがある扉に歩み寄った。がしかし、当のアプフェルは顔を出さない。
「アプフェル、部屋に入ったらどうなのだ?主に失礼だぞ。」
「林檎パイが食べたいだけに部下を利用する方がよっぽど失礼だと思うんですけど。」
「っ!」
「早く受け取って下さいよ。腕がだるいんで。」
「・・・・」
ヘンリはアプフェルに促されて林檎パイを受け取った。
その途端に扉が閉まった。
魔王は虚しくその場に突っ立ったままだった。
林檎パイが凄く温かいのが身に染みた。
———————出来立てか・・・・。態々焼いたって言うのか・・・・?
ヘンリは甘い匂いを放つ林檎パイを眺め、不適に笑った。
———————デレツン野郎が・・・・。

★ ★ ★ ★

リンネルは落ち着いた自身の部屋の椅子に座り、日記を書いていた。
机に置いたほんのり甘いコーヒーを飲み、ほっと息をつく。
そして、ペンを握る。
———————今日はエウリア様がご帰還なされた。
見ただけであの御方の強さを感じる事が出来た。
あの時の魔界大戦争の記憶が甦ってくる。
再び、この地に今ある闇よりも更に強い闇が襲い掛かって来るのでしょうか。
黒と漆黒。
闇と大闇。
如何なる時でも私は滅神王ヘンリ様を御守りせねばならない。
それはいつも頭に叩き込んでおかなくてはならない。
もし、カルコスお兄さんが死んでしまったら、私がローレライ様を御守りせねばならない。
それ故、日々、感情を捨てて精進しなければならない。
リンネルは書き終えると見返す。
「はてさて、これは日記と呼べるのでしょうか・・・・」
どこまでも彼女の目は虚ろであった。

★ ★ ★ ★

一方、ヘンリの方はと言うと——————。
「よしっ!やっと“林檎”関連のレシピをネットで調べる事に成功したぞっ!長かったネットとの戦いだったな・・・・・だから、アプフェルの林檎パイを食べてから凡そ3時間が経過してしまったな。」
ヘンリは壁に掛けた時計を見、紙と羽つきペンを取り出し調べたレシピをメモる。
「最高の機嫌取りを思いついたのだっ!この林檎関連の菓子を作り、奴に持って行く!そして、機嫌取り成功なのだ!!」
書き写すと、ヘンリは部屋から飛び出しキッチンへ向かった。

★ ★ ★ ★

全ての書類に目を通し、印鑑を押す。
部下達の成長記録を調査員から受け取り、目を通し、仕事先を変える。
そして、ローレライを魔王らしくする。
それが大悪魔神官カルコスの大まかな仕事である。
椅子に座り、印鑑を押す。
それから、机に置かれた砂糖たっぷりの甘いコーヒーを一口飲み、顔を緩ませる。
この甘いものに触れる瞬間が彼の至福の時なのだ。
「やはり、砂糖をふんだんに入れたコーヒーは美味いなァ・・・・そして、セットで持って来たショコラケーキ!う~ん・・・最高だな。」
気分は絶好調らしい。
いつもの彼ではなさそうだ。
ショコラケーキを一口食べ思う。

———————この口に入れた時の触感がたまらない。・・・・・・・とろりと蕩ける甘いチョコレートをふんわりとしたココアシフォンケーキ生地に挟むなど・・・一体誰が考えたんだ!!!こんなケーキを作った者は神だっ!!

因みに、彼はショートケーキの苺は最初に食べるタイプらしい。
理由は、“苺を先に食べないと、生クリームとか周りが甘くて苺が酸っぱくなるじゃん。”
らしい。
何と子供染みた理由だ。

甘いチョコレートが俺の体を包み込む様だな・・・。

カルコスはケーキを食べ終わると閃く。
———————勇者を打っ倒したら、お菓子の国創ろう。


★ ★ ★ ★

*摩り下ろし林檎ゼリー*

◎材料(4~5個分)
林檎・・・・・・・・1個
檸檬汁・・・・・・・大匙1
粉ゼラチン・・・・・5g
お湯(熱め)・・・・50cc
水・・・・・・・・・100cc
砂糖・・・・・・・・大匙1
蜂蜜・・・・・・・・大匙1・2分の1
ミント・・・・・・・適量。(あれば)


◎作り方
①林檎は皮付きのままよく洗い、六つ割程度に切って芯部分を取り除く。

②①の林檎を摩り下ろし、檸檬汁を振り掛けて混ぜる。(林檎の変色を防ぐ為、檸檬汁を少しずつ加えながら混ぜる。)

③ボウルに分量の熱いお湯を入れて粉ゼラチンを振り入れ、しっかりと混ぜて溶かす。溶けたら砂糖、蜂蜜も加えて混ぜ溶かし、水を加える。

④③に②の林檎を加えて全体が馴染む様にしっかり混ぜ、器に入れて冷やし固める。

⑤出来たら、お好みでミントを飾る。



※上記のメモについて。
実際のヘンリのメモはこんなに綺麗ではありません。
彼は字が非常に汚いのでお見せで来ません。
なので、書き換えてものをお届けしております。


今、ヘンリはいつもの服(白いカッターシャツ、黒緑のネクタイ、黒いベスト、黒いスラックス)に緑色のチェックのエプロンをし、作り方①の林檎を六つ割程度に切って、芯部分を取り除くとこで止まっている。
——————簡単だと思ったのだが・・・・包丁で林檎を切る事が出来ない。指を切ってしまったらと思うと・・・・怖くて踏み出せん。何とかしなくては・・・・。
そこで、ヘンリは自分に“慎重に切れば平気”だと言い聞かせ切り始めた。
包丁が林檎に刺さる。
「よし・・・・慎重に・・・・慎重に・・・・」
ざくっと真っ二つに切る。
そして、六つに切る。
「よし・・・・芯を取り除くのだが・・・・指を切りそうで怖い・・・・」
そのせいか肩に力が入ってしまう。
——————指は切らない・・・指は切らない・・・・指は切らない・・・大丈夫だ・・・。
深呼吸をして芯を取り除いていく魔王。
これは又何とレアな風景だ。
魔王がキッチンで料理。
ローレライなら未だしも、ヘンリと来ればかなりレア物である。
数十分して①の段階を終え、②も続けて終える。
「③は・・・湯が要るのか・・・・フォーユですぐに沸くな。」
(※フォーユ→初歩炎属性魔法)
分量の液体をボウルに入れ、粉ゼラチンを溶かす。そして、砂糖と蜂蜜を入れる。
「何だ、簡単ではないか。」
と微笑むヘンリ。
次第に調子が出て来て、④の器に入れるところまで完成させる。
「よし、これで後は冷やし固めるだけだな。うむ・・・・冷蔵庫に入れて待つのは長いから嫌だから・・・ブリザーで済まそう。」
(※ブリザー→初歩氷属性魔法)
魔法を唱え、一瞬で器どもを固まらせる。
氷柱を提げた器達を眺め、ヘンリは笑う。
「上出来だな。これをアプフェルに持って行けばOKだ。」
と言う訳で、ヘンリ様のクッキングは終了し、彼は満足げにアプフェルの部屋へ向かって行った。

★ ★ ★ ★

林檎の枕に顔を埋め、未だ拗ねていた。
「ヘンリーってば、林檎のパイを作れって命令してさ・・・・何さ、何さ・・・」

アプフェル曰く、主の命令を承るのが下部の快感へと繋がる。又、その主を殺してこそ喜びがある。

とそこへ、ノック。
彼の林檎の蔕の様なブロンドの阿房毛が動いた。
———————ヘンリーだっ!
「アプフェル、入るぞ。」
案の定、主の声が外から聞こえ、扉が開いた。
ヘンリは盆の上に作った摩り下ろし林檎ゼリーを載せ、部下の部屋に入った。
林檎の枕に顔を埋めているアプフェルを呆れた様に眺め、言った。
「おい、アプフェル。顔を上げろ。」
「嫌だ。ヘンリーなんか大嫌いだもんねっ!」
「俺もお前の事は好きでは無いが・・・そ、その・・・食べて欲しいモノがあるのだ・・・」
その言葉にアプフェルは少し顔を上げた。
見えたのは林檎ゼリー。
「お前・・・ディナーに来てなかったから・・・夕飯を食べていないだろう。」
「ヘンリー・・・・」
アプフェルは主の言葉を聞き、紫色の目を潤々させた。目がアメジストの様に煌く。
当のヘンリはそっぽを向き、ゼリーを差し出した。
「べ、別に・・・お前の為に作ったワケでは無いのだが・・・しょ、少々余ってな・・・それで・・・・うわっ!」
急に抱き付いて来たアプフェルにヘンリは尻餅をつく。
「ヘンリーっ!大嫌いなんて嘘だからね!!本当は殺して、ホルマリン浸けにしておきたい程大大大大大好きだからねっ!」
「わ、分かったから離れろ!!気持ち悪いっ!」
ヘンリはアプフェルから解放されると、凍った林檎ゼリーを渡した。
「食べろ。」
「わぁ~い!!いっただきまぁ~すっ!!」
アプフェルは凍ってしゃりしゃりするゼリーを頬張る。その間にヘンリは服を直す。
そして、林檎好きな大悪魔神官は笑う。
「凄く美味しいよ、ヘンリー♪・・・・これって、林檎シャーベット?」
部下の問い掛けに魔王は顔を引き攣らせた。
「ゼリーなのだが・・・・」
「そうなんだぁ~♪全然、ゼリーに見えなかったよ。ふふ、料理下手だねぇ~★デザートも碌に作れないなんて・・・・・相変わらず可愛い♪」
「五月蠅い。文句を言うのであれば食べなくて良いのだぞ!別にお前の為に作ったのではないのだからな。」
とヘンリは不満顔で言うとゼリーを没収する。
それを慌ててアプフェルは制止する。
「待ってよ!不味いなんて文句言って無いでしょ!!美味しいんだから没収しないで!」
ヘンリは溜息をつく。
林檎ゼリーなのか林檎シャーベットなのかよく分からないデザートを食べながら、アプフェルは紫色の目を輝かせて問い掛けた。
「ボクの林檎パイ美味しかった?」
「・・・あ、あァ・・・・」
「食べてくれたんだ!!嬉しい!・・・はぁ~・・ヘンリーの為に甘さ控えめにしておいて良かった。」
「・・べ、別に食べる心算では無かったのだが・・・・部屋に置いていては邪魔になるのでな・・・」
「邪魔って、ヘンリーが作れって言ったんじゃないか!!」
とアプフェルは頬を膨らませた。
「言ったが・・・・・」
何か言おうとしたが、ヘンリは言葉を見つける事が出来なかった。
そんな魔王を見てアプフェルが笑う。
「珍しいねぇ、ヘンリーが言い返して来ないなんて。」
「・・・五月蠅い。」
「五月蠅いのがボクだよ。」
ゼリーを食べ終え盆の上に戻す大悪魔神官を見て、ヘンリは少し笑った。
「そうだな・・・」


面倒臭い主に面倒臭い部下。
何とも似た様な奴等ではないか。

今後とも、馬鹿な魔族達をお願いします。
2015-01-21 : 【魔界側パロディー】 : コメント : 0 :
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十二仙 百露

Author:十二仙 百露
性別:女
年齢:18
身長:158cm
血液型:AB
誕生日:9月12日
好きな食べ物:甘い物
嫌いな食べ物:苦い物
趣味:小説、書道、絵を描く、模写、ゲーム、ゲーム実況見物

 

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