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異世界のイストワール  最終章~未来を担う者達~

※字抜けとか字間違いとかしているかもしれませんが、許して下さい。


最終章~未来を担う者達~



*異世界から勇者が現れ、滅神王エウリアを封印してから、それなりの時が過ぎていた。
女神メリティスが実体を全て魔力へと注ぎ込み、魔族と滅神王エウリアとの戦いにおいて命を喪った世界と者へ生命力を与えた。
それにより、世界は元の姿を取り戻した。
破壊された町や城は生き返り、人々は再び幸せな毎日へと戻っていった。
魔界とて同じである。
女神の力にて彼等の世界も又、復活していた。

「ローレライ、お前、又寝ずに何か部屋でやってただろ?」
いつもの少年の声がする滅神王の間。
魔王長男は玉座に座り、微笑むばかり。
「あァ~・・・うん。ちょっと・・ね。」
「ちょっとねじゃねぇーよ!睡眠はちゃんと取れよ。じゃねぇーと・・・・その・・・」
照れくさそうに口ごもる部下に魔王は微笑みを向けた後、玉座から立ち上がり、暗雲が消え、太陽が除く魔界を窓から眺めた。
太陽の光が心地良い。
「ねぇ、カルトス君・・・・どうして私の考えにのってくれたの?・・・人間と魔物達が共存した世界を創ろうって私の考えに・・・・」
振り返らず語り掛けてくる魔王に大悪魔神官はすっと息を吐くと小声で呟いた。
「そ、そりゃァ・・・・人間達もそんなに・・・悪くは無いって・・思ったからだよ・・・」
「え?」
笑顔のまま振り返ったローレライにカルコスは慌ててそっぽを向いて叫ぶ。
「な、何でも無ぇーよ!つーか、理由なんて無ぇっての!」
そして、腕時計を見、主にこれからの予定を叩き込む。
「おい、もう会議の時間だぞ。」
「はい、はい♪」
ローレライは微笑み、短気な部下の後に続く。





ヘンリはやはり嫌いなパソコンと自室で対峙していた。世界が平和になったと言うがこの次男魔王の絶望的な機械音痴は直らなかった。
悩み顔で画面へと視線を向け、温かいブラックコーヒーを飲む。
そんな主の横には無表情な白衣の少女が居た。
「相変わらず、絶望的な機械音痴ですね。ヘンリ様。」
「っ!」
びくっとする様な事を言われ、ヘンリは眼鏡を押し上げ言う。
「いいや、俺が機械音痴なのではないのだ。この機械が生物音痴なのだよ。勘違いするな、リンネル。」
当の彼女はくすりとだけ一瞬笑う。それをヘンリは見逃しはしなかった。
「リン、今笑ったな?」
「いいえ、笑っていません。」
「いいや、確かに笑ったぞ。俺の目は決して誤魔化す事などできないのだ・・・・・・・と言うか、俺は未だお前の事を許しては無いのだよ。」
ヘンリは目を閉じた。
「お前が俺の命令に背き、勝手に命を人間の為に投げ出したと言う事をな。」
我が主の言葉に少女は無表情で返した。
「その事は誠に申し訳無いと思っている次第です。」
「俺は絶対に許さないぞ。」
「申し訳御座いませんでした。」
「どれだけ俺を悲しみに暮れさせれば気が済むのだ・・・・」
次男は盛大な溜息をつき、続ける。
「まァ・・・・・・その・・・なんだ・・・・・お、お前が永遠と俺の傍に居ればこれまでの失態を許してやっても良い。」
魔王の言葉に少女は見つめ、
「承知致しました。ヘンリ様の許しを請う為、このリンネル、永遠と貴方様のお傍に居ましょう。」
と敬礼をする。
そして、彼女は部屋から出て行こうと扉を開けた。
ヘンリはそんな部下を眺め、言い放った。
「これからも当てにしている。」
背後から声を掛けられ、リンネルは一瞬立ち止まり、「失礼します。」と言う言葉を返し、静かに出て行った。



☆ ☆



あれから約9年が過ぎた。
女神との約束通り、魔王達は人間と共存する事を決意した。
それにより、最初は慣れず、ぎこちなかったが次第に人間と魔物達は仲良くなっていった。
今では共に町や村を創り、一緒に暮らしている。
これこそが誰もが望んだ平和な世界だった。



城の庭。
そこでは鉄と鉄とが交わる激しい音が飛び交っていた。
母親譲りの綺麗な金髪と緑色の目を太陽に輝かせた少年は顔立ちの良い黒髪の男と一戦交えていた。
聖騎士の鎧を纏った黒髪の男は手にした槍を少年へと突き出した。その槍を少年は盾で弾き返し、男がよろめいたところへ剣を叩き入れた。男はそれをさっと回避し、少年の足元へ槍を滑らせる。足下を見ていなかった少年はすっ転び、庭の芝生の上に尻餅をつく。
「イテテテ・・・・」
転んだ金髪の少年に男は軽い笑い声をかける。
「アハハハハ、相変わらず自分の足元は見ていないんだね。」
「父さん、足払いなんて卑怯だよ。」
少年は頬を膨らませ立ち上がった。
そんな息子に父親は笑う。
「そんなに顔をぶすっとしない!母さんに怒られるよ。」
「だって・・・・」
と悔しそうに呟く。
「ほら、続きをするよ。」
促す父親に少年はすっと溜息をはき、剣を握る。
その刹那——————。
雄叫びと共に頭上から緑色の髪をした男が斧を翳して襲い掛かって来た。
少年ははっとなり寸前のところで男の攻撃を回避する。
「ゼ、ゼノさん!!あ、危ないじゃないですか!!」
突如攻撃を繰り出してきた男を驚愕の目で見つめる少年に“ゼノ”と呼ばれた男は笑う。
「いや、カーツに不意打ちを仕掛けてくれって言われててね・・・」
“カーツ”と言う名前に少年は自身の黒髪の父親を睨んだ。
「父さん!!」
当の彼は少し慌てて言葉を発する。
「こ、これはカイン、お前の事を思って・・・」
少し怒りの表情を浮かべた少年カインに淡い緑色の輝きが纏わりつく。
「っ!」
体が頑丈になったような感じがして、カインを含め、カーツとゼノは背後を見やった。
そこにはガムラン王国の紋章が入った外套と白いローブを纏った男が立っていた。
「エイク様っ!」
とカーツとゼノ。
エイクは悪戯な目をし、皆に言う。
「カインの援護を僕がすれば、2対2で丁度良いんじゃないかな?」
「エイクさんっ!」
カインは嬉しそうに飛び跳ねた。そして、フフンと鼻を鳴らした。
「2体2じゃないよ。俺には母さんが居る。」
「なっ!」
騎士二人は驚く。
少年の言葉に応じて鎧の音がした。その音は次第に近付き、声を発した。
「そうだな。私はカインの方につくとしよう。やはり、我が子は可愛いからな。」
「母さん!」
カインは金髪の母親に抱きついた。
長く綺麗な金髪と黄緑色の瞳と薔薇の様な唇。
「参ったな・・・ペインと一戦交えるなんて・・・」
とカーツは苦笑する。
しかし、ペインは剣を構えるとぶっきら棒に言い放った。
「カーツ、私がお前の妻だからと言って手加減は無用だ。ゼノも遠慮するな。」
「そう言われましても・・・」
ゼノもカーツと同様に顔を引き攣る。
中々掛かって来ない男どもに業を煮やしたのかペインは息子のカインと弟のエイクに指示を飛ばした。
「行くぞ!」
その声にカインは雄叫びを上げ、駆け抜けて行った。



☆ ☆



蘇芳色の長い髪を風に靡かせた女性が墓に花を添えていた。そんな女性の横には黒紫色の髪と藍色の目を煌かせた男の子が居る。少年も又墓に花を添えていた。
「おじいちゃん、ちゃんと自分の事見てくれるんかな?」
と少年。
そんな子に女性は微笑む。
「あァ。きっと見ていてくれるわいね。」
女の言葉に少年は太陽の様な笑みを浮かべ、大きく頷いた。
「お母さんが言うんだったらそうじゃね。」
親子が微笑んだ刹那。
「ヴェロニカ、やっぱり此処に居たのか。捜したよ。」
と心地良い男の声が背後から掛けられた。
女が振り向く前に少年は振り向き、男の方へ元気良く駆けて行った。
「お父さんっ!」
自分と同じ黒紫色の髪をした少年を男は撫で、微笑んだ。
ヴェロニカと呼ばれた女は夫の前に歩み寄り、淡い微笑浮かべた。
そんな妻に寄り添い、男は声を発する。
「今日の晩御飯、俺も手伝うよ。」
夫にそう言われヴェロニカは微笑む。
「ありがとう、サリエル。」
そんな妻の頬をサリエルと呼ばれた男は優しく撫でる。
「フフ・・・」
笑い合う二人を見、少年は顔を真っ赤にする。
「お母さん、お父さん・・・・・」
二人ははっとなり息子を見る。
「ごめん、ゾネ。」
「イチャつくのは子供の居ないところでしろってギルティさんが言ってたよ。」
ゾネと呼ばれた少年はむすっとしたが次第に太陽の様な笑みを浮かべた。
「でも、良いや。お母さんとお父さんが仲が良いこんな温かい家族、俺は好きだから。」
少年は言うと、家の方へ駆けて行く。
「ギルティさんやラヅさんに剣術習ってくるよ。」
「良いけど、晩御飯には間に合う様にするんよ。」
とヴェロニカ。
「はーい!!」
そんな息子を二人は笑顔で眺めて見送った。



☆ ☆



鋭い双眸と深緑色の髪、そして、素晴らしい剣術とツンとした性格。
これは父親譲りだ。
一方、エメラルドの様に綺麗な目、そして、純白の魔力を掴むことが出来るのは母親譲りだ。
そんな少年は森の中に居た。神経を研ぎ澄まし、上下左右から牙を向けて来る輩の気配を察知する。
と——————。
何か音がした。
即座に少年の双眸の鋭さが増す。
——————右か、左か・・・それとも・・・上か。
鎧や盾などは装備していない。
そんな重いものなど装備して戦場に身を置くなど出来ない。
父親の自警団の服と専用に作ってもらった刀だけで十分だ。
少年はかっと目を見開いた。
——————左だっ!
案の定、左から鋭い爪が飛び出してきた。それを素早く回避すると少年は反撃に出る。
反撃に出る、と言っても刀の切っ先を相手に向けるだけで終わる。
刀が目の数センチ前に来ている事を体を震わせて凝視し、牙を向けて来た輩は上ずった声を上げる。
「あ、あ、相変わらず、デ、デ、デインは強いねっ・・・・!」
「そうでもねぇーよ。単にお前が遅いだけだ。」
とデインと呼ばれた少年は吐き捨てる様に言うと、刀を収めた。
上ずった輩は安堵の息を吐く。
彼に牙を向けたのは小さな角を生やした小柄な黒い魔物だった。
その魔物とデインは友達だった。
人間と魔物達が仲良く暮らす様になってからと言うもの、ニルバーナにも多くの魔物達が観光で集まってきた。その際になったらしい。
「僕もデインみたいに強くなれるかな?」
可愛い目を煌かせ魔物はデインに問い掛けた。
「それで、いつかはニルバーナの自警団に入れるかな?」
「さァーな。」
とデイン。
そんな少年に魔物は羨ましげに見る。
「デインは良いよね、ヒルダさんと言う自警団副隊長のお父さんが居るから。僕には・・・」
言いながら悲しそうな表情をする魔物にデインは肩を竦めて言い放つ。
「何言ってんだよ。母さんが言ってたぜ。“プックルも家族だよ”ってな。」
「ミーシアさん・・・が?」
「あァ。」
プックルと呼ばれた魔物は潤った目をして大きく頷いた。
「そうだよね。もう、魔物も人間も差別は無いんだよね!」
「まァーな。」
喜んで飛び跳ねる小さな魔物を眺め、デインは綺麗な青空を仰いだ。
とそこへ、影が飛び出してきた。
即座に影の気配を感じ取ったデインは影の攻撃を回避し、刀を向けた。
そして、父親とそっくりな鋭い双眸を突き刺す。
「少し遅かったな、デイン。」
「父さんも、俺に対して手加減し過ぎじゃねぇーの?」
深緑色の髪と自警団用の制服を着た男が鼻で笑う。
「何なら本気でやってやろうか?」
「そうこなくっちゃなっ!」
身構え合う親子をたじたじと見ながらプックルは慌てて言う。
「や、止めなよ・・・危ないよ・・・・」
しかし、二人は聞いていない。
と——————。
「そうよ。プックルも言ってるでしょう?」
綺麗な女の声が背後からした。
茶色の長い髪と美しいエメラルドの瞳をした女だった。
「母さん・・・」
「ミーシアさんっ!」
とプックル。
当の彼女は腰に両手を当てて、頬を膨らませている。
「ヒルダもデインに対してちょっと自棄になり過ぎよ。」
「す、すまん・・・」
ヒルダは刀を収め、きまり悪そうに妻に返した。
「今日、この森に来たのは他でも無い、ピクニックの為でしょう?」
「あぁ・・・」
「だから、のんびりしましょう。ね?」
愛する女性に微笑みかけられ、ヒルダは肩を竦めた。



☆ ☆



綺麗な飲み水が流れている神聖な森の中に栗色の髪をした青年が一人、歩いていた。
小鳥達の囀りを背に歩く。
彼は振り返る。
何かを惜しむ様に——————。
旅人の服を纏い、肩には陣羽織を羽織っている。
陣羽織が風に揺られる。
——————素直に祝福できなくてすまねぇ・・・。
と、そんな事を思い、ふっと息を吐く。
そして、青年は陣羽織を翻して再び歩いて行く。
静かな森の中を唯、独りで———————。




☆ ☆ ☆



赤い髪の男はスーツを着、靴を履く。
そして、一言。
「行って来る。」
そんな男に淡い水色の髪をした女は3歳の男の子を抱き、笑顔で見送る。
「行ってらっしゃい。」
「父さん、行ってらっしゃい!」
元気良く言うのは女の横に立っている5歳くらいの男の子だった。
少年は濃い紫色の髪をし、笑っている。
そんな息子に父親である男は歯を見せて笑う。
「あぁ。冷煉(ひれん)、母さんと熱寒(ねっか)を頼んだぜ。」
「うん!」
長男は大きく頷いた。
父親は玄関の扉を開け放ち、太陽が笑う外へと出る。

男は歩きながら空を仰ぎ、ふと思う。
———————あの世界もきっと・・・こんな太陽が在るんだろうな・・・・。

仰いでいる空はどこまでも青く、綺麗だった。




☆ ★ ☆ ★



それから長い時が過ぎて、あの激しくも悲しい魔王との戦いの傷痕は完全に消え去り、人間と魔物が争いをせずに暮らす毎日が訪れた。
誰もが望んでいた世界だった。
それを築いた青年達の事は夢物語の様に語られ、世界中に知れ渡った。
そして、悲しき最期を迎えた魔王の事も————————。
再び訪れた平和に女神や天使達は長き眠りについた。

もう、闇が世界を覆う事が無いと言う事を示すかの様に。





<異世界のイストワールⅠ>終わり。
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2015-03-24 : 【異世界のイストワールⅠ】 : コメント : 2 :
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異世界のイストワール  第15章~異世界に別れを告げて~

※字抜けとか字間違いとかしているかもしれませんが、許して下さい。
後、これは未だ終わりじゃないから。
明日が何と、最終章!!


第15章~異世界に別れを告げて~


*戦いが終わった魔王の間は静かだった。
そんな中に魔王を封印した勇者達と滅神王の姿があった。
疲労感でいっぱいなのだろうか、誰一人として愚痴を吐こうなどと言う行為はしなかった。
それは、突然聞かされた部下達の死のせいだった。
シャク達は大悪魔神官カルコスとリンネルの勇敢なる行動を全て彼等に話した。どれも仕方無い行為だった。
大切な人を守る為の——————。
「やはり・・・私達がエウリアを使おうとしたのが原因だったんだ。」
ローレライは唇を噛む。
彼の横ではヘンリが目元を押さえ、涙を伝わせていた。
大切な部下を失った事は大きい傷だ。
魔王三男を封印したとしても何の喜びも無い。
だが、いつまでも悲しみに暮れる魔族と共に居るわけにもいかない。シャクは重たい口を開く。
「俺等は・・・女神様に報告をしに戻らないといけないから・・・・その・・・・」
申し訳なさそうに呟く勇者にローレライは作り笑いを浮かべる。
「そうだな・・・」
そして、手を差し出した。
勇者は戸惑う。
そんな彼にレイアが小突く。
恐らく、握手を求めているのだろう。青年は魔王の手を握る。
「ありがとう、異世界から来た勇者よ。お前等のおかげでこの世界は救われた。人間界も、天界も幻界も・・・そして、我等が住む滅界も・・・な・・・」
シャクは少し微笑む。
しかし、素直には喜べない。だから、微弱な笑顔は消える。
他にエウリアを良い魔物に戻す事が出来たはずじゃないのか。
昔から笑顔で話す様な良い魔物の振りをしていられたのなら、そのままで居ても良かったんじゃないのか。
こんな暗いテンションを打ち消そうとしたのか、ギルティが声を上げた。
「何か、魔族がそんな神染みた台詞吐くと変だぜ。」
明るく言った人間にローレライは苦笑する。
「まァな・・・・」
そして、横で一言も喋らない弟を見る。
彼はやはり悲しみ暮れていた。
確かに世界を救った気はある。だが、嬉しさは無い。勇者として崇められる人間にはなれない。人々に感謝されたくはない。
「・・・守れなかった・・・・」
小さく呟く勇者に魔王達は目を伏せる。
誰もが無言だった。
その時。
傷付いた彼等を優しく包む光が在った。
その光は彼等の視界を輝きで満たした。
頭を撫で、包み込んでくる。
そのせいか、自然と涙が溢れて来る。
そんな輝きの中、綺麗な声が響いた。

——————ありがとう・・・・。


☆ ☆


良い匂いの風が頬を撫でていく。
淡い桃色の美しい花々が花弁を風に躍らせながら、聖なる者達の帰還を嬉しそうに歌う。
滅神王城でシャク達を包んだ光は女神の発したモノだったらしい。
今、魔王二人を含んだ彼等が居るのは神の国。
純白の女神を前にしてシャク達は姿勢を正す。
そんな彼等に女神は慈愛に満ちた笑みを浮かべる。
「勇者、そして、その仲間達よ・・・よく、世界を救ってくれました。」
天使達も満面の笑みをする。
「貴方達の様な良き人間がこの世界に居れば、私達も安心できます。」
「へっ、そこまで褒められるとは照れるなァ。」
とギルティが笑う。
だが、シャクは喜べないで居た。
女神は勇者を見つめた後、魔王二人に視線を向けた。
「ローレライ、ヘンリ・・・」
名を呼ばれたローレライは一歩前に出る。
「女神メリティス・・・」
「本来ならば、貴方達も封印されるべき存在なのですが・・・・私は敢えてしません。・・・・その理由が分かりますか?」
と言う女神の問いに長男は首を傾げる。
「いいや、分からないが・・・・相変わらず、貴方も甘い方です。」
「それは十分に分かってることです。」
「フフ・・・」
笑うローレライに女神は慈愛の眼差しを向けて続けた。
「今回の争いで、貴方達は痛みを知ったはず。大切な者を失う痛みを・・・・だからです。」
女神の言葉に魔王二人は黙る。
そんな彼等を見つめ、女神は少しして続けた。
「私の実体を全て生命の魔力へと変化させ、魔族の攻撃及びエウリアとの戦いで死んだ者を甦らせます。魔物も人間も。」
「!」
皆が驚く。
「それと引き換えに、ローレライ、ヘンリ・・・・魔物達に教育をして下さい。“人間と共存していく未来を築く”教育を・・・・」
女神の意外な言葉に驚愕する人間達を横に、ローレライは満面の笑みを返した。
「人間と共存していく未来・・・・か・・・・フフ、悪くは無い。」
「ローレライ!!」
そこで初めてヘンリが声を上げた。
「俺達は魔族だぞ!魔王だぞ!それなのに、何故人間どもと共存を・・・・!・・・それに、何だこの同情はっ!」
「ヘンリ、これは我々にとっては大きな進歩だ。どの魔族もやった事の無い、人間との共存は素晴らしいとは思わないか?それに・・・・人間達の暮らしを観察し、魔族達の生活スタイルを大きく変え、更に魔界をレベルアップさせてはどうだろうか?」
「いや、しなくて良い。魔界は魔界のままで良い。」
とヘンリ。
ローレライは尚、暴走し始めた。
それ故、普段の口調になっていった。
「嗚呼、人間と魔族の生活・・・・・考えただけでワクワクしない?・・・・街角であった貴婦人とお喋りをし、小鳥達の囀りを聞き、太陽の光をめいいっぱい浴びるの!他にも・・・・・」
何やら、妄想をし始めた兄を無視し、ヘンリは女神に言い放った。
「例え、貴様が俺等に同情し、甦らせたところで俺等は魔族のままなのだ。人間達とは共存できない。」
しかし、そんな魔王にミーシアが声を掛けた。
「出来ると思いますよ。」
少女の声にヘンリは視線を向けた。
「人間も魔族も同じなんです。みんな、喜んで、楽しんで、悲しんで、怒って・・・同じ感情を持ってるでしょう?だから、同じ。私は、ヘンリーさん達が村に遊びに来ても歓迎しますわ。」
「“ヘンリー”じゃない!“ヘンリ”だ!」
次男は怒鳴る。
それに皆が笑う。
そして、女神は勇者へと視線を戻した。
「これで胸の痞えが取れましたか?」
「女神様・・・」
「貴方達を危険な目に遭わせた挙句、更なる悲しみに沈ませて放っておくことなど、私には出来ません。だから、せめて・・・」
「女神様!」
静かに言い放った女神にペインが口を開いた。
「幻界に残っている皆はどうしているんですか?」
王女の問い掛けに皆が女神の答えを待つ。
当の神は目を閉じ、微笑んだ。
「幻界で皆さんの帰りを待っています。」
応えに勇者達の顔が喜びに綻ぶ。
歓声が上がる。
そんな中、シャクは思う。
異世界を救うと言う目的を果たした後は———————この世界に別れを告げなくてはならない。
シャクだけではない。レイアもヒカルも苦笑を浮かべ、暗い瞳を輝かせていた。
自身等はこの世界の人間ではない。
だが、戻ったところで現実世界は滅茶苦茶だ。
ヒカルの両親は殺され、何もかもが悪夢染みた光景と化してしまっている世界に誰が望んで帰りたいものか。
無言になった青年達に女神は美しい顔をして言い放った。
「シャク、レイア、ヒカル・・・・異世界であるにも関わらず、貴方達を此処へ呼んで申し訳ありませんでした。」
「確かになァ~、こんなに俺等強いのに勇者に選ばれないなんてな!」
ギルティが肩を竦めて言う。
そこへ、ヴェロニカが顔を赤くして声を上げた。
「そうっすよ!サリエルさんが勇者に選ばれないなんて可笑しいっすよ!!」
「ヴェロニカ・・・」
とサリエルは苦笑する。
口々に言う若者達を眺め、女神は口を開く。
「強き人間達がこの世界に居るのは十分承知の上でした。しかし、この神鏡の盾を持つ事ができる人間はこの世界に居なかったのです。」
「で、その盾が選んだのがシャクってワケですかい?」
とオルバ。
彼の言葉にレイアが目を半眼にする。
「何でシャクなのよ?コイツ、唯の怠け者でアホな奴よ。」
「何だと!」
レイアの言葉でシャクは怒鳴る。
「俺も同意。」
ヒカルも頷く。
「ヒカルまでっ!」
悔しい顔で言う勇者に女神は微笑む。
「ですが、貴方は世界を救ってくれました。本当にありがとう、勇者よ。」
「い、いやァ・・・・」
頬を掻いたシャクは暫くしてから真顔に戻り、女神に言葉を発した。
「女神様。俺等は現実世界に戻らないといけないじゃないですか。」
「はい。」
「ですが・・・俺等の世界は・・・・」
曇った表情の彼等に聞き覚えのある声が掛けられた。
“約束したでしょ!女神様に頼んで世界を元通りにしてあげるって!”
声の主はシャクの方へ飛んできた。
天使の羽を広げて———————。
「ラーっ!」
ラーは微笑むと胸を反らした。
“約束は守らないとねっ!”
「って事は・・・・」
「貴方達の破壊された世界・・・・確かに私が元通りに戻しました。戻れば、貴方達が此処へやって来た時の時間になっているはずです。」
女神の発言にシャク達はお互い顔を見合わせて喜んだ。
しかし、喜んだのも一瞬だった。
家に帰れるのは良いのだが、これまで共に旅をしてきた仲間達と離れるのは辛い。
どんな困難も共に乗り越え、強敵と戦った。
笑い、泣き、怒鳴り合った日々。
そして、深まった絆。
「異世界の人間だったんか・・・・シャク達・・・」
とヴェロニカがぼそりと呟いた。
「って事はお別れですか・・・・」
とカーツ。
「お別れ!!何て事だ!レイアさんの様なお嬢さんと会えなくなるなんて!世界の終わりだ!」
ディが悲痛な顔で叫んだ。
そんな男にレイアは冷めた眼差しを刺した。
「言い過ぎよ。てか、その台詞・・・殆どの人に言ってるんじゃない?」
「とんでもない!」
苦笑する彼等を見、ヒルダが一歩進み出た。
そして、口を開く。
「シャク・・・・色々と世話になったな・・・・そして、かなり迷惑をかけた・・・」
「いえ・・・」
微笑む青年に今度はサリエルが声を掛けた。
「俺からも謝罪と感謝の言葉を言わせてくれ。」
「サリエルさん・・・」
当の彼は妖艶な笑みをし、手を差し出した。
「本当に申し訳なかった・・・・そして、ありがとう・・・・」
シャクはニルバーナの向日葵となる青年の手を強く握った。

異世界から招かれた若者達は順々に共に戦った仲間達の手を握った。彼等の手は生命力に溢れていた。そんな彼等と別れるのは正直辛い。だが、このままこの世界へ留まる事など出来るわけがない。若者達はこの世界の人間では無いのだから。
その刹那—————。
シャク達三人の体が光を帯びてきた。
そして、輝きと共に薄れていく。
無理も無い。女神に選ばれた人間として、勇者として、この世界を救うと言う使命を果たしたのだから。
そんな若者達に女神は言う。
「異世界から選ばれ、この世界を救いし勇敢なる若者達よ。元の世界に戻る時間が来ました。さぁ、目を閉じ、祈るのです。貴方達が居た世界を思い描くのです。」
女神の言葉を聞いて、シャクは仲間の方を向く。
そして——————。
「もう・・・本当のお別れみたい・・だな・・・」
それに皆が頷く。
「みんなと過ごした日々、凄く楽しかったわ。」
とレイア。
「幻界で待ってるゼノさん達にもそう伝えて下さい。」
「分かった。言っておこう。」
ペインが微笑む。
「それじゃァ・・・又、会える日まで・・・みんな・・・元気で・・・」
「へっ!会える日までってな、どーせ、すぐに又会えるんだろ?」
シャクの言葉をギルティが遮った。
彼はにやりと笑い、続ける。
「この世界とテメェー等は何らかの力で繋がってんだからさ。」
「ギルティさん・・・」
穏やかな笑みを浮かべる三人にヴェロニカが叫ぶ。
「そうそう!!何か又会ったら来てよね!」
「シャクさん達のこと、待ってますから。」
ミーシアも微笑む。
「今度は幻界にも早く遊びに来て下さいねぇ。」
とスピオ。
「その時は一緒にカジノへでも行きませんか?」
「スピオさん・・・」
若者達は相変わらず賭け事が好きなんだな、と苦笑する。
そんな弟の横ではディが涙を堪えていた。
各々別れを言い合う皆の後に、ローレライが笑ってシャク達に握手を求めてきた。
若者は握手を交わす。
「今度、貴方達が此処へ来た時はきっとビックリするわよ。人間と魔族が仲良く暮らしているから・・・ね♪」
「あァ、期待しとくよ。」
そして、魔王長男は次男に声を掛けた。
ヘンリは冷めた目を青年達に向け、眼鏡を押し上げると冷たい口調で言い放った。
「人間など脆いものだと思っていたが・・・・それは俺の思い間違いだったらしいのだ。だがしかし、俺は人間と馬鹿な兄の様に仲良く手を取り合って生きていこうとはしなのだ。それだけは覚えておくのだ、勇者よ。」
「何よ!素直に“魔界を救ってくれてありがとう”って言えば良いじゃない!もう~、ヘンリーのツンデレさんったら!!」
とローレライが弟の肩を叩く。
「“ヘンリー”じゃない!“ヘンリ”だ!!何度言えば分かるのだっ!!」
笑い合う頃にはもうシャク達を包む輝きが増していた。
現実世界へと戻る青年達に女神は慈愛に満ちた微笑で見送る。
「聖なる輝きの子達よ・・・・いつでもは私達は貴方達の幸運を祈っています。そして、いつの日か再び会える事を願っています。」
そんな美しい声と共に、絆を築いた仲間達の声に送られ、シャク達は輝きと共に神の国から消えた。



☆ ★ ☆ ★ ☆




何か聞こえる。
普段聞いていた声達。
魔物などの奇声じゃない。しっかりとした人間達の声だ。
赤い髪の毛をした青年は目をゆっくりと開けた。
夕日に赤く染まった教室の天井が見える。
そして、身を起こす。
横には金髪の青年と長い淡い水色の髪をした女の子が倒れていた。
同じ制服。
そこで青年ははっと目を見開き、己の指を見た。
彼の指には羽の指輪が填められていた。
——————これはっ!
その指輪のおかげで全て思い出す。

天使。
異世界。
村、町。
広大な海、大陸。
戦い。
魔物。

そして、神と魔王。

——————俺等は確かっ!

次第に横の青年達が起き上がる。
「・・・此処は・・・?」
目を擦り、冷愛が甘えた声で呟いた。
「教室・・か・・・・・」
光が頭を押さえて応じる。
「二人共、俺等・・・・・」
灼が安堵した表情で二人に呼び掛けた。
勇者となり世界を救った青年に光と冷愛は大きく頷く。

——————無事に世界を救い、俺等の世界に戻ったんだ・・・・・。

2015-03-23 : 【異世界のイストワールⅠ】 : コメント : 0 :
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異世界のイストワール  第14章~ザ・ファイナル・ジョーダウン  その5

※字抜けとか字間違いとかしているかもしれませんが、許して下さい。

以下は続きです。


*一向に暗闇、闇属性、炎属性、猛毒の攻撃が止んだ。
つまりは、黒蛇が全てそれらの攻撃を行っていたと言う事。だとすれば、それらの属性は吸収しないと言う事。
シャクは氷属性の攻撃を神鏡の盾で跳ね返し、ギルティ、ヴェロニカに叫んだ。
同時に魔王への攻撃に二人が加わった。
シャクが跳ね返した氷の攻撃を受け、エウリアが即座に回復しようとする。しかし、それをさせじとオルバが鞭を白蛇に巻き付け、回復を封じる。
「何っ!」
とエウリア。
そこへ、ヒルダとサリエルが一閃浴びせる。
二人の攻撃で白蛇が斬られ、傷を癒す手段を断たれる。
動揺した魔王にヴェロニカが武器を収め、大地のブーツで床を叩いた。それに呼応して、エウリアの下から岩が突き出す。これも魔力を用いた一時的な攻撃だ。続いて、ギルティが村雨で斬り上げた。そこへ、オルバの皇帝の鞭が強かに打ち据える。
エウリアは勇者達から瞬時に身を離す。
彼の顔には焦りの表情が浮かんでいた。
——————ボクの蛇達がっ!
そして、武器を構え、更なる攻撃に出ようとしている人間達を睨み付ける。
「図に乗るなよ、愚かな人間どもっ!」
と怒号を上げる白髪の少年にローレライが言い放った。
「図になど乗っていない。唯、戦っているだけだ。」
その言葉の後、広間に漂っていたヒカル、ミーシア、ヘンリ、ローレライの魔力が一斉に膨張した。そして、魔法が発動。
エウリアの頭上から降り注ぐのは、一抱えもありそうな無数の岩。術者の怒りが炎に転化し、その岩を燃え滾らせる。
「っ!」
少年が身を守ろうとするかの様に両手を交差させる。その程度で魔法の威力を軽減できるはずもない。エウリアの体は轟音と大爆発と共に荒波に翻弄させる木の葉の様に舞う。
メテオブラスト——————四人の魔道士が一つに膨大な魔力を集結させ、凄まじい隕石を召喚し、大爆発を生じさせる最強の魔法。
この魔法は遥かにエウリアの魔力を超えていた。
強力な魔法をまともに食らった若き魔王の最後の銀色の蛇は断末魔と共に、勇者達の能力を吸収する前に砕け散った。
破壊された広間には臭い匂いが漂う。
煙が去った後。
床には皮膚が爛れ、血塗れになった少年が倒れていた。
持てる全ての精神力、更には魔力を注ぎ込んだ反動で術者四人が床に片膝をつく。
倒れたミーシアを見、ヒルダは駆けて行き、抱き起こす。
ヒカルの許へもシャクやレイアが駆け寄る。
そして、シャクは封印師達に叫ぶ。
「今ですっ!」
封印師は頷き、駆けて行こうとした。
その時だった。
何かが立ち上がる音がし、歩を止める。皆が驚愕し、音のする方を凝視する。
雅か———————。
倒れた少年がけたけたと哂いながらゆっくりと起き上がった。
その顔には恍惚とした笑み。
「フフフ・・・・ハハハハハハハっ!最高じゃないかっ!凄まじい魔力だ。これは絶対に手に入れるべき能力だなァ。」
そして、立ち上がる。血溜まりを創って——————。
「君達を此処へワープさせたのは他でもない・・・勇者達を吸収する為だ。だが、君達と遊んでいる間に、その事をすっかり忘れていたよ・・・・」
壮絶な攻撃を食らっても尚、消えることの無い殺気。
「フフ・・・・一度決めた事は貫き貫き通さねばな・・・・この滅界を治める魔王として恥だよなっ!!」
その叫び声と共に、エウリアの魔力が高まった。
危機を察し、ローレライがシャクに大声で叫んだ。
「勇者っ!盾を構えろっ!」
そして、勇者の仲間達に呼びかけた。
「奴の目を見るなっ!」
即座に皆が目を閉じ、伏せる。
瞬間、エウリアの左目——————つまり、赤い目が光った。広間全体を赤い閃光が染め上げる。
しかし、その赤き閃光をシャクは神鏡の盾で跳ね返した。
エウリアの放った石化の呪いを秘めた輝きは放った主へと帰還する。
少年は驚愕と共にその閃光に打たれた。
その瞬間——————。
魔王の悲鳴が上がる。
それと同時に彼の肌から、目から温もりが失われていった。生気とは逆に体が灰色に変色していく。
目を開けた勇者達の前には彫像と化した少年の姿が在った。
無惨に自身の能力で石化した哀れな魔王。
しかし、彼に同情している暇は無い。
封印師は颯爽と石化した魔王へ向かい、触れる。
そして、何かを呟く。
忽ち、二人から魔法風が吹き荒れ、聖なるルーン文字が魔王へと彫り込まれた。刻まれたルーン文字は光ると彫像を飲み込み、ディとスピオが腕にはめている封印師の腕輪の中に入っていった。

殺気が消え、戦いが終わった広間は静かだった。
そんな破壊された広間にぽつりと呟く者が居た。

——————漸く、終わった——————
と。


続く…。
2015-03-22 : 【異世界のイストワールⅠ】 : コメント : 0 :
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異世界のイストワール  第14章~ザ・ファイナル・ショーダウン  その4

※字抜けとか字間違いとかしているかもしれませんが、許して下さい。

~前回のあらすじ~
シャク達は終に最上階へと辿り着き、滅神王三男エウリアと戦う事になった。
そして、その戦闘の中でシャクは気付く。
最強と言ってもやはり、自身には勝てないと言う事を——————。


以下は続きです。



*黒蛇の口から黒い炎が吐き出された。それを回避できなったオルバとサリエルが青褪めた顔をし、床に片膝を突き立てた。そして、舌打ち。
———————猛毒かっ!
しかし、オルバとサリエルは青白い顔をして己の体を奮い立たせた。
———————此処でくたばってたまるかよ!
そんな彼等を横目で見、ヒルダはエウリアへ飛び掛った。雄叫びを上げ、無属性の渾身の一撃を魔王へ叩きつけようとしたが——————。
驚愕に目を見開いた。
エウリアの笑い声と共に魔法風が吹き荒れ、無数の槍が出現し、ヒルダを取り囲んだ。体勢を立て直せない人間に少年は言う。
「死ね・・・」
その合図で無数の槍がヒルダを串刺しにする。
「っ!」
感じた事の無い激痛が青年を死へと誘う。悲鳴さえ上げられない。ヒルダは無数の槍に突かれ血を流し、床へ倒れる。しかし、そこへ銀色の聖なる輝きが纏わりつき、ヒルダの傷を癒し、オルバとサリエルの猛毒を消し去った。
青年達は立ち上がり、振り返る。そこにはシャクが居た。
ジェンド———————状態変化を起こしている相手の状態を通常へと戻し、負った傷まで完全に癒す、勇者のみが唱える事を許された伝説の魔法。
「行きましょう!」
勇者の一声に皆が頷き、殺気を魔王へと向ける。
当の魔王は不気味な笑みを浮かべ、口を開いた。
「無属性攻撃を持つ貴様等がボクと戦うのか・・・・・フン、そうすれば他が退屈だろう。」
言うとエウリアは叫んだ。
「此処へ来い、ボクに殺されたくない魔物達よっ!」
魔王の叫び声に応じて腐臭が漂い始めた。それと同時に無数の魔物どもが出現した。部下を呼んだエウリアは奴等に命令を下す。
「ボクとこの人間どもの邪魔をせず、向こうに居る人間達の相手をして来い。」
「御意。」
魔物どもは返事をし、レイア達の方へ向かって行った。
それを防ごうと立ちはだかったシャクであったがエウリアが怒号を上げた。
「邪魔をするな。貴様等の相手はこのボクだ。だから、このボクとだけ戦え。」





襲い掛かって来た大勢の魔物をレイアは四天の棍で薙ぎ払った。しかし、彼女の攻撃力では大して魔物にダメージを負わせる事が出来ず、又即座に立ち上がって来る。しつこく近付いて来る魔物にレイアは冷めた目をし、言い放つ。
「しつこい奴は嫌われるわよっ!」
そんな彼女の叫び声と共に、凄まじい冷気を纏った風が吹き荒れた。
武闘家の技、凍傷波と呼ばれる、相手に倦怠感、眠気、体温を低下させる状態変化を引き起こし、最後には死へ誘う危険な冷気の波動だ。
その波動を食らった魔物どもは動きを鈍らせた。そこへ空かさず、ヴェロニカの煉獄斬り、ペインの氷河斬り、カーツの一閃突き、ディの氷劇の序曲、スピオのホーリーボルトが火を上げる。総攻撃を食らい、怯んだところへギルティが隼駆けで止めを刺す。
だが、魔物の数は減らない。
「おいおい、どんだけ湧いて来るんだよ・・・・」
とギルティが面倒そうに呟く。
「あたし達の攻撃じゃ、奴等を一掃出来ないわ。」
レイアも汗を拭いながら言う。
そして、ディ達封印師を見て続ける。
「ディさんやスピオさんはもう封印の準備していて下さい。この魔物達はあたし達で何とかしますから!」
「そうしたいんですが、か弱いレディさん達を戦わせるなんてぼくはしたくないんですよ。」
とディ。
そんな封印師に呆れたのかペインが魔物を斬り捨てながら怒鳴った。
「そんなふざけた事を言っている場合では無いだろう!」
「そうだよ!遅たらせずにさっさと封印の準備をしやがれ!!」
ヴェロニカも怒号を上げ、魔物を薙ぎ倒していく。
女性人に言われスピオは兄に言う。
「ディ兄さん、皆さんの言う通りですよ。」
兄は肩を竦め、竪琴を腰に提げる。
「・・・はァ~あ、分かったよ。・・・・それじゃァ、スピオ、やりますか。」
「はい。」
二人は後ろに退き、目を閉じ、集中し始めた。
レイアはそんな二人を見ると襲って来た魔物達に棍を叩きつけ、今度はヒカルに問い掛けた。
「ヒカル君!未だ、石化は解けないの!?」
賢者と僧侶は石化した魔王の横に跪き、必死に魔力を高めている。
「あァ・・・・未だかかる・・・よ・・・・」
——————後・・・もう少し・・・・!





肌を突き刺す様な冷気が周囲に満ちた。大気中の水分が氷結したかと思うと、それがシャク、ヒルダ、オルバ、サリエル達四人を中心にして吹き荒れる。荒れ狂う吹雪の中、氷が刃となってシャク達に襲い掛かろうとするが、それは無理だった。颯爽とヒルダ達の前に飛び出したシャクはその吹雪を神鏡の盾でエウリアに跳ね返した。跳ね返った氷の刃は次第に血の赤へと変化。防御し損ねたエウリアを攻撃する。
自身の技を食らい、魔王は眉根を寄せる。そして、白蛇で傷を癒すべく語り掛けた瞬間。
シャクの影からヒルダが飛び出した。ヒルダの掲げた両手の刀はエウリアの傷を癒そうと近付いた白蛇に切っ先を向けた。しかし、黒蛇が口を開く。周囲の大気が揺らめいた。高位炎属性魔法フォーラルガとは比べ物にならない程の業火が吐き出された。目を閉じても目蓋を通して視界が真紅に塗り潰された。ヒルダは防御体勢に入り、そのまま火達磨になった。そこへ、シャクの高位回復魔法ヒールガが光を発する。
ヒルダに気を取られていたせいか横から迫る危機に対応出来なかった。左右にサリエルとオルバが自身の武器を魔王へと振り上げる。
魔王に回復する余地を与えない気だろう。不意打ちにエウリアの蛇への指示が遅れた。
オルバの皇帝の鞭が双竜の様に強かに打ち据え、サリエルの薔薇刀が叩き込まれる。
「ぐはっ!」
大量の血を吐き、エウリアはよろめく。そして、遅れて魔法風が吹く。
白蛇は主の回復から反れ、目を閃かす。
閃光が迸り、轟音と共に灼熱が弾け、電撃を浴びせる。苦悶と悲鳴を聞きたいのか雷は熱風と破壊を振り撒いて、シャク達を飲み込もうとする。しかし、勇者は先刻と同様に皆の前に女神より授かった盾を翳し、魔王の攻撃を跳ね返した。荒れ狂う電撃は軌道を魔王へと変え、白髪の少年へと食らいつき爆発した。忽ち、悲鳴と苦悶の声が蒸気の中上がる。しかし、シャク達は攻撃の手を休めない。
回復されては一溜まりも無い。
シャクの会心の一撃、ヒルダの鬼神斬り、オルバの五月雨鞭、サリエルの覇王斬が一息に少年を攻撃した。蛇への攻撃指示を出せないまま、エウリアは血を撒き散らし吹き飛ばされた。




直立する赤い体毛の野猪が巨大な棍棒を豪腕で振り回す。魔王を崇拝する魔道士達が邪悪な祈りを込めてフォーラルガ、フルミーガ、ブリザガルを唱えてくる。棍棒と魔法の連携に対抗する為、先に魔道士を集中攻撃で仕留めてから、棍棒の野獣に回る。
巨大な毒蛇が大群で迫った時には広範囲に作用するギルティの無双の扇の竜巻で一気に薙ぎ払った。群れに混ざって業火を吐き出す巨大な獣はカーツのジャンプ攻撃で口を塞ぎ、ペインの氷河斬りが一刀両断にする。
そんな中、封印師兄弟の魔力は最大限に達するまで後少しだ。そして、ヒカルとミーシアの魔力で強化されたキュアルが発動するもの後少しになった。
「おーしっ、一気に片付けるぞっ!」
ギルティは叫ぶと魔物へと突っ込んで行った。その横をヴェロニカが駆け抜け、力を全身に溜め、横様に一閃。数匹の魔物に血を吐き出させた。
パワースラッシュ———————雷属性の攻撃技の一つ。
続いてペインとカーツの二人掛けのコンビネーション攻撃が魔物を撃破。
ペインの剣の舞に気を取られた魔物に向かって、カーツがペインの横から飛び出し、槍乱撃を繰り出す。
二人の攻撃で怯んだ魔物を冷気の嵐が飲み込む。
レイアは鮮やかに踊る。
大氷嵐の演舞——————踊りにより冷気を孕んだ大嵐が暴れ回る。
魔物達は忽ち凍り、生気を吸い取られ白目を剥き出しにして息絶える。





——————やはり・・・・雑魚の能力を吸収しても無駄な事か・・・・。
少年は玉座に背を預け、不適に哂う。
——————いや・・・単にあの勇者が装備している盾が邪魔なのか・・・・。
そして、鮮血を噴き出し、体を痛みに震わせ立ち上がる。
シャクはそんな魔王を見ながら思う。
——————女神様の言う通り・・・・この盾ならエウリアの攻撃を跳ね返せる・・・!
「魔王と言ってもやっぱ、子供だな。」
とオルバが吐き捨てた。
オルバの言葉にエウリアはぼろぼろの衣を脱ぎ捨て、血塗れの笑顔で返す。
「予想外だった・・・・その盾がボクの攻撃を全て跳ね返すとは・・・・それと・・ボクは自身の技に弱い事を・・・」
そして、高笑いする。
「やはり、どれだけ最強でも自身には勝てないんだな・・・・・フフ・・・」
顔は哂っては居るものの、魔王の殺気は高まるばかりだ。
シャク達は武器を構え、じっとエウリアを睨む。
その時、白蛇の目が光った。
それと同時に無数の激しい稲妻が呼び寄せられ、広間を金色の閃光で染め上げた。電撃はシャク達を貫こうと襲い掛かって来たが勇者が盾で跳ね返す。
先刻と同様、稲妻は魔王を打ち据える。
しかし、白蛇が瞬時に主の腕へと牙で噛み付こうとする。
シャクはそれを見た瞬間叫び、突っ込んでいく。
「させるかっ!!」
勇者が突き出した剣を回避する事無く、エウリアの腹部へ刺さる。しかし、その魔王の顔には笑み。黒蛇が無防備なヒルダ達の方へ向いていた。
そこでシャクははっと目を見開いた。
—————しまったっ!
黒蛇の口から吐き出された二条に燃え盛る獄炎が一直線に走る。その息は交差しながらヒルダ達に向かい、巻き起こる獄炎の渦が彼等を包み込んだ。
「止めろっ!!」
激流に翻弄され、ヒルダ達の体が舞う。
シャクはエウリアから剣を抜き、駆け寄ろうとしたが——————。
無数の槍に取り囲まれているのに気付く。
——————こ、この槍はっ!
エウリアの残忍な笑み。
シャクは咄嗟に防御した。無数の槍が勇者に刺さる。響くのは魔王の高笑い。
勇者は終に地へ伏した。





歪んだ頭蓋に土色の皮を貼り付けただけの様な頭部には長さも形状も様々な角が出鱈目に生え出し、頭頂部には青黒い脳味噌が半分露出している。褐色の甲殻に覆われた体の胴から下は大蛇の様である。人間からすれば背丈は5倍以上だった。
振り下ろした巨大な爪から真空波が巻き起こる。見えない刃が右から左からレイア達を切り刻んだ。渦巻く風に赤い血が舞い散る中、ギルティが雄叫びを上げて突っ込む。
稲妻を纏った村雨が縦横に振り抜かれた。交差する黒い筋が甲殻に刻まれる。同じ攻撃をレイア達が食らえば、瀕死の重傷を負うはずだが、この魔物にとっては然したる痛手でも無いのだろう。何の痛痒も感じた風も無く、不気味な魔物はギルティを大蛇の下半身で吹き飛ばした。
「ギルティっ!!」
ヴェロニカが体を奮い立たせ叫ぶ。
当の彼は背中から床へ叩きつけられ、身動きをしていない。
そんな青年を見、ヴェロニカが怒号を上げた。
「この野郎っ!」
しかし、その怒号も魔物の攻撃で掻き消された。
腐臭を撒き散らす魔物の口から凍りつく息が吐き出された。舞い散る細氷、そして、痺れる様な激痛。ペインとカーツは盾でそれを防ぎ、魔物へと攻撃に転じる。しかし、瀕死の傷を負っているヴェロニカに魔物の目は向いている。魔物は難無く騎士達を吹き飛ばすと、目を殺意に光らせた。それに気付いたレイアが悲鳴を上げた。
「ヴェロニカ、逃げてっ!!!」
「っ!」
太い棘が生えた体を怒らせ、魔物はヴェロニカ目掛けて突進する。痛みにヴェロニカの反応が遅れた。その遅れは、致命にも似た差で少女を打ちのめした。
「ぐはっ!」
巨大な質量が、瞬時に飛び離れようとした少女を直撃。その衝撃で聖焔の剣が弾き飛ばされ、慈愛の陣羽織の下に装備しているアルテミスアーマーを貫いて棘が肉に食い込む。血と外れた装甲版を撒き散らしながら転がった体が、やがて襤褸布の様に力無く広がった。
大の字に倒れたヴェロニカは一度痙攣した後、動かなくなった。見開かれた少女の目は焦点を失っている。回転して宙を舞った聖焔を剣が墓標の様にヴェロニカの横に刺さった。
皆が絶句した時だった。
ヒカルとミーシアの居る場所が凄まじい輝きを発した。その輝きは広間全体を覆い尽くした。眩い閃光に皆の目が集まる。
輝きに混じり、石が転がる音が響く。
そして——————。
「・・・随分と暴れている様じゃないの・・・・」
と男の声がした。
それに伴い、盛大な溜息が漏れ、男の声がする。
「フン・・・生意気な・・・」
レイア達は驚愕する。
輝きと共に現れたのは石化から解放された魔王だった。
彼等はレイア達に攻撃を仕掛けて来た魔物を一瞬で消し去った。
その直後、倒れたヴェロニカ、ギルティに眩い光が降り注がれ、傷を負っていたレイア達に癒しの光が纏わりつく。
賢者が唱えた蘇生魔法リーサスと僧侶の高位回復魔法ヒールガだ。


☆ ☆


立ち上がれない。
癒しの魔法を唱えようにも体が激痛のせいで思う様に動かない。
倒れたシャクの背後には力尽きたヒルダ達が横たわっている。何としてでも彼等を復活させようとシャクは魔法を唱えようとするのだが———————。
首を締め上げられた。
宙に浮く。
勇者の首には黒蛇が巻き付いている。
「くっ・・・・」
恐らく、白蛇で傷を癒したのだろう。目前には無傷の少年が居る。
「勇者と言えど呆気無かったな・・・」
力を入れようにも入らない。
「フフ・・・でも、抵抗して此処までボクに傷を負わせた事は褒めてやろう。素晴らしかった・・・」
——————くそ・・・・っ!
「雅か、ボクの攻撃を全て跳ね返すカウンター能力を秘めた盾を装備していたとは・・・少し焦ったが、もう問題ではない。君ごと吸収すれば良いこと。」
「さ・・・させるか・・・っ!」
顔を痛みに歪め言い放つ勇者を眺め、魔王は哂う。
「ほぅ・・・・未だ、抵抗する気か・・・だが、ボクに捕まったんじゃそれはできな・・・っ!」
少年の言葉を激痛と血が遮った。
「なっ!」
突如、勇者を締めていた黒蛇が切断された。
魔王の顔が驚愕に支配される。
それも当然、青年のペルセウスの剣が断ち切ったからだ。
即座に魔王は勇者から飛び離れた。
力を振り絞った勇者の抵抗だった。
シャクは黒蛇を投げ捨てると、魔法を詠唱する。
———————ヒールガを・・・っ!
後頭部の黒蛇を切断されたエウリアは驚きと怒りに体を震わせた。
その途端にシャクの手から聖なる光が溢れ出し、倒れたヒルダ達に纏わりついた。そして、負った傷を癒していく。
それに紛れ、賢者達の方から眩い閃光が煌き、広間を包んだ。


☆ ☆


白く綺麗な長髪、赤い目、淡い紫色の肌、そして紳士服。
白い短髪、赤い目、淡い紫色の肌、そして黒いスーツに眼鏡、深緑色のネクタイ。
彼等、美青年はコツコツとシャクの横に来る。
「貴方が勇者様かしら?」
と長髪。
シャクは絶句し、頷く。
それを穏やかな目で見つめ、微笑む。
「私は滅神王長男ローレライ。エウリアちゃんのお兄様よ。」
「は、は・・・」
「そんな自己紹介はしなくて良いのだ。俺等にはやるべき事がある。」
ともう一人の魔王は眼鏡を押し上げる。
そんな魔王を眺めエウリアは哂う。
「やァ、兄さん達。態々、ボクに吸収される為に甦ったのかい?」
三男の言葉にローレライは笑みを消し、視線を向けた。
普段の表情や声色ではない。
「いいや、お前にお仕置きをする為に舞い戻ったんだ、エウリア。」
「へぇ~・・・随分と兄らしい事を言うんだな・・・・」
ローレライとヘンリは殺気を放つ。
そして———————。
「勇者、貴様の女神から授かれしその聖なる盾でエウリアの攻撃を全て跳ね返してくれ。その隙に私達魔王と、貴様等の仲間で総攻撃を仕掛ける。」
長男の台詞にシャクは頷き前衛へ出る。
そんな彼等を怒り狂った表情で凝視し、少年は叫んだ。
「ボクを邪魔者扱いするのも大概にしろっ!!」
その叫び声と共鳴するかの様に広間が揺れ始めた。



続く…。
2015-03-21 : 【異世界のイストワールⅠ】 : コメント : 0 :
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異世界のイストワール  第14章~ザ・ファイナル・ショーダウン  その3

※字抜けとか字間違いとかしているかもしれませんが、許して下さい。


~前回のあらすじ~
シャク達一行は滅神王城内5Fを進む。そこで、鯰の様な魔物と戦闘を繰り広げ、彼等はエウリアの待つ、最上階へと向かう。



以下は続きです。



*魔法陣が消えたおかでげ幻界に侵入してきた魔物達は全滅していた。しかし、最後に残ったのは黒竜。
ゼノは地面に降りた、巨大な竜の鋭い爪攻撃を無明の盾で防ぎ、反撃に出た。
もう既に黒竜が飛べない様に漆黒の翼は斬った。ラヅの魔法の目での的確な指示により、それは成功していた。後は攻撃を回避しつつ、奴の命を絶つだけだ。
黒竜は口から黒い炎を吐き出してきた。即死効果のある息を何とか盾で防ぎ、奴との間合いを取る。そこへ、エイクが唱えた守備力上昇魔法タルカの加護が降り注ぎ、リザの電撃ブーメランが黒竜を薙ぎ払った。
「もう少しで・・・・逝きそうなのに・・ねっ!」
とリザ。
そんな彼女の横を業火が吹き荒れた。
幻魔が放った高位炎属性魔法フォーラルガ。業火が竜の体に食いつき、燃え始める。頑丈な鱗を剥がし、生身を晒させる。そうして防御力が格段に下がった魔物へとゼノとラヅが一閃。黒竜の血飛沫が舞う。
それと共に竜の咆哮が上がった。
喉を垂直に立て、今度は火炎を吐き出す。しかし、普通の火炎とは少し違った。赤さの中に何やら毒々しい色が混ざっていた。ラヅは魔法の目でそれを見破り、皆に叫ぶ。
「この火炎には触れるなっ!猛毒が混ざっている!!」
「っ!」
息をすれば肺が焼かれそうな程の熱気を孕んだ、毒気がゼノ達を襲う。リザは素早く毒火炎を回避し、電撃ブーメランで攻撃に転じる。ゼノは盾の無いエイクを庇う為、彼の前に立ち、毒火炎を盾で防ぐ。
「ゼノっ!!」
「エイク王子は僕等の援護をお願いします!」
「う、うん!でも、ゼノが!」
「僕は大丈夫ですよ。日々、特訓していましたから!」
ゼノは微笑み、毒火炎が止むと同時に黒竜へと雄叫びを上げて突っ込んで行った。


★ ★ ★


闇を抜けた先には、又闇がある。そこは途方も無い暗黒空間が待っていた。
巨大な大扉を開け放ち、潜った先———————。
小さな城ならば全部収まってしまいそうな滅神王の間。綺麗に磨かれ、埃一つ落ちていない鏡の様な澄んだ色をした床と太い列柱、豪華な玉座が一つ。
その玉座に腰掛けている純白の衣の美少年—————白髪、左目は赤、右目は黒、心持紫色をした肌——————を睨み、シャク達は無言のまま歩を進めるが、その歩みは重い。
先刻から痺れにも似た感覚が際限無く肌を刺激し、骨の髄が凍った様な重さが全身を震わせていた。精神よりも肉体が先に反応し、玉座に座る少年に近付く事を拒んでいる。
「やぁ、よく此処まで死なずにやって来たね。流石はシャク達だ。・・・・・・まァ、ニルバーナに君達三人の旅人がやって来た時に可笑しいと思っていたんだよな。・・・・何故か他の人間達とは違う・・・ってな・・・・」
「滅神王エウリア・・・・」
蒼白な顔でシャクが玉座の魔王を見た。未だ、彼我の距離には数十歩を要するのに、近付くにつれて圧倒的な存在感が歩を進めようとする気力を奪っていく。
桁違いの瘴気と邪気の中で真っ当に動く事など不可能だ。
少年は不気味な笑みを浮かべ、口を開いた。
「サリエル兄さんにはばれちゃったみたいだね・・・・ボクの魔術が・・・」
サリエルは刀の柄を握り締める。
「あァ・・・・・シャク達のおかげで漸く己を取り戻す事が出来た・・・・だから、遠慮無く貴様を殺れる。」
兄の様に、器の様に慕っていた青年の言葉に幼き魔王は笑みのまま。
「それは困るねぇ。」
「俺等も困るんだがな。テメェーが世の中を壊しちまうからさ。」
とギルティが無理矢理に歩を進めて言い放った。
そんな彼にエウリアは笑みを向ける。
「ギルティか・・・久しぶりだね・・・」
言うと少年は彼に値踏みする様な視線を投げ、続けた。
「君の能力も欲しかったんだよ・・・全て・・ね。」
「は?」
「エウリア、魔王達は何所に居る!!お前は吸収していないと言ったよな!」
シャクが声を絞り出して叫んだ。
勇者の叫びに魔王はくすりと哂い、指をシャク達の背後に向けた。
「兄さん達ならそこに居るよ。」
その言葉に皆が振り返った。そこで我が目を疑う。
「っ!」
振り返った先には倒れた石造がある。
つまり、石化した魔王だ。
「な、何で・・・石化・・・!」
シャクの呟きにサリエルが応じた。
「恐らく、奴の目の効果だろう・・・・」
「目っ!?」
「エウリアは石化させる能力を持つ・・・」
しかし、サリエルの答えを魔王の高笑いが否定する。
「違うよ。・・・フフ、その石化はボクがやったんじゃない。カルコスがやったのさ。」
「!?」
「アイツ、自身の命と引き換えに兄さん達を石化させてボクに吸収させまいとしたんだ。」
少し悔しそうな笑みを浮かべて言う魔王にギルティが言い放つ。
「最強最悪の魔王ってのに石化を治す魔法は持ってねぇーのかよ?」
「あァ。生憎、そんな技は無い。飽く迄も、ボクは兄さん達の蘇生道具だからね。そんな魔法は無い。唯・・・ボクが誰かを石化した場合は話は別だ。ボクの石化はボクの涙が治す・・・・だから、カルコスのは解けないさ・・・」
悲しそうに言った少年であったが唇を吊り上げ、不適な笑みを向ける。
「それで・・・・だ。ボクは未だこの通り完全体じゃない。体だって未だ脆いし、体力だって乏しい・・・」
エウリアは玉座から立ち上がった。
「状態変化を治す魔法だって無い・・・・魔王としてこれ程悔しいものは無い・・・」
「つまり・・・何が言いたい・・・・?」
シャクは殺気を全身から放ち問うた。
今、彼等の前に居るのはニルバーナに居たあの頃の少年では無い。
宿敵の魔王なのだ。
エウリアはやって来た人間達に恍惚とした微笑をし、口を開いた。
「君達の全てが欲しい。」
邪気は全身を貫いて荒れ狂い、凄まじい恐怖となって心を打ちのめす。此処では絶望だけが真実なのだ。
少年の後頭部から3本の蛇が顔を覗かした。
その蛇達を凝視し、シャク達は絶句する。
——————何故・・・8本では無い!?
蛇達は咆哮を上げる。
「此処でボクに吸収されまいとして死ぬのも良し・・・・・・ボクにその身を捧げるのも良し・・・・さァ、選ぶが良い・・・」
眩暈と吐き気、混乱とが勇者達を絞める。蛇の数がどうなどと言う疑問が一気に吹き飛ぶ。
普段なら憎まれ口を叩くギルティやオルバでさえも無言だ。
本心、逃げたいの皆同じだろう。
だが、此処まで来て逃げるわけにはいかない。
「・・・俺は・・・死ぬ・・・・」
小さなシャクの呟き。
こんな絶望染みた恐怖に立ち向かえる程の人間は居ない。
況してや、この世界は広くて大勢の人達が暮らしている。それなのに、何故自分達がこれ程の悪夢に相対しなけらばならないのか。
何故、俺が勇者に選ばれたんだ?
何故、平凡な高校生活を送れない?送らせてくれない?
何故、俺の住む世界じゃないのに救わなくてはならない?
何故、こんな奴に命を奪われなくちゃならない?
「俺は・・・・・死・・・・」
死ぬのは嫌だった。虫けらの様に殺されるのは嫌だった。全てを投げ出し、泣き叫びながら逃げ出したかった。
体を震わせている勇者を見据え、エウリアはけたけたと哂う。
「こんな絶望的な選択は出来ないか・・・・所詮は勇者と言っても・・・人間だからな。」
そうだ、所詮は人間だ。
けれど、何もせずに逃げ出すだけじゃ駄目なんだ。
本心は逃げたい。
だが、逃げては駄目なんだ。目の前の何かから逃げてはならないんだ。
勝てないんじゃない、勝とうとする意志が無いから勝てないんだ。
己だけが無事なら良いのか?
己だけ幸せだった良いのか?
—————違う。
例え、自身の世界じゃなくても同じ様に人も動物も草も木も生きている。同じなんだ。
人を救えない、幸せを願えない、自己の事しか考えられない人間に幸せは絶対に訪れない。
だから——————。
「俺等はお前に身を捧げる事も無いし、死ぬ事も無い。」
勇者の発言に仲間達は頷き、魔王を睨む。
そんな人間達を少し不満げな表情をし、盛大な溜息と共に目を閉じ、言い放った。
「・・・それじゃァ、仕方が無い・・・」
勇者は剣を握る手に力を篭め、凶悪とさえ見える目つきで魔王を睨み、震える足を無理矢理動かし、憑かれた様に雄叫びを上げて走る。
「エウリアァァァァァァっ!」
絶叫し、ペルセウスの剣を振り翳してシャクは跳躍した。その途端、シャクの全身が輝き始めた。
「勇者、貴様から先に奪ってやる・・・」
エウリアを魔法風が包んだ。それと同時に黒蛇が口を開く。
黒蛇の口が巨大な真紅の炎を宿したと思った直後、その業火が赤い髪の青年を焼き殺そうと包みこむ。しかし、シャクは瞬時に神鏡の盾でそれを跳ね返した。地獄の業火と爆風が魔王を飲み込む。
「っ!」
内包する熱量が急激に上昇し、限界まで達すると視界を赤く白く染め上げた。
白髪の少年の顔が痛みに歪んだ。だが、耳を劈く様な爆発音と共にシャクの剣は止まらなかった。燃え盛る炎を切り、真っ向から叩きつけられた剣が、咄嗟に身を引いたエウリアの前髪を掠った。
「—————!?」
信じ難いと言う表情でエウリアは前髪に触れる。絶えず放射され、広間に充満していた邪気が僅かに揺らぐ。
それでも尚立ち込めている瘴気は濃く、体を慄きで縛り続けた。
しかし、シャクの攻撃に応じられない程、彼一人を戦わせて震えている程、勇者の仲間達は腑抜けでは無い。
レイアが、ヒカルが、ギルティが、ヒルダが、オルバが、ヴェロニカが、ミーシアが、サリエルが、ペインが、カーツが、ディが、スピオが絶望に抗い、次々と武器を構える。這い上がる恐怖を自身の闘志で打ち消し、湧き起こる迷いを仲間の信頼で消し去り、駆け出した。
当の少年は白い煙から身を出す。
纏っていた純白の衣のところどころが焼け落ち、心持紫色の肌を晒す。
今では白髪もくすみ、乱れている。
それが少年を怒らせた。
——————何故・・・素直にボクに身を捧げない?
魔王の囁きで白蛇は主に噛み付き、傷を癒す。瞬時に全てが元通りになった。
そこへ、ディの勇ましい曲が戦場に響き渡った。
それは勇士を称える“猛き戦いの舞曲”。
「抵抗する気か・・・・木偶人形のくせに・・・・」
意気を揚げて向かってくる人間達にエウリアは目を閉じた。
「フン、抵抗するとなればボクも魔王として相手してやらないとな・・・」
ミーシアが短い集中と共に守備力を上げるタルカを放つ。物理攻撃によるダメージを軽減させる魔法だ。
魔法援護を受けつつ、ヒルダとオルバが左右から魔王に襲い掛かった。斬鉄刀と叢雲剣、皇帝の鞭が狙い過たず純白の衣の両脇を狙うが、エウリアの指示で黒蛇が動く。
激しい振動と熱風が床から吹き上がった。どこからか現れた煮え滾るマグマが広間を赤黒く染め、荒れ狂う灼熱が容赦無くシャク達を痛めつけた。陽炎と蒸気の中を彼等の苦悶の声が交差した。現れた時と同じ様にマグマは消える。どうやら呼び出されたマグマは物理的に噴出したものではなく、魔法によって一時期的に現れたものらしかった。
後に残されたのは床の焦げ目と臭い匂い、深刻な痛手だった。
やや長い集中から放たれた輝きは仲間全員に降り注ぎ、速やかにその傷を癒していった。
ヒカルとミーシアの高位回復魔法ヒールガだ。
癒し魔法で傷を癒したヒルダ、オルバ、サリエル、ヴェロニカ、ペイン、カーツは倒れる代わりに飽く無き攻撃へと転じた。ヴェロニカが灼熱斬りよりも遥かに強力な剣撃————煉獄斬りを放つ横で、ヒルダは魔神の如く斬り掛かった。オルバは双竜の如く皇帝の鞭を鳴らし、サリエルがその後を一閃。続いて、ペインが氷河斬り、カーツが雷突きを放った。
と、そこへギルティが氷を纏わりつかせ一閃。
抜刀氷雪。
しかし、エウリアの後頭部の蛇達が属性のついた攻撃だけ受け、吸収してしまう。
それを察したのか、シャクが叫んだ。
「みんなっ!闇雲に攻撃しちゃ駄目だっ!奴は属性のついた攻撃を吸収している!!」
勇者の叫び声に皆が魔王から離れ、間合いを取る。
「どう言う事だよ。」
とギルティ。
そこへ、オルバが割って入る。
「言葉通りですよ。奴は俺とヒルダさん、サリエルさんの攻撃だけ回避しやがった。だけど、後の属性付きの攻撃をあの蛇が吸収しちまってるんですよ。」
「マジかよ!」
「だから、無属性で攻撃しないと・・・・」
シャクは指示を出す。
「オルバさんとヒルダさん、サリエルさんはそのまま物理攻撃に出て下さい。」
名を呼ばれた彼等は返事をし、先刻の様に魔王へ向かって行った。
残ったギルティは頭を掻く。
「俺は?」
「ギルティさんとヴェロニカ、ペインとカーツはディさんとスピオさんと魔王二人の護衛、且つヒカルとミーシアさんの護衛をレイアとやって下さい。」
「へーい。」
シャクは真顔で賢者と僧侶に声を掛けた。
「ヒカル!ミーシアさん!」
その声に二人は集い、勇者の指示を待つ。
「二人は石化した魔王を復活させてくれ。」
「何で!?」
と賢者。
「彼等に加勢してもらう。それで、エウリアを封印する。」
勇者は二人を見ると続けた。
「二人掛けでキュアルを唱えれば、幾ら強力な石化魔法でも治せるはずだ。」
「そりゃぁ・・・出来るけど・・・シャク、お前は・・・」
「魔王に少しでもダメージを与える。・・・俺のこのペルセウスの剣なら無属性だし平気だ。それに・・・・属性があっても奴にダメージを与える事は出来る。」
「!?」
そこでヒカルは悟る。
———————さっきの跳ね返しで殺る心算か・・・・。どれだけ最強でも自身には勝てないって事か・・・・・!
「アイツの持つ属性より弱いとアイツは吸収しちまう。だったら、食らった攻撃を倍以上に跳ね返す俺の盾だったら、奴には対抗できる。」
シャクは断言すると視線をエウリアに向けた。そんな勇者を見、ミーシアが心配そうに問う。
「回復は・・・どうなさるお心算ですか?」
「そうだよ!俺等がキュアルに集中してる最中・・・・もし、誰かが死に掛けたら・・・」
とヒカルが顔面蒼白で言う。
しかし、当のシャクはペルセウスの剣の柄を強く握り締め、少し笑い、
「俺だって女神様にあって覚醒した身だぜ?魔法だって集中すりゃァ、唱えられるだろ?」
「シャク・・・・」
顔を曇らせる親友に青年は笑った。
「まァ、頼むわ。」
と言うと魔王目掛けて突っ込んで行った。

——————俺は選らばれた勇者なんだ。仲間を守るくらいやってやるよ!



続く…。
2015-03-21 : 【異世界のイストワールⅠ】 : コメント : 0 :
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プロフィール

十二仙 百露

Author:十二仙 百露
性別:女
年齢:18
身長:158cm
血液型:AB
誕生日:9月12日
好きな食べ物:甘い物
嫌いな食べ物:苦い物
趣味:小説、書道、絵を描く、模写、ゲーム、ゲーム実況見物

 

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【勇者の特権を取り戻す為に俺は魔王を復活させ、無限ループを繰り返す。】


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